第7話 勇者と魔王のデート
…………
俺達が街を出て数日たった。
「なあセントローレンムまで後どのくらいだ? 」
「そうね、 だいたい後1日くらいかしらね。 」
あと1日ほどか。
この数日特に変わったことは起きなかった。
件の気配も感じなかった。
このまま何事もなければいいのだがな。
「そうかそろそろ休憩しよう。 」
俺たちは木陰の傍で腰を下ろした。
セントローレンムか。
この世界でそこそこ大きい教会があり、 図書館もあるらしい。
ここでなら多少は、 情報を仕入れられるやも知れないな。
何か成果があるといいが。
俺たちは軽食を取り、 少し休んでから再び街をめざして進み出した。
しばらく歩いていると、 大きな建物が これ見よがしに目に入った。
「あそこよ。 あそこに見えてる大きい建物が教会よ。 あれがあの街のシンボル、 ここまで来ればあと少しよ。 もう少しの辛抱ね。 」
やっと目的地が見えてきた。
ここまでの道のり、 なかなかに長かった。
「とりあえず街に着いたら宿を押さえるか。 泊まれるとこがなければ体がもたんしな。 」
「それならいい所を知ってるわ。 私に任せなさい! 」
彼女は胸に手を当てて自慢げに言った。
「これなら夜のうちに着きそうだな。 このまま街に向けて進むぞ! 」
「えぇ! 私についてきなさい! 」
スミレはそう言うとずんずん前を進んでいった。
「やれやれ転ぶなよー。 」
俺たちは目的地がすぐという事で、 今までの疲れが嘘のようにどんどん歩を進めることが出来た。
街の目の前まで遂に到着した。
これまた目の前まで来ると、 例の教会がとてつもなく大きく感じる。
権力の大きさが伺えるな。
どこでも教会の力は強いようだな。
俺たちは街へつくと、 早速スミレの案内で宿に向かうことにした。
スミレが1件の宿屋の前まで来た。
「ここよ! ここがこの街で1番の宿屋なの! 」
宿屋ブレイブハウス。
それがこの宿屋の名前か。
「お父様! お母様! 今戻ったわ! 」
「おぉ! スミレよく戻った! そちらの御仁は? 」
「これは初めまして。 俺はカランコエです。 娘さんと一緒に旅をさせてもらってます。 」
「おぉこれはこれはお疲れでしょう! スミレ部屋に案内してやりなさい! 」
「分かったわ! 」
早速スミレは1つの部屋の鍵を受け取り、 俺を部屋まで案内した。
「おいここお前の両親が営んでるのか? 」
「そうよ? 父様は元々宿屋をやりたかったらしいの。 」
いや待て確か、
「お前の父は相打ちしたとか言ってなかったか? あれは別の父なのか? 混乱してきたぞ。 」
「ええそうよ勇者としての父は死んだわ。 今いるのはただの私の父、 それだけよ。 」
なんだよそういう事かよ。
気を使った俺がアホだった。
「これがあんたの部屋よ。 後でご飯を持って言うと思うわ。 ゆっくり休んでなさい。 」
そう言うとスミレは下に戻っていった。
全く。
だけど安心してる俺がいた。
なんでだろう、 スミレのご両親が元気そうだから?
ご両親がいい人そうだから?
宿が無事に取れたから?
きっとそれかな。
だがやはり少し疲れが出てきたな。
安心したからなのか。
少し俺はベッドに横たわることにした。
とりあえずは街に無事につくことが出来た。
暫くはこの街で情報収集といくか。
明日はとりあえず図書館に行くとしよう。
──コンコン──
おっご飯かな?
