第3話 試練の始まり

あれから数ヶ月たった。

俺は毎日シグルドと稽古をしていた。

だいぶシグルド相手に何とか立ち回れるようになってきた。

稽古の合間には街の人達と交流をしたりした。

その中でも驚いたのが木刀を作った人だった。

なんとダリルだったのだ!

まさかのダリルがこの街で1番の鍛治職人だったのだ。

ダリルが言うには相当に再現するのに苦労したらしい。

そして今まさに俺用の武器を作るのに奮闘中らしい。

完成が楽しみだ!

そう言えばやたら好みの武器とか聞かれたりしたな。

俺の背丈や体格とかも測られていたし。

俺専用の装備、 ぐふふふ。

いい響きだ!

最近はシグルドも色々な武器の型を教えてくれる。

やはり何事も知ることから始まるしな!

おかげで臨機応変に対応出来るようになってきた。

気がする。

やはり人助けというのはしておくべきだな!

自分のためでも人のためでもいいからね。

正味俺は現実世界では何一ついい事がなかった。

どんなにいいことしても悪いことしか俺には起きない。

正直いたたまれない。

だがどうか、 この世界は不当な差別を受け正直人間である俺に憎しみや怨みをぶつけていいのに、 彼らは皆は最初こそは疑いの眼差しを向けていたが今でこそこんなにも良くしてくれる。

俺はこの世界の人は大切にしたいとそう思っていた。

特に魔人族の皆は俺に色々と与えてくれた。

俺も彼らに出来ることはしたいと思った。

…………

──1ヶ月前ほど──

「国王様御用とはなんでしょうか。 」

「ガッハッハッダリルよ、 そう畏まらんでよい! それにわしはもう…… 」

「失礼致しました。 ラインハルト様それで御用とは? 」

「うん、 主を呼んだのは他でもない。 カランコエの事だ。 率直に申そう、 わしはやつに次の魔王の座を譲りたいと思ってる。 」

「な、 なんて言ったんだ! あっ、 いや何を仰る。 まるで貴方様がもう亡くなられるような口ぶり、 それにミドナ様はどうなさるのです! それに! 」

「みなまで言うな、 まずそうだな多分わしは近いうちに死ぬだろう。 勇者が相当に力をつけてきていると聞く。 近いうちにわしを討伐に来るだろう。 そしてわしは負けて死ぬ、 やつはそんな相手だ。 」

「いいえ! あなたは勝てないんじゃない、 勝たないんでしょう!? 私にはわかりますまだあの伝説を信じてるんですか!? 今世紀に渡るまでの世代が証明してきたでしょう!? なのにそれなのに! 」

「落ち着け、 わしだってわかっておる。 だが希望があるならそれにかけたいのだ。 それにお前にしかこんなこと打ち明けられんのだ。 愚かなわしを許してくれ友よ。 」

「ですが、 それでも私は! 」

「わしが1度決めたことは曲げない性分なのは知っておろう? だから泣くな友よ。 」

「グッ、 わかりました。 それで跡継ぎをカランコエ様に決められたのは何故? 」

「それだ、 だからこそお主を呼んだのだ。 あの者をどう見る? 」

「はあ、 そうですね。 私は彼に救われました。 それにミドナ様も彼に救われたとか。 なかなかに腕も立つようですしほかの人間とは違い我々にも良くしてくれます。 悪い人ではないでしょう。 」

「うむ、 やはりそう思うか。 わしも彼奴には並々ならぬものを感じておる。 もしや我らの悲願をなしてくれるやも、 ともな。 」

「しかしミドナ様がなんておっしゃるか。 ラインハルト様が決めたことなら私は従いますが。 」

「ううむミドナは恐らく怒るだろうな、 ガッハッハッだがなわしはあの子にはこの重荷を背負わせたくないのだカランコエには悪いと思っておる。 だが彼奴ならきっと引き受けてくれる、 そう思うのだ。 ミドナも分かってくれれば良いがな、 その辺は上手くやって欲しい。 」

