第6話 魔王の門出
…………
「綺麗な寝顔だな。 」
俺は静かに寝ているスミレの顔を眺めた。
このあどけない少女が世界を救う勇者。
そして、 俺の敵、 になるのかな。
いやラインハルトは言った。
この子は他の勇者とは違うと。
そして魔王が死ねば世界はあるべき姿に戻る。
ただ何かが足りない、 いや方法が違うのか。
魔王達の長年の悲願を、 無念を晴らすために俺と、 この勇者が必要だ。
確かに、スミレはこの世界の人間とは、 何かが違う。
まともな思考をしているように思える。
同じ1天教を信仰しているのだが、 魔人を救うと言っていた。
1天教を信仰している人々は魔人を悪と言い、 迫害している。
だがスミレは違った。
これは勇者も魔人が元人間、 という事実を知ってるからか?
ならなぜ1天教は迫害を止めさせない?
神と勇者、 そして魔王しか知らないからなのか?
少しスミレに、 聞かなければならないようだ。
まあ今はゆっくり休ませてあげなければ。
スミレが使っていた最後の技。
あれはおそらく、 使用者にも多大な影響を与えているだろう。
「ラインハルトやはり最初から負ける気だったんだな。 見ててわかるよ手を抜いてるの。 俺じゃなくてもお前ならきっと、 出来たかもしれないのに。 」
ミドナの泣き顔がふと浮かぶ。
そりゃ目の前で父をやられれば誰でもああなるさ。
ミドナ、 強くな。
「う、 父様。 私やったよ。 」
突然スミレが小さくそう囁いた。
ように聞こえた。
起きたのか?
またスミレは静かに小さく息を出し入れするだけだった。
寝言か。
だが今のは。
そうかこいつも何か、 重いものを抱えて生きてるんだな。
こんな小さな背中で。
俺はスミレのおでこを優しく撫でた。
「むにゃ、 父様? 」
スミレが目を細く開け、 囁いた。
「おはようさん、 残念だが君の父さんでは無いよ。 」
少しまだボー、 とするのか、 目を擦りながらしばらく、 見つめあった。
そして目を数回パチクリしたかと思うと、 急に赤くなり、
「な、 なにをしてるのよ! この変態! 」
と激昂した。
「お、 おいおい! 変態はないだろ! それにまだ寝てた方がいいぞ。 体痛むだろ? 」
どうやら図星らしく彼女は、 プクーと頬を膨らませながら再び、 ベッドに倒れた。
「よろしい、 安心しろ。 誰も取って喰ったりはしないよ。 」
「そうだ! 魔人は! 魔人のみんなは!? 戻れたの!? 」
スミレは思い出したかのように、 俺に聞いてきた。
「やはり知ってたんだな。 残念ながら、 な。
みんな魔人のままだよ。 聞かせて貰えないかな。 君の知ってること、 為そうとしてたこと。 」
「そんな、 なんの為に私は。 あの人を殺したの? 父様ごめんなさい! 私は私は! 」
彼女は突然取り乱し嗚咽を漏らしながら、 ポツリポツリと涙をこぼした。
「気が済むまで泣きな。 それまで待つよ。 」
俺がそう言うと彼女は我慢をやめたのか、 ワンワン泣き出した。
声にもならない声でただひたすらに、 感情のままに泣いていた。
もはやその姿は勇者のそれではなく、 ただの1人の人間の少女であった。
辛かったんだな。
悲しかったんだな。
悔しかったんだな。
その気持ちよく分かる。
いや俺のそれとは、 同じにしてはいけないな。
だが俺も同じような気持ちを、 23年生きてきて嫌という程味わってきた。
そのせいでこんなめんどくさい男になっちまったが。
だが今の俺はそれが無ければ、 存在してないだろう 。
人生とは奇なる物なり。
ほんとに何が起きるか分かったもんじゃない。
きっとこの子にも、 こんなに悪いことだけではない。
何かきっといい事が、 起きるはずだ。
じゃなきゃ報われない。
苦しい思いをするのは俺みたいなやつだけでいいんだ。
彼女はしばらく泣き続けていた。
少しすると落ち着いたのか、 彼女は、 泣きらはした目で俺を見た。
なんか他の人が見たら、 俺が泣かしたみたいだな。
「少し落ち着いたか? 」
「グスン、 わずれなざい! 」
「? ん? なんだって? 」
「忘れなさい! 私が泣いてたのは忘れなさい! 」
「あーそういう事ね。 へいへい分かりましたよ、 涙目のお姫様。 」
「誰がお姫様よ! 私はね由緒ある勇者なのよ! 」
「おぉ怖い怖い。 勇者様、 どうかお気をお鎮め下さいませー。 」
俺は茶化した。
「なによ! バカにして! ふん! 」
彼女はまた顔を真っ赤にしてプクー、 と頬を膨らませた。
まあこれだけ余裕があれば少しは話になるだろう。
「さあそろそろ、 勇者様の知ってることを聞かせて貰えないかな? 」
「そうだったわね。 いいわその代わり、 なんであんたがここにいるのか。 何を知ってるのか。 それも聞かせてもらうからね! 」
「もちろん、 そのつもりだよ。 」
「それじゃあどこから話そうかしら。 まず私は勇者の血統の末裔なの。 」
「ん? 勇者てのは確か複数いるんだっけ? 」
「そうよ、 でも私を他のエセ勇者共と同じにしないでね。 勇者てのはより強い力を持つ冒険者が、 神様から選ばれた者のみがなれるの。 その中でも私たちの家系は、 最初に勇者に選ばれた由緒ある家系なのよ! 」
彼女は鼻を高くしてフン、 と息をならした。
そんなにすごい事なのか。
「あ、 今あんた小馬鹿にしたわね? まあいいわ。 それにね魔王を倒してきたのは私たちの御先祖様なの。 魔王を倒すだけの力を持ってるの私達家系だけなの! 」
凄いでしょ、 みたいな、 してやったり感満載な顔だ。
「へー凄いなー。 」
「むっ! ふん、 あんたには分からないでしょうけどね! まあいいわ。 私はね勇者になるのが嫌だったの。 父様と母様の子供は私だけなの。 だから私は必然的に勇者にならざるを得なかった。 でもね父様と母様は私に勇者にならなくていいって、 言ってくれたの。 」
「それなのになぜ、 今お前は勇者なんだ? 」
「それは、 父様が魔王を倒す時に相打ちで。 それで、 」
「そうかそれ以上はいい。 それでお前が勇者をやらなくちゃいけなくなった訳か。 」
「そうよ、 だから私は父様に誓ったの。 私が勇者になって父様の、 いえ、 先代の未練を晴らすって! それなのに、 なんで。 」
彼女はそう言うと下を俯いてしまった。
「はっはっはっ! そうかそうかそれは残念だったな! 」
「あんた何を笑ってるのよ! 私のせいで魔人族の人は、 人間に戻れなくてまた酷い扱いを!