「どうぞ。 」
俺は体を起こし、 扉の先にいる相手に向かって応えた。
扉がゆっくり開かれた。
「お食事をお持ちしました。 カランコエ様。 」
そこにはまさかの、 スミレの父上がいた。
「これはこれはわざわざすみません。 お手数をおかけする。 」
スミレの父はお膳を机の上に置いた。
「もし、 貴方様はもしや魔王様ではないですか? その指輪、 見間違うわけがありませんから。 」
「そうだったな、 あんたも勇者として魔王と戦ったんだったよな。 その通りだ。 流石だな。 だが安心してくれ、 別に俺は害をなそうとしてる訳では無い。 少し知りたいことがあってな。 しばらく厄介になる。 いいかな? 」
「なるほどあなたもほかの魔王と同じよくできた人のようですね。 それに人であるのに魔王をしているとは。 なかなかに食えない人のようだ。 我々に手伝えることがあるなら、 なんでもお申し付けください。 」
「分かった。 ありがとう! そうだもし勇者の命を狙うような人間がいるとしたら、 そいつは何者だ? 」
スミレの父は一瞬固まった。
「まさかそんなはずは。 いやだが可能性はあるか。 」
しばらく彼は考え込んでしまっていた。
「な、 なあ何か知ってるのか? 」
「あ、 ああすみません。 この話は別の機会に、 少し調べたいことがあるので。 失礼します。 」
彼はそう言うとそそくさと立ち去ってしまった。
何ともばつが悪い。
だが何か知ってるようだ。
時間をあけてまた聞いてみることにしよう。
俺はとりあえず、 持ってきてくれた食事を頂くことにした。
これまた美味だ!
俺はすぐ平らげてしまった。
この世界の飯はうまいのばかりだな!
これは本当にいい宿だ。
久しぶりのベッドだし、 部屋も凄くいい。
ゆっくり休めそうだな。
ここ最近は外で休むことが多かったので、 久しぶりのしっかりした寝床に感動してしまった。
俺はまたベッドに横たわり、 天井を見つめていた。
あれがスミレのご両親か。
いい親御さんのようだな。
大分疲れが溜まってきたのか、 俺はすぐ眠りにつくことが出来た。
久しぶりに熟睡出来そうだ。
さすがにここでは襲われないだろうしな。
明日から頑張ろう。
…………
──コンコン──
戸を叩く音で目が覚める。
「はいどうぞ! 」
スミレとその母親が部屋に入ってきた。
スミレの手には食事の膳が持たれていた。
「どうでしたか? カランコエ様お食事はお口に合いましたでしょうか? 」
「えぇ! とても美味しかったですよ! もしかして朝食も頂けるのですか? 」
「ええどうぞ! お口にあったようで安心しました。 」
スミレが何故かドヤ顔をしている。
「なんでお前がドヤってるんだ? 」
「ふふん! 私だって手伝ったんだからね! 少しは…… 」
そういう事ね。
「そうか! 凄いな! 」
たまには乗せてやるか。
「でしょー! 凄いでしょ! 」
これまた今まで見たことない笑顔をしていた。
「やった! 」
小声で何やら言っていた。
素直なら可愛いからなーこいつ。
そして何故か3人で朝食を頂くことになった。
なんでー!
気まずいわい!
「そうなんですね、 カランコエ様は魔王様だったんですね! なんでそんな重荷を背負われたんですか? 」
「うーん俺もよくわからないんだよね。 最初は俺もあまり気がのならなかったんだけどさ、 なんか魔人の皆と一緒に過ごして見て俺もこの人たちに、 何か出来ないかなって、 そういうふうに思ったんだ。 それに俺は1度死んでる身だしさ、 前の世界で俺は誰かの役に立てたことなんてなかったしね。 なんで人間て自己犠牲精神好きなんだろね。 」
「そうだったんですね。 カランコエ様はお優しいのですね! 確かに人は、 自己犠牲精神をお好きになる傾向があるように思えますね。 ですが実際自分がそちら側になることは、 なかなかに難しい事ですよ。 カランコエ様は人が良いんですよ、 素敵なお方なんですよ! 」
俺はそう言われると目頭が熱くなってきてしまった。
「何よあんた泣きそうじゃないの。 」
スミレが俺の顔を覗き込み、 馬鹿にした。
「こらスミレ、 そういうことを言うもんじゃないわ。 」
