第57話 謝罪記者会見

 -奥プロ事務所正面玄関前-


「この度は、私の軽率で未熟な言動により、関係者、及び関係各社の方々、ファンの皆様に対し、多大なご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありませんでした」

 日高は、深々と頭を下げた。

 一斉にシャッター音が流れ、フラッシュがたかれた。

「関君」

「ハイ」

 一秒、二秒、三秒………。

 日高は、ゆっくりと顔を上げた。

「何秒?」

「三十秒です」

 はるも事務所のテレビの前で。

 生放送の情報番組での謝罪会見をする、日高の姿を固唾をのんで見守っていた。



 -台本を叩きつけられたという話がありますが、事実ですか-

「はい。事実です。軽率であったと反省しています」

 -体調面はいかがですか-

「はい。もう大丈夫です」

 -現場から逃亡したというのは事実ですか-

「はい。NGを続けざまに出したことで、動揺するあまり、現場を離れてしまいました。本当に申し訳ありませんでした」

 日高は、記者の質問に丁寧に返答こたえてゆく。



「堂々としてるな、日高ちゃん」

「はい。凛としていますね」

 やがて。

「この度は、誠に申し訳ありませんでした」

 最後に、もう一度深々と頭を下げ、会見は終わった。

 が。

 日高が去りかけたそのとき。

 -事務所の先輩モデルのHALさんと交際しているという噂もありますけど-

 その背へ、一人の記者が言葉をかけた。

 社長も。

 事務所内のはるたちも。

 時間が止まったように静まりかえった。

 日高は。

 ゆっくり歩を止めて、振り返った。

「私の高校時代、HALとは同じ演劇部の先輩と後輩の関係でした。事務所に入ってからは、HALが先輩で、私が後輩の関係になりました。そういう間柄ですので、公私にわたって仲良くさせて頂いております。今回、私が心身共に一番苦しかったとき、側で支えてくれたのが彼女です。恋愛関係以上の、存在だと考えています」

 表情は。

 あくまでも穏やかなまま。

 顔色一つ変えず。

 日高はそう言った。


 女優、花村日高の完全復活だった。

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