第12話 サバト

…………

あれから数日経った。

最近ふと疑問に思うのが、 アネモネらの神に仕える天使たちにも、 勇者達と同じような呪いがかけられているのだろうか。

あの神のことだ、 なんかしらの手を加えているには違いないと思うのだが。

とにかく俺が神に対抗するには、 彼女ら天使達の力が必要不可欠になるだろう。

どうにかしてコンタクトを取らなければな。

まあそんな方法なんて聞いた事も、 想像もつかないのだが。

流石に勇者でも、 そんな方法は知らないらしい。

手詰まりだな。

「ふぅ少し思慮を巡らせすぎたな。 疲れた、 少し外の空気を吸いに行くかな。 そうだ最近あの森に足を運んでなかったな。 そこに行こう、 あいつにも会いたいし。 」

俺は最近、 あの森に行ってなかったことを思い出したのだ。

魔法や剣の鍛錬をこっそりしていた森。

空気も美味しく、 何より心が安らぐ場所。

もう1つの俺の住処。

あの森に。

そうだ、 森に行こう!

俺は早速出かける支度をした。

俺は誰にも見られないように、 こっそりこっそり。

それはもう怪しいほどに、 こっそり街を後にした。

「この道を通るのも久しいな。 相変わらず劣悪な道だ。 こんな所通ろうとするやつなんてそうそういない。 」

俺はあの森を見つけた日のことを、 ポツポツと思い出していた。

そうあの日も、 今みたいに考えることに疲れてフラフラしていた時だった。

俺はこの世界に来てから、 外を歩くのが楽しくて仕方なかった。

今までアニメや映画とかの世界でしか見たことの無い景色、 そして自分が妄想した世界。

それが今目の前にある、 夢でも構わない。

ただ自分が1度は憧れた世界に、 今居るのだ。

それだけで胸が高まったものだった。

元々探検とか、 見たことの無い道とかに興味を持つ質だった。

今まで見たことの無い道とかを見つけると、 冒険心がくすぐられるのだ。

そしてこの世界だと、 見る物全てに目が引かれる。

俺があの森を見つけたのは本当に偶然だった。

俺は街を出て少しブラブラしていた時、 周りの道と比べるとどう見ても整備のされてない、 人が通らなさそうな道を見つけたのだ。

その時俺はこう思った。

この先に何か面白いものがあるかもしれない。

俺は躊躇せずその道を進むことにした。

俺はしばらく歩いて疑問に思った。

いかにも魔物とかが出てきてもおかしくない道なのに、 いっこうにそのような気配を感じない。

入る前は不気味さすら感じたのに、 こうして歩いてみると何故か落ち着くのだ。

そうした変な違和感を感じながら進んでいくと、 少し歩いた所で俺は目を奪われた。

道の先は行き止まりになっていたのだ。

しかし何故かまだ何かあるような、 そんな感じがしていた。

なんだろう、 壁から僅かに空気が漏れ出してきている?

