第六章

第116話 どれほど時代が流れても

 -YOSHIMURA本社-


「二人とも、そこ座って」

 はると姫花が長机に並んで座ると、

「今回はね、まあ、もちろん振袖のCMなんだけど。時代ときと場所を越えてゆくの」

 祥子は、笑顔でそう言った。

 (時代ときと、場所を越えて)

 はると、姫花は顔を見合わせた。

「そ。CMでは、二人が室内でふすまをくぐるところまでで終わるけど、その後は、本物の時代劇のドラマに出演してもらうわ。四、五局のキー局の時代劇にね。襖をくぐったら、今度はドラマに出演するの。どう? 面白いでしょ」

 祥子は笑った。

「あのー、じゃあ、ナレーションは」

 姫花が尋ねた。

「-どれほど 時代ときが 流れても-」



 -奥プロ事務所-


「髪飾りつけるから、ショートのままでいいんだって」

 嬉しそうに語る、はるに、

「ねー、それ、一本は私も出るよ。ドラマの中で、はるに『おめでとう』って言えるかもしれないね」

 日高が言った。

「えー、本当に⁉︎」

 駆け寄って、日高の横に座ると、日高の腕を取って抱きしめた。

「すごい嬉しい。すごい嬉しい」

 その様子を、社長や太一、関君も、穏やかに見つめていた。



「私、お風呂入ってくるね」

 日高が、ソファから立ち上がった。

「うん」

 頷いて。

 日高が、バスルームに入るのを確認すると。

「また、台本変更になっちゃったんだよなぁ」

 はるは呟いた。

 台本を開いて。

「ワ、ワタシ、ワタシ、フユト、スキ、フユ…」

 いつもだったら、日高に稽古をつけてもらうところだけれど。

 シャルロットが、冬が演じる、その名も冬斗に、カタコトの日本語で愛を語りかけるシーンなんて、とてもじゃないけれど、日高に頼めるはずもなく。

 日高のいない間に、一人、練習するしかなかった。

 けれど、はるも、だんだん調子が出て来ると、演技にも、熱がこもってきた。

「ワ、ワタシ、ワタシ! フユト! フユ! フユがスキ!」

 感情を込めて。ゆっくり倒れ込んだ。

 手を伸ばして。

「フユ!」

 叫んだ時だった。

「………」

 いつの間にか。

 はるの目の前に、日高が立っていた。

(やば……)

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