第5話 魔王死す

…………

宴は夜通し行われた。

ほとんどの街の住民が宴に参加していた。

みんな酒や食い物を飲んだり食べたりして騒いでいた。

「ガッハッハッこんなに皆で楽しく食事をするのは久しぶりだな。 」

「そうなのか? 」

ベリゴールが倒れたのはそれだけ俺たちにとっていい出来事だったんだな。

「カランコエ様これをどうぞ! 」

街の魔法に詳しい女性が1冊の本を俺に手渡してきた。

「なんだいこれ? 」

「これは魔法書ですわ。 色々な魔法が書かれてるのですよ! カランコエ様ならすぐに覚えてしまうかもしれませんね! 」

「なるほどそれは有難いな! ありがとうお姉さん! 」

「いえいえ! 」

彼女はそう言うとぴょんぴょん飛び跳ねながら離れていった。

ウサギみたいだな。

俺は部屋に早々帰ると先程貰ったその本を読むことに集中していた。

なるほどここには戦闘用だけじゃなく実用的なものや生活で使用できるものも載ってるのか。

これは覚えれることが出来れば色々応用できるだろう。

興味深くて俺はしばらく本から目を離せなくなった。

──チュンチュン──

鳥のさえずりが聞こえる。

「えっもう朝? やべ集中しすぎた。 」

気づいたら朝になっていたらしい。

だが集中してたお陰で本を全部読み解くことが出来た。

あとは俺の応用力とどこまで魔法適正があるかだな。

後で色々試してみようと。

「ふむ、 さすがに寝るかな。 」

俺は急に疲れを感じたので少し寝ることにした。

「ふああああ。 疲れた。 今何時だ? 」

窓から外を覗いてみる。

昼くらいかな。

まあこれくらい寝れれば少しはマシか。

人間は最低6時間以上は寝ないといけないらしい。

今日は多めに寝ないとな。

少しベッドに腰掛けていた。

そうだ一応読み終わったしこの本返すかな。

俺は重い体を動かし外に出る支度をした。

支度と言っても着替えるだけだが。

俺はチャチャと着替えて外に出た。

確かあの人の店はあそこだな。

俺は杖と本の看板の店に歩を進めた。

「ちわーお姉さんいるー? 」

「あらーカランコエ様! いらっしゃい! どうしました? 」

奥からお姉さんがパタパタと駆け寄ってきた。

「これありがとうね! お陰様で見識を広めることが出来たよ。 」

「お役に立てて何よりです! カランコエ様の為ならこれくらい。 」

ほんとに彼女は献身的で理想の女性だな。

どの男子もこういう女性が好みだろうな。

見た目も綺麗だし。

俺じゃなきゃ惚れちゃうね。

「魔法の書みたいなの他にはあるの? 」

「うーんカランコエ様の役に立てそうなのはあれくらいですかね? 」

「そうかじゃあ伝記みたいなのはある? 勇者とか魔人とか一天教とかに関するやつだと良いな。 」

「あっそれならこちらならどうでしょう! 」

彼女はカウンターの下から1冊の古ぼけた本を取り出した。

「これは? 」

「この本ならカランコエ様の知りたいことが載ってるかもしれませんよ! 」

「なるほど! ありがとう! 」

俺は早速その本を部屋に持ち帰った。

「今日は遅くならない程度に読むか。 」

俺は早速貰った本を読み始めた。

この本魔法書ぐらいの厚みはあるな。

時間はかかりそうだが俺は元々本を読むのは早い方なのですぐ終わるだろう。

…………

「ふぅこんなもんか。 だいたい得られるものは得たかな。 俺が今まで見聞きした内容と大差なかったな。 ただ気になるのは一天教の神についてほとんどの記述が神のことを絶対だの唯一無二の存在だの、 そんな記述ばかりと言うところだな。 この本によると神も元々人間だったらしいし。 そしてこの宗教を作ったのがその神、 そして他の宗教が存在しないということ。 これすなわち独裁を意味するのではないか? おっと今何時だ? 」

