第178話 入籍

 -青葉師範邸-


「確かに。二人の署名がありますね」

 青葉は二人を、かわるがわる見つめて、

「では。ここに私も署名致します」

 見届け人の欄に、

 -如月青葉-

 そう、鮮やかに署名した。

 そして、

「では、お納め下さい」

 その書をはるに手渡した。

 如月春花は、うやうやしくそれを受け取った。

 この瞬間。

 日高とはるは、如月家の系譜の中で。

 二十一組目の。

 正式なつがい夫婦となった。



「また、髪伸びたね」

 二人で東京のマンションで夕食を取っていた。

 久しぶりに作ったはるの手料理は、カレーだった。

「うん。久々に長くなっちゃった。着物を着る機会も増えたからね」

「………」

(やべえ)

 はるが、めちゃめちゃ可愛く見えた。

 日高は、はるを直視する勇気がなくて、ワインを飲み続けた。

「撮影大変なのに、いろいろ付き合わせちゃってごめんね」

「ううん。今、ほとんど撮影止まっちゃってんの」

「えっ、そうなの?」

 はると目が合った。

「そ。よくわからないけど、監督が何かにこだわりだしてさ」

「女の子たちが、主人公の祖母と祖父の初恋の相手を探して……って話だよね」

「うん」

(日高、キラキラしてる)

 はるも、少しだけ注いだワインに唇をつけていた。

 夫婦かぁ……。

 如月家だけの家譜だけれど。

 この先、二人はずっと夫婦として伝えられていくのだ。

(この人と、夫婦かぁ…)

 もう一度、はるは心の中で呟いていた。



「………」

 背中で、日高がベッドに入ってきたのを感じながら、はるは一人ドキドキしていた。

(ちゃ、ちゃんと伝えなきゃ)

 勇気を出してゆっくり振り返った。

 ここ最近日高から誘われても、断り続けてきたのは、プロポーズのことでいっぱいいっぱいだったからだ。

 それから。

 あと一つ。

(ボロを出したくなかったから)

 日高とそういうことをしていて、何か、やらかすのが嫌だった。

 無言で。

 日高の体にくっついて、頰をつけた。

「はる……?」

 振り返らないまま、日高は言った。

「ずっと断っててごめんね。嫌だったわけじゃないから。プロポーズのことで頭がいっぱいだったの」

「えっ」

 日高も、体をこちらへゆっくり傾けた。

 そして、はるを気遣いながら振り返った。

「そうなの?」

「うん。でも、日高に会うと、どうしてもプロポーズの言葉が言えなくなっちゃって、そのまま東京帰ってたの」

「そうだったんだ」

 日高は大きく息をついた。

「私が何かしつこいのか、とか、痛かったのか、とかいろいろ考えてたよ」

「そ、そんなことないよ!」

 はるの声が高く、大きくなった。

「そうじゃないの!」

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