俺は他の壁とは少し、 雰囲気が違う壁に近づいた。

やはりここからか。

地面を少し見てみると何かが擦ったあとがあった。

この模様、 もしかして。

俺は壁に手を添える。

おっ、 なんか動きそう。

俺は手に力を込め壁を押してみた。

──ゴゴゴゴゴ──

壁は音を立て動き出した。

まるでどんでん返しだな。

俺は思い切って中に入ってみた。

壁が元に戻ると真っ暗になるかと思ったが、 何やら奥の方から光が射し込んでいて、 見えないほどではなかった。

中は洞窟のような細い空間が広がっていた。

道は真っ直ぐ光の方へと続いている。

俺は壁に手を添えながらゆっくり進んだ。

少し進むと、 光が先程よりも強く差し込んできた。

どうやら出口が近くなってきたようだ。

それにこの香り、 なんだろう不思議だ。

何やら森、 のような自然の香りがほのかに風に乗ってきている。

不思議と落ち着く香りだ。

眩しい、 どうやら外に出たみたいだ。

しばらく眩しさに目を細める。

そして目が慣れ、 次第に目の前の風景が鮮明になってくる。

そこにはとても綺麗な森が広がっていた。

神秘的で今までに見たことの無い森だ。

見た目はただの森のようなんだが、 雰囲気が圧倒的に違う。

自然のエネルギーに満ち溢れている。

ここにいると何故だか、 日頃の疲れとかが吹き飛ぶようだ。

空気が美味しい。

こういう所にログハウスとか建てて晩年は暮らしたいものだ。

俺はこの森を少し歩いてみることにした。

しばらく歩いてみて分かったことは、 まずこの森はそんなに広くないらしい。

そして真ん中に少し開けた場所があった。

近くにこれまた綺麗な泉が湧いていた。

この泉もまた、 今までに見たことの無いくらいに澄んでいた。

まるで鏡を見てるようだった。

そして一際大きな木がそこにはあった。

俺は引き寄せられるように木に近づく。

とてもおおきな木だ。

木をぐるりと回ってみる。

ふと木の幹に何やら文字が刻まれてるのを見つけた。

「この森を見つけた者へ、 私からのメッセージを残す。 よくこの場所を見つけたな、 君はきっと私と似た者通しなのだろう。 君がこのメッセージを見た時には私は居ないだろう。 だから同志に会えないことが悲しい。 だから私はこのメッセージを残すことにする。 私はこの場所をすごく気に入ってる。 この場所は、 この世界には全く見られないほど神秘的な場所なのだ。 生命エネルギーに溢れている。 ここにいるだけで日頃の疲れや、 煩わしさから解放されるだろう。 ぜひこの場所を有効に活用してくれたまえ。 p.sこの場所はくれぐれも内密に。 と言ってもこの場所は限られた人間でしか入れないのだがな、 はっはっはっ。 」

とあった。

限られた人間しか入れない?

それはどんな人間なんだろうか。

俺を同志と言ってたな。

好奇心旺盛なお子ちゃまだからか?

だがこの場所、 有難く使わせてもらおう。

そうして俺はこの場所に、 ことある事に こっそり遊びに来ていた。

「最近来れてなかったからな。 やはりリフレッシュは大事だよな。 」

俺はあの大木と泉がある場所に来ていた。

俺は泉を覗き込んだ。

当時と変わらずその美しさを保っていた。

相変わらず見とれてしまう透き通った水だ。

そして俺は大木に近寄る。

また少し大きくなった、 ような気がした。

こいつ成長しているのか?

まだ大きくなるのか。

俺は大木をぐるりと回る。

あのメッセージがあった場所で立ち止まる。

「おっまだあるのかこれ。 あれ? 」

どうやらあのメッセージはまだ残っていた。

のだが、 何やら違和感を感じる。

前と内容が変わってる?

しかしどういう事だ?

とりあえず読んでみるとしよう。

「やあ同志、 これを読んでるということはまたここに来てくれたのだね。 どうやら君はこの世界の隠された真実に近づいているようだ。 君にはこれから、 今まで以上の困難が待ち侘びている事だろう。 君は確かに強い、 だが今のままでは恐らく。 そこで私から贈り物だ。 この大木に手を触れ、 こう唱えるのです。 ホップスコッチ、 と。 さすれば道は開かれる。 幸運を。 p.s私はそこで待っているよ。 」

こいつは一体何者なんだ。

何故そこまで知っている、 そして何をしようとしているのだ。

いいだろうその誘い、 受けた。

俺は大木に手をあてがい、 合言葉を唱えた。

「オープンセサミ。 」

何も起きない。

「ですよね。 お巫山戯はこのくらいにして、 改めて。 ホップスコッチ! 」

あれ何も起きない?

一瞬変な違和感を感じたのだが、 特に他には気にならない。

いや俺の位置が変わってる?

さっきまで大木の前にいたのに。

今は泉の前に立ち、 大木を見つめていた。

おや?

