第18話 秘術

俺は早速貸してもらった日誌を読んでいた。

まさかあの男がこんなまめったいとはな。

意外な発見だ。

この日誌はどうやら、 ラインハルトが 魔王になってから、 つけられているようだ。

そこにはミドナのことや、 シグルド達のこと、 ラインハルトの心情などが書き綴られていた。

そして最後の方には俺の事についても書かれていた。

そして最後のページに、 ミドナの言っていたことであろう事が、 書かれていた。



「恐らくこのページが私が書く、 最後の手記になるだろう。 だが俺は後悔はない。 俺は彼なら真実に気づき、 呪縛から解放してくれる。 何故かそんな気がするんだ。 だから俺が死んだ後も彼のために、 何かしてやりたい。 そこで俺は考えた。 自分が何を残せるのかを。 正直現状では、 まともに戦えるのはシグルド、 ダリル、 後は魔法屋のねーちゃんくらいだと思う。 これでは戦力は心許ないだろう。 何せ敵は強大だ。 いくらシグルド達やあの坊主か強くても、 多勢に無勢。 そこでだ。 俺はここに、 代々古くから伝わる、 ある秘術を記したい。 それは先代達が長年をかけて編み出した、 最終手段である。 まずはこの屋敷にある、 賢者の間を見つけてみてくれ。 続きはそこでしょう。 最後になるがミドナ、 シグルド、 ダリル。 幸せにな。 俺は先に行ってるからよ。 すぐ来るんじゃねえぞ。 それとカランコエ。 坊主には悪い事をした。 でかい荷物を預けちまったな。 本当に申し訳ない。 だが魔王になる、 って言ってくれた時俺は、

嬉しかったよ。 皆を頼む。 」




そこで終わっていた。

心做しか最後の方は文字が掠れていた。

あのおっさん、 柄にも無いことを。

俺は知らない間に、 手を強く握っていた。



「賢者の間か。 この屋敷は大体見てるはずだが、 そんなとこあったか? うむ参ったな。 」



こういう時は。

俺は指笛を鳴らした。

定吉が目の前に現れた。



「定吉すまんな。 てか思ったより速いな。 定吉賢者の間って知らないよな? 」



「クゥーン 」



「だよなあ。 」



やはり知らないらしい。

うむどうしたものか。

この日誌の匂いを嗅がしてみるか。



「定吉、 この匂い追えるか? 」



定吉は俺が差し出した日誌を嗅いだ。



「ワン! 」



威勢よく吠えると、 定吉はどこかへ走り出した。

俺は追従する。

しばらく追いかけていると定吉は、 魔王の玉座の近くで止まった。



「ワンワン! 」



「ここに? しかしどこに? 」



特に変わったような所を無さそうだ。

仕掛けがあるとしたらこの椅子か?

ん?

この椅子意外に軽いな。

俺はとりあえず椅子をどけてみる。

次に気になるところ、 このマットか。

ひっぺがしてみよう。



「こ、 これは! 扉? こんな所に? 」



そこには重々しい扉があった。

そしてどこかで見たような紋章が描かれていた。

これは魔王の?

てことはここが当たりか?



「出来したぞ! 定吉、 どうやらここが件の部屋らしい。 よしこれをあげよう! 」



俺はジャーキーを定吉にあげた。

定吉は嬉しそうにジャーキーを咥えると、 どこかへ去っていった。



「さてとりあえず開けてみるか。 」



とても重い扉だ。

それに長年開けられてなかったのだろう。

妙な音と、 重々しい音が不協和音を奏でていた。

中はとても暗く、 陰湿な面持ちをこちらに向けていた。

だが何故だろう。

不思議と不安にはならない。

それに物凄いパワーを感じる。



「なんだろうこの感覚。 どこかで。 とりあえず進んでみるか。 」



俺は手に松明を生成し、 足元を照らしながらゆっくり歩を進める。

少し下っていくと広い空間に出たようだ。

そして何かに導かれるように、 真っ直ぐと進んでいく。

そしてまた少し歩くと、 突き当たりらしい所に着いた。



「なんだこれは。 ここにもあの紋章? 」



壁にも大きく例の紋章が描かれていたのだ。

俺は何気なく壁に手を当てた。

すると突如周りに青い炎が点々と灯り出した。

そしてどこからとも無く声が響いてきた。



「ほう、 ここに人が来るとは。 よもやこのような日が来ようとは。 」



「あ、 あんたは誰だ!? ここは何なんだ。 」



「我は第六天魔王、 マルコシアス。 3代目魔王である。 ここは賢者の間という。 我が来る日に備えこの聖域を作ったのだ。 来訪者よ、 うぬが求めるのはなんぞや? 」



「俺は、 この街を守る力が欲しい。 」



「うむ、 うぬの望みは分かった。 だが試練を受けてもらう。 それを見事合格出来れば、 うぬの望むものを与えよう。 良いかな? 」



「ああ! 望むところだ! 」



すると部屋の中央に、 何やら黒い炎のようなものが現れた。

そして炎が弾け飛ぶ。

そこには黒と赤の配色が施された、 鎧を着込んだ騎士がいた。

彼は頭をゆっくり上げる。

そして目が合う。

少し寒気を感じた。



奴は相当強い!

