第2話 剣の先生

「このお兄ちゃん、 ……でるのかな?」

「でも息してるよ? まだ……んだよ!」

「このお兄ちゃんも私達を……のかな?」

なんだ誰かの話し声がする。

まだ体が重い、 それに痛い俺は死んだのか?

「でもでも姫様達を助けてくれんたんだよね?」

「だねだね! そんなことする人間なんて聞いたことないよ!」

そうだあの子達は助かったのだろうか。

うすら聞こえてくるその会話から察するに、 大丈夫だとは思われるが。

どうやら俺も助かってしまったのだろうな。

この体の痛みが何よりの証拠だ、 この尋常ではない痛みが俺がまだ生きてることを何よりも証明している。

閉じていた目をゆっくりと開けてみる。

眩しい光が俺の目を鋭く迎えた。

そして少し目を凝らしているとやはり見覚えのない天井が俺を迎えていた。

これが悪い夢で目が覚めたら自宅か病院のベットで目覚めている、 そんなムシのいい話なんてのはなかったようだ。

俺は軋む体にムチを打ち体をゆっくり起こした。

先程までに聞こえていた会話がぴたと止まった。

ふと傍らに目をやるとそこには2人の少女が目を見開きこちらを見ていた。

しばし見つめ合っていた。

俺が声をかけようとした刹那、 少女らはお互いを見つめ合い手を握り発狂しながら逃げたしていった。

「きゃあああああ! ゴーストだ、 ゾンビだ!」

「いやだあああああ呪われる!!」

と、 喚きながら土煙を上げながらどこかへ行ってしまった。

「なにもそこまで言わなくても……」

俺は状況がよく飲み込めずに、 しかも少女らにあそこまで言われてビビられては多少ショックは受ける。

俺は自分の体を見てみた。

おかしい、 あの化け物にやられたはずの傷がない。

あんなに大きい傷塞がるはずがないし、 塞がるにしても跡は残るはず。

一体俺はどうなってしまったのか。

少女らの言うようにゾンビかなんかになってしまったのか?

俺は部屋を改めて見渡して見た。

その部屋は何ともないただの病院の個室のような普通の部屋であった。

ただ俺のベットの近くにゲイルから貰ったアーマーと闇霧が置いてあった。

アーマーは血はついて内容だったが大きな切り傷のようなものがある。

やはりあれは現実だったようだ。

闇霧もポッキリ折れてしまっていた。

「ごめんな俺が不甲斐ないばかりに。」

自分の無力さに苛立ちを感じた。

そのまま視線を下に落とすとそこには見慣れた犬が寝ていた。

「さ、 定吉!」

俺がそう漏らすと犬はムクリと頭を上げ俺を見た。

すると尻尾をブンブン振りながら俺に飛びついてきた。

物凄い勢いで顔を舐めまわしてくる。

「い、 痛いって! まだ傷が痛むんだよ。」

俺が情けない声でそう呟くと定吉はスっと後ろに下がりお座りをした。

尻尾を振り回し嬉しそうに座っていた。

「そうだ定吉、 あの時はありがとう俺を助けてくれたんだね。」

コクコク、 定吉は2度うなづいた。

「俺が起きるまでずっとそばに居てくれたのか? 」

コクコク、またうなづく。

「そうかありがとう。」

俺は定吉の頭を撫でてやった。

俺が定吉との再会を喜んでいると1人の少女と、 男が入ってきた。

この少女には見覚えがあるな。

あれだ確かあの化け物と対峙してた子だ、 確か。

男は見たことない人だな。

すごく大きいし、 すごく強そうで怖い。

睨まれただけで泣きそうになるだろう。

この2人はどういう関係で何者なのだろう。

「目が覚めたようだな、 大事はないか? 」

男が低い声でそう囁いた。

「あ、 はいまだ体は痛みますが傷はなくなってるし大丈夫そうかと思います。 そのあなたは? 傷を治してくださったのはあなたですか? 」

「そうかそうか! なら安心だ。 そうだなまずはお主の傷を治したのはワシの隣にいるワシの娘だ。」

娘!?

こんな可愛い娘さんの親父さんがこれ!?

