第105話 言葉で想いを

 -花村鉄工所-


「で? それで、祥子さんからもらった、白いセーラー服でせまったワケ?」

 連ちゃんが言った。

「うん。したら、すっごい冷たい目で、『何それ』って言われてさー。超恥ずかしかったよ」

「そりゃ、そうでしょ。この間まで男とイチャついてた彼女が、今度はセーラー服着ていきなりせまって来たら、そりゃ引くよ」

 めいも言った。

「別に、イチャついてないし」

「先輩の中ではそうなってるんだよ」

「………」

「ねー、はるさ。先輩は不器用なりにさ、折々にきれいな日本語で、はるに語りかけてない?冬の桜のときみたいに」

 連ちゃんが言った。

「あ……」

 はるは、小さく声を発した。

「ねっ。でも、はるはさ、大好きー、とかさ。ダイエットしてみたりとかさ。別に悪くはないんだけど、もっと言葉や、心をこめた仕草で表してみたら?」

 連ちゃんの言葉に。

 はるは、ドキッとしていた。

「あたし……、日高に、自分の想いって、きちんと伝えたこと…なかったかも」

「うん。むしろ、日高先輩の方が、伝えてる気がするよ」

「私も、そう思う」

 めいも、言った。

「言葉で。…言葉で、想いを伝えてみなよ」

 -言葉で、想いを-



「はい」

「ありがと」

 日高は、いつものように、湯のみを手に取った。

 一口、飲んで。

「あー、おいし」

 日高は、はるを見て微笑わらった。

 やばい。

 かわいい。

 キスしたい。

 日高が、湯のみをテーブルに置くのを確認すると。

「ねえ、日高」

 日高の横に座った。

「ん?」

「私、日高と一緒に暮らしてきて……、生きてきて…すごい幸せなの。いつかきちんと言葉にしなきゃって思ってたけど、今日になっちゃった。十代も二十代も、その先も、ずっとずっと私の側にいて。人生も、芸能人生も、日高と一緒に歩んでいきたいの」

 日高の手を取って。

 日高のを見て、そう言った。

「………」

 日高は、ただ、じっと、はるを見つめていた。

 はるは、日高の手を握ったまま。

 上身からだを日高にあずけて。

 日高の唇に、自分の唇を重ねた。

 瞳を開くと。

 今度は、日高の首すじに唇を押しあてた。

 と。

「あっ」

 声を上げて、日高は身をよじった。

「あー、ここ弱いんだー!」

 はるが微笑わらって、もう一度唇を押しあてようとしたら。

「次、やったら、隣に帰るから」

 日高が言った。

「えー、ずるーい」

「ずるくないよ。私、先輩だもん」

「じゃあ、私、事務所の先輩だもんね」

「何それー」

 二人は。

 ソファの上で、じゃれ合って。

 いつの間にか。

 倦怠期を抜け出していた。

 でも。

 今度は、日高が。

 ある悩みの扉を開けようとしていた。

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