今はとにかく何も言えなかった。
ただただこぼれる涙を堪えるのに、 必死であった。
きっと気持ち悪い声が出てるのだろう。
2人はしばらく静かに見守ってくれていた。
恥ずかしくて、 嬉しくて複雑な気持ちが心を駆け巡っていた。
しばらく俺はこの悪魔と格闘していた。
「す、 済まない。 みっともない所を見せた。 」
「いいえ、 気になさらないでください。 涙は流すものです。 無理は禁物ですよ。 」
「そうよあんただって私にカッコつけて言ったじゃない! 」
確かに言った。
だが俺はやはり人前では泣きたくないし、 それが女性の前なら尚更だ。
やはり男は馬鹿で単純だよな。
「ありがとう少し気が紛れた。 スミレ、 それにー 、」
「そうでしたわね私はアカネと申します。 旦那はサスケと言いますわ。 自己紹介が遅れて申し訳ありませんでした。 」
なんかスミレもそうだが家族揃って日本人みたいな名前だな。
「いえいえアカネさん改めてよろしくお願いします! 」
俺たちは朝食を取りながら色々な話をした。
スミレたちの家族の話、 勇者と魔王の話、 この世界のこと、 俺の世界のこと。
時間が許す限り色々と話した。
気づいた時にはもうお昼になっていた。
「いけないわ! もうこんな時間、 サスケさんに怒られてしまうわ! 私はもう行きますね! あとはごゆっくりー! 」
そう言うとアカネさんはそそくさと退散していった。
嵐のような人だったな。
「いい親御さんだな。 」
「でしょ? 私の自慢なんだから! 」
嬉しそうにスミレが飛び跳ねた。
「さて俺達もそろそろ行くとするか。」
「え? どこに? 」
「おいおい今日は図書館に行くんだろ? 」
「あっ! そうだった! 」
忘れてたのかよ。
「そろそろ行くからよ、 支度しておけよー。 」
「まっててよ! 」
彼女はそう言うと部屋を出ていった。
こいつも嵐みたいなやつだな。
さてと俺も支度をしようかな。
この世界で1番大きい図書館か。
きっと何か面白い本があるんだろうな。
情報を仕入れるついでに魔法とか今まで見たことない本を見てみようかな。
今からもう楽しみで仕方がない。
俺はさっさと準備を済まし宿の外で待つことにした。
待つこと約5分。
スミレはやっと来た。
まあ女の子だし仕方ないな。
「全然待ってないよ。 」
「ちょなんでそんな事を言うのよ。 酷いじゃない! 」
俺は頭をぽんぽん叩き、
「はいはい、 ごめんごめん。 そんなことより行きますか。」
彼女は顔をプクー、 と膨らませていてついてきた。
ほんとにハリセンボンみたい。
ハリセンボンて呼んでみようかな。
殺されるな。
やめとこう。
俺たちは街を観光しながら、 図書館を目指すことにした。
街は、 色々な出店などが立ち並び賑わっていた。
おっ!
あれはもしや!
俺はひとつの出店に目を奪われた。
「おっちゃんそれ2つくれ! 」
「あいよ! まいどあり! 」
俺は2本貰ったうち1本をスミレに手渡した。
やっぱり焼き鳥みたいだ!
うめぇ!
「あっ、 ありがと。 」
スミレもその串を頬張る。
「おいひい! 」
スミレも気に入ったようだ。
やっぱり焼き鳥は最高だ!
ここの街並みは、 ほかの街とまた違った趣があるな。
いい街だ。
しばらく俺は街並みに見とれていた。
大通りをしばらく歩く、 と教会程ではないのだがこれまた大きく立派な建物が目についた。
どうやらここが図書館らしい。
ご丁寧に本の大きな看板みたいなの建物についていた。
「ここよ、 ここが図書館! 本が沢山あるわ。 」
「さあ早速入ってみようか。 」
とりあえず俺たちは図書館に入った。
まず目についたのは、 大きな本棚だった。
凄い本棚が上にも横にも広がってる。
あんな高いとこのどうやってとるんだよ。
あまり人は居ないようだ。
それが相まってより広く感じる。
本棚の上の方に、 ジャンルなどを表わす看板がついていた。
なるほど、 これなら目当ての本も見つけやすそうだ。
とりあえず俺は、 歴史や1天教の事が書かれてそうな本を何冊か集めた。
そしてスミレは知らないうちにいなくなっていた。
どこいったんだ?