「また投げやりな。 はあ分かりました。 その辺は皆で注意してみます。 」

「ガッハッハッすまんな助かる。 やはりお前は頼りになるな。 」

「お戯れを…… 」

「そうだあと1つ頼みがある。 カランコエが跡を継いでくれる、 くれないに関わらず彼奴にあった装備を作ってやってくれないか? 」

「それは構いませんが、 私も彼には恩がありますし。 早速取り掛かりたいと思います。 」

「すまんな苦労をかける。 きっと彼奴なら私たちを救ってくれるかもしれん、 彼奴を手助けしてやってくれ。 」

「わかりました、 出来ることなら死なないで下さいね。 数少ない戦友が死なれるのは辛いのです。 特にシグルド様も悲しまれるでしょう。 」

「わかっておる、 わしも最大限出来ることはしておる。 では頼んだぞ。 」

「御意。 」

…………

──チュンチュン──

鳥のさえずりで目が覚める。

今日はラインハルトに呼ばれている。

どうやら大事な話があるようだ。

俺もこの世界の秘密を知るいい機会かもしれない。

俺は顔を洗って朝飯を済ました。

そして1人でラインハルトの待つ屋敷へと向かった。

「おぉ来たかすまんな急に呼びつけて。 」

「いえいえどうせやることもそんなにないので大丈夫ですよ。 」

ラインハルトは少し話ずらそうな顔をしていたが1つため息をつくと思い口を動かした。

「今日呼んだのはなお前にしか頼めないことを頼みたかったのだ。 心して聞いて欲しい、 わしの跡を継いで欲しいのだ。 わしは恐らく近いうちに勇者に討伐されると思うのだ。 」

勇者? 討伐?

つまり近いうちに死ぬということか。

「それは正気ですか? 仮に勇者が魔王討伐を目指してるとしてなぜ近いうちだと分かるのでしょう? 」

「うむわしも定かではないのだがな、 最近勇者が力をつけてきているという噂を聞き及んでおる。 確かに確証は無いのだが来ないとも断言出来んのだ。 そこでわしの跡継ぎを決めねばならんのだ。 ミドナはまだ幼い、 あの子にはまだ難しいだろう。 わしはお主を信頼しておる、 他に頼める者もおらんのだ。 どうだろうか頼まれてはくれまいか? 」

そう言うとラインハルトは頭を深く下げた。

「うーんそう言われてもな、 俺にも荷が重すぎないか? 俺に到底できることでも無さそうだが。 俺以外にも適任者は居そうなんだが。 」

「それがだなそうでも無いのだ。 跡をつぐものは適性がないとなれんのだよ。 お主には何故か適性があるのだ。 ほかの適性者はほぼほぼおらんのだ。 それに居てもな何かしらの問題があるんだ。 その点お主は若いし、 人柄も良い。 だからこそお主には頼みたい。 今までのお主の見てきて思った。 お主は優しい心の持ち主だ。 お主なら我ら歴代魔王の悲願をなしてくれるやも、 そう思っているのだ。 頼む! 引き受けてくれまいか! 」

また深く深く頭を下げてきた。

「なるほどそこまで頼まれたら断るのも気が引けるな。 じゃあひとつ俺からもお願いがある、 ラインハルトさんよ、 あんたの知ってるこの世界の秘密を俺に教えてくれまいか? 」

「い、 いいのか!? すまん助かる。 そうだなこれは跡継ぎになる者には伝えることだしな。 心して聞くが良い。 わしら魔人族が突如生まれた異形の存在、 というのはもう知ってるな? 」

「ああ、 確かだいぶ昔に魔物と同時期に突如誕生したとか言ってたな。 」

「そうだ、 確かにそうなのだ。 そしてこれは魔王と恐らくごく1部しか知らない事だ。 それは我々魔人族は元人間だ。 」

「人間!? それはどういう事だ!? 」

「これ! 声がでかい他の者に聞かれたらどうするんだ。 左様我々は元々人間だったのだ。 それが何故か魔物が誕生したと共に魔人族に成り果てたのだ。 そしてそれと同時に魔王と呼ばれる存在が生まれた。 実はな第1世代の魔人族は人間の時のことを覚えていたみたいなのだ。 そして人間に必死に訴えた。 最初は皆半信半疑ではあったが裏付けるように人が何人も居なくなっていたので少しは信じていたみたいなのだ。 だがそこで1天教の登場だ。 奴らは魔人族を悪しき存在、 異形の魔物と扇動したんだ。 そうしたら一変人間は皆魔人族を見放し見下し迫害した。 」

「そんな昔から1天教はあるのか、 それに影響力も高いのか。 」

「そうだ、 この世界の唯一に無二の宗教だからな。 人間なら誰しも信奉してるだろうな。 」

「そう言えばこの街のみんなは信奉してないのか? 」

「ガッハッハッ俺たちに神も仏もあるものかよ。 俺たちはお互いを信じているんだ宗教なんて必要ないさ。 」

なるほどそれは言えてるな。

「コホン、 話が脱線してしまったな。 そこで初代魔王達は後世にその事実を伝えないことにしたのだ。 それは魔王だけが知る真実のひとつだ。 そしてもう一つ魔王だけに継がれる秘密があるそれは。 それは魔王が死に絶えた時魔人族は人間に戻れる、 というものだ。 」

待てよ? それが本当ならどうしてまだこんなことになっているんだ?