すげえな……

「そ、 そうだったんですね。 そのありがとうございます。」

俺はペコっと2人にお辞儀をした。

「ガッハッハッハッ なに礼を言うのはワシの方だ。 娘と使用人を救ってくれたと聞く、 最初に聞いた時は耳を疑ったが本当にありがとう。」

どうやら悪い人ではないみたいだ。

「そうだワシの紹介がまだだったな。 ワシはラインハルト、 魔王だ」

なるほどラインハルト……ん? 魔王? 今魔王と言った?

それに魔王らしくねえ名前だな。

「ま、 魔王ですか? それはそのままの意味で?」

「そうだワシは魔人族の長をしている。 と言っても自分から魔王を名乗った訳では無いがのガッハッハッハッ。」

なんか凄いことになってしまってる気がするな。

「あのーお父様? 」

ふとラインハルトの娘さんが遮った。

「おぉそうであった、 人間の青年よお主にお礼をしたい。 なにか望みはないか?」

望みか、 うーん正直今は何がしたいのか、 何が欲しいのか分からないな。

それにお礼をしたいのは俺もそうだし。

「お礼なんて! それにこっちだって命救われたんです、 俺の方こそ何か出来ることはありませんか? 」

「そんなふうに思われる必要はありません。 私たちは当たり前のことをしたまでなのです。」

彼女はそう言った。

「うーんそれではこれでおあいこって事でいいのでは? 俺はその子を助けてその子に救われた。」

「ふむ、 確かにそう言われればそうなのだがな。」

ラインハルトはなんとも後味の悪そうだった。

案外義理人情に、堅い人なのかもしれない。

やはり人は見た目では推し量れないと言うことだな。

「うーんそれじゃしばらくこの街に居させて貰えないですか? 」

「おぉ! そうかそうかそれは一向に構わないがどうしたと言うんだ?」

おっ意外に許してくれそう。

「実は俺はこの世界に来たばかりでよく分からないんです。 頼る宛も少ないし、 何より生活基盤とかも何も無いんですよ。 まだ体も痛みますし。 」

実際この体ですぐ旅を再開するのは無理だというのはもはや考えるまでもなかった。

「なるほどそうであったか、 うむ分かった! 皆にも伝えておこう、 困ったことがあればワシ達に相談するといい。」

「ありがとうございます。 しばらく厄介になります。」

俺は深深と頭を下げた。

「ガッハッハッハッ気にするな困った時はお互い様だ! ミドナあとは頼んだぞ! 」

ラインハルトは娘の方を見てそう言うと部屋から立ち去って行った。

ふーんこの子はミドナちゃんと言うのか。

「あ、 あのその、 助けて頂きありがとうございます。」

ミドナちゃんはモジモジしながら小さい声で呟いた。

なんとも可愛らしい事か。

「ううん、 気にしなくていいよ。 それに俺の傷を治してくれたのはミドナちゃんなんでしょ? ありがとう! 」

「い、 いえそんな! 私が出来ることなんて治癒魔法ぐらいしかないのでその。 」

いやいや十分すごいと思うんだが……魔法!?

この世界にはやはり魔法があるのか!?

てことは俺にも使えたり?

「へぇーミドナちゃんは魔法が使えるんだ! それって誰でも出来るの? 」

俺は僅かな期待を込めて聞いてみた。

「い、 いえ! 魔法はその人が持つ魔導エネルギーの生み出す力とそれをコントロールする技術を身につけないと出来ないんです。 だから誰もが出来るとは言えません。 人によっては何もしなくてもできる人もいれば、 たっくさん修行してようやく身につけれる人もいるんです。」

ガーン

まあ、 やっぱりそう美味い話はないか。

「あ、 でもでも頑張ればきっとお兄さんにも出来ますよ! 」

彼女は落胆した俺をみて気を使ったのか、 そうフォローしてくれた。

「ははは、 ありがとう頑張って見るよ。 」

「私で良ければわかる事ならなんでも教えますから! 」

彼女は励ましてくれた。

この子もすごくいい子そうだな。

「あっ、 お兄さんお名前はなんというのですか? 」

そうだ俺は彼女の名前知ってるけど彼女は俺の名前まだ知らないのか。

「あぁ、 そうだった俺はカランコエだよ。 よろしくね! 」

彼女は満面の笑みを浮かべていた。

ちょっと照れくさいな。

「カランコエさんは本当に人間なんですか? 」

突然彼女はそんなことを聞いてきた。

「えっ、 どういうこと? 一応そのつもりだけど。 」

「あっ、 気を害してしまったのならすみません! 」

彼女は頭を下げた。

「いや違うんだどうしてそう思ったのかなって。 なんか俺変? 」

彼女は首を横にブンブン振った。

「いえ、 そういうことでは無いんです。 まあある種変だなとは思いますけど。 」

ある種変、 どういう事だ?