全く人手が居るってのに。
俺は本を抱え机に向かった。
重かった。
机につくと早速本を読み始めた。
しばらく読んでいると、 スミレが本をいくつか持ってきた。
どうやら料理本やご飯の本を読んでるみたいだ。
やれやれ食い気か。
それにしてもこの世界にもあの手の本があるんだな。
案外想像もつかないような本もありそうだな。
俺はしばらくして本を読み終わった。
さすがに得られる情報は多くなかった。
「ふむさすがにそこまで有益な情報は、 すぐには手に入らんか。 お? 」
ふと隣で料理本に食いついていたスミレを見る。
まじか。
こいつヨダレ垂らして本を枕に、 寝てやがる。
それにしても幸せそうな寝顔だな。
どんな夢見てるんだか。
俺はしばらく眺めていた。
数分後、 少し動いたかと思うと、
「ふえ、 にゃ? 」
「おはよう、 お腹は脹れたか? 」
俺が茶化してそう言うと、 彼女は膨れて喚いた。
「何人の顔を見てニヤニヤしてるのよ! アホバカ! 」
両手をブンブン振り回して、 怒り出した。
「おいおいここは図書館だぞ、 シー! 」
俺が茶化しながら諭す。
さすがに騒ぐのは不味いと思ったのか、 喚くのはやめた。
腕を組んで頬を膨らませ、 ふん!、 とそっぽを向いてしまった。
「まあまあそうむくれるなって。 破裂しちゃうぞ。 帰りにあの串買ってやるから。 」
「ほんと! なら許してあげる。 さあ行くわよ! 」
急に機嫌を取り戻した。
単純なやつだな。
俺たちは図書館を後にした。
勿論ちゃんと帰りに串を買ってやった。
しばらくは図書館に足繁く通うとするか。
教会に話を聞きに行けるのは、 暫くはかかりそうだしな。
その辺はスミレが手回ししてくれてるらしいが。
少々不安だ。
まあダメならダメで、 そんときはそんときだな。
俺は宿につくと早速、 借りてきた本を読むことにした。
勿論魔法やら魔素やら、 そういった類の本を借りてきていた。
さすがに宿に戻ってきてまで歴史の本やら、 同じことしか書いてない1天教やらについての本など、 読みたくないよな?
箸休めみたいなもんだ。
て俺は誰に説明してるんだ。
この本もなかなかに興味深い。
俺がまだ知らない魔法やら、 魔素の事が細かく説明されている。
相手の魔素を利用した攻撃などもあるようだ。
なるほど魔素を利用、 か。
その方法についても書かれてるな。
これは面白いぞ!
俺はついつい、 その本に夢中になってしまった。
俺が本を読み終わる頃には、 窓から陽の光がさしていた。
「しまった! またオールしちゃった! この歳になると結構辛いんだよなあ。 」
とりあえず眠気を飛ばすために、 俺は顔を洗うことにした。
まあいい勉強にはなったし、 無駄ではないだろう。
今日も俺たちは、 図書館へと足を運んだ。
俺は1天教の歴史と、 この世界で起きた事柄が載ってる本を、 いくつか持ってきた。
スミレは相変わらず料理本とか、 その手の本を読んでいた。
花より団子タイプだなこいつは。
こいつを釣る時は食い物を餌にするか。
本をしばらく読んでいると、 目眩が少ししてきた。
さすがに寝なかったのが響いてきたようだ。
さすがに辛い。
視界もぼやけてきたし、 瞼が重くなってきた。
あ、 眠い。
だめ、 かも。
…………
ん?
あれ俺どうしたんだっけ?
なんか視線を感じるな。
「むにゃ? ん? 」
俺が目を開けるとスミレと目が合った。
スミレは目が合ったと同時に後ろにぴょん、 と飛び跳ねた。
そして変な悲鳴をあげながら、 どこかへ走り去っていた。
「変なやつ。 ふあー、 今日は早く寝なきゃな。 」
やはり資本は体だな。
睡眠大事。
ほんとこれ。
俺が本を片付けていると、 スミレがコソコソと戻ってきた。
顔がまだ赤く染まっていた。
どうしたんだろ?