俺が不思議そうにしてると、

「可笑しい、 だろ? 」

ラインハルトが俺の考えてることを見透かしたように言った。

「そう、 可笑しいのだ。 これは3代目が見つけた仮説なのだが私の代まで1度も成功したことは無いのだ。 何度魔王が倒されようとも我々が人間に戻ることは万に一度もなかったのだ。 そして今回もわしが倒されても失敗するだろう。 」

「それは跡継ぎがいるからでは? 」

俺が思ったことを言ってみた。

「ううむ、 それはほかの魔王も思ったらしくてな。 1度跡継ぎを一切用意せずに試したことがあるらしいのだがその時も失敗に終わったらしいのだ。 その時はこの伝承も途絶えかけてやらなくなったらしいがな。 ガッハッハッハッだがな! わしはお主なら成し遂げる、 そう思っておる。 これがわしが知る先代の知恵の結晶だ。 」

そう言い終えるとラインハルトはため息をひとつ吐き椅子に深くもたれかかった。

「なるほど俺にその悲願を成し遂げれるかは分からないがやれることはやろう。 ラインハルト、 今までの魔王の思いを俺が継ぐ。 」

「すまんな損な立場を押し付けてしまって。 」

よく言うぜ、 自分が意味もなく死ぬのを分かっていて俺なんかを気遣うなんてよ。

俺があんたらの悲願なし遂げてみるよ。

「早速だがお主には試練を受けてもらいたい。 これを成し遂げれなければ魔王にもなれんのだ。 まあお主なら大丈夫だろう。 」

試練? 聞いてないぞ。

俺が訝しそうな顔をしていると、

「ガッハッハッハッお主なら大丈夫だ! 主のペットも連れていくが良い。 あとダリルの所にも寄ってやってくれ。 」

「まあラインハルトがそう言うなら。 頑張ってみるよ。 」

そうだなこれくらいこなせなければ何も為せないだろうな。

俺はラインハルトと少し談笑を交わしてからダリルの元へと向かった。

…………

屋敷を後にしダリルの店へと向かった。

「おぉ! 待ってましたよ! その顔どうやらラインハルト様から全てをお聞きになったようですな。 」

そう言うダリルの顔は少し暗かった。

「ああその様子ならあんたも一切を知ってるようだな。 それであんたのとこに行くよう言われたのだが? 」

「ちょっと待ってて下さい! 」

そう言うとダリルは店の奥に引っ込んでいった。

しばらく待っているとダリルが色々抱えて戻ってきた。

「はあはあお、 お待たせ、 しました! 」

息を切らしながらダリルは持ってきたものをカウンターに並べた。

「ま、 まあまずは落ち着いて。 」

俺がそう言うとダリルは大きく深呼吸をした。

「ふぅうう、 それでは改めて。 カランコエ様の為にお作りしてた物が出来上がりました! どうぞお納め下さい! 」

「おぉ! 出来たのか!ありがとう! 」

「まずはこちらです! 」

ダリルは1つの剣の柄の様なものを差し出した。

しかし肝心の刃が見当たらない。

「なあこれ剣、 なんだよな? 」

俺がそう聞くとダリルはニヤニヤしながら柄を取ると、

──カシャン──

なんと柄の片方から刃が勢いよく現れた。

「おおお! 凄いカッコイイい! 」

ダリルはこれだけでは終わらない、 そんな顔をしていた。

──カシャン──

更に反対側からも刃が!

まさか仕込み剣とは、 しかも両刃!ツインブレードだと!

俺の好みを分かってやがる!

「ダリルさんよお! 俺の好みドンピシャじゃないか! 」

「フッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッフッ! そうでしょうそうでしょう! 貴方様のありとあらゆる好みを聞いておいて正解でしたよ! 」

確かにダリルは俺のこういった趣味の話を沢山聞いていたがまさかここまで再現出来るとはお見逸れしたぜ。

「次は防具です! まずはこれが戦闘用! 」

なんと戦闘用てことは普段着的なのもあるのか!?