あたりはそこそこ暗くなってきた。

周りの店の明かりも少し減ってきていた。

まだそこまで夜は深けてないみたいだ。

「まあ昨日は寝るの遅かったし寝るかな。 」

俺は少し早いがもう寝ることにした。

「今日はゆっくり眠れそうだな。 体も喜ぶだろう! 」

俺はそうそうに部屋の明かりを落としベッドにもたれかかった。

俺が眠りにつくのにそう時間はかからなかった。

──チュンチュンチュンチュン──

鳥のさえずりで目が覚める。

「ふあああああ今日は気持ちいいな。 ぐっすり眠れたな! 」

今日は何しようかな、 そうだ魔法の練習でもしようかな。

俺は早速飯を済ませ外に出る支度をした。

街の少し離れたところに手頃な森があるな。

そこで練習するとしようかな。

俺は街から1時間程の距離にある森へと向かった。

「ここなら誰にも迷惑かからんしな、 そこそこ広いし。 ここでいいだろう。」

俺は早速木の隙間に隠してあった訓練用のデク人形を取り出した。

「今日も悪いけど相手頼むなデクゾー! 」

ちなみにデクゾーはこのデク人形の名前だ。

実はこっそり魔法や剣の練習をここでこっそりしていたのだ。

恐らくそれを知る人は居ないだろう。

俺は努力とかそう言った類のものは大嫌いだが剣や魔法は俺のいた世界には無いもの。

それに1度は誰でも憧れるものだろう。

つい色々試したくなってしまう。

「今日は何からやろうかな、 そうだエンチャントって俺みたいな両刃の武器はそれぞれ別の付けれるのかな。 」

俺は早速センチネルの片刃に氷の属性を纏わせた。

「よし次は反対の刃に炎の属性を纏わせるか。 」

俺は次にもう片方の刃に炎属性を纏わせてみた。

「おぉ! いけるんだ! 」

センチネルは片方に氷を、 もう片方に炎の属性を纏っていた。

これはなかなか面白いな。

アサシンブレードにも同様のことが出来るようだった。

「よーし今日はとりあえず魔法の練習だからなどんどん試すぞ! 」

早速俺は本で覚えた魔法を片っ端から試すことにした。

デクゾーは特性の素材で作ってある。

魔法も斬撃も全て吸収する。

だから周りの被害をほとんど気にせずどんどんぶつけることが出来るのだ。

加工も難しいしとてもレアな素材らしい。

防具に使えたら最強じゃね?

だが防具にするには圧倒的に素材や技術が不足してるらしいのだ。

デク人形作るのとは訳が違うらしいのだ。

これは専門家じゃない俺からしたら違いが分からんがプロが言うのだからそうなのだろう。

だがお陰で全力で練習出来るからどっちにしろ有難いことだ。

デクゾーを盾として持てば強いんじゃね?

いや想像してみると滑稽だな。

「ふぅ結構いい練習になったな。 」

俺は一通り試したので休憩をとることにした。

流石に疲れる。

魔素を使いすぎたかな。

一応MP的なものがあるらしい。

これも総体的に増やすことが出来るらしいが。

それにこれは個人差もあるらしい。

俺は魔王の証を手に入れたことで魔王の力が覚醒した。

これにより魔素が増大しているとの話だ。

身体能力も上がっている。

更にこれがまだこれから伸びるとの話。

これは楽しみになってきた。

あの勇者とかは相当魔素が強いんだろうな。

剣はそこまでだったが。

どちらかと言うと魔法寄りなんだろう。

彼女は魔法は並々ならぬ力を感じたし。

ラインハルトはどちらかと言うと剣豪感あるな。

実際どうなんだろ。

てか勇者とラインハルトどっちが強いのかな。

少し興味はある。

実際俺はあの勇者に勝てそうにないな。

あんなのバケモンだろ。

俺も強くならないとな。

みんなの為にも成し遂げなければ。

「ふうそろそろ再開するか。 うーんあれを試したいんだがこれはデクゾーじゃ出来ないしなあ。 どうしたもんか。 」

俺は試したい魔法があったのだがそれをするには魔法を打ち込んでくれる相手が必要だ。

「うーん誰に頼もう。 困ったな。 」

俺が頭を抱えていると、 突然人の気配がした。

「誰だ!? そこにいるのは。 」

俺がそう言うと木々の隙間から1人の老人が現れた。

「ほっほっほっこれはこれは見つかってしまいましたか。 カランコエ様。 流石と言うべきですね。 」

老人は手をパチパチと叩きながら出てきた。

なんだこの老人、 どこかで会ったけ?

