第117話 はるの幸せ

「こ、これ、また変更になっちゃったの。シャルロットのセリフ」

 慌てて、はるは立ち上がった。

「………」

 日高は、髪を拭きながらはるの横を通り過ぎて、ソファに座った。

「ねえ、日高…」

「冬のことが好きなの? 名前叫んでたけど」

 日高は、はるから視線をそらして言った。

「そ、そんなわけないじゃん! 冬ちゃんの役名、冬斗だって、日高も知ってるでしょ」

 日高の言葉に、はるは日高の横に座ると、日高の腕を掴もうとした。

 と。

「ごめん、はる」

 その、伸ばした腕を掴むと、日高は、はるを引き寄せて抱きしめた。

(えっ)

「わかってるの。わかってるから」

 日高は、苦しそうに、そう言った。

「愛し方が、いびつになっちゃう。はるに対してはどうしても、そうなっちゃうの。ごめんね、はる」

「…日高…」

「どっかで、はるが冬を好きになってくれた方が、はるは幸せになるかもって考えちゃったりするの。でも同時に、胸が張り裂けるくらい、苦しくなるの」

 はるも、日高の背へ、手を回した。

(この人が……この姿が。天才女優、花村日高なんだ)

 繊細せんさいで。

 もろくて。

 はかなげで。

 でも、それを鎧のようなプライドで覆い尽くしているんだ。

「ねえ、日高。私が千回愛してるって言ったら、私の気持ち、信じてくれる?」

「無理」

 日高は即答した。

「答えなんてないから」

「ないんだ……」

 はるは、ちょっと笑って。

「じゃあ、日高が不安でどうしようもなくなったら、『愛してる』って言うね」

 はるが言ったら。

「そうして」

 日高はそう言って。

 はるを強く、抱きしめた。



 -YOSHIMURA本社-


「な……、こ、こんなことって…」

 黒沢からの最終報告書に目を通すと、祥子は絶句した。

「わ、わかったわ。会長には、時期をみて私が伝えるから」

「はい」

(まさか……。あの子が、ずっと探してた…あの人だったなんて!)

 でも……。

 全ての点と線がつながったわ!

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