第108話 別れてあげる

 はるは。

 じっと、社長を見つめた。

「何か、変。みんな、何か隠してる」

「何を隠すんだよ。嘘じゃねーよ。同じドラマの冬も、泊まってるから。同じホテルとこ

「え、冬ちゃんも?」

「ああ。落ち着いたら聞いてもいいけど、今はさ、そっとしとけよ。本当、今回のドラマ、ハードスケジュールなんだよ」

 社長の言葉に。

「じゃあ、いい。わかった」

 はるは。

 小さく頷いた。



 二日が過ぎた。


 -Yホテル-


「冬、ありがと。落ち着いた。今日、マンション帰るよ」

 日高が、荷物をまとめながら、笑顔で言った。

「うん。でも、日高といっぱい話せて楽しかったよ」

 冬は言った。

 表には。

 太一と。

 関君の車があって。

『じゃあ、また明日ね』

 二人は、そう言って、それぞれの車に乗り込んだ。

「日高さん、今日はオフなんですよね」

「うん」

「はるさんも、まだ大学お休みで、マンションにいますよ」

「うん」

 日高は頷いた。

「ゆっくり眠れた。眠れて良かった。本当に少し落ち着いたの」

「良かった」

 関君は、とびきりの笑顔で。

 そして。

 マンションに着いた。


「ただいま」

 部屋に入ると。

 はるは、ソファでいつものように、本を読んでいた。

「はる、ただいま」

 もう一度、日高は言った。

「………」

 日高は、はるの前まで歩み寄って行った。

 -ねえ、ただいまって、言ってるじゃん-

 きっと。

 そう言うつもりだった。

 でも。

(あっ)

 その時、日高が見たのは。

 泣きらした瞳で。

 心細げに、日高を見上げた。

 小さな小さなはる女の子だった。

「帰って来たの?」

 女の子は、小さい声で言った。

(…私…)

 何てことをしちゃったんだろう。

 私、また、やっちゃったんだ。

 とり返しのつかないことしちゃった。

「はる……ごめん。はる、ごめんね」

 日高は、膝をついて、はるを抱きしめた。

「私と…別れたかったの?」

 はるは、小さい声で言った。

「こんなことまでして、別れたかったの?」

「違う! 違う! ごめんね、はる! 違うの!」

 でも。

「私、もう、疲れちゃった」

 はるが、寂しそうに言った。

 日高は、はるの体を離して、はるを見つめた。

「えっ」

「…別れてあげる」

 はるは、日高を見つめて言った。

「私、日高と別れてあげる」

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