「おぉスミレ帰るか。 少しねみーわ。 」
「そそそ、 そうね! さっさと帰りましょ! 」
何を焦ってるんだか。
今日も俺たちは串を買ってから、 宿に戻った。
流石に俺は宿につくと、 すぐに寝込んでしまった。
これなら明日は万全の体調だろう!
………
「ふぁー! よく寝た! 今日は元気いっぱいだ! 」
昨日の眠気も疲れも、 嘘のように取れた。
魔素を循環させて心身の能力を上げる術、 身についてきたかもな。
これを会得すると回復力も向上するらしい。
まるで気功みたいだ。
これは治癒魔法の力も、 はね上げるらしい。
基礎的なことを理解してると色々応用が効く。
知識を広げたいな。
いかなる時代も知識は想像の母、 とはよく言ったものだ。
今日はスミレと街を、 探検することになっていた。
俺は早々に支度を終わらせ、 宿屋の前で相も変わらずスミレを待っていた。
今日はやけに遅いように感じる。
いつもより5分ほど遅れてスミレがやってきた。
ん?
なんか違うな。
いつもと何かが違う。
髪が少し短くなっている。
それに服装も可愛くなってる気がするな。
「どうしたんだ? 急におめかしなんかして。 まあ似合ってるな。 」
俺がとりあえず褒めると、
「ああああ、 別にあんたの為なんかじゃないんだから! 馬鹿な事言ってないで早く行きましょ! 」
と、 顔を真っ赤にしてさっさと行ってしまった。
ほんと変なやつ。
「おーい転ぶなよ! 」
と俺が言ったそばから、 ずでーん、 とアニメみたいに盛大に転んでいた。
「言わんこっちゃないよ! 大丈夫か? 」
俺はスミレに駆け寄った。
足がすりむけて少し血が出ていた。
俺は手を当てて治癒魔法を施した。
「あ、 ありがとう。 た、 大したことないよ。 ご、 ごめん。 」
「気にするな。 大丈夫か? 」
「うん、 凄いのね。 治癒魔法も使えるんだね! 」
「え? ああ、 最低限な。 」
治癒魔法も色々勉強していたので、 スミレの傷はすぐに回復した。
「あんたってなかなかに器用よね! 」
「うーん、 前の世界だとそんなことなかったんだよね。 どっちかと言ったら不器用かな。 飲み込みが少し早い程度で。 」
「ふーんそうなんだ。 でもありがと! 」
「よし大丈夫そうなら行こう。 」
「分かったわ! 」
とりあえず俺たちはいつもの串を買いに行くことにした。
スミレは今度は俺の横を、 くっつきそうな距離で歩いていた。
それになんかソワソワしてるな。
落ち着かない様子だ。
なんか不安でもあるのだろうか。
「どうした、 そんなにソワソワして。 お腹でも痛いか? 」
「ち、 違うもん。 手、 手をその、 握って…… 」
うん?
