第4話 勇者との出会い
…………
──カキンカキン、 どごおおおおん──
何とかやつの攻撃をいなすことは出来る。
動きもそこまで俊敏ではない。
だが一撃一限が重い!
それにあの炎、 厄介だ。
とにかくやつの攻撃は食らうわけにはいかないな。
とにかく地べた這いつくばっても食らいつくしかない!
活路を見出すしかない!
やつが大きく上段へ剣を振りかぶった。
しめた!
これなら大きな隙が出来る!
ギリギリでかわすんだ!
俺はやつに対面し動向をしっかり見据えた。
この構え、 恐らく叩きつけのはず。
やつが叩きつけをしたあとはほんの少しだけ時間が出来る。
やつが剣を引き抜く動作が必ず入るはず。
そしてやつが剣を振り下ろした。
すぅぅゥぅ。
俺はゆっくり息を吸う。
今だ!
俺は限界まで待ち当たる寸前で横にとんだ。
──どごおおおおん──
やつの剣は地面をえぐっていた。
案の定地面に剣が深く入り込んでいる。
俺はやつが剣を引き抜こうとしてる腕に飛び移りそのまま顔めがけて駆け抜ける。
やつがそれに気づくと片手で俺を払い落とそうとした。
「うぉ! マジかあっぶねえ! 」
俺は咄嗟にジャンプしてその手を避けれた。
そしてそのまま顔目掛けて突進。
やつの片目にセンチネルを突き立ててやった。
近くで見ると恐ろしい顔していやがる。
あっこいつオッドアイなんだ。
今更ながらにそんなことを思った。
「ぐおおおおお! 」
やつが呻き声をあげ片目を押さえる。
どうやらまたまた怒らしちまったかな?
このアヌビスみたいな見た目の守護者にはどうやら俺の攻撃は通るようだ。
さすがに無理ゲーでは無いらしい。
まあジリ貧だけどな。
時間はかかるがゆっくりだ。
ゆっくりやるんだ!
死にゲーをやってる時のように慎重にいくぞ。
シグルドの訓練の賜物なのか身体能力は飛躍的に上がってる。
今の俺は普通の人間では考えられない位の力はあるはずだ。
やつの攻撃を防げるのがいい例だろう。
やつは1度大きく剣を横に振るった。
するとやつの剣に纏っていた炎が消えた。
そしてやつはまた片手を剣に添えた。
今度はなんだよ。
やつの剣は今度は氷を纏っていた。
今度は氷か、 炎に氷なんでもござれだな。
そして心做しかやつの攻撃パターンに変化が見られた気がした。
手数が増えてる気がする。
捌ききれない訳では無いが攻撃を防いだ時の冷気がキツすぎる。
寒い〜。
心做しか周りの気温も少しずつ少しずつ下がって来た気がする。
やつの猛攻もなかなかに激しい。
叩きつけが減った代わりになぎ払いや突きなど攻撃が多彩で複雑になってきた。
これもお約束か。
体力が減るとパターンが変わるってやつか。
少しスピードも早くなって来ている。
本気ということか。
だが頭に血が昇ってきてるようだな。
こっちは冷静に行くぜ。
防げそうなのは防いで避けれるのは避ける!
体力が尽きるまでに活路を見出さなければ負けだ。
やつもスタミナが無尽蔵な訳では無いだろう。
少しずつ動きも鈍くなってきてはいるように思える。
少しずつだが俺も反撃出来ている。
少しだがダメージを入れれることが出来ているだろう。
少しずつ壁に追いやられていく。
これは少し不味いか、 いやチャンスとも言えるか。
俺はチラッと後ろをみて壁との距離を確認する。
これくらいでいけるか。
やつは剣を大きく横に振りかぶった。
やつは横になぎ払いするな!
