第172話 運命と奇跡

 映画も、舞も。

 順調だった。

 しかも。

 村沢と北川は決して無理な撮影をしなかった。

 -今日は雪だから、トランプでもしようか-

 暖炉の前で、のんびりババ抜きをしたり。

 焼き芋を作ったり。

「楽しいね」

 時々はるが見せる本当の笑顔に、日高は心の底から幸せを感じていた。

 そして、それは、はるも同じだった。

 時々衣装のチェックに現場に来た時などに、北川と日高が、立ち位置やセリフ回しを確認したりしている姿を見たりすると。

(ちょーカッコいいんですけどー)

 乙女のように心をときめかせたりして。

「今、日高に見とれてたんでしょ」

 時々、冬がからかいに来た。

「日高さん、男前ですもんねー」

 と、姫花。

 三人で。

 並んで日高を眺めちゃったりして。

 輝いている日高の姿を見れる事が。

 はるの最高の幸せだった。



「今の! 今の、すごい綺麗に舞えてたよっ!」

 はるが、興奮ぎみに叫んで日高に駆け寄った。

「そう⁉︎」

 はるが高く遠く跳ね上げた扇を、日高は打ち返して高く上げ、扇が落ちてくるまでに、小さく一節ひとふし、舞った。

 最後の舞は、冒頭の一節の舞を舞っていた。

(……落ちてくるまでの秒数を計算すると、この節しか、ありえないんだよね……。)

 日高は、肩で息をしながら、扇を閉じた。

「日高の舞はすごいよ。綺麗で、本当に鶴みたい」

 はるがベッドに腰掛けながら、まだ少し興奮した声で続けた。

「お芝居も、舞も。指の先から、表情から。何もかも、綺麗」

「褒めすぎだよ」

 日高もはるの横に座った。

 -トンッ-

 と、はるが甘えるように、日高にもたれかかって来た。

「本当に……、雄鶴の舞姫が現れるなんて。私、今だに信じられないの」

「そうなの?」

「うん。それに…」

「それに?」

「……うん、何か、それが日高だったから。運命ってあるのかなって」

「運命か…。あるかもね」

「え、ホント⁉︎ 日高も信じる?」

 はるのが少女のように輝いた。

「うん。だって世界で一番好きな人に、好きって言ってもらえたから。あ、でもこれは運命っていうより奇跡かもね」

 日高の言葉に、はるがやっぱり茹でダコみたいに赤くなった。

「ねえ、日高」

「ん?」

「あのさ、あの……、疲れてるよね…」

 はるの言葉に、日高の左の眉が少しだけ上がった。

「誘ってくれてるの?」

「……うん…その…つもりなんだけど……」

「はる、ありがと。全然大丈夫だよ」

 日高が、はるを抱きしめた。

「ホントに?」

「うん。舞台はね、一日三回公演だってするんだよ。体力はあるの。はるとだったら…」

 言いかけて、悪戯いたずらっぽく笑った。

「何回公演出来るかなー」

「もー」

 って、はるは、日高を見上げた。

 でも。

「大好き。やっぱり、大好き」

 そう言って。

 キスをしながら、日高をゆっくり、押し倒していった。

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