第16話 不穏な予感


アネモネが俺の部屋に侵入してから、 さらに数日が経とうとしていた。

俺は色々な人の協力のお陰で、 色々出来ることが増えた。

中でも1番嬉しかったのは、 転移魔法を遂に使えるようになったことだ。

これで行った事がある場所なら、 いつでも行けるようになった。

しかもこの世界に存在してる転移魔法は、 消費魔力が多いのが欠点なのだが!

俺が身につけたものは、 どうやらそこまでの消費はしないのだ!

しかもこれは色々応用がいいのこともわかった。

いわゆる転移トラップ的な使い方もできるという事だ。

さらに消費魔力を抑えた、 戦闘向けの応用も今開発に目下取り組んでいる。

それが出来れば、 縮地以上に力強い味方となるだろう。

だがやはり、 この魔法を持ってしても、 神の住む所に到達するのは不可能みたいだった。

やはり大天使達の協力が必要不可欠になる。

アネモネらは大丈夫だろうか。

流石に不安にはなる。

彼女達になにかあれば、 振り出しに戻ってしまうしな。

何よりこうして同じ志の元、 手を取りあったんだ。

おいそれ死なれると寝覚めも悪い。

彼女らも大切な仲間なのだ。

向こうもそう思っていてくれれば良いがな。

俺がボーッと外を眺めてると、 突如窓から一本の光の矢が俺の頬を掠めた。

「あつ! なんだ急に! 」

矢は壁に綺麗に刺さっていた。

そして矢じりの方に手紙らしき物がついていた。

「矢文? 誰だ? 」

一応窓の外を見渡して見るが、 それらしい気配や人影はなかった。

俺は矢を引き抜き手紙を外した。

早速手紙を読むことにした。

「お久しぶりです、 カランコエ様。 アネモネです。 こちらの手筈が整いました。 明日この時間に、 前回お会いした場所でお待ちしております。 どうかよろしくお願いします。 ではその時まで。 」

どうやらアネモネかららしい。

とりあえずは無事そうで何よりだ。

明日、 前回会った場所で、 か。

あの森の近くか。

確かにあそこなら変な心配は要らなさそうだ。

だがしかし、 何故だろう。

妙な気持ちだ。

なにか嫌な予感がする。

言葉には出来ないが、 何故か気持ちが落ち着かない。

何も無ければいいがな。

こういう時だけ嫌な予感とかは当たるんだよな。

一応できる限りの準備はして置くべきか。

俺は明日に備え必要そうなものを用意した。

俺が支度を整えるのに半日近くも要してしまった。

「だいたいこれだけあれば何とかなるだろう。 後は明日になればわかる事だ。 もう日も落ちて来たし、 明日に備えて寝ることにしようか。 」

俺はベッドに横になった。

アネモネはどんな天使を連れきたのだろうか。

話の分かるやつならいいのだが。

変なやつでないことを祈ろう。

変なやつはもう勘弁だ。

不安は未だ晴れないが、 周到に準備したのが良かったのか、 少しだけ落ち着けた。

気が少し楽になったら瞼が重くなってきた。

何かあればその時に、 最善と思ったことをするだけだ。

…………

遂に今日か。

アネモネらと会うのは。

心の準備は出来ている。

嫌な予感はまだするが、 深く考えすぎか。

ガナビーオーケー!

きっと何とかできるさ。

ここでくたばる訳には行かないしな。

「さて準備をして出かけよう。 レディを待たせるのは性に合わんしな。 」

俺は早々に森の方へと向かうことにした。

「ふぅやっと着いた。 まだ誰もいないらしいな。 第三者もいなそうだな。 さてゆっくり待つとするか。 」

やはりこの辺の空気は他所とは違って美味しい。

うん?

