第19話 決戦の狼煙
数多なる兵士の先頭に立っていたのは、 なんと先程俺と刃を交えたあの騎士だった。
なぜ彼があそこに?
「お、 おいあんた。 何故そこにいるんだ? 」
「フフフフ。 先程ぶりよの。 其処許よ、 名をなんと申す? 」
「お、 俺か? 俺はカランコエだ。 」
「うむ。 余がカランコエ様の力となろう。 余は付き従う。 このマルコシアス騎士団の長、 マルコロットが。 かつてマルコシアス様に掲げたこの剣、 カランコエ様に捧げよう! 」
彼が膝まつくと、 周りの兵士たちも一斉に膝まつく。
この兵力、 そしてマルコロットの力があれば街はどうにかなりそうだ。
「ああ大いに助かる! ではコホン。 騎士マルコロットよ、 今より我の騎士と任命する。 その剣を我のために捧げよ。 」
俺は騎士叙任式の真似事をした。
「有り難き幸せ。 余と我が騎士、 命ずるままに。 」
「うむ、 では時が来たらその時は頼む。 」
「御意。 」
彼はそう言って頷くと、 配下の騎士たちと共に消えていった。
これでとりあえず1つ、 不安の種は摘み取れたか。
よしこれで後はこっちの準備だけだ。
ひとまず戻るとしよう。
「さてこちらの準備と言っても、 何をしたものか。 俺はそれなりに出来てるしな。 アネモネらの様子を見に行くとするか? 」
とりあえずアネモネの部屋に行くことにする。
彼女の部屋まで行くと、 何やら相談しているような話し声が聞こえた。
──コンコン──
「アネモネいるか? 少し話をしたいんだが。 」
「どうぞ入ってください! 」
俺は返事を確認してから扉を開けた。
そこにはアネモネと他の天使たちが、 何やら話し合っていた。
「取り込み中だったか? 」
「大丈夫です。 向こうに着いてからのことを、 相談していたのですよ。 カランコエさんもぜひ! 」
彼女らは、 彼女らなりに考えてくれているようだ。
「そうだな、 そうさせてもらうかな。 でどんな感じだ? 」
「ええ。 今向こうに着いてから、 城までのルートを確認してました。 これをご覧ください。 」
そう言うとプリメリアが、 目の前にある物を指した。
これはなんだ?
立体的な地図?
どういう原理だ?
まるでSFに出てくるホログラムのような地図だ。
「なあこれって地図、 なんだよな? これも魔法かなんかか? 」
「えぇそうですわ! こちらの方がより詳細に地形が分かりますでしょう? 」
「ああ! 凄いな! まさかこんなものが見れるなんて。 」
「うふふ可愛らしいですわね。 カランコエ様は。 」
「コラ! プリメリアからかわないの! 」
アネモネが牽制する。
アネモネはどうしたんだ?
「あらアネモネったら焼きもちかしら? 」
「ち、 違います! それよりルートの説明です! コホン。 先ず私たちはこの地点にテレポートします。 そこからこの道を進み、 ここで路地裏に入ろうと思います。 恐らく正面の大通りは守りを固めているでしょう。 路地裏なら配置できても少数かと。 それにいざと言う時に撹乱しやすい、 よって路地裏を進み城の目の前まで進行。 で行きたいのですが、 カランコエさんはどうみますか? 」
なるほど確かに理にかなっている。
だがこの路地裏、 少し気になるな。
確かに目立たないし、 撹乱にも向いている。
が、 袋小路も多く追い詰められた時、 狭いし逃げ道も少ない。
それに周りの建物、 そこまで高くないな。
屋根とかに配置されれば厄介だ。
どうしたものか。
「なぁこのマンホール、 どこに繋がってるんだ? 」
俺はテレポート地点の近くにあった、 マンホールが気になった。
「それは下水道です。 それがどうしたんですか? 」
「なるほど下水道か。 それはもちろん城にも繋がってるのかな? 」
「えぇ、 そこら辺は共通です。 あの、もしかして? 」
「イグザクトリー! その通り。 下水道をつたって城まで向かう! アネモネらのルートがダメって訳では無い。 ただ少々不安なんだ。 奇襲や待ち伏せなどを受けやすい。 確かに正面よりは安全かもしれない。 だがそれは向こうもそう考えてるはず。 何かが仕掛けられていてもおかしくない。 下水道から来るとは考えないだろう。 万が一そこまで警戒されていたとしても、 なんとかなる確率が高い。 」
「なるほどそれは一理ありますね。 下水道…… 」
「そんなあ汚れてしまいますわ。 」
まあ気になるわなそりゃあ。
俺でも嫌だし。
だがなんとかなる!
「フッフッフッ安心したまえ、 お嬢様方。 手は考えてある。 」
「えっ! 本当ですか!? 」
「まあそれは当日のお楽しみということで。 」
「そ、 そうですかあ。 分かりました。 カランコエさんの下水道ルートで城まで行きましょう! 」
「分かったわ。 少し待ってね今下水道の地図を出してみる。 」
地図が今度は下水道の詳細を示し始めた。
まさかこんなことまで分かるのか。
下水道がどこで分岐してるか、 それぞれの出口などがこと細かく表示されている。
「ほほうこれなら上手く行きそうだな! この地図凄いな! 」
「うふふありがとうございます。 」
なんでプリメリアが嬉しそうにしてるんだ?
ともかく!
