第22話 孤独

「おー……、 ……い。 生きて……か? おいしっかりしろよ! まだ始まってないよ! 」



薄れゆく意識の中で、 どこかで聞いたようなムカつく声が響く。

誰だっけ。

確かチョココロネ?



「ムカつくって何よ! せっかくあんたを、 これから助けてやろうってのに! それにコロネよ、 コ・ロ・ネ! 何よチョココロネて! よく分からないけど美味しそうね。 じゃなくて! あんたまだ生きてるんでしょ! 何死にかけてるの。 諦めてるの! さあとっとと始めるわよ! 」



全く少しは休ませてくれよ。

うるさいなあ。



「たく分かったよ。 あれをやるしかないんだよな。ええい、 ガナビーオーケー! 」



「何それたまに言うけど。 かっこいいと思ってるの? 」



「るっせえ! たまにはカッコつけてもいいだろう! 」



本当に調子狂うなあ。

だが少し気が休んだよ。

ありがとよ。



「早くしないとあんた、 本当に死ぬわよ? さっさとする! 」



「言われなくても。 では行くぞ。 」



俺は1度大きく深呼吸をする。



「魔神コロネよ、 古の契約により顕現せよ! 我が身を依代とし、 深淵なる力を与えたまえ! 我が身を汝の器とし、 力の礎とせん! 魔神王化デモニックコンバージョン



「契約、 今こそ果たさん。 汝と我は一心同体。 汝の苦しみは我がものに。 汝の喜びは我がものに。 共に破壊を尽くし、 欲するがままに参ろう。 ……はあ! やっとこれやれた! さぁ見せてやるわ。 」



おいおいそんな中途半端でいいのかよ。



──ドクン、 ドクン──



突如心の鼓動が強くなる。

この感覚、 不思議だ。

とても禍々しい感情が込み上げてくる。

だけど心地よい。

なんでだろう。

痛みも何も無い。

無だ。



「うがあぁああああああああああああぁぁぁ! 」



俺は気付くと雄叫びをあげていた。

そしてみるみるうちに、 視界がどんどん高くなる。

まるで目の前の物が縮んでるかのように。

いや、 俺が大きくなっている。

のか?

それに俺の両手、 随分とごつくなってる。

爪も長い、 なんか黒い毛でふさふさしてる。



「貴様! まだ立ちはだかるか! よもや化け物になってまで! この私に勝とうと言うのか! ええい忌わしい! 忌まわしいわ! 微塵たりとも残さず、 浄化してやる! 」



アドミンが俺を見上げ、 喚き散らしている。

そして俺に斬り掛かる。



「うぉおおおおぉぉおおおおお! 」



俺は自分の意志ではなく、 身体が勝手に動いていた。

そしてただ変な声が聞こえていた。



「憎い、 殺す、 憎い、 恨めしい、 破壊、 滅殺、 殲滅、 破壊! 」



ひたすらに憎悪に満ちた声が、 俺に響いていた。

お前は誰なんだ。

どうしてそこまで憎む?



「我は汝の心。 汝が受けた苦しみ、 我は知っている。 我の怒りは汝の怒り。 その憎しみ、今解き放とうぞ! 」



違う!

俺はそんなんじゃ!

そんなことは思ってなんか!

俺はこの世界に来て、 少しばかり救われた!

もうあの時の俺じゃないんだ。



「何を言う。 お前の心を既に壊れている。 少しの安らぎを得ようが、 既に取り返しのつかない。 お前は酷く憎み、 蔑み、 殺したいと思ってきた。 それがお前であり我だ! 」



そんなこと、 は。

そんなはずは。

…………

そうかお前は俺なんだな。

だからそこまで憎むのか。



「そうだな、 確かに以前の俺は人を憎み、 嫌い避けてきた。 早く死にたい、 そう思ってきたよ。 でもここに来て俺は変わった。 人を信じようと思った。 生きたいと少しは思えた。 誰かのために頑張ろうと! 確かにこの世界にも俺の嫌う人種はいる。 だけど悪いのはそいつらであって、 みんなでは無い! 俺はそれを改めて思った。 お前は俺なんだろう。 だったら感情に振り回されるな! 俺はもうそんなに弱くない! だろ? 」



「…………我は汝。 我は弱くない。 汝が我と共にあるならば。 我も共にあろう…… 」



そして禍々しい声は聞こえなくなった。

ごめんな。

俺が弱気になっていたから、 弱かった俺が喝を入れてくれたんだよな?

