第107話 つじつま

 -奥プロ事務所-


「ごめん、社長。日高、はるちゃん疵つけたくないから、うまく社長から言ってほしいって言ってるの。二、三日でいいからホテルに泊まりたいって」

「そっか」

 冬の話に。

 社長は何度か頷いた。

「冬、悪いな。はるのことはどうにかするから、日高頼むな」

「うん、大丈夫。私も一緒にいるから」

 冬の言葉に。

「俺の娘の話なんだけど。お姉ちゃんが大学生くらいのときかな。俺が仕事から帰って来たらさ、家の前で彼氏とキスしてたんだよ。向こうは気づいてなかったけど。もう俺、パニクっちゃってさ。一ヶ月くらい仕事が手につかなくて。でさ、何か妙にお姉ちゃんの子供の頃の写真とか見ちゃったりしてさ。何か、受け入れられないんだよ。娘が大人の女になっていくの。だから、日高あいつの気持ち、俺、すごいわかるんだわ。日高はさ、もうはるを愛しすぎちゃって、恋人通り越してんだよ」

 社長は、冬と。

 横に立つ太一に、ゆっくりと語った。

「何か、世の中の男共に聞かせてやりたいよ。日高あいつ、はるが二十歳になるまで待つって言ってさ。待ったら待ったで、大人になってくはるに戸惑って泣いたりしてさ。日高みたいに女の子を大事に愛してやれって、俺、世の中の男に声を大にして言ってやりたいよ」

「そうですね。日高ちゃん、本当にはるちゃん大切にしてますもんね」

 太一の言葉に。

「春フェスで、酒目に触らせないように、関君に担いで退がらせちゃったりね」

 冬が笑った。

『あったなぁ』

 って。

 一同笑って。

「とりあえず、仕事が忙しすぎるからって言っとくよ、はるにはさ。冬も家に帰れないから、同じホテルに泊まらせてるって言ったら辻褄つじつま合うだろ」

「うん。社長、ありがとう」

 冬も笑った。

「じゃ、私、はるちゃんに合わないうちに帰るね」

「あ、じゃあ、待ってて。僕が送る」

 太一も立ち上がった。

「太一、とりあえず、日高と少し話して来てくれよ。こっちは大丈夫だからって」

「はい」

 頷いて。

 二人が去ってほどなく。

 はると、関君が帰って来た。

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