第150話 優等生

 -スナック タツコ-


「これ、明日現場で日高に渡しといて。【南極の愛ドラマ人】で一緒でしょ」

 北川が、冬に台本を差し出した。

「これ、姉の社長就任の時のシャルロットの台本。まあ、ほとんど姉のリクエスト通りだから」

「見ていいですか?」

「いいよ」

 北川は焼酎の入ったグラスを傾けた。

「……これって」

 冬が絶句した。

「ま、この後は私の腕次第ってとこ。日高にも前々から言ってあんの。祥子あのひとをナメると大変なんだから」

「あの……」

「何?」

「先生は、日高に言うつもりはないんですか?」

「何を」

「…気持ち…」

 冬の言葉に。

 グラスを置きながら、ニヤッと北川は笑った。

「この間、冗談半分に言っちゃった」

「えっ、それで?」

「ビジネスパートナーだって」

「………」

「しゃーないよ。HALちゃんみたいに若くもないし、可愛げないしさ」

「私も……、はるちゃんと仲良くなりすぎちゃった」

 ポツリと冬が言った。

「おっ。優等生が言っちゃう?」

 北川が、からかうように言った。

「……言わない」

 冬は笑った。

 冬は。

 日高の好きな、白ワインを飲んでいた。

「絶対、言わない」

「ふーん」

 北川は、タツコにグラスを返しながら、

「失恋だって、恋は恋だから。今日は日高あるあるで飲もう!」

 冬の肩を抱いた。

「あら。じゃあそれ、私も入れてよ」

 タツコが言った。

「いいよ。ママなら何?」

 冬が微笑った。

「やきもち焼きよねー、かなりの」

『うん、うん』

 二人は頷いて。

「お芝居が上手くてねー」

 と、冬。

「で、台本は一回読めば入るしさー」

 と、北川。

「口下手だけど、すっごいHALちゃん大好きでねー」

 と、タツコ。

『うん、うん』

 二人は頷いた。

「あとはねー、きれい……」

 冬は、小さな声でそう言った。

 そして。

「いいなぁ……。はるちゃん」

 呟いて。

 そのまま、カウンターに突っ伏した。

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