第13話 真の力
「ふふふ、 私の想像以上の力です。 こんなにも充実した戦いはいつ以来かしら。 では気分を変えましょうか。 深淵よりいでよ、 混沌の支配者アペプ! 我が呼び声に応え、 降臨せよ! セベク! 」
彼女がそう叫ぶと、 彼女の前に大きなローブを着込んだ骸骨と、 大きな白いワニが現れた。
「召喚か、 なんて高位の召喚魔物なんだ。 とんでもないなあんたは。 俺も全力をもって返そう。 ハーベスト・ジャック、 狩りの時間だ! 」
俺はカボチャ頭の死神を呼び出した。
「力を貸してくれ! 酔いどれジジイ、
俺は式札に魔力を込め、 目の前に投げた。
激しい轟雷と共に、 顔を赤らめた爺さんが現れた。
「これはまた奇怪な。 そのお爺様は召喚魔物とは違うのですね。 興味深いです。 そんな術がなるなんて。 あなたは私を何度驚かせてくれるのかしら。 」
「そういうあんたこそ、 とんでもない奴呼び出せるんだな。 お見逸れしたよ。 」
「この子達は、 私が呼び出せる子達の中でも1番力を持ってる子。 全力をもって御相手しないと失礼ですからね。 アベブ、 セペク目にものを見せて差し上げなさい! 」
「ジャック、 爺さん俺達も行くぞ! タイム・オブ・ハンティング! 」
お互いの使い魔が衝突する。
その間も彼女は魔法を俺に放つ。
俺もやられっぱなしとはいかない。
「センチネル、 お前と俺の魔法を信じるぞ! リフレクターエフェクト! 」
彼女の魔法をギリギリまで引きつける。
そして当たる寸前、 俺は剣で魔法を弾き返した。
魔法は彼女の右後方を掠めていった。
「今私の魔法を跳ね返した? そんなことが出来るなんて、 なんて面白いのかしら! 今までにこんなにも楽しいと思ったことはないわ! そうよ! もっと、 もっとあなたの力を見せて! 」
何やら彼女は興奮しているようだった。
先程から目がギラギラしてきている。
余程ストレスか鬱憤やらが溜まっていたのだろうか。
「あんた剣とかでは戦わないのか? あんたの魔力は、 とんでもないって事は分かったが。 あんたは魔法だけなのか? 俺もあんたの全てを見たい。 」
「そうですね、 そろそろ良いでしょう。 行きますよ! 」
彼女はそう言うと、 一瞬で俺の前まで距離を詰めてきた。
は、 速い!
しかし彼女の手には得物が握られていない。
もしかしてステゴロスタイルか?
そしてお互いの間合いに近づいた時、 突然彼女の両手が消えた。
かと思うと彼女の両手は鋭利な物に変わっていた。
そうまるで剣のように。
「何! 形状変化!? そんなことって。 」
右下から彼女の剣が襲ってくる。
俺はセンチネルでそれを凌いだ。
かと思うと今度は左上からも。
ぐっ、 速い!
シグルド以上の剣筋、 スピードも力も段違いだ!
だが俺にもまだ手はある!
俺は左手のアサシンブレードで間一髪、 凌ぐことに成功した。
「うふふふ、 素晴らしいわ! 私の動きに着いてこれるなんて! それに面白い武器を使うのね。 どれも見た事ない! その剣もさっきは普通の片手剣かと思ったら、 もう片側にも刃が。 そして篭手に隠された仕込みナイフ! ゾクゾクするわ! 」
「あんたのそれも相当ゾクゾクするよ、 どうなってんだその手は。 それも魔法でやってるのか? 」
「よく分かったわね、 まあここまで魔素を操るのは、 相当難しいのだけれどもね。 あなたなら出来るかもね。 でも今は、 目の前のことに集中しないとね。 」
すると彼女は回し蹴りを放った。
そして俺は彼女の体で隠れ足に一瞬目を取られた。
綺麗な足だからでは無い!
いや綺麗なのは確かなのだが、 足は隠れる寸前、 手と同様に剣のようなものに変わっていたのだ。
それを見逃さなかった俺は、 センチネルで弾いた。
「あぶ! おま! 足もかよ! 見落としてたらそのままガードするとこだったぞ! 」
「素晴らしい反応、 今のは私はいけた、 と思ってしまったわ。 」
この女とんでもねえ!
形状変化を易々と瞬間的にやれるなんて。
だが女に一方的にやられて黙ってるほど、 俺は落ちぶれちゃいねえ!
俺は彼女に蹴りを何度か繰り出した。
ことごとく躱される。
そして連撃の最後に回し蹴りを放った。
もちろんブーツに仕込まれてるブレードを起動して。
そして彼女が避ける寸前、 驚きに目を見開いていた。
だが剣先は僅かに彼女の髪を切り落とし、 空を切った。
「足にもそんなもの仕込んでいたのね。 これは誤算だったわ。 」
「まあ案の定避けられてしまったがな。 だが負けるもんか! 」
俺と彼女は何度も剣をぶつけあった。
彼女の動きに着いていくのはとても疲れる。
俺も縮地を使えるほどには成長しているが、 それでも僅かに彼女の方が速いのだ。
剣筋も何とかギリギリ見えてるようなもんだ。
少しは慣れて何とか対応出来てるんだが。
「うふふふ私の動きにここまで着いてくるとは、 驚きです。 正直侮ってましたわ。 でもこれならどうかしら。 アクセラレーション! 」
彼女が何やら唱えると、 先程とは比べ物にならないくらいに動きが速くなった。
「まだそんな手を隠してたのか。 こればっかりは厳しいなあ、 速すぎる。 」
「驚いて頂けて光栄です。 さあもっと楽しませてください! 」
彼女の高速の剣がどんどん襲いかかる。
捌ききれない。
少しずつ、 少しずつ対応出来なくなってくる。
最早ここまでなのか。
だがベストを尽くすまで!
