第14話 ラインハルト

「ハアハアハアハア、 これが勇者の力。 私が負ける、 のか? ここで負ける訳にはいかない、 あいつを倒すまでは! あれをやるしか。 」

頭に声が響いてくる。

「もとより覚悟は出来てる! 今更、 何も恐れない! 」

ぐっ、 苦しい。

これが代償。

だけど力が溢れてくる。

これならきっと。

…………

これはサバトの記憶?

彼女に何があったんだ?

途中彼女がバケモンに変わったぞ?

「お、 おい今のは一体。 あれはお前なのか? 」

「見ていただけましたか? そう、 あれが魔王の真の力。 魔神化。 最終手段。 あなたは覚悟がありますか? 」

「今更後には引けないさ、 細かく教えてくれ。 」

「分かったわ、 魔神の力は手に入れたものに多大な影響を及ぼす。 その者の全ての能力を飛躍的にはね上げ、 その者が望めば更なる高みに連れてくれるでしょう。 しかし大いなる力には代償が伴います。 究極の力を求める者には、 それに伴う代償を与えられます。 」

「それは一体? 」

「それはその者にしか分かりません。 ですが、 どれも受け入れ難い物には変わりないの。 恐らくそれを受け入れた魔王は数少ないでしょう。 」

てことはやはりサバトは元魔王、 だがそれだと。

一体どういうことだ?

どこか懐かしい感じがしたと思っていたら、 魔王だったとはね。

「それではあなたに、 真の力を伝授したいと思います。 と言っても私がすることは少ないですが。 」

「分かった、 頼む。 」

「承知しました。 それではそちらに座ってください。 」

俺は言われるがままにする。

「それでは目を閉じて、 心の声に耳を傾けてください。 」

彼女はそう言うと俺の頭に手を置いた。

俺はゆっくり目を閉じる。

そして心の声が聞こえるのをじっくり待つ。

しばらく静寂の時が過ぎる。

すると何やら聞こえてきてるような気がした。

「……える? きこ、 ……えてる? ねぇ! 聞こえてるの? 」

だんだんハッキリしてきた。

何やら俺に呼び掛けてるのか?

俺は心の中で返答した。

「お前は誰だ? 」

「聞こえてるんだったら、 とっとと答えなさいよね! ふーんあんたが新しい魔王なの。 随分と弱そうね。 私の力が必要なの? そうなんでしょ? 」

何故か無性にムカつく。

こいつが魔神とかなのか?

「そうだが、 お前はなんだ? 」

「ふふん、 私はコロネ。 魔神よ! そんなことも知らないの? やーね最近の子は。 」

うはーうぜえ。

「へーそうなんだ。 」

「何よその態度は! もう力貸してあげない! 」

「あっいやそれは少し困るかも。 」

「じゃあ、 コロネ様お願いします、 力を貸してください。 と言いなさい。 」

めんどくせぇやつだな。

「コロネ様お願いします力を貸してください。 」

「むー心がこもってないけどいいわ、 契約成立ね。 ま、 せいぜい足掻きなさい。 」

彼女はそう言うと声が聞こえなくなり、 辺りの雰囲気が先程の雰囲気に戻っていた。

「なんだったんだあいつ。 」

「ふふふ、 どうやら気に入られたようですね。 あなたから魔神の力を感じます。 おめでとう、 これであなたも更なる高みへ目指せるでしょう。 」

「えっ、 これでいいのか? 」

「えぇ、 あとはいつも通り鍛錬をすればより物に出来ますよ。 」

随分と簡単なんだな。

なんと言うか拍子抜けだ。

だが確かに自分の力が以前より高まっているのを感じた。

「あたしのお陰なんだから感謝しなさい。 」

突然あの魔神の声が聞こえた。

えっ、 ちょくちょく何か言ってくるの?