俺が不思議そうにしていると、 彼女は続けた。

「だって人間が魔人の私達を助けるなんてまず変なんです 」

「それにその子、 ブラッドリーハウンドですよね? その魔物は凄く凶暴で危険な魔物なんです。 それがこんなにもしかも人間に懐いてるなんて。 」

へー定吉はそんな種類の魔物なのか。

「まじか、 こんなにも懐いてるのにか! 」

定吉はこちらを見て尻尾をブンブン振っている。

「お手! 」

スっ

定吉はお手をした。

「伏せ! 」

ズサッ

定吉は伏せをした。

「死んだフリ! バン! 」

これはさすがに出来ないだろ!

クゥゥーーン ポテッ

完璧すぎる!

まさかここまでしてくれるとは!

定吉は理想を詰め込んだペットのようだった!

普通ここまで覚える動物は数少ないだろう。

「うそ……」

ミドナは驚きの顔を隠せないようだった。

いやこれは俺でも驚きだ!

何も教えてないのにここまでの芸当をできるとは!

これはもはや天才だな。

「と、 兎に角あなたは一体何者なんですか! 」

と、 ミドナは俺はまくしたてた。

「うーん何者と言われてもただの人間だよ、 まあこの世界の住人ではないけどね。 」

「さっきも父様にそう言ってましたけどどうゆうことですか? 」

まあそりゃそうなるわな。

俺はラノベやアニメでそういう話を見てきたから薄々飲み込めたけど、 憧れもあったし。

普通はそういう反応なのかもな。

「うーんなんと言うべきか、 例えば今君がいる世界と別の世界があるとします。 そして別の世界の俺がなんかの拍子で君の世界に突然現れた。 簡単に言えばこんなとこかな? 」

ミドナは不可思議そうな顔をしていた。

まあそれもそうだな、 もっと説明のしようがあったかもしれないが俺にはこれが限界というところか。

「まああれだ分かりにくいかもしれないがある意味迷子みたいなもんだ。 」

「なるほど、 よく分かりませんが兎に角あなたはこの世界のことを知らないし困ってる、 てところですかね? 」

「まあそういう事かな。 」

「じゃあそうですね…… 」

ミドナは何かを考えていた。

「ではまずこの世界のことを知ってもらいましょうかね? 父様もそう言われてますし。 」

なるほどラインハルトはそこまで見透かしていたか。

「うん、 じゃあお願いするね! 」

「よし! 」

そう言ってミドナはほっぺを両手で軽くポンポンと叩いてから話し始めた。

「うーん、 まずどこから始めようかな。もうだいたいわかってるとは思いますけどこの世界には大まかに分けて人間族、 魔人族、 魔物族に別れてます。 そして私たち魔族は人間族に虐げられてます。 だから私達はあまり人間の方たちと交流することは無いんです。 」

「なるほどだからか。 」

これでここに来るまでの出来事に合点がいった。

「はい、 だから私たちに良くしてくれる人なんて初めてなんです。 恐らくこの数百年で初めてです。 」

「この数百年!? そんなに大事な話だったとは。 」

「はい、 私達は約500年くらい前に誕生したと聞きます。 そして魔物も同じくして誕生したらしいのです。 だから私達は忌み嫌われるのです。 魔王、 父様にしか分からない秘密があるみたいですが魔王になる物にしか伝えられないみたいです。 」

魔王にしか伝えられない事?