声がボソボソしててよく分からんかったな。
「えっ手がなんだって? 」
難聴で申し訳ないと思った。
「な、 なんでもない! 」
彼女はそう言うとそっぽを向いてしまった。
彼女は街にいるアベックを見つめていた。
あーそういう事。
俺は彼女の手を無言で優しく握った。
「はひ! なななななな、 何してんのよ! 」
彼女は顔を真っ赤にして驚いた。
「手繋ぎたかったんじゃないの? じゃあ離すね。 」
俺がそう言って手を離そうとすると、 彼女は離そうとしなかった。
「べべべ別にあんたがそうしたいなら、 それでいいわ! 手を握ってあげる。 」
彼女は顔を真っ赤にして、 目を逸らしながら言った。
素直じゃないな。
「へいへいありがとう。 」
彼女の方をふと見ると、 少しニヤけてるいるように見えた。
俺たちはいつもの店で串を買って、 2人で頬張った。
串を頬張りながら、 街をしばらくぶらぶらする。
ほかの出店を見て回ったり、 街の店を色々回った。
「あっ! 宝石屋さん! あそこ行きたい! 」
スミレが1件の宝石屋を指さして言った。
「宝石屋か、 行ってみるか。 」
俺たちは宝石屋に入ることにした。
店内に入るとこれみよがしに宝石が、 ショーケースに入れられていた。
そう言えばこういうとこに行くの始めてだな。
しかも一応女連れで。
なんか恥ずかしいな。
スミレは目を輝かせていた。
まあ女の子はこういうの好きだよな。
まるで第三者から見るとアベックみたいだな。
まあ悪い気はしないな。
ショーケースの宝石細工を一つ一つ眺めていく。
この世界にもこれ程までの宝石細工があるとはな。
ふとスミレの足が、 ひとつのネックレスの前で止まった。
「これ可愛い! 」
スミレはひとつのネックレスに目を奪われているようだ。
これが可愛い、 か?
こいつの好みよく分からねえな。
まあ男と女じゃ好みとか、 そもそも合わないだろうけどさ。
確かに綺麗な事には変わりないな。
それにスミレに似合いそうだな。
スミレはずっとそのネックレスをただ眺めていた。
そんなに気に入ったんだな。
まあ確かに綺麗で見入ってしまう。
ただ、 少し高い。
これはなかなかに手が出せないだろうな。
スミレはそこまで金持ってなさそうだし。
俺も今はそんなに持ってない。
これが恋愛ゲームとかだと俺がこっそり買ってやる、 みたいなイベントだよな。
まあそんな事はしないけどな。
そうだミドナ達のお土産、 ここで見繕うか。
「お兄さん、 ここの店で置いてる、 安くて綺麗な、 女の人が喜びそうなのいくつか見せて貰えないかな。 」
俺はカウンターに立ってる、 店員さんらしきお兄さんにそう頼んだ。
「かしこまりました。 こちらが当店で扱ってる物で、 比較的安価なものでございます。 しかし高価なものとさほど変わらぬ美しさでございますよ。 きっと貰い手は喜んでくださるかと。 」
そう言うとお兄さんはいくつかの髪飾りや、 ブレスレットなどを俺に見せてくれた。
とりあえずミドナにはブレスレット、 マリーと魔法屋のお姉さんには、 髪飾りを買っていくことにした。
「じゃあこれとこれとこれ。 包装もお願いできますかね? 」
「かしこまりました。 少々お待ちください。 」
俺が会計を済ますと、 スミレが羨ましそうにこちらを眺めていた。
「お前も欲しいのか? 今度な。 」
俺がそう言うと、 スミレは、
「ケチんぼ! 」
とそっぽを向いてしまった。
そんな怒んなくてもいいのに。
しばらく待っているとお兄さんが戻ってきた。
これまたオシャレな小包に入れて戻ってきた。
オシャレな店は何もかもオシャレだな。
内装も制服もオシャレだもんな。
こんなオシャレなとこからは早く出たいな。
俺には合わんな。
「お待たせいたしました。 こちらでよろしいでしょうか。 」
「ああ、 ありがとう。 」
俺はまだ拗ねているスミレに声をかけた。
「スミレそろそろ行くぞ。 」
「ふん! わかったわよ! 」
スミレはまだあのネックレスを眺めていた。
そんなに気に入ったんだな。
「そうだスミレ先出て待ってて。 お兄さんに用があったんだ。 」
「えっ? 分かったけど早く来てよ。 」
スミレが出るのを確認すると俺は、
「お兄さんもうひとつ聞きたいんだけど、 このネックレス取り置きみたいなことは出来ないかな。 今手持ちが少なくてさ。 後で買いに来るから他の人に買われないように取り置いて欲しいんだ。 」
「あーそちらのネックレスですね。 かしこまりました。 またのご来店お待ちしておりますよ。 」
どうやらいいみたいだ。
次来る時までに金稼がないとね。
「お待たせ。 」
「早かったじゃない、 何してたの? 」
「うーんちょっとな。 それより次はどうするか。 」
「お腹減ったごはん。 」
確かにそろそろお腹が空いてきたな。
「そうだなせっかくだし食事処に行くか。 この辺のオススメは? 」
「そうね! それならあそこの、 テリーのステキハウスがいい! すごく美味しいてみんな言ってたわ! 」
「ん? 行ったことないの? 」
「そうよ悪い? でも父様も母様もあそこはすごく美味しいて! だから行くわよ! 」
そう言うとスミレは俺の手を引っ張っていった。
さすがに慣れてきた。
少し歩くと店の前まで着いた。
テリーのステキハウス。
ステキて、 ステーキのことか?