しかもこれまた俺好み。

黒を基調としたシンプルなデザインのライトアーマーだ。

俺がキラキラ目を輝かせながら眺めていると、 またもやダリルがニヤニヤしていた。

まさかこれも何かしらの仕掛けが?

「ふっふっふっ、 ええこちらも実は! 」

俺が考えてることを見透かしていたようだった。

「こちらのガントレット先程のようにここをこうすると……」

──カシャン──

アサシンブレード!!!

よもや映画やゲームでしかほぼほぼ見たことの無いあの仕込み武器!

俺があわあわしていると、

「こちら両腕に装備させていただいてます! もちろんブーツにも仕込んでおりますよ! あっご安心を! 指が切り落ちたりはしませんゆえ! 」

分かってらっしゃる! 分かってらっしゃる過ぎる!

俺は多分ヨダレを垂らしていただろう。

こんなにも俺好みの物を手に入れられようとは!

そして普段着もこれまた黒を基調とした魔王らしい服だった。

しかも何故かこれにもアサシンブレードを仕込んでいたらしい。

「どうやら喜んで頂けたようですね! ふっふっふっ、 鍛冶屋冥利に尽きるというものです! 」

ほんとに彼は鍛冶屋なのか?

鍛冶屋の範疇を超えてる気がするぞ!

「凄いなこれ一人でやったのか? 」

「いえいえとんでもない! 実は妻にも協力してもらったんですよ。 ははは、 恥ずかしい話です。 ほんとによく出来た妻ですよ! 」

なるほど夫婦揃っていい腕のようだ。

「そしてこちらは定吉になんですが。 」

そう言うとダリルは小さい小刀と犬用のライトアーマーを差し出した。

ん?

この小刀、 もしや!

「やはり気づかれましたかな? こちらは貴方様の使われていた剣を打ち直したものです。 あんなにいい出来のものをダメにするのはもったいなかったので定吉用にさせて頂きました。 本当は貴方様の物に使いたかったのですが申し訳ないです。 」

ダリルは頭を下げた。

「謝ることないよ! むしろダリルに任せて良かった! ありがとう! 」

本当にダリルに任せて良かった!

「良かった! 喜んで貰えたようで! 」

「このお礼はいつか精神的に! 」

「いえいえ私はもう十分して頂きました。 試練頑張ってください! 」

「分かった! 達成、 それを恩返しとさせてもらおう! 」

俺とダリルは腕を組み交わした。

早速俺は定吉に貰った装備を付けさせた。

定吉は尻尾をブンブン振った。

どうやら喜んでるみたいだ!

小刀も抜きやすくしまいやすい位置にあるみたいだ。

闇霧がこんな形でまた使ってもらえるとは。

霧雨と名付けよう!

闇霧2式とかでもええけどやっぱり見た目も少し変わったし名前変えてやらんとな!

俺たちは早速試練の準備を始めた。

早速ライトアーマーを着てアサシンブレードをカシャカシャしてみる。

うほおおおかっこええ!