それは一体なんなんだろうか気になるな。

「そうだったんか、 それは辛いな。 」

そんな言葉しか出てこなかった、 ただただ不憫で自分の語彙力を呪ってやる。

「いえ良いんです、 1人だけでも私達のことを普通に扱ってくれる人がいるのがわかって良かったです。 」

そう言うとミドナちゃんは下をしばらく俯いていた。

恐らく泣くのを堪えてるのだろう、 それ程までに辛かったのだろう。

俺はこの人たちに何か出来るのだろうか、 そんなことを考えていた。

「す、 すみません重い話でしたね。 だいたいはそんな感じです。 」

この子は優しいな、 この子が謝ることは無いのに。

「大丈夫気にしないで。 誰も悪くないんだよ。 」

そう言うとミドナはいよいよシクシク泣いてしまった。

「ま、 まあそのあれだ気の済むまで泣くといい。 」

さすがに目の前で泣かれてしまうといたたまれなくなる。

しばらく俺は眺めてることしか出来なかった。

「す、 ずびまぜん! もう、 だ、 大丈夫です。 」

ヒックヒック言いながら彼女は無理やり笑みを浮かべてみせた。

なんでこの世界はこんな格差を産んでるのだろう。

いや差別なんてどの世界にも無くならない物か。

「まあ、 気にするな。 」

俺がそう言うと彼女はただうなづいた。

これは俺がどうこうできる内容では無いような気がする。

俺にはなんの力もないしな。

自分の無力さがただただ悔しかった。

「ごめんな何も出来なくて 」

「えっ! なんでカランコエさんが謝るんですか! 」

彼女は驚いていた。

「いや、 何となくかな。 」

ただ謝りたかったのだ。

「変な人ですねやっぱり。 」

そう言うと彼女はニコって笑った。

「そうそう女の子は笑顔が1番!」

俺がそう言うと彼女は恥ずかしそうに下を向いた。

彼女と話してると扉の隙間から2つ覗く顔が見えた。

確か俺が起きた時にいた2人か?