俺はもう負けないよ。

だから一緒に乗り越えよう。



「ぶはああああああああああああ! 」



俺は大きく息を吸い、 そして吐き出した。

そして口から青い炎が放たれた。



「貴様にここまでの力があるとはな。 であらば私も真の力を解放しよう。 ゴッドリコレクション! 」



アドミンが叫ぶ。

するとみるみる彼女は、 阿修羅のような風貌になって行った。

その顔はどれも、 悪魔のように不敵に笑んでいた。



「さあ最後の晩餐と行こうじゃない! 我が神の力にひれ伏すがいい! 」



「うがあぁぁぁぁああああああああぁぁぁ! 」



覇気に押されまいと、 雄叫びをあげる。

あれが神だと?

どちらかと言うと悪魔がお似合いだな!

さあ魔王と悪魔の決着と行こうか!

俺は両足に力を込め、 一気に飛びかかった。



なかなかに彼女も力が強い。

それに彼女は手も多いし、 剣を持っている。

対する俺はただの手だ。

爪と立派な角だけがまともな武器だ。

多少不利だな。

俺にも明確な武器があれば…………。



「カランコエ! 私を使って! 」



突如どこからか、 謎の声が響いてきた。

その声は、 地面に突き刺さっていたセンチネルから聞こえてきていた。



「センチネル! きみなのか? だが今の俺には到底………。 」



「大丈夫、 私を信じて! 」



俺は彼女の言うままに、 彼女を優しく掴む。

すると彼女は、 みるみる大きくなり、 今の俺でも扱える大きさになった。



「一緒に頑張ろう! 」



ありがとうセンチネル!



「うがあぁああああ! うおああああああああ! 」



「ふん! 所詮は言葉もろくに話せない畜生。 この高貴たる私に勝とうなど、 笑止千万。 」



──ガキィーーン──



お互いの剣が唾競り合う。

どうやら双方の実力は拮抗してるようだ。

先程に比べて十分あの女と渡り合えてる。

力も速さも負けていない。

これが真の力か。



「くっ、 野蛮な! こんな畜生にこうも押されるとは! だがこれでどうかしら? アトミックスフィア! 」



彼女はマグマのような丸い塊を作り出した。

物凄い熱量だ。

少し離れているこの位置でこの熱気。

喰らえば一溜りもない。



「うが、 が 。 がぎ。 え、 ぴ。 く、 らえ。 APFSDSブラスト。 」



あっ声が出せた。

俺は口から高出力の圧縮魔法を放った。

それはマグマの塊を核から、 術者の腕をひとつ諸共貫いた。



「あらあら酷いことするわね。 腕がひとつ落ちてしまったわ。 そんなに死にたいのね、 もう許さない! 灰すらも残さないわ! 」



「貴様こそ、 ここで俺と共に朽ち果てろ。」



彼女は先程の塊をたくさん作り出した。

俺はそれを1つ1つ撃ち落とす。

だが流石に数が多いか。

ならば。



「MLRS・ホーミングアイシクル! 」



俺は自分の周りに氷の魔法を作る。

そして塊へ向けて一斉斉射をする。



──パキパキパキパキ──



「まさか、 アトミックスフィアが凍った!? 馬鹿な! 核の熱は、 5000度を超えるほどの高熱なのよ! 有り得ない。 」



「その程度か? 次は俺の番だ。 ゴッドフォール。 」



俺は凍らせた塊を浮かせ、 彼女目がけて飛来させる。



「自惚れるな! ゴッドウォール! 」



──ガンガンガンガン──



彼女が生成した障壁と、 氷塊がぶつかり合う。



「うふふふ、 あはははは! おーほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほ。 最強の壁、 ゴッドウォールを砕こうなんてそんなのむ…………えっ!? 」



少しずつ、 だが確実に障壁にヒビが入ってきていた。

よしあそこを集中してつけば。

俺は、 ヒビが入ってきている箇所を執拗に狙った。



──ピキっピキピキ、 パリーン──



そして遂に壁が崩壊した。



「何が起きたの、 この私が剣でも魔術でも押されるなんて。 悪い夢よ、 これはきっと現実では無い! 」



この期に及んで現実批判か。

往生際の良くないことよ。



「残念だがこれが現実だ。 いい加減負けを認めろ。 別に殺しはしない、 お前がまともになるならな。 」



「グッ、 この私に舐めた口を……分かったわお前の言う通りにしてやるわ。 不服だけどね。 」



俺は突きつけていた剣を下ろした。

その刹那、 彼女は剣を俺に突き刺してきた。



──カキィン──



咄嗟に俺は彼女の剣をはね上げる。



「全く見え見えなんだよ。 詰めが甘い、 殺気が見え見え。 そんなんで隙を着いたつもりか? 刃磔陣! 」



俺は無数の刃で彼女の手足を、 壁に打ち付け拘束した。



「なんのつもりだ! こんな真似をしてタダで済むと思うな! 」



「自分の立場が分からないのか。 さて真実を教えて貰おうか。 」



「真実、 だと? そんなもの知ってどうするのかしら? まあいいわ、 そんなに知りたいなら教えてあげる。 ふんふふふふふふ! 」



「何がおかしい、 頭でも壊れたか? 」



こいつがおかしいのは元々なのかもな。



「別に。 それであんたが知りたいのは魔人の事かしらね? あれはね私が作り出した、 哀れな反逆者達なのよ。 」



「どういう事だ。 お前が作った? 」



「そう、 あいつらは私を崇拝しなかった。 だから醜い姿にして同族であった人間に迫害させた。 ただそれだけじゃつまらないじゃない? だから魔王なるものを作り統治させた。 」