俺はそれを確認すると壁に向かって飛びついた。
壁に足がつくと俺は脚力の限り思い切り蹴った。
丁度やつが剣を振るった所に対面する。
やつの剣は俺の数センチ真下を通過した。
──ズガアアアアン──
けたたましい音と共にやつの剣は壁に行く手を阻まれていた。
剣を引き抜くのに苦労しているようだ。
俺はやつの剣の上に運良く取り付くことが出来た。
そのまま剣を伝ってやつの顔目がけて必死に走った。
やつが慌てて俺は払おうとする。
俺は寸前でそれを躱しやつの目にセンチネルを投げつけた。
「ぐぎゃあああああああああおおおおおー! 」
やつの悲痛な叫びがこだまする。
急に暴れ出した反動で俺はやつから振り落とされた。
「このまま落ちるわけには行かないな! お土産だよ! 」
俺はやつの胸目掛けてアサシンブレードを両手とも突き立てた。
「う、 うがああああああああああ! 」
やつが更に暴れる。
俺は反動で体が上に持ち上げられる。
「おっとまだ足りないのかならこれもおまけだ! 」
俺はブーツのブレードも突き出した。
反動を利用してやつの腹めがけてブーツを突き立てる。
「が、 はあああああああ 」
そのままやつは絶叫しながら地面に倒れ込んだ。
しばらく小さくうめき声を漏らしていたがやがてやつは最初に見た時のように沈黙した。
「はぁはぁ、 これでしまいか? 」
正直俺ももう体力の限界だ。
これ以上は戦えん。
俺が地面に座り込んでいるとまた例の声が響いてきた。
「なるほどお主の力存分に見せてもらった。 」
突然目の前が真っ白になった。
ここに移動させられた時と同じだ。
しばらくすると視界が晴れてきた。
どうやら例の部屋に戻されたようだな。
「改めて良くぞ試練を乗り越えた。 まさか人間があそこまで戦えるとはな。 驚きを隠せんわ。 お主の知略、 戦闘力、 勇気しかと見届けた。 お主は魔王にそぐう資格があるようじゃな。 ではこれを受け取るとよい。 手を差し出しなされ。 」
俺は片膝をついて両手を差し出した。
何やらアクセサリーのようなものがゆっくり降ってきた。
これは指輪?
そう言えばラインハルトも同じやつしてたな。
「それを左手の薬指につけるのじゃ。 良いな? それをつけた途端お主は魔王を正式に継ぐものとなる。 」
左手の薬指ってピンキーリングかよ。
まあいいか。
俺は言葉通りに指輪をはめた。
その途端自分の内から何か湧き上がる物を感じた。
「お主は今まさに魔王の力が開花し始めておる。 どうやら魔法の適性が無かったようじゃがこれで魔法も習得ができよう。 それとお主が正式に魔王を継ぐのは現任が死した時そやつの指輪にお主の指輪を軽くぶつけるのじゃ。 それが儀式となる。 よいな? 我らの悲願をどうかよろしく頼む。 」
そう言うと不思議な声は聞こえなくなってしまった。
「俺にも魔法が使えるようになったのか、 今のところ実感湧かないが誰かに教えてもらうとするか。 」
何はともあれ無事試練に合格した、 ってことでいいんだよな?
とりあえず俺たちは街に帰ることにしたのだった。
とりあえず日もだいぶ傾いていたので手頃なとこで俺たちは野営することにした。
これで俺も魔王になるのか。
まあまだラインハルトはピンピンしてるから実質まだなのだが。
ラインハルトが言うようなことがほんとに起きるのだろうか。
それに勇者はそんなにも強大なのだろうか。
ラインハルトは相当強いらしい。
シグルドはそう言っていた。
やつが負ける相手に俺がどうこうできるのだろうか。
そんなことが頭をよぎってなかなかに寝付かないでいた。
だが眠気には勝てないもの。
ボーとしていたら次第にウトウトしてきた。
瞼も次第に重くなってきた。
抗うのを諦め身を任せる。
目の前が暗くなってきた。
もう休もう。
…………
──チュンチュン──
鳥のさえずりで目が覚める。
もう朝か。
結構寝てしまったようだ。
だがゆっくり疲れを取ることが出来たみたいだ。
ほんとに無事試練をクリア出来たんだんな。
嬉しくて目頭が熱くなる。
おっといけねえ最近は脆くなってきたな。
歳は取りたくないな。
俺たちは荷物をまとめると街へ再び歩き始めた。
街がようやく見えてきた。
おや?