」
そこまで思ってくるてるんだな。
俺は彼女の肩に手を置くと、
「お前のせいでも、 魔王のせいでも、 誰のせいでもねえよ。 だから気に病むな。 そんなことであいつらは絶望なんかしたりはしないよ! 俺もそんなことで諦めない。 だからお前も諦めるな。 父さんに誓ったんだろ? 」
「分かってる、 だけど! どうすればいいの? 今まで何十年、 何十代の人達が色々工夫して、 色々試してダメだったのに! 私に何が出来るていうの! 」
「そんなの簡単だろ? 1人で悩まなければいい。 人間ってのは唯一物を考えることが出来る動物だ。 1人で考えてたってそりゃ限界がある。 だがな3人寄れば文殊の知恵、 って言葉がある。 皆で考えればいい。 そうすれば考えもつかないことが誰かの口から出ることもある。 そうやって打開策を練るんだよ。 おそらく今までの、 奴らは自分で考えて抱え込むやつが、 多かったんだろうな。 ラインハルトはそういうタイプだった。 お前の父もそうじゃなかったか? 」
「言われてみれば確かにそうだったかも。 」
「男ってのは馬鹿で単純な生き物だ。 そしてカッコつけだ。 悩み事なんてのはいつも1人で抱えるか、 限られた人間にしか打ち明けない。 そういう物さ。 俺もそうだからわかる。 だがそれでは解決しないこともある。 」
「力を貸してくれるの? 」
「ああ、 俺とここにいる仲間たちで考えよう。 俺が説得するさ。 」
「ふ、 ふん! せいぜい役に立ちなさいよね! 」
ふん、 やっと笑いやがったか。
「さて、 話の続きだが、 お前たちの言う神ってのを教えてくれないか? 俺はこの世界のことを疎いんだ。 」
「あんたバチが当たるわよ? 神様のことをそんなふうに言うなんて。 」
「残念ながら俺は、 元々信仰心なんて持ち合わせてないよ。 」
「ふーん、 怖いもの知らずね。 まあいいわ、 私のわかる範囲でならね。 私の知ってる限りのことを教えるわ。 神様、 1天教の教祖にして最高司祭、 そしてこの世界の唯一神。 私たちにとって絶対の存在よ。 法も全て彼女が作ったわね。 元々人間て話も聞くけど。 」
なんだって教祖? 人間?
てことは1天教が仰ぐ神様ってのは、 元々1天教を作った教祖である。
そしてそいつは元々人間だったのか!?
待てよ? まさしく独裁みたいな体制だな。
「それじゃあ神様が言ったことは全てその通りってか? 」
「まあそういう事ね。 ここだけの話、 私の父様母様はあまりよく思ってなかったみたい。 ただ大っぴらにそんなことは言えないわ。 よく私が寝る時に昔話を聞かせてくれてたの。 今の1天教ができる前。 別の神様がいた頃の話。 その頃は今みたいに迫害もなく平和で人々が、 皆笑顔で過ごしていたらしいの。 父様はそんな世界に戻って欲しいと、 常々に言ってたわ。私もそんなふうになって欲しい。 」
立派な父さんだったようだな。
ラインハルトもそんなこと言ってたな。
そういえば。
みんながみんなでは無いかもしれない。
だけどラインハルトや魔人族、 スミレたちみたいに今の世をおかしい、 と密かに思ってる人達はいるんだ。
その人たちの思いを無下にしてはいけない。
「私が神様について知ってるのはそのくらいかしらね。 」
ん? まてよ?
