第109話 超ブラック

 -奥プロ事務所-


 はると。

 日高は。

 うつろな表情で、並んで座っていた。

「いいのかよ、それで」

 社長の言葉に。

「いい」

 はるは頷いて。

「うん」

 日高も、小さく頷いた。

「俺は、納得いかねえけどな」

 社長は腕を組んだまま、そっぽを向いた。

「僕も納得出来ません」

 関君が言った。

「僕も、全然意味がわからないな」

 太一も言った。

「何それ」

 日高が三人に言った。

「私たちが別れたいって言ってるのに、何で事務所の意向で反対されるワケ?」

「そうだよ。やっと二人で納得出来たんだから、もういいじゃん」

 はるも言った。

「うるせえな。俺が社長なんだから、俺が決めるんだよ! 嫌なら解雇だ。違う事務所行けよ」

「うーわ、最悪。超ブラックじゃん。いいよ、私レベルの女優なら、どこだって入れるもんね!」

「マンション、三日で出てけ」

「何それ。ひどくない?」

 はるも言った。

「うるせえ! どこでも好きな事務所、行っちまえ」

「こんな事務所ブラック、言われなくても出ていくから。行こ、はる」

「うん」

 日高は、はるの腕を取った。

「二度と来るか、こんな事務所とこ!」

 捨てゼリフまで吐いて。

 日高は、はるを連れて事務所を後にした。


 二人が去ると。

「社長、すごいですね」

 太一が歩み寄った。

「だろ? 俺もこう見えて昔俳優だしなー。しっかし、日高のあれ、いくら何でもひどくないか?」

 社長の言葉に、二人も笑った。

「僕は、三日だと思います。きっと、二人は、三日で戻って来てくれると思います」

 関君が言った。

「関ぃ、まだまだだなァ。俺は、あいつらの育ての親だ。五時間だ」

「今日中ってことですか?」

 太一が言った。

「あと一時間で、日高が、はるに謝りに謝る。そんでもって、はるも気持ちが残りまくってるから、まぁ、受け入れる。で、昼飯をはるが作ってやるだろ? で、お腹いっぱい食べるだろ。『はるちゃんの料理はおいしいねー』とか言っちゃって。で、夕方に、二人は俺に謝罪に来るんだよ。ま、とりあえず今日だけは日高のスケジュール、どうにかしなきゃな」

 社長は、そう言った。

 でも。

 社長の予想は外れた。

 二人は。

 三時間で、事務所に戻って来た。


『すみませんでした』

 二人は、深々と頭を下げた。

「とりあえず、座れ」

 社長は、二人を目の前に座らせた。

「で、どうなったワケ?」

「私には、はるしかいない。だから、はると別れたくない」

「で、はるは?」

「今回だけ…。もう一回、日高を信じてみたい」

「ふーん」

 社長は、腕を組んだまま。

「じゃ、今まで通りでいいな。二人も。事務所も」

「いいの?」

 日高が言った。

「ああ。ブラック事務所で悪いけどさ、まあ仲良くやってこうや」

 そう言って。

「じゃー、寿司でも食うか。俺がおごるからさ」

「良かったね、日高」

 はるが微笑わらった。

「うん。ここ給料安いけど、けっこう雰囲気いいしね」

「日高お前、社長を目の前にして、そーゆーこと言うなよ」

 そんなこんなで。

 全て。

 元通り。

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