どうやらダリルらが出迎えてくれてるようだ。
みんな俺たちを見ると手を振ってたりしていた。
なんだよ泣かしてくれるじゃねえか。
ダリルたちが駆け寄ってきた。
「ご無事そうで何よりです! その様子では試練無事に乗り越えられたようですね! 」
「あぁありがとう! ダリルの作ってくれた装備が優秀だから助かったよ。 」
「ん? あまり浮かない様子。 何か心配事でも? 」
どうやら俺は不安そうな顔をしていたらしい。
「うん? ああちょっとな。 魔物達って指導者かなんかいるのか? 」
ダリルは驚いた顔をした。
「そんなはずはありません! やつはラインハルト様が確かに… 」
歯切れが悪いな。
どうやら何か事情を知ってそうだな。
だが深くは追求するのも悪いか。
「いやなんでもない気にしないでくれ。 」
とりあえずお茶を濁しておいた。
ダリルも何やら浮かばない様子だった。
「ま、 まあ何はともあれおめでとうございます! 」
みんな改めて俺を祝ってくれた。
俺はダリルに連れられラインハルトのとこに連れていかれた。
「おぉ! カランコエよ! よくぞやってくれた。 お主なら成し遂げてくれると思っておったわい! 」
「ありがとうまあ結構ギリギリだったけどね。 途中邪魔も入ったし。 」
「なに? 一体全体なにがあった? 」
ラインハルトは不思議そうに聞いてきた。
「なんかさ祠の前に着きそうになった時魔物の4大なんちゃらのなんて言ったかな。 です、 デスマーブル? いや違うな、 デスマーケット? 確かそんな名前だったかな。 そいつに待ち伏せされてたんだよな。 」
俺がその話をするとラインハルトたちが驚いた顔をしていた。
「カランコエよそれは誠か? そうなるとやつの復活を疑わなければならないな。 」
「そうですねラインハルト様。 これは由々しき事態かと。 」
「えぇあやつが復活したとなればこれは少々捨て置けないですな。 」
3人が怪訝そうな顔で何やら相談していた。
「うむだがこれは心配しなくていい話題かもしれんぞ? 」
「どうしてです? 」
ラインハルトがそう言うとダリルとシグルドが口を揃えてそう言った。
確かによく分からないが何故ラインハルトがそう思ったかは俺も気になるな。
「いやなこれは俺の推定でしかないんだがな勇者がやつを倒すんじゃないかと思ってる。 あくまで想定だがなガッハッハッ。 」
勇者が?