そろそろだな。

俺の目の前にアネモネらが現れた。

「カランコエさん、 お待たせしました。 」

「んにゃ今来たばかりだよ。 それで後ろの2人が? 」

俺がそう言うと、 後ろの2人は軽く会釈をした。

「えぇこちらが、 光明のプリムラ。 」

アネモネにそう紹介された大人しそうな女性は、 深々とお辞儀をした。

「そしてこちらが、 純潔のプルメリアです。 」

そう紹介された如何にも気の弱そうな女性は、 アタフタしながらお辞儀をした。

この子が。

だがなんだろうこの感覚。

きっとこの子も被害者なんだろう。

「プリムラ、 プルメリアこちらの方がカランコエさんです。 彼が力を貸してくれます。 」

「アネモネ、 本当に大丈夫なの? 相手はあのアドミン様なのよ? 」

プルメリアが当たりをキョロキョロ見ながら聞いている。

その気持ちも分からんでもないがね。

「彼は信頼出来ます。 お互いに協力が必要なのです。 分かるでしょう? 」

「そ、 そうですね。 あなたがそこまで言うのなら。 」

「そうですわ! アネモネが信頼された御方。 それだけで信じるに値します。 むしろ気になるのは彼がこちらを信頼してくれるかどうか、 では? 」

「安心してくれ。 こちらも協力するつもりでここに来ている。 ただひとついいか? 」

「どうしました? カランコエさん。 」

「プルメリアさん、 だっけ? 君はどっちの味方なんだい? 」

先程からプルメリアは目が泳いでいて、 何かを恐れているようだった。

そして何よりあの女の気配を薄らと感じていた。

それに彼女が差していてる剣。

例の呪いの気配を僅かに感じる。

他の2人は全くそういった気配を感じない。

やれやれ感覚が鋭くなると疲れるな。

「な、 何を言ってるんですか? 一体なんの事やら。 」

どうやら思い当たる節があるようだ。

明らかにさっきより挙動不審だ。

どうやらビンゴか。

「やっぱりそういう事か。 あんたあいつに何か言われてるな? 」

「そ、 それは…… 」

口ごもっている。

これは確定だな。

この子が分かりやすくて助かる。

「やはりそうなんだな。 一体何をやつに言われたんだ? 」

「え、 えと、 それは……むぐぅ。 私はどうしたら。 」

どうやら悩んでいるようだ。

まあその気持ちはよく分かる。

寧ろ潔く決心するのは相当に勇気がいるだろう。

誰も彼女を責められない。

「無理に話さなくていいさ、 ただ君が本当にこちらの味方なのか、 それだけ確認したいんだ。 俺は本気でアドミンと戦うつもりでいる。 一手もしくじる訳にはいかない。 だからハッキリさせたい。 君が味方か、 敵か。 」

彼女は深く考え込んでいた。

「私はどうしたら、 分からない。 怖い! 」

「自分が正しいと思ったことをすればいいんだ。 別に俺たちに協力出来なくても責めはしない。 決めるのは君自身だ。 難しいかもしれないけど。 」

彼女はしばらく下を俯いて、 熟考していた。

アネモネやプリムラが傍に寄り添っていた。

恐らく仲がいいんだろうな。

しばらく待っていると、 どうやら決心がついたようだった。

「大丈夫かい? 」

「お見苦しいところをお見せしました。 決心がつきました。 私たちに力を貸してください。 」

「ありがとう。 こちらこそよろしく。 それで君はアドミンに何を言われたんだ? 」

「実はアドミン様より、 あなた方のスパイをするよう命令されました。 とても怖かった。 」

なるほどね。

そういう事か。

どうやらこちらの動きには勘づいているのか。

いや、 想定内なのかな?