思わずヨダレが出そうになる。

まあこれは使い道無さそうだけど、 あるに越したことはないか。

とりあえず必要そうなものはまとめた。

明日朝早くに出ることにしよう。

今日は早く寝ることにした。

…………

──チュンチュン──

再び清々しい鳥のさえずりで目が覚める。

「ヨシっ! 絶対試練を乗り越えてやる、 失敗イコール死! だがやってみせる! 」

俺は顔を洗い朝食を済ませる。

さささっと食事を済ませ装備を身にまとい荷物を持って俺たちは屋敷を後にした。

街を出る際ダリルらが見送ってくれた。

「試練頑張ってください! 」

「お兄ちゃんよく分からないけど頑張ってね! これあげる! お守り! 」

コメリはそう言うと俺に小さな花を1本手渡した。

こ、 これは……

「ありがとう! 必ず戻ってくるよ! 」

俺はコメリの頭を軽く撫でそう言った。

俺はチラッとシグルドの方を見る。

シグルドは目が合うと1度頭を下げた。

俺も黙って軽く頭を下げた。

頭を上げた時屋敷の窓が見えた。

そこにラインハルトがいた、 ような気がする。

まさかなあいつがそんなことをするようなやつには見えんしな。

気のせいだろう。

「じゃあ行ってきます! 」

俺はそう言うと街の北にある祠へと出発した。

ラインハルトの話ではだいたい歩いて半日くらいの場所と言っていたな。

街を出てからだいたい4~5時間経っていた。

そろそろ見えてくる頃だろう。

そんなことを思っているとふと辺りの雰囲気が変わったことに気づいた。

「定吉なんか嫌な予感がする。 お前も感じているな。 」

定吉も牙を剥き出し威嚇するような声を上げている。

息を整え目だけ動かして辺りを見回してみる。

今のところなんも変哲もない森なのだが。

──ヒューーー──

一瞬少し強い風が通り過ぎる。

その刹那。

──ザッ──

木々の隙間から何者かが突然こちらに向かってきた。

──ガキィン──

その物は何かを切りつけてきた。

俺は咄嗟に仕込みナイフ、 アサシンブレードを使いそれを凌ぐことに成功した。

あって良かったアサシンブレード!

「あらあらやるじゃない? あたくしの奇襲を防ぐだなんて。 」

襲撃者がそう言う。

ようやく下手人の姿がハッキリ見えてきた。

俺の2倍位はあろうか、 まず普通の人間ではありえない背丈なあろうか。

そしてその背丈には合わないショートソードを2本握っていた。

見るからに魔物だ、 だが以前あった豚野郎とは違うように思える。

言うなればやつより上の位か?

「ほう魔物と交えるのは2度目だよ。 あの時の豚野郎にはそこそこ手こずったがお前もなかなかに強そうだな。 参ったなこりゃ。 」

俺がそう言うと、

「あらあ〜貴方なのねあの家畜を屠ったのは。 確かにあいつはあたくしより弱いけどそこそこ強かったのよお? どこの馬の骨に負けたのかと思ったらまさか人間に負けるなんてね、 情けないわあ。 」

この醜悪な見た目でおかま口調、 寒気がするな。

だがやつの強さは本物なのだろう。

「まあ人間には用はないけどねどうしようかしら。 あの豚をやったやつなら少しは気になっちゃうわあ。 」

やつはそんなことをブツブツ言い始めた。

「人間には用はないとか言っておきながら見事な奇襲してくれたじゃないの。 どの口が言うんだか。 」

「嫌ねえそんな口聞いちゃって。 そもそもこんなとこに人間がいるなんて変よ? あたくしはね魔王の後継者を暗殺する為に悪魔王様より派遣されたの分かる? 」

なるほどそういう事か。

どうやら魔物もただの獣の類ではないという事か。

統率者がいてある程度統制されているようだ。

「なるほどならお目当てのものは目の前にいるぜ? 俺がその後継者候補様だからね。 」

俺がそう言うとやつは、

「あっははははははやだわあお兄さん。 冗談は顔だけにしないさあい? あなた人間よねえ? なんでそんなあなたが魔王になろうて言うのよ、 可笑しすぎて腹が壊れちゃうわあ。 」

ゲラゲラゲラゲラ笑いながら身悶えしていた。

「ふっ、 まあ信じなければそれでいいさ。 じゃあ俺は行くからよそこどけや。 こちとらブサイクに用はねえんでな。 」

俺がそう言い放ち進もうとするとやつは仁王立ちをして道を塞いだ。

「まあ待ちなさいな、 あなたが魔王とは信じないけどあなた殺すわ。 このまま何もしないのもつまらないしあなたムカつくから殺しちゃう。 」

そう言うとやつはニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

ちっやはりこうなるか。

「はあ、 ならチャッチャッと済ませよう。 これから試練が待ってるんでな。 」

俺はセンチネルを構えた。

ちなみにセンチネルはツインブレードの事だ。

アサシンブレードはそのままでいいかな。

「ほほう面白い武器を使うのね。あなたそれ刃ないじゃない。 そうだわ一騎打ちなんてのはどうかしら実はあたくしもミニオンちゃん達を連れてきてるの。 」

マジかよこいつ1人かと思ったら手下もいるんかよ。

どこかに隠してるな。

正直こいつとタイマン張るのもきついと思うがこちらは2人。

やつはどれくらい手下がいるか分からねえ。

ここは口車に乗ってやるしかないか。

「定吉お前は手を出さないでくれ。 こいつは俺がやる。 」

俺がそう言うと定吉は、

「わん! 」

とひと吠えし後ろの方で腰を落とした。

「あら潔いのね。 気に入ったわ手加減なしで殺してあ・げ・る。 」

やつはそうほざくと一気に詰め寄ってきた。

二刀流か手数が多くて正直キツイがいけるか?