「確かに勇者ならやつを倒せるかもしれませんがそれは確実とは言えませんと思いますが? 」
「うーんわしも確信は持てん。 だがわしがこれまでに聞いてきた奴の話から想定するとだな今回の勇者はそういうやつじゃないかなと思ってな。 まあわしの見込み違いでなければだがな。 ガッハッハッ。 」
ラインハルトはそう言っていた。
「なるほどラインハルト様がそう仰るならそうなのかも知れませんな。 ですが対策を練っておくだけでもしておくべきかと。 」
シグルドがそう進言した。
「うむ、 念には念を入れておくかガッハッハッ! 」
3人は俺をよそ目に何やら色々と相談を始めた。
なんか気まずくなった俺は早々に立ち去った。
…………
そして時同じくしてアンダーグランドでは。
「我が奥義喰らいなさい! シャイニングバスターソード! 」
「ぐあああああああああ! 」
「ふっふっふっふ4大将軍が1人ターキー口ほどにもないわね! 」
「きき、 き私なんぞ将軍の中では1番弱いと言われている! わ、 私なんかを倒したとこで喜んでいてはこの先思いやれるね。 」
「ふんこの私に勝てるやつなんていないわ! 雑魚はとっとと黙りなさい! 」
「ふ、 ふん最強のデスマーケットが亡き今私たちはより強くなる為にベリゴール様より新たな力を頂いておるわ! ほかの2人が私みたいに弱いと思うなよ! きききき、 ぐはぁ。 」
「ふん息絶えたわね。 まさか将軍のデスマーケットが既にやられているなんて。 なかなかやるやついるわね。 だけど悪魔王の首は私のものよ! そしてその次は魔王! やつを倒して平和を手に入れる! 」
…………
俺はラインハルトたちが何を気にしてるのか気になったのでミドナに聞いてみることにした。
「なあミドナ、 ベリゴール? だっけかな何か知ってる? 」
「うーんそう言えば父様が昔言ってた気がしますね。 確か魔物を率いて人間、 魔人関係なく戦いを吹っかけてたとか。 確かだいぶ前に父様たちが討伐なされたと聞きましたが。 それが何か? 」
「そうなんだ。 いやなんでもないよ、 その魔物達はどこから来てるの? 」
「だいたいはアンダーグランドにいると聞いてます。 」
「そこにはどうやって行くんだ? 」
「えーと確かこの街から西に行くとそこに通じてる洞窟があるとかないとか。 そんなこと聞いてどうするんですか? 」
「どうしようもしないよ。 ただの興味さ。 ありがとうね! 」
俺はミドナに礼を言うとそそくさと立ち去った。
少しばかり冒険に行くとするか。
俺は早速必要そうなものを街で集めて準備をした。
その件の洞窟には5時間程で着いた。
「定吉スマンがそのまま行くね。 ここからは危険だから無理についてこなくてもいいからな。 」
定吉はワン、 ひと吠えして応えた。
どうやらついてきてくれるようだ
洞窟はやはり暗かった。
「そうだあれ試してみよう。 教えて貰ったやつ! スターライト! 」
俺が教えて貰った詠唱を唱えると小さな光の玉が俺たちの周囲を優しく照らした。
本当に魔法が使えるようになってる!
話ではまだ適応して間もないから色々使いこなすのは時間がかかるらしいが、 どうやら俺は運がいいのかすぐに色々使えるようになるだろうって言ってたな。
これから色々試して行くしかないな。
洞窟はしばらく歩いて行くと出口らしきところが見えてきた。
「おっついに敵のテリトリーに侵入か? 」
アンダーグランドか、 その名のとおり薄暗い陰気な場所だな。
にしても魔物がうようよいると思ったが全然居ないな。
静かすぎるぞ?
「ふうん、 なんかおかしいな。 」
辺りを見回してみる。
何やらお城のような建物が遠くに見える。
恐らくあれが居城なんだろうな。
とりあえずあそこを目指すことにした。
お城まではそこまで遠くは無かった。
「近づいて見るとなかなかに大きなお城だった。 まさかこんな物があるなんてな。 結構力を持ってるみたいだな。 」
俺が感心してると突然。
城の方で大きな音とともに爆発が起きた。
どうやら先約がいるようだな。
俺たちは音のなる方に走って向かうことにした。
道中所々に争ったような形跡があったり、 壁に穴が空いてたりと散々であった。
どんどん進んでいくと玉座がある部屋にたどり着いた。
そこには1人の少女と男が対峙していた。
「はぁはぁまさかここまでとはね! やるわねさすが魔物王。 だけどここで負けるわけにはいかないのよ! 」
「ふん人間風情の小娘がこざかしいですね。 私は虫が楯突くことを認めてはいませんよ? それにまたネズミが入り込みましたか。 やれやれこれだから虫共は。 」
どうやらあの気どった野郎がベリゴールか。
そしてあの少女がもしや勇者?