これで城までのルートがおおよそ決まった。
スミレもこれを知ったら、 行かないとかグズるかもな。
当日まで黙っておくか。
「これで城までのルートは何とかだな。 鬼門は城の中か。 」
「そうです。 アドミンがどのように守るか、 それ次第です。 」
普通に考えれば出入り口や、 エントランスやホールみたいな所に雑兵。
自分のとこに真の信頼できる兵を、 手前にそれなりの強さの兵を配置しそうなもんだが。
あの女は読めんな。
「なあお前たちはどう見る? 」
「難しいですわ。 彼女は読めません。 」
「そうね、 彼女の考えてる事は、 誰にも読めないんじゃないかな。 何でもやりそうですからね。 」
アネモネ達でもそう思うのか。
「プリムラはどうだ? 」
「うーんそうですね。 もしかしたらあの人は自分のとこに、 置くかも知れません。 確信はありませんけど、 なんだかそんな気がしてならないのです。 」
なるほど十分に有り得る話だ。
だがそうなると俺らが不利になるな。
いやだからこそなのか?
「確かにそれが1番有力説だな。 だが一応警戒はしながら進むべきだな。 罠とかも設置されてるかもしれない。 」
「そうですね。 それが一番です。 みんなで乗り越えましょうね。 」
「ああ、 そうだな。 君たちと話せて良かった。 その時はよろしくな。 俺は先に休んでるよ。 」
「えぇ、 ごゆっくり休まれてください。 」
3人に挨拶を済ますと俺は部屋を後にした。
部屋に戻る道中、 庭でスミレが何かをしてるのを見た。
あそこで何してるんだ?
「よおスミレ何してるんだ? こんな所で。 」
「なんだあんたなのね。 この花綺麗ね。 」
スミレは庭に咲いている花を眺めていた。
確かにこの花は綺麗だ。
「ああそうだな。 綺麗な花だ。 ミドナとマリーが育ててるんだったかな。 お前も花好きなのか? 」
「綺麗なものが嫌いな人はいないでしょ? 」
「それもそうだな。 お前はいいのか? 」
「今更よ、 それにあいつには借りがあるから。 返してやる。 それに覚悟はとうに出来てるわ。 」
「そうかすまないな。 頼りにしてるぜ。 」
俺はそう言い残しその場を後にした。
「頼りにしてるわよ。 」
俺の去り際に、 スミレが何か言ったような気がしたが、 まあ気のせいだろう。
さてそろそろ俺の物語も、 ここいらが天王山になるだろうな。
誰1人犠牲出さずに出来ればいいのだが。
正直勝算もそこまで高くはない。
まあ何事も何が起きるか分からない。
「まあ失敗イコール死、 だと思うんだがね。 我ながらに博打だ。 せめて皆は無事に帰してやりたいな。 一応仕込んでおくか。 」
犠牲になるのは俺一人だけで十分だよな、 ラインハルト。
俺は必要になりそうな物を用意し、 眠りにつくことにした。
…………
そして遂にその時が来た。
遂に自称神を名乗る、 思い上がり女害を引きずり下ろす。
「さてまずは彼らを呼ぶか。 」
俺はシグルドを連れ庭に向かった。
「我が騎士たちよ、 その時が来た! 今こそ忠義を示し、 剣を捧げよ! ナイトフォール! 」
すると次々に騎士たちが現れてきた。
そしてマルコロットを筆頭に俺の前に膝まつく。
「マルコロット、 こちらのシグルドと共にこの街を守ってくれ。 シグルド、 彼らと協力し防衛戦を構築してくれ。 」
「カランコエ様! マルコロットと申されましたか! よもやあの高名な騎士殿が! 留守の間必ずや守りきってみせます! 」
「フフフフ我が主の命ならば、 必ずや成し遂げましょうぞ。 」
これで街はどうにか大丈夫だろう!
よしそろそろ出立の準備だ。
1度部屋に戻り必要なものを取りに行く。
「あれも持ったし、 これで大丈夫かな。 そうだ一応この剣持っていくか。 」
俺は前に呪いを解いたカラミティソードも、 持っていくことにした。
随分な装備になってきたな。
「さてそろそろ行こう、 皆集まってきてる頃だろう。 」
俺が街の門に向かうと皆、 既に集まっていた。
「おはよう皆。 今日はありがとう。 勝とう! 」
「えぇギャフンと言わせてやるわ! 」
「この世界の人々のため、 私達が彼女を正してみせます! 」
皆俄然やる気のようだ。
「カランコエ! 絶対帰ってきて! 」
突如ミドナが泣きながら俺にしがみついてきた。
「大丈夫だよ! 必ず帰る! 約束だ。 男に二言はない。 安心しろ。 」
「絶対だから! これ持って行って! 」
そう言うとミドナはお守りを俺にくれた。
「ありがとう! ミドナも無事でいろよ! そろそろ俺たちは行くからよ。 」
「頑張ってください! カランコエ様! 」
「カランコエ様必ず帰ってきてください! 」
「皆様どうかご無事で! 街は我々に任せてください! 」
街の皆が俺たちに声援を送ってくれている。
彼らのためにも頑張らなければ。
「ああ、 任せてくれ! みんなも無事でな! 俺たちの帰る街を、 頼んだぞ! じゃあ行ってくる! 」
俺はアネモネに目配せを送る。
アネモネが静かに頷くと、 プリメリアらに合図を送った。
白い翼が俺たちを静かに、 ゆっくり包み込んでいく。
閉じていく翼の隙間からみんなの顔を焼き付ける。
そして目の前が白い1色に変わっていった。
遂に決戦が始まるのか。
皆頑張ろう!
必ず勝利を掴むんだ!
…………
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