第138話 続 幻の結婚式

 カメラがストップして、あの二人につられて三人の周りからスタッフたちが遠のいたときだった。

 入り口近くに居た関君に、

「関君! なか入ってかんぬき閉めちゃって!」

 冬が言った。

 関君が閂を閉めると、

「ねえ! 結婚式、続けちゃおうよ。私、神父役やるから」

 冬が言った。

「えっ、この四人で?」

 日高が言った。

「スマホだけならポケットにあります」

 関君が言った。

「どうする?」

 日高がはるを見た。

「私、この四人で挙げてみたい。月の指輪、さっき外して来ちゃったけど、でも、日高と結婚式挙げてみたい」

 はるが言った。

「わかった」

 日高が頷いた。

「冬、じゃあお願い。私も、はると結婚式挙げてみたい」

「うん。あっちが揉めてるうちにやっちゃおう」

 冬は、そう言って二人の前に立った。


 神父役の冬を正面に、左に日高、右にはるが並んで立った。

 冬は、日高に向き直ると、おごそかに語った。

「汝、花村日高。あなたは、健やかなるときも、病めるときも、桃山はるかを生涯愛し、慈しみ、共に手を携えて生きていくことを誓いますか」

「はい、誓います」

 日高の誓いの言葉に、冬は大きく頷いた。

 そして今度は、はるの方へ向き直った。

「汝、桃山はるか。あなたは、健やかなるときも、病めるときも、花村日高を生涯愛し、慈しみ、共に手を携えて生きていくことを誓いますか」

「はい、誓います」

 はるの誓いの言葉に、もう一度冬は大きく頷いた。

「では、誓いのキスを」

 冬の言葉に、二人は静かに向き合った。

 日高は、愛しそうに、はるを見つめた。

 そして、ヴェールに手をかけて、ゆっくりと上げた。

「はる」

 日高が、はるのを見つめた。

「一生、はるだけを愛していくから。だからずっと私のそばにいて」

「うん」

 はるは、頷いて。

 瞳を閉じた。

 日高は、はるの肩に手を置くと、ゆっくりと唇を落としていった。


 やがて二人が、瞳を開いたとき。

 厳かに鐘が鳴り響いた。

「おめでとう! 日高、はるちゃん!」

「おめでとうごさいます! 日高さん、はるさん!」

 冬と、関君に見守られて。

 二人は。

 幻の結婚式を挙げた。

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