第154話 晴れ舞台(ニ)

「あ、わ、わ、若旦那」

 取り繕うように、大木村は卑下た笑顔をつくって、シャルロットの膳を慌てて置くと、自分の膳の前へ戻って箸を取った。

 冬斗は一瞬、大木村に視線を向けたが、すぐ笑顔になって、

「ちょっと待っててね」

 シャルロットにそう言い残して立ち去った。

 しばらくして戻って来ると、

「これで食べてごらん」

 そう言って、シャルロットに何かを握らせた。

「………」

 シャルロットは、冬斗を見上げた。

「さじって言うんだよ」

「…サジ…」

「そう。これをあげるから、食事の時に使うといいよ」

 冬斗は、シャルロットの肩に手を置くと、優しく微笑った。

 この日から。

 急速に、二人の仲は縮まっていき、いつしか二人は恋人同士になっていた。

「フユ…フユト……アタシノ、フユト……」

 シャルロットが歩み寄って、冬斗を抱きしめた。

「愛してるよ、シャルロット。君のことは、僕が守る。他の誰にも君を渡さない。君は僕だけのものだ」

 冬斗役の冬が、シャルロット役の日高を抱きしめた。

 そのとき。

 はると、冬の目が合った。

「僕のシャルロットだ」

 はるを見つめて。

 冬は、言った。

(…ウソ…)

 お、お…、お芝居だよね。

 はるは、女優二人の本物の演技に、もはや何もかもわからなくなっていた。

 嫉妬などという言葉では表現しきれない、初めての感情に。

 言葉が、言葉にならなかった。

 その間にも。

「フユ…、フユ」

「シャルロット」

 冬斗は、シャルロットの細い腰に手を回すと、シャルロットに唇を重ねていった。

(………)

 シャルロットの唇が冬斗に押し開かれたとき。

(日高……ねえ、日高…)

 祈るように。

 すがるように。

 はるは。

 心の中で、その名を呼び続けた。

 やがて。

 ゆっくりと幕が降りた。


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