「神様の名前とかはないのか? 」
「それは1部の司祭しか知らないみたいなの。 実際私も直接あった事がある訳では無いの。 」
「まてまてまてまて! 勇者になる時に拝謁するんだろ? その時に姿とか名前とか何かしら見聞きするだろ? 」
彼女はバツの悪そうに、
「そうなんだけど、 なんと言えばいいのかしら。 確かに直接あってるような感じなんだけど実際には違う、 というのかしら。 夢の中出会ってるような感覚なの。 実際に目の前で話してる感覚なんだけど。 彼女は霧かなんかで覆われてるの。 だから声しか聞こえなかったわ。 とても不思議な声だった。 頭に響く優しい声だったわ。 」
なるほど勇者ですらもその身を見せない。
ほんとに雲の上のような存在な訳か。
「そうなんだな、 ありがとう。 」
「で? 」
「ん? 」
「ん? じゃないわよ! 私は話したんだから。 次はあんたの話しよ! 聞かせなさい? なんでここにいるのか。 何を知ってるのか。 」
「ああそうだったな。 俺はそうだな。 とりあえず1回死んでる。 そして時期魔王だよ。」
彼女は一瞬固まった。
「は、 ははははは、 はああああああ!? あんた何言ってるの!? 馬鹿なのアホなの? 魔王なの!? あんたが?! 」
相当に驚いてるようだ。
何に?
「そうだよ、 俺は元々いた世界で恐らく死んだ。 そしてこの世界に転生した。 そしてお前が倒した魔王に次の魔王頼まれた。 」
「嘘でしょ死んだ? 魔王頼まれた!? 魔王、 転生転生魔王? 」
どっちもか。
混乱してるようだった。
「まあそういう事だ。 知ってることはそんなお前とは変わらんかな。 魔王も魔人が人間ってのは知ってて、 それをどうにかする為に魔王も色々試していた。 そして未だにその謎を解明出来てない。 俺がそれを終わらせる。 こんなとこかな。 」
「はあああああ!? ちょっと待って! ついていけない! えっ魔王? 死んだ!? どゆことよ! 」
まだそこかよ。
「だから言葉のままだよ! 1度死んだ、 今の魔王は俺。 それだけ。 難しくないだろ? 」
「え、 え、 じゃああんたも殺さないといけないの!? あんたまた死ぬの? 」
「まあいずれはな。 だが今ではない、 この謎を解き明かさないとイタチごっこのままだ。 そのためにお前と話してるんだから。 」
「わ、 分かったわ。 あんたに協力してあげる。 父様のためにも、 あの魔王のためにも。 」
「まあ俺がここにいるのは成り行きだな。 この世界に来て俺は、 魔人族のみんなと出会った。 そして助けて貰った。 俺は魔人族のみんなを助けたい。 だから魔王になることした。 そんなとこだ。 お前みたいに立派な志とか、 血筋とかそんなもんは無い。 だけどみんなを助けたい、 その気持ちだけは負けられない。 それだけだ。 」
彼女はまだ、 理解に追いついてないみたいだ。
「わ、 わかったわ、 とりあえずあんたに協力するわ! 今は! 」
無理やり納得させたらしい。
「ありがとう、 とりあえず今日はゆっくり休め。 」
「分かったわ、 そうさせてもらうわ。 」
そう言うと彼女は直ぐに寝てしまった。
はえ!
俺もこんなに早く眠りにつけれたらな。
羨ましいぜ全く。
俺はラインハルトの元に向かうことにした。
…………
ラインハルトが眠る部屋には、 シグルド、 ダリル、 ミドナの3人だけがいた。
「あんなにやかましかったラインハルトが、 こんなに静かなんてな。 嘘のようだな。 少し2人にさせてくれないか。 」
俺がそう頼むと、
「ダリル様、 ミドナ様参りましょう。 」
と、 シグルドが気を使ってくれた。
ミドナはまだ泣いていたようだった。
ダリルも目が少し赤かった。
シグルドにも少し涙が這ったあとが見受けられた。
やはり皆悲しんでいた。
それもそうだ。
あんな出来た男、 誰だって悲しむさ。
俺も悲しい。
おそらく暫くはこの悲しみが残ることだろう。
俺は正味羨ましかった。
俺は常々自分が死んだら、 悲しんでくれる人はいるのだろうか。
そういうことばかり考えていた。
「ようラインハルト。 遂にこの時が来ちまったんだな。 どうするんだよ皆を悲しませて。 全くあんたってやつは、 あんたが遺したもん俺が背負い込んでやるよ。 だからゆっくり休んでくれ。 そして俺を待っててくれや。 いい知らせ持ってくからよ。 笑って待ってやがれ。 」
俺は目頭が熱くなるのを感じた。
そしてラインハルトがつけていた指輪に俺の指輪をぶつけた。
すると、 ラインハルトの指輪が小さくひかり、
雪のように消えていった。
その時だった。
「ガッハッハッすまんな、 あとは頼んだぜ。 」
突然ラインハルトの声が聞こえた。
ような気がした。
「フッ、 頼まれたよ。 あんたも元気でな。 」
俺はラインハルトの手を優しく握った。
やはり冷たかった。
俺も本当はいつものように、 やかましく笑って欲しかったのかもしれない。
本当は死んでなくてまた一緒に騒ぎたかったのかもしれない。
だがこうしてみてやはり、 それはもはや叶わない事なのだと悟った。
俺は暫しラインハルトの手を握っていた。
「ふぅ、 じゃあなラインハルト。 先に行って待っててくれよな。 じゃあ俺は行くからよ。 」
ラインハルトにそう囁き俺は部屋を後にした。
部屋を出る時に外で待っていたシグルドと対面した。
「シグルド、 俺は決めた。 ラインハルトの意志を継ぎ無念を晴らす。 スマンが手を貸してかれるか。 」
シグルドは静かに、
「承知致しました。 兼ねてより我らはラインハルト様より貴方様の力になるよう仰せつかっております。 私め共をどうか頼ってくだされ! 」
シグルドは静かに頭を下げた。
「あぁ、ありがとう! 頼りないかもしれない、 ラインハルトのように上手く出来ないかもしれない。 だが死力を尽くす。 Do my best! よろしく頼む! 」
「仰せのままに。 」
「そうだ1つ教えてくれないか? 勇者とラインハルトが戦ってた時、 ラインハルトが手を抜いていたのは俺にも分かった。 だが勇者のあの力、 ラインハルトはあれを出されるまでは負ける気がしなかった。 ラインハルトも同じような力が使えたんじゃないか? 」
「左様です、 ラインハルト様ははなより勝つつもりは、 なかったようです。 我等にもそれは伝えられておりました。 ですがラインハルト様も全力ではないにしろ、 本気に近い力で戦われてました。 おそらくかの者を傷つけないためかと。 」
スミレのことか?
