第23話 帰らない英雄

「はぁはぁ、 流石にあの女の側近達。 一筋縄では行かないわね! 」



「スミレ様、 あれも彼女がなさしめる技。 シルフィ達や私達天使に、 あそこまでの力はありません。 」



アネモネが息を上げながら私に囁いた。



「聞いたことがあるわ、 過ぎたる力。 アドミンはその物が持つ力を、 何倍にも引き出すことが出来るって。 ただ代償も大きいらしいわ。 」



「それは早く助けてあげなければ。 ですがどうすれば良いのでしょう。 」



「アネモネ? なんかおかしくないかしら? この間、 普段と違う気がしない? 」



「確かに。 普段とは何か違う。 それに、 僅かながらに魔力の痕跡を感じますね。 もしやこの空間から引き離すことが出来れば? 」



「でもあいつら、 テコでもこの間からはでなさそうね。 どうしたものかしら。 」



「このままでは…… 」



「トリーズンって人は何とか大丈夫そうみたいだけど………… 」



私はちらっとカランコエの方を見た。

そこには驚きの光景が待っていた。

カランコエが、 カランコエに剣が突き刺されていた。

そんな、 彼が負けてしまうの!?

何故か目頭が熱くなってきていた。

え、 なんで?

私は悲しいの?



「そ、 そんな嘘! 」



そしてアドミンが突き刺していた剣を引き抜いた。

血が吹き出ていた。

あのアバズレ絶対に許さない!

私が殺してやる!

剣を握る手に力がより入る。



私が今にも 噛みつきそうにアドミンを睨んでいると、 彼が私たちの方を見ているのを気づいた。

何かを言っているのか、 口が動いていた。

どうしたの?

何を伝えたいの?

大丈夫よ、 今助けに行くから!



そして彼が、 何かを言い終わったのを確認すると、 突然目の前が光で塞がれた。



「えっ眩しい! なにこれ! 」



「一体何が? 」



皆混乱していた。

しばらく訳分からずにしていると、 突然目の前に見慣れた場所が現れた。



「えっなんで? ここって、 さっきまで私達あそこにいたのに。 」



「これは……転移魔法?? 一体どなたが? もしやアドミンの罠でしょうか!? 」



「いえこの暖かさ、 恐らくカランコエさん。 彼でしょう。 何故かは分からないのですが……一体どうして? 」



私たちは、 街に転移魔法で戻されていた。

誰1人漏らさずに。

私、 トリーズンやアネモネら天使たち。

もちろんアドミン陣営の天使たちまでも。

確かに彼ならやりそうな事ね。



「ここはどこなの? 私は何を? 」



「テリラ、 ここは魔人族の皆様の街です。 」



「アネモネ! これはどうなってるの? 」



「シルフィー、 覚えてないのですか? 私たちは先程までアドミンの居室で、 剣を交えていたのですよ? 」



「えっ、 何を言ってるの? そんなの知らないわ! 私達はアドミン様に呼ばれてそれで……あれ? そのあとは……。 」



「そう言えばその後のことが思い出さないわ。 」



「やはり。 あなた達もあの悪魔に操られていたのですね。 」



どうやら他の天使達も洗脳か何かで、 無理やり戦わされていたらしい。

アネモネは他の天使たちに事の顛末を説明していた。



私は周りを見渡してみた。

どうやらカランコエが気にしていたように、 街にも攻勢をかけられていたらしい。

だけど余裕で守れているみたいね。

みんなの表情に余裕が見えるわ。

流石彼が信頼する仲間たち。



はっ!

そうよ、 カランコエ!

彼はここにいるの?

私は咄嗟に辺りをキョロキョロ見渡す。

居ない!

彼がいない!

予想はしていたけどやはりいない!



「彼がいない! 」



私が咄嗟に叫んだ。



「まさか、 カランコエさんは私たちだけを!? 」



「早く戻らなきゃ! 彼を助けないと! 」



「そうしたいのは、 やまやまなのですが…… 。 」



「私達にはもうあそこに戻るまでの力は…………。 」



「そんな……彼がこのままでは死んでしまう。 」



皆疲弊していた。

勿論私もかなり力を使っている。

だけどこのままでは本当に……。

どうしたらいいの。



「皆様顔をあげなさい。 そんな顔を彼に向けれるの? 」



突如聞きなれない声が私たちを励ました。

今のは誰?