「あなた何してるのこんなとこで危ないわよ! 早く逃げなさい! 」
少女が俺に怒号を飛ばす。
「まあそう言うなって俺もこう見えてそこそこ戦えるからさ。 」
「あんたが? そんな弱そうなのに? てあんたそれ! 魔物じゃない! 」
なんだコイツ生意気ー。
「こいつは俺の相棒定吉だ。 なかなか強いぜ? 」
「ふん! まあいいわ私の邪魔だけはしないでよね! 」
「虫共がいくら増えても変わりませんよ。 私に勝つなど土台無理な話。 灰になりなさい。 キリングバイツ。 」
やつが片手を前に突き出した。
何やら嫌な予感がする。
「ふん! そんなもの私には効かないわ! ホーリーシールド! 」
少女が俺たちの前に立ち光の障壁の様なものを作り出した。
「おぉすげえ! 」
黒い光線のようものが少女の作った障壁がぶつかり合う。
──パリーン──
障壁が割れた。
「危ない! 」
俺は咄嗟にそう叫び少女を掴み横に飛びついた。
定吉もしっかり避けたみたいだ。
「な、 何をするのよ! 」
「危なかっただろ? 素直に礼を言ったらどうだ? 」
「うるさいわね、 でも一応ありがとう。 」
最後の方がボソッとしててよく聞こえんがまあいいか。
「協力して倒そう! 」
俺が少女にそう言う。
「ふん勝手なすれば! 私一人でも十分だけどね! 」
謙虚じゃないなあ。
こういうのツンデレっていうんかな?
みんなこういうやつ案外好きだよね。
「ふん避けましたか。 これは少々めんどくさいですね。 せめて犬ころの相手をこいつにさせましょうか。 サモンデーモン、 私の召喚に応じよ。 いでよデスサーモン! 」
やつがそう叫ぶと黒いモヤが現れた。
モヤの中から半魚人みたいな魔物が現れた。
定吉がやつに威嚇し霧雨を抜いた。
「定吉あの魚野郎任せていいか? 」
さすがにあの少女1人にやつを任すのはまずいだろう。
定吉は静かに俺を見ると1度大きく頷いた。
ありがとう定吉!
これが済んだら今日はパーティだ!
「いいの? あの魚も手練よ。 」
「俺は定吉を信じてる。 あいつなら大丈夫だ! 」
「ふん虫けら2匹など取りに足りません。 5秒だ。 あなた達がたっていられるのは5秒です。 」
随分な自身だなお手並み拝見!
「だったら私の前にアンタがたっていられるのは2秒よ! 」
いやいやそれはさすがに無理なんじゃないかな?
「轟け雷光! ライトニングホーリースピア! 」
「デスフロムダイ。 」
またしても2人が魔法の詠唱を始めた。
雷のようなものと黒い大きな玉がぶつかり合う。
──ぼがああああん──
2つの魔法が相殺したかのように爆発した。
「なるほど今のを防ぎますか。 これは認識を改めなければ行きませんね。 」
「ふん私はまだまだこんなんじゃないわよ! 」
なんか置いてきぼり食らってる?
定吉はどうだ?
どうやらいい勝負のようだな。
あれ俺いる?