ここはせこいけどあれをやるか。

俺は剣先をやつに向けた。

そして片方の刃を呼び出した。

「なに! 」

やつは咄嗟に俺から距離を置いた。

ちっ避けたか。

「な、 何よ今のは! あ、 あああなた! 今どこから攻撃したのよ! 」

ふっやはり見たことないのだな仕込み武器。

だがこの手はもう通用しづらい。

「やるじゃないかこれを避けるとはさすが暗殺者だな。 こちらも本気ということだ。 覚悟しろ。 」

「ふうんやるじゃないの。 いいじゃないいいじゃない! ますます殺したくなったわ! このあたくし4大将軍が1人、 デスマーケット様が骨の一変たりとも残さずに殺してみせるわあ! 」

4大将軍?

ナニソレオイシイノ?

とにかくただものでは無いのは確かだ。

「喰らいなさいダークネスファイア! 」

やつがそう何やら詠唱をするとやつの手から黒い炎のような塊が現れた。

あ、 あれはやばい。

見なくてもわかるやつ。

俺にはまだ魔法に対するものがない!

避けるしかない!

さっきより少し大きくなっている。

そしてやつがそれをこちらに投げた。

俺は大きな木を盾にするように移動した。

木陰から様子を伺う、 そこそこの速さでこちらに真っ直ぐ飛んできた。

そんなに早くないのか、 いや俺が慣れてきてるのか。

黒い固まりは俺が背にしてた木に当たった。

パチパチと音を立て木が燃え始めた。

俺は木を見てみる。

当たったであろう部分が大きくえぐれて黒く変色していた。

そこから火が少したっていた。

直撃すればひとたまりもないな。

「おお怖い怖いこんなとこでそんなもんバンバンやらんでくれや。 」

「あらあごめんなさあい? あたくし手加減知らないもので。 でも安心して魔法なんか使わなくてもあなたをぶちのめすから。 」

そう言うとまたやつは剣を構えた。

こちらも身構える。

一瞬不気味な静けさが訪れた。

そして瞬間俺とやつはぶつかりあった。

やつの片方の剣と俺のセンチネルがぶつかりあう。

やつのもう片方は!?

咄嗟に下からの殺気に気づく。

下か!

俺はセンチネルのもう片方の刃を出した。

──ガキィン──

鈍い音を立てぶつかり合う。

「あ、 あなた! またしても! このあたくしをコケにして! 」

今のはやばかった。

まさか俺の趣味がここまで有用とは。

俺はもうひとつドッキリビックリ装備があることを思い出した。

俺はやつ目掛けて思い切り蹴った。

「いってええええええ! 」

やつは咄嗟に足を押え悶絶し始めた。

「なによ! 血? てめえええ何しやがった! 」

おぉおかま怒らすとやっぱりこええ。

「なにってただ蹴っただけよお? 」

俺はやつの口調を真似してやった。

「てめえもう許さねえ! 絶対殺す! 」

どうやらキャラを崩壊するほど怒らせてしまったようだ。

だがオカマ口調よりそっちの方が似合ってるぜ。

やつは怒りで冷静さを失ったのかヒッチャカメッチャカに剣を振り回してきた。

愚かなり。

俺はセンチネルと時にアサシンブレードを駆使しながら何とか凌いだ。

やつは死ねを連呼しながら暴れていた。

これが将軍とは片腹痛いな。

だがその強さは目を見張るものがある。

だからこそここで負けるわけには行かない。

俺には成すべきことがある。

見つけるんだ反撃の隙を!

…………

「良いですかなカランコエ様。 戦いに置いて1番愚かなことは何かお分かりですか? 」

シグルドはよくこう言っていた。

「それは冷静さを欠く事です。 冷静さを失えばどんな強者でも格下の相手に負けることもある。 特に怒りに美を任せようものなら愚の骨頂。 そうなれば足元をすくわれようぞ。 カランコエ様どんなときも冷静に、 そうすれば道は見えてきましょう。 」

「なるほど逆にそれは武器にもなるね! わざと相手を怒らせる、 ていう戦いもできるね! 」

シグルドはふっ、と笑った。

「やはり貴方様は面白いですな! 確かにそう言う戦い方もありましょう。 どんなことでも人それぞれやり方は違います、 それは戦いもおなじ。 ただ冷静さを捨てただ狂ったように戦うのは利口ではない。 それだけは言えましょうな。 」

…………

シグルドは言った。

冷静さを捨てるのは愚か者のすることだって。

俺は元々冷静になるのは苦手な方だった。

だがこの数ヶ月、 シグルドには剣だけでなくありとあらゆることを学んだ。

自分を冷静に保つ業も学んだ。

今こそその教えを活かすとき!

