第11話 カラミティソード

…………

日記を読んでから数日経った。

一応あの魔術を身につけた訳だが、 1つ問題がある。

あの魔術は完成してないのだ。

いや完成はしているが、 今のままでは使えないのだ。

いや使う訳には行かないと言うべきか。

これは俺の仮説でしかないのだが。

恐らく今のままあの魔術を使えば、 きっと神が気づくのではなかろうか、 と危惧してる。

そこで俺は、 この魔術に改良を加えようと企てている。

ただこれがなかなかに難しいのだ。

これは偽装魔法が得意な人の力が、 必要になるかもな。

うーん身近にそんな人いたかな。

俺はふと机に目をやる。

あっそうだこの日記、 魔法屋に返さないと。

ずっと借りてる訳にも行かないし、 ついでに偽装魔法について聞いてみるか。

何か知ってるかもだし。

日記の内容は全部頭に入ってしまったし。

必要なことも、 どうでもいいことも。

早速俺は魔法屋に足を運んだ。

その道中、 広場で若者たちが何やら会話をしていた。

「なあなあ、 魔法屋のミーネさんてさ、 本当に可愛いよなあ! 」

「だよなあ! この街ではなかなか見られないくらい、 美人だ。 それに胸もでかい! 」

「だな! あれでまだ独身らしいな。 あー意中の人いないのかな。 」

こいつらこんな往来で、 良く恥ずかしげもなくそんな会話出来るわ。

う?

待てよ?

魔法屋の姉さんって、 胸そんなにでかくなくね?

俺は元々貧乳派だが、 あいつらは俺よりも貧乳好きなのか?

ううむ、 彼らとは気が合いそうだ。

──カランカラン──

「ちわ! 姉さんいるかい? 」

俺は魔法屋に入ると声をかけた。

「カランコエ様いらっしゃい! 今日はどうしたの? 」

奥から彼女がひょこ、 と顔を出した。

あれなんかいつもと雰囲気が違う。

何が違う?

髪型、 いつもは長い髪をまっすぐおろしているが、 今日はポニーテールにしていた。

珍しいな。

それにまだ何かが違う。

俺は視線を少し下げる。

胸、 でか!

あれこんな大きかったか?

俺の記憶ではこんなにたわわに実ってなかったはず!

俺が驚いた顔をすると、

「どう? 」

と、 彼女は俺の顔を覗き込んだ。

「あ、 どうって、 え、 あっ今日はポニーテールなんだね。 に、 似合ってると思うよ。 うん。 」

彼女は少しムッとした。

あれ違った?

「今回も失敗かな。 」

彼女がボソッと呟いた。

俺はあまりにもの違和感につい聞いてしまった。

「あのさ、 その、 そんなに大きかったけ? 」

俺が恐る恐る聞くと、

「なんだ! 気づいてたのね! 早く言ってよ! 要らない心配しちゃった。 」

「そのさっきから言ってる失敗とか何とかって、 何? 」

「うーん、 この際もういいか。 実はこれ偽装魔法を使ってるの! あなたってもっと大きいのが好きなのかなって、だから偽装魔法で大きく見せてたの。 」

「そうなのか、 偽装魔法スゲーな。 今まで全然気にならなかったよ。 俺は前の方が好きなんだけどなあ。 まあ街の男共はそっちの方が好きみたいだぞ。 」

俺は彼らとは気が合わなさそうだ。

「えーせっかくここまでの術式組めたのに〜。 じゃあ戻そう。 」

そう言うと彼女は術式を解いたらしく、 見慣れた彼女が目の前にいた。

「うむやはりその方がいいよ! あれそう言えば、 いつもその大きさで見えてたけど普段から偽装魔法かけてたんだよね? 」

俺がそう聞くと彼女は少し驚いたような顔をしていた。

「なるほどやはりそうなのですね。 」

彼女は何かを納得していたようだった。

「どういうこと? 何を納得しているんだ? 」

「これは私の仮説だったんですけど、 カランコエ様はもしかしたら私の偽装魔法が効かないのでは、 と思っていたわ。 そして今回術式を改良して見たの! 」

「なるほどだから急に大きくなったように感じたわけか。 なあなあ! その偽装魔法俺にも教えてくれないか? 」

「カランコエ様、 まさかそんな趣味が? 」

「違う違う! 実はな今、 俺が手をつけている魔術に偽装効果を付与したいんだ。 だが俺には偽装魔法はあまりに未知の領域、 文献とかも少ない。 だから教えてくれないか! 」

もしこの偽装魔法があの魔術に上手く組み込めれば、 問題は解決するはず!