なんで俺の名前を知ってる。

「あんたどこかで会ったことあったか? 」

「なになに気になさなるな若人よ。 お主魔法や剣の練習をここでしておるのだろう? そこのデクゾーで。 」

「そこまで知ってるのか。 」

「そして今ひとつ物足りなさを感じておる。 」

そこまで、 こいつは一体何者だ。

「まあ確かにそうだな。 試したいことはあらかた試したが一つだけ試せてないのがあるんだがね。 流石にこのデクゾーじゃ魔法を俺に打ち込んではくれない。 そこで誰か手伝ってくれる人がいたらなー、 って思ってるだけだよ。 」

「ほっほっほっカランコエ様その役目、 この私めがお手伝いをしましょうか? 」

この爺さんが?

魔法を使えるのか?

確かにこの老人からは並々ならぬ物を感じてる。

「いいのか? それは有難いが。 」

「ふふふほっほっほっ安心なされよ。 ちゃんと手加減はしますゆえ。 」

随分な自信だな。

「分かったそれじゃあお願いします! 」

「ほっほっほっ任された。 では行くぞ! 」

老人は詠唱を始めた。

この詠唱は。

俺の魔法と同じ!?

黒い大きな玉が老人の片手の上に現れた。

「カランコエ様準備は良いですかな? 私めがまだ見ず技とくとお見せ下さいませ。 いきますよ! 」

老人は何やら訳の分からんことを言った。

だが利用させてもらうとするか!

「闇の力よ我が声に答えよ。 彼の魔法をうち滅ぼさん力となれ、 闇の抱擁ブラックホール

俺の前に黒い渦が生成される。

「ほほうこれはこれは素晴らしい! まだこんな面白い物を持ってたのですね。 」

老人が放った魔法を俺の魔法が吸収した。

凄い成功だ!

しかも魔素も吸収するのか。

これは凄い!

「やった! ありがとう爺さん! 完成だ! 」

「ほっほっほっそれは早計かと思われますぞ? 」

「ん? どういうことだ? 」

「まあ次はこれでいきましょう。 」

老人はまた魔法を詠唱した。

次は先程とは違う魔法みたいだ。

「さあカランコエ様いきますよ! 」

今度は光の魔法か。

俺は同じく同じ術式を唱えた。

しかし結果はさっきと違った。

老人の魔法はそのまま俺に直撃した。

「ぐっ、 なんでだ? 」

「ほっほっほっやはり。 カランコエ様その魔法は完成にはまだ早いようですな。 」

「ぐ、 そうだな。 だが何故。 うーんさっきは成功した。 さっきと何が違う。 今回も老人が使ってたのは俺が練習してた魔法。 さっきと違うのは? さっきは闇と闇。 今のは光と闇。 属性が違う。 もしかしたらこの対魔法用防御術は相手の魔法と同じ属性じゃないといけない!? そういうことか! 」

「ほっほっほっどうやら掴めたようですな。 」

「爺さん分かったよ! あれ? 」

俺が老人がいた方をむくとそこにはもう老人は居なかった。

そこにはデクゾーがただ立っていた。

「あれデクゾーそこに置いたっけ? 爺さんどこいったんだ? 」

今思えばあの爺さんは急に現れたしそりゃ急に消えれるか。

俺は術式を練り直すため1度部屋に戻ることにした。

デクゾーを元の場所にしまいそこを立ち去ろうとした時。

「ほっほっほっ頑張ってくだされカランコエ様。 また楽しみにしております。 」

突然デクゾーの方から老人の声が聞こえた、 ような気がする。

「まあ気のせいか。 」

そんなことあるわけないよなきっと。

俺はそう思うことにした。

「デクゾー、 爺さんありがとう! 」

早速部屋に戻り術式を練り直すことにした。

と言っても属性に合わせた魔法を作りまくる。

それだけなんだが。

そこまで難しくはない。

と思われる。

そもそも魔法の属性を変えること自体は難しいことでは無いらしい。

あとはそれが成功するかどうか。

この辺は実践あるのみかな。

色々試してみよう。

だがだいぶやりたいことはできた。

あの爺さんとデクゾーには礼を言わんとな。

なんとしても完成させるぞ!