確かにやつは強かった。

速いし力もある。

だがシグルドとずっと訓練してきた俺にはさほど驚きを与えなかった。

やつの連撃にはパターンがある。

やつは連撃連撃、 一つ一つに僅かな隙がある。

だが確実に仕留めれる隙、 そこをつく。

やつの動きに慣れてきた。

この動き、 そろそろだな。

この後の4連の後、 やつは両方の剣で切り下ろす。

そこが1番大きな、 確実に取れる隙だ。

1、 2、 3、 4

ここだ!

俺はやつの振り下ろしに合わせてセンチネルで受け流す。

──ズドォン!──

俺のセンチネルに進路を変えられたやつの剣は無惨にも地面をえぐった。

俺はチラッとやつの顔を見る。

怒りと驚きに満ちていた。

醜悪な顔がより酷く見える。

俺はニヤリと笑ってみせた。

「今度は俺の番な、 喰らいなさい! 死の絶叫デススクリーマー

俺は流れるような連撃でやつの体を切り刻んだ。

「うがああああああああこのあたくし、 お、 俺があああああ人間風情に! まけるだとああああああおおおお! 」

やつは苦し悶えていた。

「やだ死にたくない! こんなやつになんで! 」

あ?

こいつ今なんていいやがった。

「おいてめえ死にたくないか? 」

「当たり前だ! こんなとこで死ねない! 悪魔王ベリゴール様の側近になりたかったのにいぃぃぃぃ! 」

死にたくないだ?

ふざけるな。

「どの口が夢見心地なこと言いやがる、 てめえその手で何人殺してきたよ。 いや聞かなくても分かる、 大勢やってきたんだろ? それがなんだ自分が死ぬとなりゃ死にたくないだの。 馬鹿かてめえ。 あるアニメの主人公が言ったよ、 売っていいのは撃たれる覚悟のあるヤツだけだ。 とな。 その覚悟もないやつが人を気づつけるんじゃねえ。 てめえ可愛さでものを言うんじゃねえ地獄で悔いるがいい。 」

俺は果たして自分が死ぬ時こいつのように思うのだろうか。

だが誰かを傷つけるのにそれ相応の覚悟がいることは心得ている。

それに俺は1度死んだも同然の存在。

あとは俺にはやらなければならない事があるだけだ。

それを成し遂げる。

やつは悶えていた。

何やら恨みの言葉やの何やら汚い言葉を連呼していた。

「俺は神でも仏でもねえ。 てめえに慈悲をかける筋合いもないしこのまま苦しんで死んで行った方がてめえにやられていったものたちの供養になると思うがな。 だがこのまま生かしてなんかしらで助かっても事後がめんどくさい。 今楽にしてやる。 」

俺は苦しんでるやつの首元に手をやる。

やつはなんとも言えない表情で俺を睨んでいた。

俺はため息を1つつくと、 目を閉じアサシンブレードを突き出した。

──カシュン──

小さな音と共に僅かな手応えを感じた。

ゆっくり瞼を起こす。

やつは一瞬うめき声を漏らしたかと思うと、 その瞬間静かに息を引き取った。

あんなに喚いていたのが嘘のように辺りが静まりかえった。

俺はゆっくりやつの目を閉じてやった。

「次生まれてくる時はまともなやつになれよ。 」

俺はゆっくりそう呟いた。

突然やつの死体は黒いモヤに包まれた。

しばらくモヤモヤが蠢いていたかと思うと急にふっ、 と晴れた。

そこにはもはややつの死体が跡形も無くなっていた。

「どういう事だこれは。 」

俺には確認のしようもなかった。

そう言えばやつが連れてきたという部下はどうしたんだ?

流石に逃げたのか?

