第21話 最後の契約
「さあ私の駒となり戦いなさい! トリーズンよ! 」
トリーズンだと!?
今トリーズンと言ったか!
まさかあの天使がトリーズンなのか!?
檻から1人の天使が現れた。
──カチカチカチカチ──
すると急に、 腰に携えていたカラミティソードが大きく震えている。
どうしたんだ。
俺はカラミティソードに手を当てる。
「……トリーズン、 まさか……なのか。 君なのか。 まさか本当に。 生きていたなんて。 良かった……に、 良かった。 」
「お前はまさか、 魔法屋の爺さんか!? なんで剣なんかに! それにの前の声と違う!? 」
「ここまで来たお主ならもしや。 お主が聞いたの恐らく、 この剣の声じゃろうな。 この剣は元々1本の剣じゃった。 そしてわしはこの剣に無理やり魂を移されたのじゃ、 あのおぞましい女にな。 長い間彼女はあの女に縛られ苦しんでいた。 そしてお主が彼女を解き放ってくれたのじゃ。 わし達の編み出した魔法によって。 」
「そういう事だったのか。 だったらなんでもっと前に言ってくれなかったんだ? 」
「まっことに申し訳無いんじゃが。 わしにも分からん。 今の今まで、 意識はあったものの、 声にすることが出来んかった。 それが何故か先程、 トリーズンを見た時から嘘のように、 こうしてお主と話せているわけじゃ。 ああ、 懐かしい。 この香り、 温かさ。 」
香り?
温かさ?
何を言ってるんだ?
「なあ、 あの天使は本当にトリーズンなのか? 」
「いかにも。 見た目はそのままじゃ。 ただ奴に操られているようじゃ。 彼女から僅かに悲しみの念が漏れている。 彼女を救ってやってくれ! 」
「やれやれ荷が重いぜ。 だったら爺さん、 力を貸してもらうぞ。 」
俺はカラミティソードをしっかり握り構える。
「ほっほっほっ! ワシにできることなら何でもするわい! それにトリーズンにわしの声を届ければ、 洗脳が解けるやも! じゃが気をつけるのじゃぞ。 トリーズンの腕は確かじゃ。 操られてるとはいえ油断禁物じゃ! 」
「わかったよ。 爺さんもせいぜい彼女を取り戻せよ。 」
トリーズンがゆっくりこちらに歩み寄り、 剣を構える。
何故だろう、 殺気のようなものを感じない。
無だ、 ただただ無だ。
逆にそれが怖い。
不気味だ。
操られた人とはあんな雰囲気なのだろうか。
ん?
彼女の剣を握る手が僅かに震えている。
なぜ?
「さあトリーズンよ、 その愚かな反逆者を斬りなさい。 」
アドミンがそう指示をすると、 トリーズンは剣を構えこちらに斬りかかってきた。
──ガキィーーン──
甲高い音が鳴り響く。
物凄い力だ。
こんな体のどこにそんな力が。
それに彼女は全く表情を変えず、 無表情に剣を振るう。
「トリーズンよ! 聞こえるか! わしじゃ、 スターチスじゃ! 目を覚ますのじゃ! 頼む! 」
「……チス、 スターチス? うっ、 なんだこれ、 は。 」
急にトリーズンの動きが鈍くなり、 頭を抱えだした。
「ちっ、 まだ抗うか。 まあいいわ、 ディープマインド! これでその忌わしい抵抗もできないでしょう! 」
アドミンが何か唱える。
するとトリーズンが苦しみ出した。
「やめて! ああああああああ! 」
しばらく叫び、 頭を抱えていたかと思うと今度は、
「アドミン様の仰せのままに。 」
と言い再び剣を取った。
なんてやつだ。
ここまでするなんて。
酷い。
こうやって人を縛るなんて。
「あんまりじゃ、 こんなの。 あんまりじゃ! おのれアドミンめ! 頼む彼女を救って、 この苦しみから解放してやってくれ。 」
「爺さん、 言われなくてもそうするつもりだ。 そしてあのクソ女を殴ってやる。 女に手を上げるのは柄じゃないが、 あいつはそうはいかねえ。 まずはトリーズンを助けるぞ! 」
俺は再びカラミティソードを握り直す。
もしかしたらあの魔法なら。
一瞬の隙を作るんだ!