最悪。

「何が最悪よ! 」

はぁ、 まあいいか。

ガナビーオーケー。

何とかなるか。

「そうそうカランコエ様、 おひとり、 あなたにお会いしたいという方がいるの。 少し待ってなさい。 」

そう言って彼女は木の裏に移動した。

すると木の影から今度は見知った顔が現れた。

そこには何とラインハルトが現れた。

「よ、 よう久しぶりだな坊主。 」

「おおおお、 おま、 ラインハルト! なんで! お前だって! 」

「ガッハッハッまあ落ち着けや。 お前も気づいているかも知れないが、 ここは不思議なエネルギーに満ちている。 ここならこうしていれるんだ。 まあ細かいことはサバトじゃないと分からないがな。 この空間を作ったのも奴だしな。 難しいことは俺にはわからん。 ガッハッハッ! まあこれが出来るのも1部のやつだけらしいがな。 」

「そうなのか、 霊体化みたいなもんか? 」

「さあな、 だがまた会えて良かった。 その、 あいつらは元気してるか? 」

「ああ、 何とかな。 」

「そうか、 良かった。 」

「それで俺に何か用なのか? 」

「いや特にねえな。 ガッハッハッ! 」

「ふぇ? なんだそりゃ。 」

「まあ良いじゃねえか、 そんなことよりどうだ、 1戦やらないか? 」

唐突!

確かにラインハルトとはやりあったことはないけど。

「急にどうしたよ、 まあ新しい力も試してみたいし良いけど。 」

「ガッハッハッよし来た! 行くぞ! 」

ラインハルトはそう言うと剣を構えた。

何たる覇気か!

実際にこうして見ると物凄い。

圧で押しつぶされそうになる。

だが俺も負けない!

俺もセンチネルを抜いた。

「ガッハッハッ、 坊主とはまだやったこと無かったな! こいつは楽しみだ! 」

「さあやろうや! ラインハルト! 」

俺とラインハルトは同時に斬りかかった。

──ガキィーーーン──

甲高い音が辺りに鳴り響く。

何だこの力は。

物凄い力で押し返される。

腰に力を入れ、 何とか踏ん張る。

これでほんとに俺は能力向上してるのか!?

「ガッハッハッ! 俺の剣を受けて立っているとはやるなあ。 」

「へ、 へ、 これくらいへっちゃらだよ! 死人のくせにやるじゃないか! 」

霊体とかでもここまでやれるのか。

サバトとはまた違った強さだ。

パワー系という感じか。

お互い一旦距離を離す。

ラインハルトが大きく上に構える。

来る!

大きい一撃だ!

俺は一気に距離を詰めた。

ラインハルトはそれに合わせて、 剣を振り下ろす。

姿勢を低くし俺は、 センチネルを地面に突き刺した。

甲高い音がまた鳴り響く。

「な! これは! 」

センチネルの剣先が、 ラインハルトの剣をしっかり受け止めていた。

そして俺は柄をしっかり掴み、 遠心力を乗せて回し蹴りを放った。

当たった!

と思った瞬間、 ラインハルトに足を掴まれた。

「な! まさか! そんな! 」

ラインハルトはニヤリと笑うと、 俺を真上にぶん投げた。

俺は空高くはねあげられる。

クソ!

ここまでのもんなのか。

ラインハルト、 お前ってやつは!

居ない!

下にいるはずのやつが。

まさか!

体を捻り上を見る。

ラインハルトが剣を振り下ろす直前だった。

間に合え!

俺はセンチネルで弾いた!

地面に叩き落とされる。

「ぐっ! エアリアルクッション。 」

俺は下に向けて風魔法を放った。

「ほほうやるな! 衝撃を逃がしたか! それにその反応速度、 適応力! やはり俺の目に狂いはなかった! 」

「やられっぱなしだけどな。 ててて、 たく規格外だな。 」

力比べになればこっちは不利だ。

スピードで勝負するんだ。

深呼吸で整え一気に距離を詰める。

あれ?

思った以上に速いぞ?

ラインハルトのせいでイマイチ実感湧かなかったのだが、 確かに能力は向上してるのか?

慣れるまでは苦労しそうだ。

だがこの速さなら!

俺はラインハルトの後ろに一気に回り込み、 打ち込む。

振りをし、 すぐさま側面に回り込む。

そして打ち込む。

「うお! 速いな! 流石にこれは。 」

素早さを活かし、 絶え間なく打ち込む。

ラインハルトは何とか凌いでいた。

「ぐお、 これはきついぞ! いかんな、 これでは。 ふむ、 アクセラレーション。 」

ラインハルトの動きが急に速くなった!

あれか、 サバトもやってたな。

やつも使えるのか。

ぐっ、 速いな。

これではこっちがジリ貧になってくるな。

ツインブレードでは相性が悪いか?