そう言えばあの爺さんなんで俺のこと知ってたんだ?

それにあそこで練習してる事も。

他に知ってるやついるのか?

それは恥ずかしいな。

あそこならバレないと思ってたのに。

あれは軽くショックを受けていた。

影で努力やら練習やらしてるのを見られるのはなかなかに恥ずかしいことだ。

俺はそう思う。

まあバレた時はその時だ。

てか変な爺さんにバレてるあたり他の奴にもバレてるだろうが。

俺はあの爺さんの事が気になりつつも部屋で術式を練ることにした。

…………

「ふぅこれで他の属性魔法も対応出来るようになるだろ。 ただ改良の余地はあるな。 これはようは後出し魔法。 速効性魔法には詠唱が間に合わない可能性もある。 まあ勘で先うちとかも悪くないが。 確実性に欠ける。 もう少し早く出せるようにしないとな。 」

ため息をつく。

流石に疲れがどっと来た。

ふと窓を見てみる。

だいぶ日が傾いてきている。

知らない間に時間が経っていたようだ。

「あっ飯食ってねえや。 まあ今から食うのも面倒臭いな。 寝るか。 」

そこまで耐えれないほどの空腹でもないしな。

とりあえず今日は寝ることにした。

──ザーー──

激しく打ち付ける雨の音で目が覚める。

ここに来てこんな雨に見舞われるのはほぼほぼ初めての気がするな。

嫌な雨だ。

俺はその日はラインハルト、 ミドナとダリル達とお茶をしていた。

そう言えばシグルドが見当たらないな。

こういう場はだいたいシグルドもいるのだが。

今日はマリーしか見えない。

「シグルドはどうしたんだ? 」

俺はふと聞いてみた。

「シグルドか。 やつは今は見回りにでてるぞ。 何やら胸騒ぎがするとか言っておったな。 」

確かに俺も今日は起きてから妙に落ち着かない。

この雨のせいだろうか。

俺は不安をかき乱すためお茶を流し込んだ。

──バン──

突然扉が開かれる。

使用人の1人だ。

「どうした少しは静かにしないか。 」

ラインハルトが諭す。

「シグルド様が! シグルド様が! 」

「シグルドがどうした! 」

ラインハルトが少し身を乗り出す。

「シグルド様がお庭で勇者と戦われてます! 」

「なんだと! ついに来おったか! 」

「ラインハルト様どうなさるおつもりで? 」

「わしが行く、 やつの狙いはわしだからの。 」

ラインハルトがそそくさと庭に向かって駆けて行った。

俺達も後に続く。

庭に着くと既にシグルドと勇者が激しくぶつかり合っていた。

「シグルドよせ! わしの客人だ。 」

ラインハルトがそう叫ぶと2人はラインハルトの方を見るや否や剣を納めた。

「ら、 ラインハルト様、 申し訳あ、 ありません。 しかし! 」

「皆まで言うな。 わかっておる。 時が来たようだ。 覚悟は出来ておる。 」

「あんたが魔王ね! さあ私にとっとと倒されなさい! そうすれば全て丸く収まるのよ! あれ、 あんたどこかで。 」

スミレは俺を見ると顔を傾げた。

「久しぶりベリゴール戦以来かな。 勇者様。」

彼女はこんなとこで再会した驚きと思い出したという何とも言えない複雑な顔をしていた。

「えっなんであんたがここにいるのよ! まさか誘拐でもされたの!? 」

「いや俺は俺の意思でここにいるんだ、 気にするな。 」

「ふ、 ふんあんたに興味はないからどうでもいいわ。 それより魔王私と戦いなさい! 」

スミレはラインハルトに剣を向ける。

「ラインハルト様! 」

「わかっておる! 誰も手を出すなこれはわしの使命だ。 あとは任せたぞ。 」

腰にさしていた剣を引き抜いた。

