第26話 未来

 -副社長こたえはまだいいから-

 そう言って、けれど祥子は、時々自分の仕事場に、はるを呼んだ。

 オフィスの時もあれば、衣装や生地が保管されている倉庫にまで、はるを伴って行った。

 そして、はるに丁寧に、優しく指導した。

 あるとき。

「どうしよう、サンプルの生地、トラブルで届かないって」

 珍しく祥子が動揺していた。

「明日までにサンプル作らないと、間に合わない」

 スタッフと、バタバタしている時だった。

 パソコンの品番を覗いていたはるが、

「祥子さん、これ、同じ品番のが茨城の第一倉庫にありましたよ」

「えっウソ⁉︎すぐ確認して」

 祥子が、スタッフに指示をした。

 しばらくして、

「あっ社長、第一倉庫にあるそうです!」

 スタッフの声に。

「はるちゃん!助かったあ!」

 祥子は、はるにハグをして。

「でも、どうしてわかったの?」

「何となく。暗記が好きなのかも」

 はるは、事もなげに言った。



 はるを事務所に送りがてら、

「はるちゃんは、他になりたいものはないの?」

 祥子が尋ねた。

「一応、高校教師の資格は、とりたいなーって」

「へえ、先生?」

「うん。何か、学校って楽しいかなって」

「そうなんだ」

「うん」

 祥子には言わなかったけれど。

(私が社会の先生で。日高が音楽の先生で)

 そんなだったら楽しいかな、なんて。

 ぼんやりと思っていた。

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