いい笑顔のおじさんが、 両手を広げてる看板が目につく。
この人がテリーなのかな?
俺たちは店内に入る。
おおこれはまたいい趣の内装だ!
まるでアメリカのステーキハウスみたいだった。
しかもこれまたいい匂いが漂っている。
肉を嫌いな人なんてそう居ない。
この匂いだけでもうご飯がいける。
「いっらっしゃいませ! おふたり様ですね! こちらの席へどうぞ! 」
これまたアメリカンチックなお姉さんが案内してくれた。
「ありがとう。 」
「こちらがメニューになります。 お決まりになりましたらお声かけください! 」
おぉ!
やはりステーキぽいな!
まあなんの肉かは知らないけど。
メニュー見ただけでは分からないか。
どれがいいのかよく分からないな。
「スミレはどれにするんだ? 」
「うーんまだ決めてない。 どれにしようかなー! ムクロドーバのステキもいいけど、 ブルムルも捨て難いな! 」
ん?ムクロドーバ?
そう言えばここに。
あったほんとにあった。
あの畜生鳥のステーキ、 いやステキなんてあるのか。
えっあいつ人間とかも食べてるんだよな。
それって間接的に……
「な、 なあムクロドーバって食えるのか? 」
「ええそうよ、 害獣でよくお店に出回ってるわよ? それにすごく美味しいの。 」
「へ、 へーあれ食えるんだ。 」
さすがに俺はやめとこう。
下手したら俺を食おうとしたやつが出てるくかもだし。
よし俺はこのムルムルラビットにするかな。
「スミレは決まったか? 」
「うーんどうしよかな、 あれもいいしこれもなー。 よしこれにした! 決めたよ! 」
どうやら悩んでいたらしいが決めたようだ。
「すみません! 」
俺はお姉さんを呼んだ。
「お待たせしました! ご注文をお伺いします! 」
「俺はこのムルムルラビットのやつを、 スミレは? 」
「私はムクロドーバ! タレ多め! 」
「ムルムルラビットのステキ、 ムクロドーバのステキですね。 それでは少々お待ちください! 」
そう言うとお姉さんはメニューを預かり下がっていった。
て言うかこいつマジであの鳥食うんか。
確かにメニューにも3番人気って書いてあったけどさ。
流石に気は進まないぜ。
さてこの世界のステキはどんな味かな。
俺は肉料理は大好きだからな。
楽しみだぜ。
ムルムルラビットはどんなのなんだろ。
「あんたなかなかのゲテモノ好き? ムルムルラビットなんて、 よくあんなキモイの食べれるわね! 」
えっ今なんと?
「お、 おいそれほんとか? 」
「えっあんた知らないで頼んだの? 後で魔物図鑑で見るといいわ。 」
何たることか!
ラビットと言うからてっきりウサギかと!
他の頼めばよかったかも。
しばらくすると、 また店内にいい匂いが充満してきた。
とりあえず対面してみない事には美味しいかどうかは分からんしな。
それにゲテモノほど美味しい、 てこともあるからな。
「お待たせしました。 こちらムクロドーバのステキになります。 」
おぉ!
意外に美味しそう!
香りもいいし見た目も普通だ!
「そ、 そしてこちらムルムルラビットのステキになります。 」
おうふ!
これはなんと言うか。
グロい!
これはステキなのか?
どっちかと言うとホルモンみたいなみためなんですけど!