木の根元に誰かいる。

俺はその人にゆっくり近寄る。

「ようこそカランコエ。 遂にこの時が来たのですね。 遂にここまで近づいたものが現れるとは。 不思議なものですね、 あなたとは初めてお会いするのに、 前にも会ったような気もしますわ。 」

そう言ってその人はこちらへ振り返った。

とても綺麗な女性だった。

「ここはさっきの森と違うのか? 見た目は全く同じだが雰囲気が違う気がする。 」

見た目はほんとに変わらないんだが、 周囲の雰囲気や香りとかがあの森とは何かが違う。

そんな感じがするのだ。

「ふふふ、 やはりあなたはただ者ではないよう。 彼が気に入るわけだわ。 ええ、 ここは先程あなたがいた庭園とは違うわ。 まあ、 あの庭園をイメージして作った別空間、 と認識してもらえれば相違ないわ。 」

別空間、 どうしてそんなものが。

それにこの人は一体。

「あ、 あのあなたは一体。 」

「これは失礼。 名乗るのが遅れてしまいましたわ。 私はサバト、 あなたの同志です。 」

その同志ってのはどういう事だ?

「同志ってのはどういう事だ? 」

「ふふふ今はそんなこと、 どうでもいい事よ。 あなたにはこれから多くの苦難が待っていることでしょう。 それに備えないといけません。 」

確かに俺はこの先、 たくさんの苦難があることは予想出来ていた。

そして今の俺では恐らく途中でへばるだろう。

そこまで知ってるのか。

神の刺客か?

いや違う、 彼女は少なくともそれは無い。

信じてみるか。

とりあえず話だけでも聞いてみるか。

「それで俺に何をするんだ? 」

「ふふふ、 それは見てれば分かりますよ。 」

彼女はそう言って不敵に笑うと、 手をかざした。

なんだ何をする気だ?

俺が眺めてると、 ふと彼女の口が少し動いたかと思うと彼女の手から炎が放たれた。

速い!

今までに見た事ないくらい速い!

間に合うか?

俺はセンチネルが間に合わないと察し、 アサシンブレードを出した。

「我が剣よ! 災厄を振り払う剣となれ! 断魔剣アンチマテリアルブレード

アサシンブレードに素早く魔法を纏わせた。

飛来する炎の魔法を素早く切り裂いた。

良かった、 この魔法まだ実戦では試したこと無かったから。

どうやら成功みたいだ。

「なるほどなるほど。 素晴らしい。 これ程までの力を持っているとは。 見ないうちにより強くなってますね。 」

「おいおい! 一体なんのつもりだ! 危ねぇじゃないか。 」

「申し訳ありません。 あなたを試して見たのです。 ですがそうですね。 このままあなたと1戦交えたくなりました。 よし、 このまま続けましょう。 」

彼女はそう言って微笑んだ。

彼女は今まで対峙した奴よりも、 飛び抜けて強い。

さっきの一手でそれは明らかだ。

それに彼女が今放ってるオーラはとてつもない。

だが何故だろう、 俺はこのオーラを知ってる?

「殺しはしないよな? 」

「もちろんですわ。 あなたに死なれる訳にはいきませんわ。 死なない程度にやりますので、 どうかあなたも頑張ってくださいね。 」

うはー可愛い笑顔でえぐいこと言うな。

「わかったよ、 俺もうっかり殺さないように気をつけるよ。 」

「それは楽しみです。 それでは、 始めましょうか! 」

彼女から先程とは比べ物にならない程の、 オーラを感じる。

恐らくこれでまだ本気ではないな。

「さあ! あなたの本気を見せてください。 」

俺はセンチネルを腰から抜き出した。

「言われなくてもありとあらゆる手を使ってやるさ! 」

俺たちはお互い出方を観察していた。

そしてそれは同時だった。

「モメンタムディストピア。 」

「至高の輝き。 」

彼女の闇魔法のようなものと、 俺の聖魔法がぶつかり合う。

この場所に不釣り合いな轟音と、 光が辺り一面に広がる。

そしてお互い力尽きたかのように、 砕け散った。

「やりますね。 でもまだまだ始まったばかり。 楽しみましょう! 」

彼女は本当に楽しそうだった。

何故か俺も楽しかった。

単純な殺し合いでなく、 お互いの技を確かめるような。

まるでライバルと戦ってるような気分だ。

いやそんな経験はないのだが。

彼女がまた何か詠唱をしようとしていた。

俺も対抗する。

この戦い長くなりそうだ。

…………

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