奴はどこからか武器を引き寄せ、 片手にそれぞれ握っていた。

あれは!

ツインブレード!?

奴はツインブレードを、 それぞれの手に握っていた。



「俺と同じ得物か。 面白い! 」



俺もセンチネルを握る。

空気が張詰める。



「準備は良いかな。 若人よ。 」



突如目の前の騎士が口にした。



「あんた話せるのか。 意外だよ。 あぁ準備オーケーだ。 」



彼は1度頷くと、 一気に距離を詰めてきた。

速い、 それに一撃が重いぞ!

そしてツインブレードの2つ持ち。

二刀流よりも手数が多い。

だがついていけない訳では無いな。

それに俺と同じ得物相手は初めてだ。

滾るじゃないか!



「フフフフ、 若人よ。 よく鍛錬しているようだ。 余の剣戟を受け止めるとは。 それにその剣。 余と同じ得物のようだな。 中々に面白い。 余を楽しませよ。 」



「あんたも中々にマニアックだね。 ツインブレードを二刀流でなんて。 お互い楽しもう! 」



1度お互いに距離をとる。

彼が剣を交互に振り回しながら、 こちらににじり寄ってくる。

俺は彼めがけて突きを放つ。



──ガキィーン──



甲高い音が鳴り響く。

彼は剣を交差させて受け止めていた。

何とか止めれたか。

彼に弾き飛ばされる。

素早く体制を整え、 彼がいるであろう場所を見る。

が彼はいない。



「なっ! どこだ!? はっ! 後ろか! 」



何とかセンチネルで後ろ受けをした。

ツインブレードの強みだな。

まあ相手も同じ得物なんだが。



「ほぉ、 いい動きよの。 だがその程度では負けん。 」



剣を打ち付けてくる。

何とか抑えているが、 流石にきつい。

彼はそのまま剣先を少しずつ、 俺に寄せてきている。

このままでは斬られる!

俺は息を整えタイミングを図る。

ここだ!

俺は彼の剣を受けている、 センチネルの刃をしまうと同時に下に潜り込む。

そしてそのまま、 彼の足を切りつける。



「何と、 よもや斯様な技を。 面白い! 」



「はぁはぁ、 あんたもやるね。 今ので仕留めたと思ったのにさ。 上手く躱してくれるよ。 」



今のでやれなかったのは大きな痛手だ。

彼の反応速度は目を見張るものがある。

何故俺が戦う相手は、 こんなにも強敵なのだろう。

やれやれここでもハードモードかよ。



お互いにまた距離をとり、 仕切り直す。

そろそろ決着か。

何故だろう、 そんな気がした。

息を整えより一層集中する。

お互いその瞬間を待ち、 睨み合う。

そして数秒沈黙が続き、 遂に時が来た。

お互い張り詰めた糸が切れたかのように、 一気に動き出した。



──キンキン、 ガキィーーーン──



「フフフフ、 よもや余の剣を弾き落とすとは。 天晴れ見事なり。 其処許の剣筋には1点の曇りもない。 其処許ならば託せるであろう。 サラバだ若人よ。 其処許の武運を祈っておる。 」



彼はそう言うと炎に包まれ、 消えていった。



「うぬの実力、 とくと見せてもらった。 よもや我の忠臣と、 あれほど戦えるとは。 我も認めざるを得ないようだ。 さあ受け取るが良い。 我が秘術を。 」



そうして声は聞こえなくなった。

そして目の前に石碑が突如現れた。



「我が試練を乗り越えしものよ。 ここに我が秘術を書き記す。 この術が諸君らの力になることを、 切に願う。 」



「これが秘術か。 早速唱えてみようかな。 なになに? 随分と長いし今までで1番呪文じみてるな。 」



俺はとりあえず書かれてる術式を一通り覚えた。



「|マル・ コア・ リムテラ・ ムーラ・ サド・ プロトコル《マルコシアスの名において兵達よ目覚めよ》 」



おぉ!

これは!

これは凄い!

これが秘術、 最終手段。

これなら行けるか!

部屋の中央にたくさんの兵士たちが、 次々に現れてきた。

まるで兵馬俑を見てるようだ。



兵士たちは様々な見た目であった。

顎骨のようなものから、 鎧の騎士、 中にはケンタウロスのような者もいた。

そして彼らの先頭に立つ騎士に目がいった。

おや彼は!



…………

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