確かにあいつなら明らかに手を抜かれて負ければ、 プライドが傷つくだろうな。
「しかし、 そこが不可解なのです。 では何故かの者が本気を出した時、 ラインハルト様はそのまま戦われたのか。 1度剣をぶつかりあった者なら、 その者が本気を出してるか否か、 少なからずは分かるはず。 」
「確かにそんなことするなら、 ラインハルトも隠し球を出していてもおかしくないな。 単純に勝ってしまうから、 とか? 」
「うーん私めも1度はそう思いましたが、 そうでも無いような、 そんな気がするのでございます。 」
うーん。
ラインハルトが隠し球を隠した理由。
なんだろうな。
それは本人にしか知りえないか。
「いやはや脱線してしまいましたな。 いかんいかん歳をとるとどうも疑い深くなってしまう。 ラインハルト様の隠し球でしたな。 それは私め共にも詳しくは分からないのですが、 かの者が最後に見せた技。 身体強化と申しましょうか、 あれに似たような技があると聞き及んでます。 ラインハルト様、 魔王に値するものはそれが使えるのだと。 そう聞いております。 」
「なるほど、 最終奥義みたいなものか。 それはどうやって身につけるんだ? 」
「申し訳ありません、 そこまでは。 」
シグルドは本当に知らないようだった。
「そうか、 わかった。 ありがとう。 またなんかあったら頼むね。今日は俺も休むよ。 」
俺はシグルドにそう告げ部屋に戻ることにした。
俺は部屋につくと早々にベッドに倒れ込んだ。
これからどうするべきか。
ラインハルトの無念を晴らすには。
魔人族を、 勇者を、 皆を助けるためには。
俺に出来ることはなんだ?
俺は知らなさすぎる。
この世界のことを、 みんなが知ってることを、 そして誰も知らない秘密を。
こういう時こそ旅に出るべきか。
井の中の蛙大海を知らず。
1つのとこに留まれば、 そこで得られるものは限られてくる。
俺はみんなの為に旅に出ることを決意した。
ラインハルトの供養が終わったら、 俺はこの街を出ることに決めた。
「ラインハルト任せてくれよ。 」
俺はベッドに横になると、 静かに目を閉じた。
俺がこの世界に来た意味。
それはなんなんだろうか、 なぜ俺なのか。
俺は何が出来るのか。
いやそれを決めるのも、 全て俺なんだ。
俺の行動1つ1つが導いてくれる。
それが正しかったのかはその時にしか分からない。
今は悩むな、 動くしかないんだ。
俺は考えるのもやめにして静寂に全てを委ねた。
…………
う? なんだ?
なんか妙に体が重い。
苦しい!
俺は俺の上にある何かに、 気をつけながら起きた。
吹き飛ばしたりしたらもし定吉とかだったら可哀想だったからだ。
「なんだよ誰だ俺を敷布団にしてるのは。 」
俺が視線をゆっくり落とすと、 そこには。
「おおおお、 お前何してんだここで! 」
「ふぇ? うみゅ、 ふえ? あ、ああああああんた! なんで私の下で寝てるのよ! 」
スミレがヨダレを垂らして俺の上で寝ていたのだ。
「あのなあここ俺の部屋。 俺のベッド。 なんでお前が俺をベッドにしてんだよ。 聞きてえのはこっちだわ。 」
俺が呆れてそう言うと、
「あ、 そそそ、 そうだったわ! 昨日あんたに話があったからあんたの部屋に行ったのよ! そしたらあんた寝てて、 あほ面見てたら眠くなってきちゃって。 そういう事ね、 てへ! 」
手へじゃねえよ!
可愛くねえよ!
「あのなああほ面って、 てか人の部屋で、 しかも俺の上で寝るな! 」
「それはあれよ! 最初はそこのソファーで寝てたの! 気づいたらここにいたの! 」
夢遊病かよ!
「あぁ分かった分かった。 で用は? 」
「あ、 ああそうだったわ。 私しばらくあんたといることにしたから。 いい? 分かったわね。 」
は?
何言ってるんだこいつ。
「は? お前毒でも食べたか? 何言ってんだ、 なんで俺がお前と一緒に居なきゃいけない。 」
「私はそんなアホなことしないわよ! いいあんたは魔王なんでしょ、 いつ悪いことするかもしれないし、 勇者としては捨て置けないの。 それが理由よ。 文句ある? 私が決めたことだから決定事項よ! 」
なんだこいつ自己中にも程があるだろ。
「そもそも魔王や、 魔人がお前らになんかしたのか? 」
「そうよ、 私たちは決して忘れないわ。 ベルムの虐殺を。 」
ベルムの虐殺?