遂に恐れていたことが起きたのだ。

勇者とラインハルトが争う時が。

2人が睨み合い暫し沈黙が続く。

誰もが静かに固唾を飲み込んだ。

雨もやみ始めていた。

静かに2人はいまだ睨み合っている。

俺たちの見えないところで激しい心理戦が繰り広げられているのだろう。

達人どおしの戦いとはそういうものだ。

ただ見てるだけでも手に汗握る。

物凄い気迫だ。

そろそろか。

そろそろ動くな。

「参る! 」

ラインハルトが一気に勇者に詰め寄る。

──ガキィン──

2人がぶつかり合う。

「ふふふやるじゃない! 流石は魔王と言ったところね! とっととあんたを倒してみんなを救うんだから! 」

何度か剣をぶつけ合うと2人は距離を取った。

「ホーリーソード! 」

勇者が剣に属性付与を行った。

「ダークブラスト。 」

ラインハルトが勇者に向けて黒い小さい玉を放った。

「こんなものこうしてくれるわ! 」

勇者は剣で振り払った。

「ガッハッハッ流石は勇者! 今までの勇者とも違うらしい。 わしの目に狂いはないな! お主ならもしや……いや今は戦いに集中せねばな。 」

「今度は私から行くわ! シャイニングバレット! 」

今度は勇者がラインハルトに向けて光の弾を放った。

「ガッハッハッ威勢が良いなあ。 だがその程度造作もない。 」

ラインハルトは……ておい!

嘘かよ!

ラインハルトは勇者の放った魔法を素手で叩き伏せた。

流石にこれは勇者も想像してなかったらしい。

まさか、 と言う顔をしていた。

「へ、 へえーやるじゃない。 これは本気を少し出さないとね。 」

「ガッハッハッまだまだ若いもんには負けんよ。 まだまだ伸びしろがあるな! 」

ラインハルトはとても楽しそうだった。

「どんどんこい! 」

「言われなくてもやってやるわ! 」

2人は何度も何度も魔法や剣を打ち付けあった。

どちらもいい勝負だ。

それよかラインハルトの方が少し上に行ってるような気がする。

正味負けそうには思えない。

勇者は全力で戦ってるようだがラインハルトはまだ余裕さが見える。

勇者は半ば意地になってるようだがラインハルトは終始笑っていた。

「もう怒った! 余裕かましちゃって! 本気出してやるわ! 」

「ガッハッハッそれは楽しみだ。 さあ全てを出すんだ! 」

勇者は何やらまた詠唱を始めた。

聞いたことない詠唱だな。

「勇者の名において私に力を与えなさい! 勇者の開眼アイ・オブザ・ブレイブ

「ガッハッハッついに出しおったか。 」

凄い何だこのオーラーは。

勇者のオーラが先程とは比べられないくらいに大きくなっている。

ラインハルトも流石に余裕がなくなってきたらしい。

笑みが少し引きつっていた。

「私にこの技を出させるとはね! あんたがはじめてよ! でも後悔しても遅いわよ! 勇者の真の力見せてやるわ! 」

「ガッハッハッ待ってたぜ勇者さんよ! だがタダでは負けんぞ! 」

再び2人がぶつかり合う!

凄い先程とは比べ物にならない。

勇者の動きが3倍以上にも飛躍している。

だがラインハルトもそれに食らいついてる。

とんでもない戦いを見せられている。

魔法も剣も全てが先程とは違う。

威力もスピードも。

これが勇者と魔王の真の力のぶつかり合いか!

だいぶ目が慣れてきて動きを観察できるようになってきた。

やはりラインハルトは辛そうだな。

勇者のスピードに圧倒されてきてる。

もはや余裕がないのか笑みが消えていた。

「な、 なぜラインハルト様。 あれをしないんだ! 」

ダリルがボソッと呟いた。

何?

