第25話 魔王の帰還(完)
ここはどこだろう。
俺はどうなった?
確か腹に剣を刺して、 死んだはず。
体を動かそうとすると、 腹のあたりがものすごく痛む。
この痛み、 そうか俺は生きながらえてしまったのか。
あれからどれくらいたったんだろう。
目がまだ霞む。
俺はまだあの部屋で、 倒れ込んでいるようだった。
とりあえず周りの様子でも見に行ってみよう。
俺は軋む体を無理やり動かし、 足を引きずりながら外をめざした。
道中誰にも会わなかった。
もはやこの街には俺しかいないのだろうか。
それは好都合と言うもの。
いつ俺の中の化け物が、 暴れ出すかわからんからな。
「このマンホール、 懐かしい。 なぜか遠い昔のようにカンジル。 」
「ようやく目覚めたか。 我よ。 」
突然またあの声が響いてきた。
ダメだ聞いては!
「ふふふふ、 我を避けることは叶わぬ。 言うたであろう我は汝なのだ。 己を遠ざけることは出来ん。 我を受け入れよ、 さすれば苦しくないぞ? 」
いいやお断りだ。
俺はもう静かに寝たいんだ。
誰かを傷つけるのは怖いんだ。
「何を言う。 散々他者からしいたげられ、 傷つけられたのはうぬだろう? 悔しくは無いのか? 今こそ腹に溜め込んだその怒り、 解き放てばよかろう? 」
確かに俺は今まで苦しんで来た。
でももう開放されるんだ。
死ねば楽になるんだ。
いいんだもう、 これ以上は何もいらないんだ。
「うぬは死なない、 我がそうさせているからな。 ふふふふ、 我はうぬの意思などくまん。 よかろう好きにさせてもらおう。 」
突然頭の痛みが酷くなってきた。
意識が保てなくなってきてる。
ダメだあそこにもどろう。
「ふふふふ哀れな。 うぬは哀れだ。 」
俺は声が聞こえる度、 それを振り払うように雄叫びをあげ、 あちらこちら引っ掻き回した。
何とか俺はあの部屋まで戻ることに成功した。
もはやこの体は、 俺のものでは無くなってきてるみたいだ。
俺は玉座に腰掛けた。
そしてもう一度剣を腹に差し込もうと、 手を添える。
力を入れようとするのだが、 言うことを聞かない。
「もはやうぬは死んだ。 うぬは我のなす事をそこで見てるが良い。 」
そしてその声を最後に、 俺は何も考えれなくなった。
…………
俺は本当にダメだな。
中途半端だ。
昔から何をしてもダメだ。
約束すら果たせない。
ダメな男だ。
「カランコエ! 」
「カランコエさん! 」
「カランコエさん!! 」
声がする。
懐かしい声だ。
この声はスミレ、 アネモネ、 それにミドナ?
何故だろう。
暖かい。
俺の廃りきった心を暖かく包んでくれる。
目を開け、 心の殻から出るんだ。
長らく何も映さなかった視界が、 再び光を取り戻した。
そこには剣を抜き、 俺と対面した3人の姿があった。
これは一体、 何故彼女達が?
まさか俺をここまで探しに?
そうだったのか。
馬鹿野郎。
俺の気遣いが水の泡じゃねぇか。
視界は取り戻せたが、 体は相変わらず気ままに動きやがる。
頼む俺は彼女達と戦いたくないんだ。
やめてくれ。
俺の意思とは裏腹に、 俺は彼女達へ突進をしていた。
頼む避けてくれ!
俺も何とか静止しようと試みる。
だがやはり完全には無理のようだ。
彼女達は見事な連携で受け止めた。
流石だ。
頼むこのまま俺を殺してくれ。
ていったああああ!
突如体に痛みが走る。
どうやら彼女達に斬られたようだ。
うへーやっぱり俺も痛いのか。
楽に殺して欲しいなあ。
もう1人の俺はどうやらかなりご立腹のご様子だ。
さらに攻勢をかける。
だが彼女達は見事にまたしても上手く躱す。
そしてまた、
イッテエ!
今度は角を斬り落とされたのか。
女は怒らすと怖いな。
だがこのままいけばきっと、 この悪魔を倒してくれる。
それに俺だとバレて無さそうだ。
「破壊、 は・ か・ い! 」
突如もう1人の俺が、 ミドナを凝視したのが分かった。
こいつまさか!
