第176話 プラトニック

 一ヶ月後。


 -ホテル内スナック アップル-


「ねー、最近HALちゃん綺麗になってない?」

 焼酎のグラスを傾けながら、北川は誰に言うともなしに言った。

 さほど広くない店のカウンターで。

 向かって北川の左に日高、その横に姫花、北川の右に冬が座っていた。

「あー、私も思った。あれかね、日高と結ばれて心身共に満たされてんのかね。家元にもなったしさ」

 冬が言った。

「元々綺麗なんですよ。手足も長いし」

 姫花も、日高と同じ白ワインを飲みながら、二人の方へ顔を向けた。

 すると、

「何、黙っちゃって。照れてんの、この」

 北川が、日高の顔を覗き込んだ。

「……最近、私、はると何も無いし。それに、はる、何か変なんだよ」

「えっ、何それ、超面白…いや、ヤバいじゃん!」

「今、完全に『超面白い』って言いかけたよね、この人」

 日高の言葉に。

「言ったね。演出家じゃなかったら、かなりアウトだね」

 熱燗を飲んでいた冬が、大きく頷いた。

「ねー、私の事はいいからさー。はるちゃん、一週間に一回はこっち来てあんたと一緒にいるじゃん。で、何で何もないの」

「わかんない」

 言葉少なに日高は言った。

「わかんないって何よ」

「何か、会話がかみ合わないっていうか。景色の良い所行きたいって言うから一緒に行くけど、近寄ると逃げるし」

「いつもの、日高に恋しすぎてってやつじゃないの?」

 冬が言った。

「いや、何か違う。一人でぶつぶつ言ってる時もあるし。だから、疲れてるのかと思って、私が東京のマンションに行こうかって言ったけど、それはいいって、拒否された」

「じゃあ、泊まって何してんの」

 北川が切り込んだ。

「何だろ……。何か話してんのかね」

「抱きたいって言えばいいじゃん」

 少し、イライラした口調で冬が言うと、

「そうですよ。普通にキスすりゃあいいんですよ」

 姫花までが、そう言った。

「………」

(だって)

 言ったよ。

 言ったけど。

 いっつも。

 -今度ね-

 って。

 明るく笑うんだもん。

 でも。

 みんなが言うみたいに。

 拒否すればするほど。

 なぜか、はるはどんどん綺麗になっていくから。

 恋の魔法にかかったみたいにさ、手だけ繋いで寝てるんだよ。

 私。

 どうしちゃったんだろ。

 日高は無言でワイングラスに唇をつけて、

「はぁ……」

 小さくため息をついた。


 でも。

 この翌日、はるはまた、ひょっこりやって来た。

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