ラインハルトは何かをまだ隠し持ってるのか。

だがなぜ使わない。

「ふん、 やるじゃない力を解き放った私についてくるなんて。 でもこれはどうかしら。 受けなさい私の全力! ファイナルジャッジメント! 」

「ふっ、 ここまでか。 ダークネスファイア! 」

ラインハルトは小さい声で何かを言った。

そして苦し紛れか魔法を放った。

「そんなもので止められないわ! 」

勇者の手から放たれた魔法が無慈悲にもラインハルトの魔法をかき消し、 そのままラインハルトを包み込んだ。

「ラインハルト様! 」

「父様! 」

その場にいるものが皆揃って叫んだ。

「ぐ、 さ、 流石だ。 これでやっと…………。 」

ラインハルトはそう呟くと地面に倒れた。

「やっ、 やっと終わったわ。 これ、 でようやく。 」

何故か勇者もその場で倒れた。

「おのれこのガキ! 」

町民の1人が勇者に剣を突き刺そうとする。

するとラインハルトが、

「やめんか! そやつに罪は、 な、 ない。 頼む手を出さんでやってくれ、 頼む。 」

ラインハルトは息を漏らしながらそう呟いた。

町民はしかし、 しかし、 と言いながらも泣きながら剣を納めた。

「ミドナ、 聞こ、 えるか? 彼女を治療してやるのだ。 その物を失うわけ、 にはいかん。 」

人のことより自分のことだろうよ。

全くラインハルトあんたってやつは。

「しかし父様! 勇者なのですよ! 父様を傷つけた相手をですか!? 」

ミドナは納得いかないようだった。

それもそうだろうな。

それになぜ勇者もダメージを受けたのだ?

シグルドやダリルがミドナに付き添い勇者の所へと向かった。

「カランコエ、 こっちへ来てくれ。 お主に話したいことがある。 」

ラインハルトがボソボソとささやいていた。

「何だラインハルト、 それより今治癒魔法をかける! ミドナたち程の効果はないけどよ! 」

「すまんな。 手をかける。 ミドナたちのこと頼んだ。 あいつはお前に懐いてる。 わしはもう死ぬだろう。 そしておそらく今回も……。 だからお前に託す。 それにはやはり勇者である奴が必要になるだろう。 あ、 あの者は他の勇者とは何かが違う。 きっと彼女なら。 わしはそう思った。 だから頼んだ。 ぐ、 実はなこれは内緒だがミドナはわしの本当の娘じゃないんだ。 だけどそれでもあの子には幸せになって欲しい、 人間に戻ってなんのしがらみもない世界で生きて欲しいんだ。 」

「分かった分かったからもう言うな! 諦めるなよ! それにミドナはあんたが居なきゃ幸せになれないだろ! だから死ぬな! 」

俺は叫んだ。

ラインハルトは俺が添えてる手を優しく掴み、 頼んだ、 と一言呟くと静かに目を閉じ息を引き取った。

「何を頼んだ、 だよ。 手を抜いて最初から死ぬ気マンマンじゃないかよ! そんなの誰だって見ればわかるぞ! 」

俺の叫びは虚しくラインハルトは答えなかった。

「ラインハルト様、 ゆっくり休まれてください。 」

ダリルとシグルドが静かに歩み寄ってきた。

「カランコエ様とりあえず勇者は治療致しました。 どうやら勇者の真の力を解放するとそのものにも代償にダメージが返ってくるらしいですね。 ラインハルト様も真の力を解放していれば勝てたでしょうに。 」

やはりラインハルトは力を隠していたのか。

「ラインハルト様は最初から死ぬおつもりでした。 それに此度の勇者殿は他の者とは違うとも。 私たちはラインハルト様の意志を、 そしてカランコエ様貴方様に従います。 ミドナ様は暫し受け入れるに時間がかかるでしょうが。 きっと貴方様なら大丈夫でしょう。 私達も手伝います。 」

「ありがとう2人とも、 いつも助けて貰って済まない。 とりあえず勇者は客室に俺が運ぶよ。 明日はラインハルトを弔ってあげよう。 ここではどう言うふうにするんだ? それに従うよ。 」

「畏まりました。 皆もそれを望んでるでしょう。 私め共はそちらの準備をしましょう。 勇者殿は頼みました。 ダリルはミドナ様を。 」

各々がそれぞれの役目の為に動いた。

俺はとりあえず勇者を空いてる客室に運んだ。

今はみんな時間が必要だろう。

俺は勇者が目覚めるのを待つことにした。

…………

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