初めて聞くな。
「そのベルムの、 なんだって? 虐殺? なんだそれは。 」
「あんた知らないでここにいたの? いい魔人族や魔王は大昔に人間を虐殺してるの。 それがベルムの虐殺。 細かいことは私は知らないけどね、 私達人間の間では忘れらない大事件なのよ。 まあこれは大昔の話で、 ここ長い間そういった話は聞かないけどね。 一応勇者としては監視する義務があるわ! 」
「へいへい左様ですかい。 もうお好きになさってください、 どうせ言っても聞かないだろうし。 」
ベルムの虐殺か、 これは聞いておくべきか。
「さてと。 」
俺は飯を食べに行く支度をする、 あっ。
「おい部屋から出てくれ。 」
「はっなんで? さっきも言ったけど。 」
俺はスミレの言葉を遮り、
「着替えるから。 それとも俺の裸見たいか? 」
俺がそう言うと彼女は顔を真っ赤にしてそそくさと出ていった。
やれやれとんだ疫病神だ。
俺はそそくさと支度をすると部屋を出た。
部屋を出るとスミレが定吉と遊んでいた。
いつの間に仲良くなったんだあいつら。
「おはようございます。 カランコエ様、 定吉様。 」
「おはようさんシグルド。 そうだまた1つ聞きたいことがあるんだ。 いいかな? 」
「なんなりと。 」
「2人で話したいんだが。 」
俺が遊んでる2匹をチラ見すると、
「ほっほっほっ左様ですか。 であらばこの老骨めの部屋ですると致しましょう。 どうぞ。 」
「定吉とスミレは先に行っててくれ俺もすぐ行く。 」
スミレがまたピーピー喚いていたが定吉に引っ張って連れていかれた。
サンキュ定吉!
「ほっほっほっどうやら勇者様に気に入られたようですな。 」
「ああ迷惑な話だよ。 すまんな無理言ってしまって。 」
「いえいえ気になさらずに。 それでお聞きしたいこととは。 」
「そうそうその事なんだけどベルムの虐殺って知ってるか? 勇者から聞いたんだけどさ。 」
俺がその言葉を口にするとシグルドが少し強ばったような感じがした。
「左様でしたか。 お聞きになられたのですねあの忌まわしき事件を。 」
そういうシグルドの顔は少し悲しそうだった。
「まだお聞きになられてなかったのならお教えいたします。 あれはラインハルト様の前の前の代の話です。 その日は草木が枯れ肌寒くなって来た頃だったと聞いてます。 その日ベルム様、 当時の主様は街を離れていたそうです。 その留守中に暴徒が街を襲撃したのです。 そして人間達は女子供をさらっていったのです。 こう言い残して、 魔王1人で助けにこい、 でなければ街の民も女子供も皆殺しにする、 と。 」
なんて酷い話だ。
「それで当時の魔王ベルムはどうしたんだ? 」
「はい、 もちろんお1人で向かわれたそうです。 そして奴らはベルム様を縛り上げたのです。 おそらくそうすれば何もされないと思ったのでしょう。 ベルム様は大人しく奴らに従ったそうです。 出なければ人質は殺されてしまうからですね。 そして奴らはベルム様が何も出来ないのをいい事に、 ベルム様を殺めようと切りつけるなり、 殴るなり暴虐の限りを尽くしたそうです。 その間ベルム様はただただ、 ひたすらに耐えたそうです。 その時のベルム様の気持ちとたりや、 とても想像出来たものではありません。 」
「きっと悔しかっただろうな、 いやそんな生易しい感情のなんかじゃすまないだろうな。 」
「えぇ、 そして遂に奴らは何度傷つけようとも、 殺せない、 泣き喚いたり命乞いもしない、 ただひたすらに我慢していたベルム様に飽きたのか。 ぐ、 その人質達を遂にベルム様の前で1人1人順番に殺めていきました。 ベルム様は何度も謝りそれを辞めるように懇願したそうです。 それを楽しむように奴らは、 1人ずつなぶり殺していったそうです。 そして遂にはベルム様の前で全員殺してしまったそうです。 女子供関係無く、 そして奴らは今度は町民を殺す、 とベルム様に言い放ったそうです。 そして遂にベルム様は我慢の限界が来たのか。 縄を切り裂きその場にいた全員をなぶり殺したそうです。 これがベルムの虐殺の真実です。 それが何故かベルム様が無抵抗の人間を虐殺した、 と誰かが噂を流しより私どもへの迫害の勢いは強くなりました。 1体どうしてこうなったのか、 いつかベルム様の無念が晴らさられれば良いのですが。 どうかカランコエ様も誤解なさらぬようお願いします。 決してベルム様は無意味に人を殺すようなお方ではなかったと聞いてます。 それだけは確かな事なのです。 」
「ああ、 俺もそう思う。 きっと何か裏がありそうだ。 そうだシグルド俺は今回の供養が終わったら旅に出ようと思うんだ。 その時にベルムのことも調べてみる。 どうかな。 」
「なるほど左様でしたか。 それは寂しくなりますね。 分かりました。 ご留守中の一切はおまかせを。 」
「すまんな手数をかける。 もし暴徒が来た時は殺さない程度追い返してやってくれ。 同じような悲劇は俺は嫌だ。 だが俺が修羅にならなければならない時は、 その時は俺が罪を背負う。 」
「かしこまりました。 おまかせを! 」
シグルドの握ってる手に力が入ってる。
誰もがそんな悲劇は起こしたくないだろう。
そうならないように俺も気張らなければな。
とりあえずシグルドなら一切を任せて大丈夫だろう。
それに定吉も残ってもらおう。
さすがに魔物を連れ歩くのは目立つだろうし。