「なるほど。 分かったわ。 私のできることなら、 なんでも手を貸すわ! 」

「ありがたい! 」

いつも助けてくれて、 本当に彼女には感謝が尽きない。

俺はしばらく彼女の所へ通うことにした。

彼女は本当に献身的だ。

これで独り身なのが理解出来ない。

普通にモテると思うのだが。

それに彼女は教え方も上手いしな。

すぐに簡単な偽装魔法は身につけることができた。

彼女は俺の飲み込みが早いと言うが、 普通に彼女の教え方は分かりやすい。

だがもっと理解を深めなければ。

まだ暫くはかかりそうだ。

更に数日、 彼女はどうやら例の日記を読んだらしい。

そして彼女は俺が例の魔術に、 改良を加えようとしているのだと知った。

彼女はそれを手伝うことを進言してきた。

ありがたい!

彼女は魔法に関して本当に頼りになる。

俺にとって魔法の師は、 彼女と言っても過言では無いに等しい。

これで完成が近づいてきた。

俺は彼女と魔術を完成させる為、 ありとあらゆる手を尽くし、 考え、 試した。

そして更に数日かけて、 遂に俺たちは完成させた。

「つ、 遂にやったな。 これで成功したな! 」

「えぇ、 これで祖父も報われるのね。 祖父達がやろうとしたことを、 まさか私が手伝うことになるなんて。 人生わからない物ね。 」

「そうだな、 人生なんて想像もつかない。 驚きの連続だ。 だからこそ面白いのかもな。 とにかく協力してくれてありがとう! これで自称神様に一矢報いることが出来るよ。 」

「ええ、 そうね。 私たちは元々1天教を信奉してないのですが、この世界の人間はほとんどがその信奉者。 カランコエ様は恐らく神を倒すんでしょ? 」

「うん、 恐らくそうなるかもな。 」

「そしたら本当に魔王になっちゃうね。 しばらく世界は混迷するわよね。 」

「どうだろうな。 もとより存在が怪しい神だ。 いなくなったとしても、 気づくのはいかほどおるものか。 そもそも神が実際に存在してるのを知ってるのは1部だろうな。 だが、 もし仮に神を打倒することが叶うのなら、 世界は大きく変わる。 いい意味でも悪い意味でも。 」

「そうだね。 その時に私たちはどうなってるんだろ。 」

「さあな、 それは神のみぞ知る、 かな。 」

あの自称神様を本当に倒せたとして、 そのあとはどうなるのか。

魔人が元の人間に戻れるのか。

人間達はどう反応するのか。

想像もつかない。

何事も起きてからでないと、 どうなるかは分からない。

だがこれだけは言える。

ここからは生半可な覚悟では、 どうにもならない。

強固な気持ちが必要だ。

思わず握りこぶしに力が入る。

覚悟なんてとうに出来ているはずだ。

今更怖気付くな。

俺は魔王だ。

決して負けない。

俺は早速部屋に戻るとカラミティソードを手に取った。

これが神の呪い。

物や人に宿らせ、 そのものを縛る呪い。

1度牙を向けば、 命をも刈り取る呪物。

今、 その呪いを俺達が断ち切る。

俺はカラミティソードを深く握り直し、 深呼吸をする。

そして魔術を施した。

俺が魔術を施すと、 カラミティソードから禍々しい気が漏れ出し、 霧散していった。

「どうやら成功かな。 」

俺はため息を漏らした。

すると、 どこからとも無く不思議な声が響いてきた。

「ありがとう。 あの呪いから解き放ってくれて。 これであんな酷いことをしなくて済むわ。 本当にありがとう。 」

この声どこから?