「私も本気を出すと致しましょう。 」
やつが黒いモヤの中から突然1本のレイピアを取り出した。
「ふうんじゃあ私も本気出しちゃうからね! 」
少女は背中に掛けていた剣を引き抜いた。
「エンチャントダークネス。 」
「ホーリーブレード! 」
2人の剣にそれぞれ闇、 光が纏った。
2人がぶつかり合う。
激しい衝撃が周囲を駆け巡る。
これが勇者と魔物王の力。
確かに強大だ。
だが勇者が僅かに押されているな。
──カキン──
魔物王の連撃に押された少女は剣を弾かれ飛ばされてしまった。
「しまった、 まさかここまでとは! 」
「ふん虫けらの癖によくやったものです。 ですがここまでですね楽しかったですよ久しぶりに。 」
やつが少女に止めを刺そうと剣を振り上げた。
──ガキィーン──
「ふぅ女の子にそれはないんじゃないの? 虫けらさん。 」
「貴様死にたいのか。 ならばその望み叶えてやろう。 」
どうやら間に合ったようだ。
「ダークネスフリーズ! 」
俺は覚えたばかりのエンチャント術を唱えた。
黒い氷の冷気がセンチネルにまとう。
「ほう面白いですね。 もしやいやまさかそれは無いでしょう。 」
さっき2人が打ち合ってたのを見て何となくこいつの動きには慣れてきていた。
「私と互角に打ち合うと一体。 」
「おいおい互角だって? そう言えばあのデスマーケットとかってやつの方がもう少し強かったかもなあ! 」
俺が挑発してみる。
しめた。
「何だって私があいつより弱いだと? 貴様殺す。 」
何故か魔王の力を手に入れてから相手の表情の変化とかに気づきやすくなってきた。
お陰で心理戦もやりやすいな。
「もう少しやつの方が苦戦したんだけどなあ。 あんたのは止まって見えるぜ。 魔法しかとりえがないのかなあ? 」
「…………死ね! 」
どうやら頭の血管が吹っ飛んだみたいだ。
分け隔てもなく切り込んでくる。
さすがに早い!
だがレイピアはシグルドから死ぬほど打ち込まれてきた。
そう簡単には負けるつもりは無い!
「なかなかやりますねただの虫けら如きが。 やはり貴様は。 」
やつがそこまで言うと突然横から少女がやつに切りかかった。
「言ったでしょ! こいつは私の獲物よ! 横取りしないで! 」
「よく言うよさっきやられかけてたのに。 まあそれなら大丈夫そうだな。 手を貸してもらうぞ。 」
「ふん勝手にしなさいよね! 」
「あくまで私に勝とうと思っているのですか。 ならば全力をもってして思い知らせてあげましょう。
突然やつの周りに黒いモヤがかかった。
「う、 うおおおおお! ぐがあああああああ! 」
途端うめき声が聞こえる。
「何だってんだ! 何が起きてる? 」
「しまった! やつは完全体になってしまったわ! 」
完全体だと!?
黒いモヤが一気に晴れた。
「なんだあれ! 」
さっきまでの人間のような出で立ちとは打って変わって、 ヤギのような巨体に変わっていた。
「手遅れね。 」
「ぐがあああああああ! 」
やつは雄叫びをあげた。
知性は退化したように見えるがその分、 力が跳ね上がっているだろう。
素早さも跳ね上がっている。
突然やつが息を大きく吸い込んだ。
「ブレスが来るわ! 」
少女がそう叫び後ろに大きく飛び移った。
俺もそれに続く。
「ホーリーカーテン! 」
少女が防御術を唱えた。
「ライトシールド! 」
俺もとりあえず唱える。
やつが1度動きを止めたかと思うと一気に黒い炎を吐き出した。
すごい迫力だ!
まるで映画のワンシーンだな。
この2重の障壁で防げるか?