まあもっと目立つのがついてくる気でいるがな。
「シグルドすまなかったな。 話しづらいことを聞いて。 とりあえずありがとう。 」
「いえいえ貴方様の為なら。 」
「じゃあ朝食を頂いてくるよ。 」
俺はそう言うとひと足先に部屋を出た。
定吉とスミレは既に食事を始めていた。
「あっ来たわね! 何を話していたの。 」
スミレが開口1番にそんなことを言っていた。
「んーまあな秘密の話。 」
「ふーんあっそ。 」
興味ないなら聞くなよなあ。
「なあお前ホントについてくるの? 俺一応魔王だよ? それに勇者が一緒にいるってそれなりにやばくね? 」
「まあいいんじゃない? なんか言われたらそんときはそんときだし。 」
「ふーんそうか、 まあいいけど。 俺の邪魔しなければ。 」
「そっちこそ私の邪魔だけはしないでよね。 」
なんだそれ。
全く変な奴。
ヤレヤレこいつとしばらく旅をしないといけないのか。
気が滅入るな。
「途中で泣き言言うなよー。 」
「はあ!? この私が!? これでも今まで1人で旅してきたのよ。 あんたこそ泣いて喚かないでよね! 」
まあそれもそうか。
ある意味その辺に関しては、 こいつの方が先輩か。
「まあそのあれだ。 よろしくな。 」
「な、 何よ。 改まっちゃって。 私についてくれば問題なしよ! 」
何言ってんだこいつ。
俺についてくるのがこいつだろうに。
どんな旅になることやら。
「出立は明後日だからな。 それまでに怪我とか治しておけよ。 」
「そんなこと言われなくてもわかってるわよ! 」
彼女は顔を赤くしてプクー、 と頬を膨らませた。
ほんと子供みたい。
「そうだ定吉俺が留守の間、 シグルドとここを守ったくれないか。 今度旅に連れていくからさ。 今回は留守を頼めないか? 」
「ワン! 」
定吉は1度吠え、 お座りをした。
どうやらわかってくれたみたいだ。
「すまないな、 ありがとう! 」
よく出来た相棒だ。
俺の留守の間は魔法屋の姉さんが面倒を見てくれるらしいし、 安心だ。
俺が知りたいこと、 どこに行けば手に入れれるだろうか。
その辺はスミレが役に立つかもな。
意外にも。
さてとりあえず今はラインハルトだな。
俺も手伝えることをするか。
俺は朝食を済ますと早速ダリルの元へと向かった。
もちろんスミレもついてきた。
本気なんだなこいつは。
ダリルは広場で追悼の準備を進めていた。
「ダリル進んでるか。 」
「ああカランコエ様、 これはおはようございます! あ、 あと勇者様もお怪我の方はどうでしょうか。 」
「一応良くなってきたわ。 ありがとう。 」
「いえいえラインハルト様のご意志ですので。 カランコエ様どうなされたので? 」
「なんか手伝えることはあるか? 」
「そんなカランコエ様にお手数をおかけする訳には! 」
「いいからいいから暇だし、 俺もラインハルトには世話になったんだ。 なにかさせてくれ。 」
「そうですねそれでは、 北の森までピースフローレンスと言う白い花を取ってきて欲しいのです。 お願い出来ますか? 」
「分かった。 その花なら図鑑で見た事あるから分かるよ。 行ってくるね。 行くかい勇者様は。 」
「当たり前でしょ! 」
ですよね。
俺は指笛を吹いた。
「ワンワン! 」
定吉が走ってきた。
「定吉、 北の森までピースフローレンス取り行くけど、 行くかい? 」
「ワン! 」
聞くまでもなかったようだ。
ついてきてくれるみたいだ。
早速俺たちは北の森に向かうことにした。
北の森まではそんなに遠くはない。
ピースフローレンスは木が多くしげり、 湿ってる所に生えやすい。
北の森は木も多く、 近くに大きな湖もある。
だからよく取れるのだ。
案外この辺には色々な薬草や、 花などが取れる。
「そろそろ森につくな。 定吉まだ歩けるか? 」
「ワン! 」
「大丈夫そうだな。 」
「ちょっと! 私には聞かないの? 」
「あんたは大丈夫だろ。 」
「ふん! 大丈夫よ! 」
全く素直じゃないな。
まあいいけど。
これがこいつの魅力のひとつだろうな。
俺たちは森をしばらく進んでいった。
しばらくすると水の匂いが微かにしてきた。
そろそろ目的地のようだ。
少し歩くと水の反射で光が見えてきた。
相変わらず綺麗だ。
まるで女神様が出てきそうだ。
突然スミレが走り出した。
「すごい!!! 何ここ! こんな綺麗なとこがあったなんて! 」
まるで子供みたいにはしゃいでいた。
まあ子供みたいなもんか。
あれもこれで1人の人間だしな。
すると突然彼女は服を脱ぎ、 下着姿で湖にダイブしていた。
「おいおい大丈夫かよ。 」
「気持ちいい! あんたも来なさいよ! 冷たくて気持ちいいわよ! 」
「いや俺はいい、 泳げないし。 」
俺はピースフローレンスを集めることにした。
俺が花を集めてる間、彼女ははしゃいでいた。
時折俺や定吉に水をかけたりしていた。
やれやれ。
子供のお守りするお父さんはこんな気持ちなのかな。
「ふぅこれでだいたい集まったな。 さてと。 」
2人を見てみる。
相変わらずはしゃいでいる。
まあしばらく見守るか。
俺は近くの木陰に腰を下ろした。
しばらく眺めていると、 不穏な気配を微かに感じた。
なんだこの気味悪い殺気。
俺にじゃないな。
だから気づくのも遅れたか。
おそらくスミレを狙ってる。
どこだ。
俺は気をとがらせる。
あっこか!