俺が周りを見渡すと茂みから血のついた霧雨を咥えた定吉が現れた。

どうやら俺がやつとやり会ってる間にこっちでも一悶着あったようだ。

「お前も大変だったんだな。 」

俺は霧雨を定吉から受け取り血を吹いてから返した。

定吉は鞘に収めるとワオーンと、 ひと吠えした。

どうやら怪我などはしてないようだ。

流石定吉。

俺と一緒にシグルドと訓練していた日もあったしだいぶ戦闘能力が高いということはもはや知っていたのだが。

とても心強い味方だ。

そしてダリルの腕前は確かなものだ。

仕込み武器というものは構造上脆くなりやすいのだがとても壊れそうには見えない。

とても頑丈に出来ているようだ。

これはいい物だ。

とにかく何とかやつに勝ててよかったと言うべきか。

これで試練に挑むことが出来る。

俺たちは少し休んでから祠に向かうことにした。

しかしまさか魔物達がそこまで統制されていて、 しかも魔王の後継者を狙うとは。

一体何が起ころうとしてるのだろうか。

魔物の王は何が目的なのか。

何やら不穏な匂いを感じるな。

試練が無事済んだらラインハルトに相談しよう。

少し不安を残しつつ俺たちは再び祠に向かうことにした。

祠には約5分程で着いた。

これが祠か。

どっちかって言うと神殿とかそういった類のものに見えるなあ。

もっとこう日本にあるような慎ましいやつかと思ってたわ。

重々しい扉をゆっくり開ける。

長らく使われてないのかクモの巣や、 ホコリにまみれている。

喘息には辛い環境だな。

所々に飾られている石像のようなものも苔むしていたり風化して随分と傷んでいた。

少し進んでいくと周りの劣化と比べると比較的綺麗な空間に出た。

ホコリもなければ蜘蛛の巣もない。

石像のようなものの造形もよく見て取れる程だ。

何やら人間が悲しそうな顔をしている石像だった。

そして奥の方にこれまた見たことの無い綺麗な泉が湧いていた。

幻想的だ。

俺は1度でいいからこういう秘境みたいな所に行きたかった。

生きててよかった!

あっ、 一応1回は死んでるのか。

そして泉のど真ん中に木でできた橋というか、 渡り廊下みたいなものが架かっていた。

その先にこれまた綺麗で神聖な扉があった。

どうやら目的の場所はあそこのようだな。

俺達がその扉の前まで行くと重々しい扉はゆっくりと、 俺たちが来るのを待っていたかのようにその戸を開けた。

その部屋に入ってみると、 2つの大きな石像が目に入った。

これまた神秘的な空間であった。

2つの石像の前まで進んでみる。

石像の前まで来ると突如どこからともなく声が聞こえてきた。

まるで頭に直接響いて聞こえているように思える。

「ここに人が来るのは初めてよのお、 それにお主魔人ではないな? だが見事なまでの適正よのお。 これほどまでに魔王の適正が高い者は初めてじゃのお。 そしてここに来たということは試練を受けにきたのじゃろう? よいだろう、 これからお主に魔王の試練を与えよう。 」

その謎の声がそう言うと突然辺りが不思議な光に包まれた。

眩しい、 前が見えない。

光が収まり視界が戻ってきた。

辺りを見渡す。

どうやらどこかの空間に飛ばされたらしい。

その部屋はどうやら丸いドーム状のような作りになっていた。

そして奥の方に大きな石像が一つ、 佇んでいた。

そして近くにいたはずの定吉がいなかった。

どうやら俺一人でこなさないといけないらしい。

「安心せい、 お主の従者はこちらで預かっておる。 今からお主はここで守護者と戦ってもらおう。 やつに勝つ事ができればお主に証をさずけようぞ。 」

またあの声だ。

やつの声が聞こえなくなると共に奥の石像に変化が見られた。

何やら少しずつ少しずつだが石が剥がれ落ちていく。

こんなでかいヤツとやり合わなければならないのか。

石が完全に剥がれ落ちてやつはついに動き出した。

やつは腰掛けてた椅子から立ち上がると壁に手を突っ込んだ。

何をしたかと思うとやつは壁から1本の大剣を引っ張り出してきた。

これまた大きな石の大剣だ。

これは苦戦を強いられるのは考えなくても分かるな。

やつは剣を2度地面に突き立てる。

そして剣を構えた。

「いいだろうやってやろうじゃんか! 」

俺もセンチネルを構え、 奴との距離を少しずつ縮める。

やつは剣に手を添えた。

やつが手を動かしている。

なんだ?

するとなんという事かやつの剣が燃え出した。

マジかよエンチャントか。

そんな事が出来るのか。

てことはやつも少なからず魔法が使えるのか。

これは厳しい戦いになりそうだ。

俺は自分の頬を軽く叩き気合いを入れ直した。

…………




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る