しばらくやつのブレスが続いた。
「何とか凌げたわね。 」
「ああ、 なかなかにギリギリだ。 」
これは本当に協力して取り組まないと倒せない相手だな。
「勇者様どうやら君の力を頼らないといけないみたいだ、 手伝ってくれるか? 」
「ふん、 しょうがないから手を貸してあげる。 私の邪魔だけはしないでね。 」
素直にしてれば可愛いのにな勿体ない。
いやこれはこれで需要あるんだろうが。
とりあえず今は少女と協力してやつを倒すことに集中だ。
「煌めけ閃光! ホーリーレイン! 」
彼女が詠唱を始めた。
彼女の周りに無数の矢が生成された。
「闇よりいでよ光の矢。 ダークネスライトアロー! 」
俺も負けじと魔法を放つ。
俺は自分の生成した矢の上に立つ。
彼女が放ったのを確認して俺も少し遅れて放った。
「えっなにそれ! 」
彼女が驚きの声を上げたのを背にうっすらと聞こえた。
やつは両手で顔を守っていた。
彼女の矢が直撃する。
俺は自分の矢が直撃する瞬間やつの頭めがけて飛んだ。
俺が飛んだ瞬間やつは防いでいた手を外した。
「ようブサイク。 シャインフラッシュ! 」
目潰しの魔法を放つ。
そしてセンチネルを片目に突き立てた。
「ぐおおおおおおおお! 虫けらがああああああああああ! 」
やつが悲痛な叫びをあげた。
俺は突然暴れたやつの手で弾かれた。
あれあまり痛くない。
「ちょっと何してんのよ! 危ないじゃない! 」
どうやら少女が受けとめてくれたみたいだ。
なんだいいとこあるじゃん。
「すまん助かった。 だが片目は潰してやったぜ! 」
「べべ別にあんたの為じゃないんだから。 でもやるじゃないあなたほんとに普通の人間? 」
「そんなことは今はいいだろう? とにかくやつをやらないと。 」
俺はほんとに目潰しが得意だな。
目潰しのカランコエ、 って名乗ろうかな。
「どうやら怒り心頭のようだな。 」
やつは息が荒くなりこちらを睨んでいる。
そしてどこからともなく大きな槍を取り出した。
そして槍を突き出し突進した。
俺と少女はそれぞれ横に飛ぶ。
やつが横をすり抜ける。
すれ違いざまに俺は足に一切り入れた。
案の定やつは俺の方に向き直る。
「うがああああああああぁぁぁ! 」
またしても俺に突進をする。
ギリギリまで引きつけろ。
俺なら出来る。
「アイスボール。 」
俺は小さい氷の玉を作り出しておく。
やつの槍先が目と鼻の先に来た時上に大きくジャンプし、 顔めがけてアイスボールを放った。
そして運良く槍先に乗ることが出来た。
そしてそのまま地面に叩きつける。
「聖なる氷でかの者を捕らえよ! ホーリープリズム! 」
突如やつの足が氷にまとわりつかれていた。
少女だ!
ナイスタイミング!
やるな。
「植物達よ俺に力を! リーフウィップ! 」
俺はツルを呼び出しやつの槍先をそのまま地面に縛り付けた。
「私の剣戟を受けて打ち滅びなさい! シャインゲイン! 」
「恐怖に震え闇に帰るがいい、
俺と少女の剣戟がやつを切り刻む。
「おのれえええええ! 虫けらどもめええええええ! 」
やつは雄叫びをあげ最後の抵抗と言わんばかりに暴れだした。
「まだやる気? 往生際が悪いわね! 止めを刺すわよ! 私に続きなさい! 聖なる光に裁かれろ! ファイナルジャッジメント! 」
「おうおう威勢のいいこと。 しょうがないな手を貸そう。 深淵の業火に身を焼かれ絶叫せよ! ダークネスアビス! 」
俺と少女の魔法が合わさり更に威力を増す。
「おの、 れええ。 この私がこんなヤツらに。 いつの日か、 必ず、 この、 恨み…………ぐがあああああああ! 」
やつは雄叫びをあげながら恨みの言葉を言い放っていた。
そして苦し悶えながらついに息絶えた。
「はぁはぁやっと倒せたわ。 これで魔物達の力は衰えていくでしょう。 そ、 それと一応お礼を言っておくわ。 ありがとう。 」