2人がはしゃいでいる近くの、 背が高い木。
おそらくあっこだ。
「
俺が放った矢が空気を鋭く裂き刺客に飛来する。
当たったか!?
俺は凝視した。
どうやらすんで躱されたらしい。
俺の矢は木に深く刺さっていた。
「ちっ逃がしたか。 」
「ちょっとなにしてんのよ! 」
うそ、 だろ。
あいつ気づいてなかったのか?
いや、 あいつに気づかなれないように、 気配を消してたのか。
それに集中していて、 俺までには気を回せなかったな。
相当厄介なやつだな。
俺は周りを気にしながら、 2人の元へ向かった。
「お前ほんとか? 狙われてるのに気づいていなかったのか? 」
「はあ!? 嘘でしょ! そんなの信じないわ! 」
まじか、 この期に及んでこいつと言うやつは。
ホントに勇者なのか?
「なあ狙われるようなことした覚え、 あるか? 」
「そんなのある訳! あっ、 でも魔物と魔人達にならないことも無いかも。 」
まだ気にしてるんだな。
「それは無いな。 魔物はともかく、 皆には俺たちから説得してある。 みんながみんな納得してくれた訳ではないけど、 こんなことするやつはあの街にはいないよ。 そしてあれはおそらく人間だ。 魔物とも魔人とも違う匂いがした。 おそらく人間に近い匂いがした。 色々聞き出そうとしたが逃げられてしまった。 これからは気をつけないとな。 」
「そんなまさか。 なんで。 」
どうやら心ここに在らず、 のようだ。
それもそうだろうな。
突然得体の知れないやつに命を狙われたんだ。
「落ち着け、 そう簡単にやられる程勇者様は弱くないんだろ? 」
「ふん! あんたに言われなくたって! わかってるわよ。 」
後ろの方は声が小さくて聞こえなかったが、 とりあえず調子を取り戻してくれたようだ。
「とにかく要は済んだ。 早くここを離れるぞ。 」
「わ、 分かったわ。 」
俺たちは早々に森を去ることにした。
それにしてもあいつ、 1体何者だったんだ。
それに何故勇者であるスミレを。
しかもおそらく人間。
何が目的なんだ。
きっと、 これからもどこかで狙ってくるだろう。
今はチャンスを待つしかないな。
謎は深まるばかりだ。
俺たちは街まで足早に真っ直ぐ戻った。
「やっと着いたか。 」
戻る最中怪しい気配の類は感じなかった。
とりあえず安心かな。
「ダリル待たせてすまなかった。 頼まれてた花だ。 」
「ああ、 カランコエ様ありがとうございます! これだけあれば十分でしょう! 助かりました! あとはゆっくり休まれてください! 」
「分かった、 済まないけど言葉に甘えさせてもらうね。 」
俺たちはダリルに花を渡し、 屋敷に戻ることにした。
「俺はもう休む、 じゃあな。 」
「あ、 今日はその、 そのありがとうね。 」
何やらボソッと言っていた。
「えっなに? 」
「な、 なんでもない! 」
彼女はプクー、 と頬を微かに膨らませ部屋に逃げ込んでいった。
もはやハリセンボンだな、 ありゃ。
俺も部屋に戻った。
そうだ一応念には念をいれるか。
「定吉今日はハリセンボンの所にいてやってくれ。 一応な。 いいか? 」
「ワン! 」
定吉は早速ハリセン、 もといスミレの元へと向かってくれた。
とりあえずこれで安心だろう。
俺にも刺客が差し向けられる時があるのかな。
これからは気を抜けないようだな。
いよいよ雲行きが、 怪しくなってきたようだな。
どうやらこの先の旅は、 一筋縄ではいかないだろうな。
楽しくなってきたじゃないか。
とりあえず旅の支度を少しすることにした。
「ふぅとりあえずこれくらいにして、 あとは出る前にするか。 さてとそろそろ寝るかな。 」
俺が寝ようと部屋の明かりを消そうとした時。
「カランコエ様少しお時間いいですか? 」
ミドナの声が扉の方から聞こえた。
「ん、 ああどうぞ。 入ってくれ。 」
まだ少し目が赤く腫れていたミドナが入ってきた。
「大丈夫かい、 大分目が腫れてるな。 」
「え、 ええ今は大分良くなりました。 ありがとうございます。 」
「なあミドナ、 そう畏まるのはやめないか? 無理にかしこまる必要は無いよ。 」
「えっ! そんなことは! 」
俺は前々からミドナが無理に着飾ってるのが気になっていた。
なんでかは知らないが、 俺にだけはよそよそしいと言うか。
何か距離を置いているような雰囲気を感じていた。
「それとも俺のことを嫌ってるのかい? それなら別に言いだけどね。 俺も無理強いしてはいないし。 ただラインハルトとかと同じように接して欲しいだけだよ。 」
「そ、 そうだったんですね! あ、 そうなのね! その嫌いなんかじゃ、 ないの! その、 やっぱり私みたいな奴と仲良くしてると迷惑かな、 って思って。 」