俺が予想した通り、 ミドナを鷲掴みにし爪を突きつけた。
まずいさせるか!
俺は必死に腕を抑えようとする。
今度は何とかギリギリの所で止まってくれている。
頼む今だ!
俺にトドメをさしてくれ!
もう止めてくれ!
楽にしてくれ!
俺がそう願うと突然腕に痛みが走った。
ミドナを掴んでいた手は宙を舞い、 地面に虚しく落ちた。
そしてスミレが目の前に現れた。
地面に倒される。
俺は察した。
スミレの手でトドメをさされるのだと。
そうだスミレ、 やってくれ。
俺はスミレの目を優しく見つめた。
「ありがとう。 」
俺は聞こえるか分からなかったが、 呟いた。
そして、
──グサッ──
鈍い音が聞こえる。
そして腹の辺りで激痛、 とてつもない熱を感じた。
しばらく、 その痛みと熱を感じながら彼女達を横目で見た。
良かった皆無事そうだ。
俺は満足だ。
やっと楽になれる。
突然ミドナを光が包み込んだ。
あれは一体?
霞む目で見届けていると、何と彼女は人間に戻っていた。
ラインハルト!
俺はやったぞ。
お前たちが長年なし得なかったこの悲願、 ついに!
俺はもう本当に満足だよ。
俺はゆっくり目を閉じた。
「きゃーーーーー! 」
突然ミドナの悲鳴が聞こえた。
何があったんだろうか。
俺は微かに開いた目で様子を伺う。
どうやら俺を見て悲鳴をあげていた。
ん?
もしや、 俺も戻ってる?
えっまじ?
それは、 聞いてない。
皆が駆け寄ってくるのが分かった。
皆泣いていた。
おいおい泣いて送られるなんて、 俺の性分に合わんのだが?
笑顔でいてくれよ。
「カランコエさん! 戻ってくるって約束! 忘れたんですか!? 死なないで! 私はカランコエさんと一緒にまたあの街で過ごしたいのです! 」
「……約束、 果たせなく……ごめん……な? あとそう言う……は好きなおと……に使いな……? 」
ダメだ声がしっかりでねえや。
「カランコエさん、 あなたのおかげで、 私達は世界は救われました! でもあなたがいないのなら、 そんなのなんの意味もないんです! だから帰ってきて! 」
「アネモネ、 お前たちがい……れば、 なしえなか……た。 本当に……とう。 幸せ……れよ? 」
そろそろもたねえかも。
意識が朦朧としてきた。
視界もすっかり霞んでやがる。
もはや涙のせいかも分からねえや。
「カランコエ! いい加減起きなさいよ! あんたこんなとこで死ぬたま? お願い起きてよ! カランコエにまだ言ってないことあるの! それ聞くまでは死なせないわよ! だから帰りましょ! とっとと起きなさい!? 」
「スミレ、 お前は……変わらず、 だな。 あれ? お前……のこと、 名前で……初めて呼んだな? なんだ……言ってないこと……て、 …………今……ってみ……ろ……よ…………………………。 」
もうダメだ。
疲れたよ俺は。
ゆっくり休ませてくれ。
ついに視界が暗くなってしまった。
ただ最後まで、 彼女達が俺を触る温もり、 名前を呼ぶ声だけがその時まで聞こえていた。
俺は幸せ者だよな?
こんな最期を迎えられるなら。
俺はもっと孤独に死ぬかと思っていた。
皆今までありがとう。
幸せに生きろよな。
「…………………………。 」
「そんな! カランコエ! 」
「カランコエさん! 」
「いやあああああああああ! 」
こうして彼は死んだ。
多くの人に幸福を告げ。
しかし彼を慕う人達は、 幸福と、 深い悲しみを彼の死から告げられた。
魔人はもはや誰からも虐げられず、 人として普通に生きられる。
1人の英雄の死によって。
彼らは決して忘れないだろう。
この英雄の名を、 偉大なる魔王を。
彼は多くの幸福と、 1部に悲しみを告げ、 この世を去った。
かねてより待ち望んでいた死を。
彼が望まない弔いを。
彼の愛する家族たちは、 盛大に彼を弔った。
彼を燃やす炎は、 生前彼が振りまいていた笑顔のように、 明るく燃え上がったという。
これは1人の魔王の物語。
人を信じることをやめた男が、 誰かの為身を賭して成し遂げた、 みんなの為の物語。
俺が魔王になったのなら M柴 @msiba0079
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