「彼女は本当に恐ろしいのです。 底が知れません。 協力して手を考えねば。 だからぜひ力を貸してくだ…………えっ!? 」

彼女は突然手を剣に伸ばそうとしていた。

「どうしたの? プルメリア! 何をしてるの。 」

「もしかしてカランコエさん! これがあなたの言っていた! 」

やはりそうみたいだ。

彼女は何とかしようと、 もう片方の手で剣を握る手を抑えようとしていた。

どちらも物凄い力なのか、 手が揺れまくっている。

剣の擦れ合う音が不気味に響く。

「嫌だ、 なんで! 言うこと聞いてよ! 」

彼女の願いは虚しく、 剣は刀身をあらわにした。

そして勢いよく俺に突き刺して来た。

──グサッ──

鈍い音と共に左手に激痛が走る。

「あっ、 そんな私! そんなつもりじゃ。 」

彼女は剣から開放されたようで、 地面にそのまま座り込んだ。

「やれやれ、 この剣も可哀想だよな。 だがもう安心しな。 今解放してやる。 」

俺は剣の柄をしっかり握り、 引き抜く。

剣は俺の手から逃げようと暴れる。

それをしっかり抑える。

そして刀身を空いている手でなぞる。

次第に剣は静かになった。

そして剣から遂に、 禍々しいあの気は消え失せていた。

「全く何本哀れな剣を作れば気が済むんだか、 あの悪女は。 安心しな、 この剣はもう普通の剣だよ。 これもあの女から貰ったんだね? 」

「はい、 これを持っていけと。 まさかあんな力があるとは。 何やら不思議な力は感じていたのですが。 まさかこのような。 」

「そんなことよりカランコエさん、 手! 」

俺は自分の左手を見る。

思った以上に重症のようだ。

血がだらりと流れている。

「あぁ、 確かにこれは酷いな。 」

「プルメリアできる? 」

「え、 あっ、 そ、 そうだね。 今はそれどころじゃないよね。 カランコエ様少し見してください。 」

「? ああどうぞ? 」

彼女は俺の左手を掴み眺める。

「これなら大丈夫かも。 リカバリーオーラー。 」

彼女がそう唱えると、 暖かい光に左手が包まれた。

するとたちまち傷が塞がり、 何事も無かったかのように、 左手は元に戻っていた。

「おぉ! 凄いな! あんな酷い傷だったのに。 」

「プルメリアは回復魔法が得意なのです。 ありがとうプルメリア。 」

「お役に立てれて良かった。 」

彼女は泣き崩れてしまった。

「君は悪くないよ、 それに傷をこうして治してくれた。 ありがとう! 」

だがこうなれば猶予はそう無いかもしれないな。

アドミンもずっと俺たちを、 泳がしてるわけにも行かないだろう。

自分の手下の一部が、 裏切りを企てているのは薄ら気づいている模様。

「さて、 これからどうするんだ? 」

「そうですね、 こうなったのなら最早、 残された時間はそう無いかもしれませんね。 アドミンにどこまで気づかれてるのか。 彼女がいつ動くのかも分かりません。 これ以上なにかされる前にこちらから動くべきかと。 」

「うん、 俺もそれは思う。 なにか対策を取られても面倒だ。 早めに準備を整えて、 動きべきだな。 お前たちはこれからどうする? 流石に戻れないよな? 」

「そうですね。 もう私達が結託してるのはバレてるでしょうし。 どこかに潜伏をしなければ。 」

「そうだね。 恐らく私はバレてると思う。 アネモネやプリムラはバレてないかもだけど。 私と仲良いから疑われてはいると思う。 」

「そうね、 私達は戻らない方がいいかも。 他の天使達も私たちを監視してるらしいし。 」

3人が何やら相談をしていた。

「こほん、 それなら俺の街に来るか? そこなら多少は安全だと思うぞ? 」

「いいのですか? 」

「もし本当にいいのなら、 助かりますね。 」

「カランコエさん、 お願いしてもいいですか? 」

「ああ、 任せとけ。 その方が色々と好都合でもあるしな。 よしそうと決まればさっさと向かおう。 」

俺たちはとりあえず街に戻ることにした。

…………

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