第110話 帰宅拒否
別れ話のいざこざがあってから。
完全に主導権は、はるの手に転がっていた。
「ニンジン、残ってるよ」
「………」
はるの言葉に、日高は無言でニンジンをスプーンですくって口に入れた。
「ドア、最後までちゃんと閉めて。冷たい空気、逃げるでしょ」
「………」
ソファから立ち上がって。
パタンとドアを閉めた。
「ねー、食べた後のお皿くらい、キッチンに運んで」
「………」
お皿を重ねて、持っていったら。
「もー、油の上に重ねてるしー」
はるが、イライラしたように、そう言って。
目の前で、やり直した。
「太一君、そこのコンビニ、寄ってくれる?」
「いいよ」
太一が、コンビニの駐車場に車を止めた。
でも。
少しすると、日高は店から出て来て。
「………」
これが。
翌日も。
翌々日も、続いて。
「ねー、日高ちゃん。もしかすると、マンション帰りたくないの?」
ある日。
コンビニの駐車場で、太一が切り出した。
「うん。帰りたくない」
日高は、呟くように言った。
「そっか。まあ、はるちゃん言ってること、けっこう当たり前のことなんだけどね」
ちょっと笑って。
「でも、いきなり全部は日高ちゃんにはキツいよね」
「うん…」
「わかった。ちょっと待っててね」
太一は、どこかに何件か電話をかけて。
「よし、OK! 今から、祥子さん
「祥子さんのところ?」
「ただいまー」
「おかえりー。ねえ、今日ちょっと遅く………」
はるは。
日高を見つめた。
朝は茶髪で。
Tシャツとデニムだったのに。
黒髪に。
サラサラヘアーで。
グレーのスーツを着て。
「疲れた」
ソファに座って、テレビをつけた。
「お腹すいた」
「……うん」
日高の、少し開け残したドアを。
はるが無言で閉めた。
「ねえ、まだ…ドラマ続いてるのに、いいの? いきなり……髪…とか」
「いいの。超ワガママなお嬢様だから。日々変わって当たり前なんだって」
「………」
この日から。
もう一度主導権は、日高に戻ってきたけれど。
食べた物だけは。
きちんとキッチンに運ぶようになった。
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