第113話 プライベートレッスン

 おどおどしながら、シャルロットは東京の街を歩き彷徨さまよっていた。

 -あっ-

 歩きスマホだらけの人たちと、避けようもなくぶつかって。

 シャルロットはみちに倒れた。


「いいよ。すごくいい」

 日高が、手を叩いた。

「ホント?」

 倒れたままの姿で、はるが顔を上げた。

「後はね、この場面の前、通行人にメモを見せて、道を尋ねるでしょ。あの時ね、何人かは、シャルロットに嫌味を言ってるから。その時にシャルロットは日本語がわからないんだから、瞳は微笑わらったままで、瞳の奥の表情を動かしちゃダメなの」

「そっか」

「じゃ、試しにやってみるよ。はるは、微笑わらっていてね。表情こころを動かしちゃダメだよ」

「うん」

 はるは頷いた。

「何だ、この女。全く日本語わかんねえのか」

(………)

何人なにじんなんだろ。この髪、染めてるのか? それとも地毛か?」

(………)

「はるが二十歳はたちになったら、はるの体の全てにキスしていきたいんだけど」

(……えっ)

「ほら。今、『えっ』って心の中で呟いたでしょ。日本語がわからないんだから、反応しちゃダメなんだよ」

「……だって…」

 はるが口ごもった。

「じゃ、今日はこれぐらいにしとこっか」

「うん」

 頷いて。

「ありがとうございました」

 日高に一礼した。

「じゃ、はるちゃん、ここおいで」

 日高が、自分の膝の上あたりをたたいた。

「……うん」

 ちょこちょこと、はるは歩いて行って、日高の膝の上にちょこんと座った。

 アメとムチで。

 後ろから、日高がはるを抱きしめた。

「だんだん上手になってるよ、シャルロット。役そのものに見えるときがあるよ」

「あ、ありがとう」

「私の思い入れがある役だから、はるが二代目をやってくれて、本当に嬉しいの」

 そう言って、日高は、はるの左の首すじあたりに唇を落としていった。

「………」

 はるは。

 もう、すっかり上がってしまって。

 そんなはるを、振り向かせて。

「シャルロット、頑張ってね」

 そう言って。

 日高は、はるにキスをした。

 舌先で、はるを探るように。

 毎夜。

 深くて優しいキスをした。

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