香りはいいけどさ見た目が、 見た目が!
ホルモンは好きだけどこれはちょっとな。
「うはーやっぱりグロー。 早く食べてみなさいよ。 」
「交換するか? 」
「いやよ! 」
即答かよ。
ええいママよ!
モノは試しだ!
俺は思い切って1切れ頬張った。
ほふう!
何だこの今まで味わったことの無い風味は!
めちゃくちゃ美味い!
死ぬほど美味い!
ホルモンのような食感かと思ったが、 ホルモンに近く軟骨のような食感にも近い。
そして味も生臭さなどはなく、 食べやすい。
気になるのは見た目だけだ。
しかもこのソースがまた美味い!
「おいこれめちゃくちゃ美味いぞ! 」
「えっ! うそ! そんなう〇こみたいなのが!? 」
「おおおい! ここは飯屋だぞ! だが騙されたと思ってほれ! 」
スミレは恐る恐る1切れ口に入れた。
すると、
「うんまああああああい! 何これこんなに美味しかったの! 知らなかった! あんなキモイやつがこんなに美味しいなんて! わからない物ね! これ塩も合うわ! 試して見て! 」
言われたとおり、 塩をかけてまた頬張る。
おお!
確かにこれはまた違った美味さがある!
これは意外に正解だったな。
久しぶりにいい驚きを得た。
後でどんな魔物か見てみるか。
「ほら私のも食べてみて。 」
スミレが自分のを1切れくれた。
むうあの鳥か。
「ではお言葉に甘えて。 」
おぉ!
これもまた美味しい!
普通に鶏肉だ!
チキンステーキ、もとい チキンステキを食べてるみたいだ。
なんだろ、 元のやつを知らなかったら最高なんだよな。
俺たちはぺろっと平らげた。
テリーのステキハウス、 めちゃくちゃいい店だ。
これからよろしくお願いします。
「ふぅー美味しかったな。 いい時間だな。 そろそろ宿に戻るか? 」
「えーもう少。 噴水いこ! 」
噴水ねえ、 あそこカップルばかりなんだよなあ。
「分かった分かった。 」
俺たちはテリーの店を後にし、 噴水へと向かった。
噴水に着くとやはりカップルがそこそこいた。
「いつ見てもカップルいるよな。 」
「そそそ、 そうね! 暇なのかしらね! 」
「まあ俺たちも何故かいる訳だが。 」
俺たちは適当に空いていた椅子に腰掛けた。
ほんとに他所から見ると俺もそれだよな。
まあ違う訳だが。
この噴水広場も普通に観光名所としても見れるな。
噴水がすごく綺麗で、 見てると心が落ち着いてくる。
「ここの噴水結構綺麗だよな。 人が集まるのもよく分かるわ。 」
「ええそうね。 かなり昔からあると聞いてるわ。 」
そこまで古そうなものにも見えないが、 立派な作りだというのは素人でも分かる。
ふと辺りを見回すとカップルはイチャイチャしていた。
こんな公然の場でようやるわ。
この世界もこういう輩はいるんだな。
スミレをふと見ると顔を赤め、 たまに凝視しながらカップルたちを眺めていた。
そう言えばスミレはそういう相手は居ないのだろうか。
そういうのを意識する年頃ではあると思うが。
まあ俺には関係ない話だな。
「なんか気まずいな、 そろそろ戻らないか。 」
俺がそう提案すると、
「へ!? あそうね! そそそうしましょ! 」
何を焦ってるんだか。
俺たちは早々に宿に戻ることにした。
宿に戻る間、 スミレは落ち着かない様子だった。
宿に戻るとスミレは颯爽と部屋に戻っていった。
何だか疲れたな。
よく知らんが。
とりあえず今日は俺も、 もう休むことにした。
今日は調べ物とかそういうの忘れて、 ただスミレと一緒にぶらぶらしただけだったが、 そういう日も良いな、 と思っていた。
俺は部屋に戻るとベッドに横たわった。
そしてそこそこ疲れが溜まっていたのか、 しばらくボーッとしていたら知らないうちに眠ってしまったらしい。
…………
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