もしかしてこの剣?

俺が困惑しているとその声は、 もはや聞こえなくなっていた。

「そうかお前も辛い思いをしてきたんだな。 もう大丈夫だよ。 ゆっくり休み。 」

俺は刀身を優しく撫でた。

剣は一瞬光を帯びた。

そしてまた静かな空間が戻った。

兎にも角にも、 何とかカラミティソードの呪いを解くことが出来たみたいだ。

「これで神とやらに、 バレてなければ大成功だな。 まああんだけ苦労したんだ、 大丈夫だろう。 」

一抹の不安は残しつつ、 俺はひとまず安堵していた。

次はスミレだな。

あいつの呪いは、 あいつ本人に刻まれている。

術式自体は完成している。

あとはどうやって施すか。

まあ手はいつくでもあるな。

さて早めに手を打たなければな。

とりあえず今日はもうゆっくり休むことにしよう。

…………

いい朝だ。

「そう言えば今日は、 スミレの誕生日じゃないか? 今日がちょうどいいかもな。 あれやるのに。 」

俺は早速準備をすることにした。

……数時間後……

「スミレ、 ちょっと来てくれ。 」

「何よ、 改まっちゃって。 」

急に呼び出され戸惑うスミレを連れていく。

「ちょっとどこに行くのよ! 黙ってさ! 怖いんだけど! 」

「まあまあ気になさんな。 ほれ着いたぞ。 」

「なによ食堂じゃないの。 」

彼女は文句を言いながら扉を開ける。

──パンッパンッ──

クラッカーの音が鳴り響く。

「えっ! なになに!? 」

彼女は驚いていた。

「お誕生日おめでとう、 今日はお前の誕生日だったよな? だからみんなでこっそり祝うことにした。 」

その場にいるみんなが口々に、 祝いの言葉を口にする。

スミレを見ると泣いていた。

相変わらず泣き虫なやつだ。

「べ、 別に泣いてないんだから! う、 嬉しくもないけど、 しょうがないから喜んであげる! 」

素直じゃないな。

そして部屋にケーキがいくつか運び込まれた。

本当はワンホールで大きいのを作ろうかとも思ったが、 今回は一人一人に1つずつ、 作ることにした。

ケーキ作りはミドナとマリーが手伝ってくれた。

あの二人は結構料理とかが得意みたいで助かった。

スミレはケーキを頬張ると、 美味しい美味しい、 と言いながら大粒の涙を垂らしていた。

俺は彼女の様子を具に見ていた。

どうやらあの様子なら大丈夫そうだ。

これで彼女も大丈夫だろう。

ひとしきりケーキを食べ、 しばらく談笑をしていた。

そしてみんな彼女にプレゼントを手渡していた。

彼女はもうただ、 泣きじゃくっていた。

まさかこんなに喜んでくれるとはな。

さて俺も渡さないと。

トドメにならないといいけどな。

「スミレ、 これ俺からも。 」

「えっ! しょ、 しょうがないから貰ってあげるわ。 」

俺は綺麗に包装されたプレゼントを手渡した。

「今開けていい?? 」

やはりそう来たか。

本当は後で開けて欲しいのだが。

「むう、 致し方ないか。 いいぞ開けてみろ。 」

俺がそう言うと彼女は、 包装を綺麗に剥がし始めた。

変なところ女の子らしいよな。

彼女が包装を剥がし終え中身と対面すると、 彼女の顔は驚きに満ちていた。

「あ、 あんたこれって! あの時の! 」

なんだ覚えたのか。

「お気に召さなかったかな? 」

俺が茶化す。

「そ、 そんなことないわ! 有難く頂戴するわ。

大切にする! 」

彼女はそう言うと、 それが入ってる箱を大事そうに抱えていた。

ともかく喜んでくれてるみたいだ。

とりあえず安心だ。

何はともあれスミレの誕生会は成功に終わったようだ。

スミレの喜ぶ顔が見れて、 俺は少し安心していた。

今日もぐっすり休めそうだ。

俺は早速休むことにした。

…………

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