トリーズンが再び剣を構え斬りかかってくる。
彼女は涙を流しながら、 苦痛に満ちた表情で斬りかかってきた。
今楽にしてやる。
彼女は今も自分と戦っているんだ。
彼女は死んではいない。
だったら救い出してみせる!
「トリーズンよ、 もういいんじゃ。 こんなことはやめよう。 お前は十分苦しんだ。 これ以上は苦しまなくていいんじゃ。 」
スターチスは何度も剣戟を交わしてる中、 トリーズンにずっと呼びかけていた。
そして何度か打ち合った後、 遂にトリーズンが膝を地面に着けた。
「うぅ、 あ、 頭が。 スターチス、 お願い……けて。 助けて! 」
今だ!
俺はすかさずトリーズンの頭に手を添える。
「彼女を苦しみから解き放て! ソーブ・コネクション! 」
俺が詠唱をすると、 彼女はゆっくり、
「ありがとう、 本当にありがとう。 スターチスまた会えて、 よか…………。 」
そう言いかけて、 彼女はゆっくり地面に倒れた。
「なんじゃ!? 何が起こった! 」
「彼女にかかってる魔法をうち払った。 まあこれは賭けだったけど。 成功したみたいだ。 」
「ありがとう、 ありがとう。 うぅ、 トリーズン良かった。 これで苦しまなくてすむな。 」
何はともあれこれでトリーズンは大丈夫だろう。
「貴様、 よくも私の人形を! もういいわ、 お前だけはこの私の手で自ら殺してあげる。 」
アドミンは椅子から腰を持ち上げると、 俺にゆっくり近寄ってきた。
遂にお出ましか。
お手並み拝見と行くかね。
だがまずは。
「爺さん、 この子頼むな。 おらあよ、 あのアバズレに用があるからよ。 」
俺はトリーズンの傍らにカラミティソードを寝かした。
「ああ、 任せとき。 兄ちゃんも死ぬんじゃないぞ。 頼む、 わしらの分も殴ってきてくれ。 」
「任されたよ。 じゃあな。 」
俺はセンチネルを握り、 アドミンに向かって歩を進めた。
「フフフフ、 私に勝てると思う? いいえ、 お前は惨めに惨たらしく死ぬのよ! さあ覚悟しなさい! 」
「ふん、 それはどうかな。 てめーだけには負ける訳には行かない。 さあ構えな! 」
「ふん威勢だけはいいじゃない。 その威勢もいつまで続くのかしら。 楽しみだわ。 」
アドミンはそう言うと、 どこからか剣を引き寄せた。
俺もセンチネルを構える。
そしてアドミンに斬りかかった。
──カキィン──
軽々しく剣で受け止められる。
なんて力だ。
しかもこいつ笑ってやがる。
「あらあらあ、 こんなもんかしら? これじゃつまらないわ。 もっと楽しませてちょうだいよ。 」
「けっ、 余裕じゃないか。 」
「えぇ思ったより弱いのですもの。 それじゃあ満足できないわ。 今度はこちらから行くわ。 」
アドミンは俺を切り離すと、 一気に詰め寄ってくる。
速い!
ほとんど見えなかった。
何とか剣で受け流す。
「あらあらやるじゃない。 今のを防ぐなんて。 でもこれならどうかしら? 」
アドミンはどこからか、 もう一本剣を引き寄せた。
くっ二刀流か。
なかなかに厳しそうだ。
すかさず彼女は二本の剣で斬りかかる。
速い!