彼女は小さな声でそう言った。
俺はチラッと定吉が戦ってた方を見る。
どうやら定吉も無事に倒せたようだった。
「そうだな俺からも礼を言うよ! 俺たちだけじゃ倒せなかっただろうし。 さすが勇者様だな! 」
俺がそう言うと彼女は少し恥ずかしそうに、
「べ、 別にあんたの為じゃないって言ったでしょ! 」
ぷいっ、 とそっぽを向いてしまった。
「それよりあなた何者? 普通の人間にしては強すぎる気がするけど。 それに魔物をここまで手懐けるなんて信じらない。 」
「俺は何物でもないさ、 ただ自分に出来るとをしてるだけだよ。 気にするな。 」
彼女は納得いかない様子だった。
この子が勇者、 魔王の敵。
いずれやり合う時が来るだろうな。
「お前は勇者でいいんだよな? なんで勇者やってんだ? 」
俺は彼女に聞いてみた。
彼女はむくれた顔のまま、
「え? それは決まってるじゃない平和のためよ! いい? 魔王を倒せるのは勇者しかいないの。 それにね魔王を倒すことが出来れば魔人族は人間に戻るらしいのよ! 」
なんとそれは知ってる人が限られてるらしいが。
勇者は知ってるのか。
「それは誰に聞いたんだ? 」
「えっ? 神様よ。 」
神様?
一天教の神様か?
「神様ってどうやって聞いたんだよ。 」
「私たち勇者は神様のご意思によって選ばれた者のみがなれるのよ。 その時に直接お会いするの。 その時にね聞いたのよ。 多分勇者になったものは皆聞いてると思うわ。 」
そうだったのか。
それなのに今までの1度たりともそうなったことは無い。
何が足りてないのか。
そもそもそれ自体が間違いなのか。
「そうだわ、 あなた名前は? 私は勇者のスミレよ。 一応あなたの名前を聞いておいてあげる。 」
「やれやれ俺はカランコエだ。 よろしくなスミレ。」
「ふん! 覚えておいてあげる。 」
と彼女はぷいと踵を返して早々に退散してしまった。
「定吉あれが勇者だってよ。 でも確かに強いな。 てかあんな子が戦うなんてな。 世の中どうかしてるぜ。 」
定吉はワン!
とひと吠えした。
なんでアニメやゲームでもそうだがファンタジーな世界はあんな子供に世界を救わせるのだろうな。
まあその力があるからだが。
大人は悔しくないのだろうか。
まあそんなことはいいか。
とりあえずこれで悩みの種はひとつ消えたかな。
「定吉ラインハルト達のとこに帰ろう。 」
俺たちは街に戻ることにした。
…………
「なんとベリゴールが倒れたか。 お主が一人でやったのか? 」
「いやそれが先に勇者どのがやつとやり合ってたんだよ。 なんか苦戦してるみたいだから一緒に戦ったんだ。 」
その場にいた一同が驚きの顔に満ちていた。
「なな、 なんだって? 勇者と言ったのか? やはりやつもベリゴールの首を狙っておったか。 」
「カランコエ様! よく勇者に遭遇して生きて帰れましたね。 良かった。 」
ダリルが泣く。
「あぁそう言えば攻撃されんかったな。 ただの人間だと思ってたんだろうな。 」
「でカランコエよ。 勇者はどうだった? どうってめちゃくちゃ強かったな。 あああと勇者もどうやら俺たちの知る秘密を知ってるようだぞ? 」
「なんと、 やはりそうだったか。 先代もそのようなことを言っておったわい。 ではやつがわしの首を狙いに来るのも遠くはないだろうなガッハッハッ。 」
なんで笑ってるんだ?
「何はともあれよく無事に戻った。 それにあの忌まわしきベリゴールをよく倒してくれた。 今日は宴だ! 」
ラインハルトは早速使用人や街の男集を集め用意させた。
今日はパーティか。
街総出で宴の準備が始められた。
俺は自分の部屋に戻り少し休むことにした。
…………
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