「何故魔王に統治させた? それとお前になんの関係がある。 」



「魔王には人間に戻る方法を教えた。 ただし完璧な方法ではないけどね。 そうしたらあいつらは必死に考え、 探し人間に戻ろうと足掻いたのよ。 傑作だわ! どんなに足掻こうと人間には戻れないのにね! この私がいる限り! 」



「どういう事だ。 」



「私が邪魔をしているのよ。 つまり私がいる限り、 魔王が何体死のうが魔人は人間には戻れない。 全くいい道化師だわ! だけどね最近は感づき始めてきたようだけど。 ついにはあんたがここまで来てしまったしね。 誤算だったわ。 私の計画のためには、 ここで死ぬ訳にはいかないわ。 だからあんただけ死になさい! 」



「そうか、 じゃあここでお別れだ。 」



「喰らえ! コンデメーションレフェリー! 」



彼女が叫ぶ。

それと同時に俺は上に大きく飛んだ。



「へ、 何故……なの。 こんな……はずじゃないのに。 私の…………命が…………消えていく。 自分の魔術で……死ぬ……なんて。 し、 死ぬ? 不老不死の私が……こんなことな……て。 痛い……寒い。 」



彼女の腹には大きな剣が突き刺さっていた。

話してる際に、 俺の後ろに作り出していたらしい。

まあ生憎俺には、 彼女の目にそれが映り込んでいたので察知できたのだが。

哀れな話しだ。



「安らかに眠れ。 次は道を間違えるんじゃないぞ。 お前には力があった。 使い方を間違えなければな。 孤独にはならんかったろうに。 」



俺は彼女の目を閉じてやった。

すると彼女は、 静かに白い光となって綺麗に散っていった。

きっと彼女も被害者なんだろう。

近くに道を正してくれる人がいれば、 こんなことにはならなかったのかもな。

今となっては彼女を憎むことは出来ない。

確かに彼女がしたことは許されない。

だけどそうさせたには、 深い理由があるに違いないしな。



さてどうしたものか。

俺は地面に腰かける。

何とか自我は保てているが、 やはり体は戻らなさそうだ。

それに先程から意識が朦朧としてきた。

俺ももう限界なのかもしれない。

このまま自我を保てるかも分からない。



「あいつらは無事かな。 レンタルビジョン。 」



俺は式神が見てる視界を借りる魔法を使った。

どうやらスミレたちの転送は無事に成功したらしい。

街も無事のようだ。

アネモネ達もアドミン側の天使たちも無事らしい。

どうやら彼女達も操られていたようだ。

トリーズンも目を覚ましていた。

そして驚いたのがスターチスが、 剣ではなく人の姿になっていた。

元に戻れたのか。

良かった。



俺はみんなの無事を知って安堵した。

安堵したせいか、 今まで抑えていた黒い感情が湧き出てきていた。

くっこれ以上は自我を抑えられないかもしれん。

その前にここで命を絶たねばならない。



「ごめんよみんな、 約束果たせそうにないや。 男に二言はないって、 カッコつけてたのにな。 ダメだな俺は。 」



何故か目頭が熱くなってきた。

こんな姿でも涙は出るんダナ。

まだ人の心が少し残ってるンカナ?

だけどもうダメダ。



俺はフラフラと、 壁に突き刺さってる剣に歩いていく。

柄を掴み一気に引き抜く。

そして壁に背をつけてゆっくり座り込んだ。



「はぁ死ぬのがコワイノカ? いや違う、 誰にも知られずに、 孤独に死ぬのが。 コワイノカ。 俺がそんなものを恐れるナンテな。 」



孤独、 そんなもの久しぶりに恐れるな。

俺はこの世界に来てからのことを、 思い出していた。

楽しいこと辛いこと、 色々あったな。

でも今までで1番生きてるって感じれた。

この世界に来れて良かったのかな。

少しは誰かの役に立てたのかな。

俺が存在した意味があればいいな。



俺は震える手で剣を掴む。

そして両手でしっかり握り腹に当てる。

あと数ミリで刃は身を貫く。



「さようならみんな、 ゲンキデナ。 幸せにナレヨ。 あがあああ。 うがかかが。 」



──グサッ──



鈍い音が一瞬静寂を貫く。

そして俺は視界が暗くなり、 意識ももはやないに等しかった。

少しずつ感覚が薄れていった。

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