声の主を向いてみると、 先程まで倒れていた、

トリーズンと言う天使が剣を携えて立っていた。



「トリーズン様! 目を覚まされたのですね! 良かった! 」



「えぇアネモネ、 お陰様で。 その前に少しよろしいかしら? 」



彼女は一言そう言うと、 手に持っていた剣に軽く口付けた。

すると剣がまぶゆい光を放ち出した。

そしてそれはみるみる人の影になって行った。



「こ、 ここはどこじゃ? わしは一体どうしたんだ? 」



「スターチス! 良かった戻ったのね! 」



トリーズンはその老人に抱きついた。



「おぉ、 この香り、 その声! 主はトリーズンか! 良かった! 元に戻ったのじゃな! 目がまだぼんやりしてよく見えんが、 相変わらず美しいのお! 」



「えぇあなたこそ! あの時と変わらずハンサムね。 」



2人は目に涙を浮かべて抱き合っていた。

ここに彼がいればもっと喜べたのに。

2人はしばし、 抱き合いお互いの顔を見つめると、 抱き合うのをやめた。



「コホン、 失礼致しました。 彼はスターチス、 昔私達と共にアドミンを倒すために、 協力してくれた人です。 そして企てがアドミンにバレた時、 私は彼女に長い年月をかけ洗脳され、 彼は呪われし剣に変えられてしまいました。 それをカランコエ様が解き放ってくれました。 そして彼はまだ死んでも諦めてもいませんわ。 」



「だから今すぐ助けに行かないと! 」



私がそう食いつくと彼女は、 ゆっくり首を横に振った。



「そうするのが本来なら正しいでしょう。 ですが彼は私たちを安全であるここへ、 しかも敵であったシルフィーらもここに無理やり転移させました。 恐らく彼はあの悪魔に勝つために魔王になることを決めたのでしょう。 」



「魔王になる? 彼は元々魔王なんじゃないの? 」



「えぇ確かに彼は魔王を正式に継いだ、 現魔王。 ですが彼は魔王の真の力を使わずにいました。 ですがあの悪魔に勝つには魔王の真の力を使わないと勝てない、 と思ったのでしょう。 魔王の力は破滅の力。 彼は私たちを巻き込まないために、 ここに転移させたのでしょうね。 ですから今戻るのは彼の意志を無下にしてしまいます。 今できることは彼を待つことではないでしょうか? 」



「そんな……待つことしかできないなんて。 」



「私達に他にできることはなにかないのでしょうか? 」



アネモネも目に涙を浮かべてトリーズンにそう聞いた。



「彼が戻ってきたら笑顔で迎えてあげること、 それだけよ。 きっと彼は戻ってくる。 彼がどんな風になっていても、 笑顔で変わらず迎えてあげましょう? 」



彼女の一言で私たちは救われた。

そうだよね、 彼が戻ってきた時に私たちが悲しそうにしてたら、 彼が悲しむよね。

彼が私達のためにしてくれたこと、 無下にはしてはダメよね。

カランコエ、 あなたが帰ってくるの待ってるから!



「どうやら終わったようですね。 」



しばらく沈黙が続いたかと思ったら、 トリーズンが突然驚きの発言をした。



「どういうこと!? 」



「カランコエ様が勝ったようです。 あの悪魔が死にました。 」



「そのようですね。 私達も感じました。 」



「じゃあカランコエは戻ってくるのね!? 」



「えぇ、 きっと戻ってくるわ! 」



私たちが嬉嬉として話していると、 シグルドや街の人達が戻ってきた。



「どうしたのでしょうか、 突如襲撃者共が引いて言ったのですが。 」



どうやら街を襲撃してきた者達も、 自分の崇拝する神が敗北したことを知ったようだ。



「どうやら我らの勝ちのようです! 」



「お前ら! カランコエ様の勝ちだ! 今日は宴だ! 」



ダリルが町民を煽る。



「うぉおおおおおお! 」



「さすがカランコエ様! カランコエ様万歳! 」



町民は皆、 喜びの雄叫びを、 カランコエの名前を何回も叫びあげた。

その熱気冷めやまぬ中、 ミドナが私達の元へと近寄ってきた。



「スミレさん、 アネモネさん! カランコエさんはどちらに? 一緒でしょ? 」



彼女は周りをキョロキョロしながら聞いてきた。



「ミドナ、 彼はまだ戻ってないの。 でも彼が勝ったのならきっとすぐに戻ってくるわ! 一緒に待ちましょ? 」



私がそう言うと、 彼女は満面の笑みを浮かべて頷いた。

本当にいい子だわ。

私達は宴の準備をしながら彼の帰りを待つことにした。



「なかなか戻られませんな。 」



彼はなかなか戻らなかった。



「仕方ない、 とりあえず先に始めてましょう! きっとすぐに戻られますよ! 」



ダリルとシグルドが気を利かせてそう言った。

みんなは少し悲しそうであったが、 すぐに宴会を楽しんだ。



「どうしちゃったんだろう。 なにか戻れない理由があるのかな。 」



「スミレさん、 カランコエさん戻られないね。 どうしちゃったのかな。 」



「ミドナちゃんも気になるのね。 私もやっぱり気になっちゃって。 」



結局彼はこの日戻ってくることはなかった。

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