第137話 幻の結婚式

 はるの支度が整って、結婚式場に入って来た時だった。

 まわりの空気が一変するくらい。

 ウエディングドレス姿のはるは、本当に美しかった。

「日高、どうかなあ」

 はるは、日高の前に歩み寄って来た。

「はる、すごいきれい。もう、言葉で表現出来ないくらい、きれいだよ」

 日高は、はるの手を取った。

「打ち掛けとウエディングドレスなんて、めちゃめちゃお洒落でしょ」

 北川が言った。

「この時代も教会はあったのよ。キリシタン侍にしたの。ま、女侍ね」

「うん、日高も、すっごい可愛い。お姫様みたい」

「ありがと」

 日高は微笑った。

「でも、はる、それ寒くないの?」

 シンプルなデザインながら、胸元も腕まわりも開いたドレスに、長めのレースのヴェール姿のはるは、十月の風に小刻みに震えていた。

「うん、めっちゃ寒い」

「こっちおいで」

 ストーブの前に、はるを立たせて、日高が後ろからはるを抱きしめた。

 その姿に、

「わ、めちゃめちゃ可愛いじゃん」

 北川が手を叩いた。

 現場が沸いてきて、そろそろ本番が始まろうとしたころ。

「日高、はるちゃん!」

 冬が駆け寄って来た。

「うーわ、二人ともめっちゃ可愛いじゃん。後で写真撮ろうよ」

 はると日高は顔を見合わせて微笑った。

 そして、二人が式場に入り、カメラも入った。

「始まるね」

 日高が言った。

「うん」

 はるも、日高を見つめて頷いた。

 カメラも回されて。

 神父役の役者もスタンバイした、その時。

 -バンッ-

 扉が勢いよく開いた。

 そこに立っていたのは。

 祥子だった。


「な…」

 北川は、突然の姉の出現に、カメラを止めるだけで精一杯だった。

「あんた! YOSHIMURA潰す気⁉︎」

 祥子は今日子に詰め寄った。

 祥子のあまりの形相に、思わずはるは、日高の後ろに隠れた。

「あんた、私を騙したわね」

「何が」

「はるちゃんが着るなんて聞いてないわよ」

「聞かれてないから言ってないのよ」

「言わなくてもわかるでしょ。コートから、浴衣から振り袖、次々と私とはるちゃんとで作り上げて来たの! ウエディングドレスなんて、集大成でしょうよ! あんたのつまらないドラマで簡単に使われちゃ、迷惑なのよ‼︎」

「つまらないドラマ?」

 今日子は姉を睨みつけた。

 現場は、大混乱になった。


 冬が、日高とはるの側に来て、

「ねえ日高。あれ、どういうこと?」

「姉妹ゲンカ」

「えっ、祥子さんと北川先生って姉妹なの⁉︎」

「みたいよ」

 日高が笑った。

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