とにかく俺は彼女の動きに無理やり食いついた。
だが彼女は俺の剣に慣れてきたのか、 動きに余裕が見られてきた。
こっちは余裕が無い。
そして遂に俺は、 彼女の猛撃を凌ぎきれず、 地面に叩き落とされてしまった。
痛い!
地面に叩きつけられた衝撃が体に響く。
霞む目で真っ直ぐ見据えた。
彼女が拳を突き出し、 こちらに向かってきていた。
流石に拳とはいえ、 あの高さ、 スピードの攻撃を受ければ体はもたんだろ。
「残念です、 もう少し楽しみたかったのですが。 」
彼女がそう嘆いていた。
「もう勝ったつもりか? ぐ、 やれやれ。 」
──ドゴォォォン──
轟音が鳴り響く。
彼女が突き出した拳は地面をえぐっていた。
「これで終いですね。 」
「ヒュー! 流石にあんなの受けたら一溜りもないなあ。 」
「なっ! 何故そこに! 確かにこの手で、 そんな! 」
彼女は地面を2度見した。
「何故! 確かに! 手応えはあったのに、 地面に倒れてるはずのあなたがそこに! 」
彼女は驚きを隠せないようだ。
「あんたがやったと思ってたのは、 俺がすんでで作り出したデコイだよ。 俺はギリギリの所であの場所から偽物を作り、 攻撃を逃れたって訳。 いやー実に危なかった。 」
「偽物、 だと。 よもやそんな芸当が出来るとは。 」
「正直ギリギリだったけどね。 バレない保証は無いしな。 」
「あなたはつくづく推し量れない人ね。 私の子達もあなたの使い魔に苦戦してるようね。 珍しいわ、 あの子達があそこまで苦戦する姿は。 」
俺も彼らの方へ目を向ける。
確かに彼らも互角以上の戦いをしているようだった。
流石ジャック、 爺さん。
彼らの持つ力は正直未知数だ。
召喚主である俺でも分からない。
爺さんは酒を飲めば飲むほど強くなる。
ジャックに関しては分からなすぎるのだ。
2人とも俺に過ぎたる力を持ってるように思える。
だが何故か俺に従ってくれる。
不思議なものだ。
「彼らはあなたを信頼してるのですね、 あなたも同様に。 」
「どうだろうな、 俺には過ぎたる力だよ。 あんたの方こそ立派な使い魔だな。 」
「彼らとは苦楽を共にした時間が長いですからね。 だからこそ、 あそこまでの姿を見たのは実に久しい。 いいものを見せてもらいましたよ、 本当に。 良いでしょうあなたの力、 存分に見せて頂きました。 流石に私も疲れました。 ここまでにしましょう。 」
「そうだな、 あんたには何しても勝てる気がしないや。 そうしてくれると助かる。 」
「アベブ、 セぺク。 お疲れ様、 ゆっくり休んで。 」
「ジャック、 爺さんよくやってくれた。 ありがとうな、 助かった! 」
2人は静かに頷くと消えていった。
彼女の使い魔達もいなくなっていた。
俺は疲れがどっと来たのか、 腰から地面に座り込んだ。
随分派手にやり合った。
その筈なのに周りを見ると、 へこんでいた地面とか、 魔法で焦げた木とかが元に戻っていた。
「ここのエネルギーは偉大ですわ。 あの程度の傷ならたちまち治癒してしまいます。 さあこれを。 」
そう言うと彼女はマグカップを差し出した。
「ありがとう、 これは? 」
「ココオ、 ですわ。 疲れが飛びますよ。 」
そう言って彼女は、 彼女が持っていたマグカップに口をつけ1口飲んだ。
ココオ?
ココアみたいなものかな。
「い、 いただきます。 」
ゴク。
美味い、 ほんのり甘くて美味しい。
ココアみたいな味わいだ。
口溶けもいい。
何より疲れがじわじわと取れて行くような気がする。
「美味しいな! これ。 」
「そう言って頂けると幸いです。 」
「なあサバトさんよ、 それで俺に何の用だったんだ? 」
結局サバトは、 なんのために俺を打ちのめしたのか、 分からなかった。
「これは失礼。 遂目的を忘れていました。 カランコエ様は今のご自分に限界があると、 そうは思っていませんか? 」
「確かにあんたと戦ってより一層感じたよ。 このままじゃいけないって。 」
「えぇその通りです。 カランコエ様は十分お強いですが、 まだ足りません。 かの者を倒すには。 今以上の力、 魔王の真の力を手にしなければ勝てません。 」
魔王の真の力?
この人は何を知ってるんだ?
一体何者なんだ。
「それを私ができる限りお教えしたいと、 そう思ってます。 」
「うむなるほどな。 でもなんであんたはそんな事を知ってるんだ? 」
「ふふふ、 それは時が来ればお教えしても良いかなと。 カランコエ様は覚悟はお有りですか? 強大な力はそのものを孤独にします。 その覚悟が。 」
孤独、 か。
俺にはそんなこと、 どうってことは無い。
もとより俺は孤独に生きてきた。
この世界に来て少しは孤独から解放された気もするが、 孤独なんて怖くない。
今更ビビる必要も無いかもな。
「孤独か、 むしろ歓迎だ。 頼む教えてくれ。 」
「分かったわ。 その覚悟、 しかと。 ではこれよりあなたに魔王の全てを授けます。 」
そう言うと彼女は俺の額に手を当てた。
何をする気だ?
すると突然頭の中に色々な映像が流れた。
「こ、 これは! 一体。 」
…………
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