敢えて片刃でやるべきか?

いや!

手数を減らす訳には行かないな!

気合いで乗り切るぞ!

使える手を上手く使って何とかするんだ。

残像や縮地を上手く使い、 相手を欺け!

篭手や足のブレードも織り交ぜろ!

型にない動きをするんだ!

「ガッハッハッ! いい面構えだ! 嫌いじゃないぜ。 もっと坊主の力見せてくれ! 」

ラインハルトはそう言うと剣を構え直した。

俺はセンチネルを、 ラインハルトに目掛けて投げた。

そして直後にラインハルトの側面に回り込む。

ラインハルトはセンチネルを上に弾いていた。

そして読んでいたのか、 俺を見てニヤけた。

ラインハルトが物凄い勢いで剣を振りかざしてきた。

俺はアサシンブレードで受け止める。

ぐっ!

重い!

だがこの位置、 完璧だ!

「やっぱり面白いなあ! こんなに楽しいのは久しぶりよ! 」

「もっと楽しませてやるよ! ラインハルトのおっさん! リリース・センチネル! 」

空中で回転をしていたセンチネルは、 俺の叫びと共に回転を増してこちらに戻ってくる。

ラインハルトは何かを察したように上を見る。

ラインハルトはサッと距離を取った。

目の前に来たセンチネルを掴む。

「やるじゃねえか! 危うくやられかけたぜ。 面白い戦い方をしやがるぜ。 」

「全くあんたも元気なもんだよ。 死人のくせにさ。 」

全くとんでもないおっさんだよ。

「そろそろ終いだ! 覚悟はいいなカランコエ! 」

「お前もなラインハルト! 」

お互いに剣を構え直し、 睨み合う。

暫し静寂の時が過ぎる。

そしてその時がきた。

お互い同時に斬り掛かる。

──ガギィーーーーン──

甲高い音が辺りに鳴り響く。

「はあはあ、 まさかあの坊主がここまで成長しているとは。 俺は嬉しいよ、 お前ならきっと成し遂げれるさ! 」

ラインハルトは自分の剣を見つめながら言った。

折れた剣先を見つめながら。

「全くあんたがここまで強いとはね。 だけどいい息抜きにはなったな。 」

「ミドナや皆のこと頼んだぞ。 またな坊主。 」

ラインハルトはそう言うと、 満足気な顔をして消えていった。

「先に待ってろよ、 必ず成し遂げてやるよ。 」

「うふふ、 ラインハルトも相変わらずね。 」

すると木の影からサバトが再び出てきた。

「そう言えばラインハルトとはどういう関係なんだ? 」

「うーん関係と言われても、 私は彼の前の世代の魔王。 ただそれだけの事です。 」

「そうなんだ、 知らなかったな。 ふふ、 あの人は多くを語らないですからね。 どうやら魔神の力を使いこなしているみたいですね。 これからも精進してくださいね。 あなたのこの先、 楽しみにしてますわ。 」

彼女はにこやかに笑うと静かに消えていった。

「なんだったんだこれは。 だがいい経験が出来たかな。 」

俺がボーッと木を眺めていると、 雰囲気が元に戻っていた。

どうやらあの空間から戻されたようだ。

ミドナとかラインハルトに会いたいだろうな。

いつか会わせてやりたいな。

ふう流石に疲れたな。

少しゆっくり休んでから戻ろうと。

だがこの魔神化と言うやつ。

この力を解放した時、 どんな代償が待っているのだろうか。

この力使わないで済めばいいのだが。

その時が来れば分かることか。

全くここに来てから不思議続きだな。

流石に慣れてきたのだが。

全くこの先どうなることやら。

先が思いやられる。

「全く今からそんな弱気でどうするんだか! これだから貧弱な人間は。 」

突然魔神の声がした。

「おいおい貧弱とは失礼な。 これでも頑張ってるんだぜ? 」

「どうだか。 ま、 私には関係ないけどね! せいぜい見届けてあげる。 」

全くこいつもなんなんだろうな。

だがこいつの力は絶対必要になりそうだな。

「一応頼むぜ、 魔神様。 」

「勝手にしなさい。 」

するとまた静寂が戻った。

俺は自然に囲まれたこの場所で、 しばらく目を瞑り無心になることにした。

……

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