「自分の価値を自分でさげない事だよ。 君は魅力的だ。 自信を持ちな。 それに俺は迷惑だなんて思わんよ。 」
俺がそう言うと彼女は泣いてしまった。
「ぐすん、 ずびばせん。 」
せっかく落ち着いてきただろうに悪い事をしたかな。
「いやその悪かった。 気にしないでくれ。 」
「い、 いえ嬉しいの。 ありがとう! 」
彼女は目に涙を貯めながら俺を見つめた。
あっやばい可愛い。
「ま、 まあ今日はもう休むといいよ。 」
「うん! あっ、 シグルドから聞いたの。 お父様をお送りした後街を出ると聞いたの。 もう、 もう会えなくなっちゃうの? 」
彼女は不安そうな顔を、 していた。
「いや、 いつかは分からないけど戻るつもりだよ。 そうだお土産持ってくるよ。 何がいいかな? 」
「ほんとに? ありがとう! それじゃあ可愛いぬいぐるみ、 が欲しい。 」
ぬいぐるみ?
そんな物でいいのか。
恥ずかしかったのか、 彼女は両手で顔を覆っている。
「ああ分かった。 男に二言はない。 任せとき! 」
「うん! ありがとう! じゃあそのおやすみなさい! 」
彼女は少し頬を赤らめながらそう言い、 俺の部屋を後にした。
スミレもああなら可愛いんだろうけどな。
なんてことを思った。
さて自分もとりあえず寝ることにした。
ミドナとの約束忘れないようにしないとな。
俺は灯りを消し静寂に身を任せた。
──チュンチュンチュンチュン──
あの日とは違い清々しい朝だ。
今日はラインハルトを天に送り出す日だ。
こんだけ快晴ならラインハルトも気持ちよく天に召されるだろう。
みんな既に広場に集まっていた。
広場の中心にラインハルトは棺に入れられ、 周りを俺達が集めた花に囲まれていた。
こうして見ると寝るようにしか思えない。
また起きてあの時のように大声で笑い飛ばしてくれるんじゃないか、 そんなふうに思えてしまう。
みんな目に涙をうかべていた。
それほど彼は皆に愛されていたのだ。
俺が死んだ時、 涙してくれる人はいるのかな。
またそんなことを思ってしまった。
1人1人が花をラインハルトに添えていく。
そして皆が花を添え終わった。
そしてその時だ。
皆が掲げた松明をラインハルトの棺にいれる。
ピースフローレンスが燃える時、 高く大きな煙が立ち上がる。
その煙に誘われ魂が天に召されるのだという。
安らかに眠ってくれラインハルト。
次はいい人間の親父として生まれ変われよ。
この世界に輪廻転生があるかは知らないが。
しばし皆黙祷を捧げていた。
皆煙が完全に消えるまでその場を離れなかった。
この日俺たちは1人の英雄を、 俺たちの大切な家族を見送った。
人々はこの日を忘れないだろう。
そして俺は今日街を出ることにしていた。
ラインハルトの気持ちを無駄にしないために、 魔人族の為に、 ミドナ達のために、 スミレや彼女の両親の為に!
俺は黙祷を捧げると、 ピースフローレンスの甘い香りが残る広場を去った。
旅の支度はある程度終わらせてたのですぐに終わった。
俺はスミレを呼びに行った。
「スミレそろそろ出ようと思う。 いいか。 」
「えぇ少し待ちなさい。 今行くわ。 」
そう言うと彼女は5分ほどで出てきた。
「じゃあ行くとするか。 」
俺とスミレは屋敷を後にし、 街の外門に向かった。
外門へ着くと、 ダリルらが待っていた。
「お前たちどうしたんだ。 」
「カランコエ様ほんとに今日発たれるのですか? 明日にしても良いのでは。 」
「すまんなダリル。 少し胸騒ぎがするんだ。 それに戒めのためでもある。 ラインハルトを送った今日だからこそ、 やつの思いを無駄にしないために。 俺は今日発つことにしたんだ。 一切を頼んだ。 」
「かしこまりました! 」
ダリルとシグルドは2人揃い頭を下げた。
「カランコエ! 絶対帰ってきてね! 」
ミドナが何かを持ってきた。
「これ受け取って! 」
ミドナは押し花を俺とスミレに手渡した。
これは、 この香り、 イルミネートフラワーか。
「ありがとうミドナ。 大事にするよ! 」
「あ、 ありがとう。 」
スミレも恥ずかしそうに答えた。
俺たちは街を出て旅に出る。
ラインハルトを送ったその日に。
皆が手を振って送ってくれた。
きっとラインハルトも笑顔で送ってくれているだろう。
この旅で何かを掴む。
それが俺に出来る唯一のことだ。
これは新しい門出だ!
俺たちは早速南にある大きな街、 セントローレンムを目指すことにした。
…………
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