着いていくのがやっとだ。
「あらあら随分辛そうじゃない。 大丈夫かしら? 簡単に死なれてもつまらないわよ? 」
「おいおい誰が辛そうだって? おばさんの方こそ休んだらどうだ? 」
彼女の表情が一瞬ピクっ、 と動いた。
「誰がおばさん、 なのかしら? そんなに死にたいようね、 おほほほほ。 もういいわ、 死になさい? 」
そう言うと彼女は、 先程とは比べ物にならない速度で追い詰めてくる。
防ぎ切れない!
早すぎる。
だんだんいなせなくなってくる。
アサシンブレードも駆使してやっとだ。
「へぇー面白い物を使うのね。 どれも見た事ないわ。 でも私には勝てないわ。 」
「へっ、 それはどうかな。 まだ、 負けてねえ。 」
「ふーん、 威勢だけはまだいいのね。 でも体はもうボロボロじゃない。 もういいわ飽きたわ。
」
そう言い放つと彼女さらに猛撃を仕掛けてきた。
クソ!
まだ強くなるのか!
このままじゃ…………
──グサッ!──
鈍い音ともに腹に激痛が走る。
熱い、 痛い!
腹を見ると見事に、 アドミンの剣が突き刺さっていた。
しまっ……た。
ぬかったか、 まさ……これ程まで……とは。
あまりの痛みに膝を着く。
「あらあら、 もうおしまいかしら? つまらないわね。 」
そう言いながら彼女は剣を引き抜いた。
グッ!
痛い痛い痛い!
血が止まらない。
俺は霞む目で周りを見る。
アネモネ達が天使たちとまだ戦っている。
なかなかに苦戦してるようだ。
トリーズンは相変わらず倒れている。
このままではみんなも危ない。
俺はここの中であいつに呼びかけた。
「おい、 見ているか。 声が聞こえるか。 」
「やっと私の出番かしら? 全く酷いやられようね。 見損なったわ。 」
「うる、 せえ。 ちょっと手を抜いただけだ。 」
「手を抜いた割には、 死にかけてるくせによく言うわよ。 それで何よ。 」
「お前ならあいつに勝てるか? 俺にはもう限界みたいだ。 」
「全く、 もう少しデキル男だと思ってたんだけどなあ。 アハハハハ! 私に不可能はないわ。 あんなオバサン、 目じゃないわよ。 なーに? 私の力が必要なのかしら? 」
「そうか、 頼む力を貸してくれ。 」
「ふーんどうしようかな。 」
「お願いだ。 もう、 それしか。 」
「じゃあ聞くけど、 あんたは覚悟できてる? 私の力を使うってことは、 人間には戻れないわよ。 そして自我も保てなくなる。 目の前の物を破壊し尽くす、 文字通り化け物になるの。 その覚悟は? まあ人間にそんな肝は持ち合わせてないわね。 」
「その覚悟はできている。 頼む俺に力を貸してくれ。 」
「あんた、 やっぱり私の見込んだ男じゃない! いいわ気に入ったわ。 任せなさい。 あんたの覚悟無駄にしない。 分かってるわね? 」
「ああ、 分かってる。 ありがとう。 すまんな。 」
なるほど人間を辞めるということか。
だからラインハルトは、 あれをやらなかったんだな。
今までにこれをやった魔王少ないらしい。
その理由がわかった気がするよ。
まあその人によって違うらしいが、 俺の代償はどうやらなかなかに厳しいようだ。
だがそれで勝てるなら俺はいいんだ。
だがこのままではあいつらを巻き込むな。
「う、 ぐ。 ふぉ、 フォースド・トランジション。 」
俺は何とか転移魔法を頑張って唱えた。
これであいつらは無事に、 大丈夫……だよな。
「お前何をした! 」
「へ、 へへへ。 これで俺とお前の……2人きりだな。 楽しもうぜへへ。 」
「貴様あぁぁぁぁ! 余計な真似を! 」
アドミンは逆上して俺に剣を突き立てた。
がはぁ!
追い打ちとは、 鬼畜だな。
だがもう感覚が麻痺してきている。
痛みも分からなくなってきたよ。
意識が遠のいていく。
視界が暗く、 なってきた。
ごめんな皆。
元気に生きろよ。
幸せに……なれ……よ。
…………
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