俺がそちらに視線をやると。

「うん? あぁ君たちもおいで怖くないよ? 」

彼女がそう言うと2人の少女が恐る恐る部屋に入ってきた。

「やあ君たちさっきぶり。 」

俺がそう言うと2人はミドナの後ろに隠れてしまった。

「大丈夫よ、 ポム、 ミム この人は他の人とは違うわ 」

彼女がそう言うと2人の少女は恐る恐ると出てきた。

「こ、 こんにちは…… 」

「さ、 さっきはごめんなさい。 」

2人はか細い声で呟いた。

「こんにちは。 」

俺は満面の笑みを浮かべてみせた。

だが2人はまだ恐怖心があるのかモジモジしていた。

ようしここはあれだな。

「さあてそれではここでショータイムのお時間と行こうか! 」

「ショータイム? 」

3人が同時に首を傾げた。

俺はポケットに手を入れてコインを取り出した。

「さあてこちらに見えますは何の変哲もないコインです! これを指で擦るとー? 」

「凄い! 消えちゃった! 」

2人が口を揃えた言った。

ミドナは目を見開いている。

「さあてコインはどこに行ってしまったのか。 それはー 」

俺はポムちゃんの耳の横に手を持っていく。

そしてまた手を戻して行った。

「えっえっ! 」

驚いたのかポムちゃんはアタフタしている。

「凄い! ポムちゃんの耳から出てきた! 」

ミムちゃんがキラキラしてみている。

「さあ次はこのコインを反対の手にうつしてみよう! 」

「あれ! また消えたよ? どうなってるの?? 」

遂にはミドナまで興味深々のご様子。

「さあ次はどこに行ったのかな? 」

今度はミムちゃんの頭に手を伸ばしまた戻す。

「えーー! 凄い!! ミムの頭からも出てきた! 」

2人はもう目を輝かせて俺を見ていた。

もはや恐怖心は消えたのだろうな。

「凄い今のは魔法なの? どうやったの!? 」

ミドナが興味を持ったらしく俺に詰め寄ってきた。

あれそう言えば喋り方……

「今のは手品ってやつだね。 魔法とは違うよ。 まあタネは秘密ということで。 」

俺はコインを指の上で転がしながら答えた。

まさか趣味で勉強してた手品が役に立つとは。

「えぇーずるい! 今度教えて! 」

ミドナはどうやら手品を気に入ったらしい。

「うーん、 気が向いたらね。 それよりそんな喋り方だっけ? 」

俺がそう茶化すと、

「えっ!? あっこほん、 今度教えてください! 」

そこは譲らないのか。

「お兄ちゃん教えてあげて? ミドナお姉ちゃんが可哀想! 」

ポムミムが俺の両腕をゆさる。

「分かった分かった今度な! 」

ミドナが満面の笑みを浮かべた。

「約束ですからね! 」

約束、 か。

これは忘れないようにしないとな。

トランプみたいなのがあればカードマジックを教えるのもいいかもな。

カードマジックは比較的簡単だし。

「さて、 2人ともお兄ちゃんは疲れてるからまた今度あそんでもらいましょう。 」

「はーーい。 」

ミドナがそう言うと2人はミドナと手を繋ぎながら歩いていった。

「バイバイ。 」

俺は小さな背中を眺めながら小さく呟いた。

俺はまたベットに倒れ込み瞼をゆっくり閉じた。

あの子たちが幸せになる世は訪れるのだろうか。

いつかそんな日が訪れることを俺は祈った。

この世界は突如魔人と、魔物が誕生した。

そしてその秘密を魔王が握ってるらしい。

一体この世界はどんな秘密を抱えているというのだろう。

近いうちにラインハルトに聞いてみようかな。

俺はそんなことを聞いてどうするつもりなのだろうか。

自分でも分からなかった。

「もう寝よう疲れた。 」

俺は考えるのをやめ静寂に身を任せることにした。

…………

──チュンチュン──

鳥のさえずり声で目が覚めた。

うっ、 まだ体が痛む。

やはりまだ痛みは取れないか。

「うーん体も頭も痛い。 」

魔法で傷は癒えてもやはり完全に治癒してる訳では無いもんな。

「でも魔法ってスゲーなやっぱり。 どんな傷でも治せるのかな。 」

そうだとしたら本当に便利なものだな。

1日また寝たきりなのもつまらないから今日は当たりをぶらぶらしてみようか。

「定吉散歩行こうぜ。 」

定吉にそう問掛ける。

「わおぉん! 」

定吉はムクリと起きてから尻尾を振りながら応えた。

俺は定吉と一緒にこっそりと扉から顔を覗かせた。

何故だか俺らは悪いことをしてる訳でもないのに泥棒みたいにこっそりと動いていた。

扉の先は細く長い木製の廊下が続いていた。

どうやらこの部屋は突き当たりに当たるようだ。

「こうして見るとなかなか立派な作りだな。 」

ここはこの街の病院なのだろうか、 現状見てる限りでは御屋敷のような気もするが。

しばらく散策しているとミドナと少女が楽しそうに話していた。

2人が俺らに気づくと駆け寄ってきた。

「カランコエさん、 ごきげんよう。 」

「ミドナ様からお聞きしました。 目を覚まされたようですね! ご無事そうで何よりです。 あっ私はマリーと申します。 この屋敷の侍女をさせていただいてます。 」

「2人とも世話になってます。 えぇお陰様で何とか生きてますよ。 」

「本当にあの時はありがとうございます! 」

侍女らしき少女は深深と俺にお辞儀をした。

「いえいえ俺がしたいようにしただけなので、 気になさらずに。 」

「歩き回ってももう大丈夫なのですか? 」

ミドナは心配そうな顔をしていた。

「まあ多少は痛みますけど寝てても退屈なので少し散歩でもしようかなと思いまして。 」

「そうなんですね! じゃあ私達が案内しますよ? 」

「そうですね、 やはり詳しい者がいた方が安心でしょうし、 私とミドナ様は今日は特にすることもありませんのでカランコエ様が宜しければどうでしょう? 」

確かに2人の言うことは一理あるな。

それにあくまで俺は人間なんだし、 他の方が俺は警戒するかもしれない。

それなら彼女らがいてくれれば少し安心してくれるかも知れないな。

「そうだね、 じゃあお願いするよ。 」

俺がそう言うと2人は嬉しそうに案内を引き受けてくれた。

2人はまず俺がいた部屋のフロアを案内してくれた。

「まずはここです。 カランコエ様が今お泊まりされてるお部屋があるフロアですね。 こちらは普段客室などで使っております。 まああまり使われることはないんですけどね。 」

そう言うとマリーは苦笑いしていた。

「そうなんだね、 すごく居心地いいから勿体ない気もするな。 」

「ふふふっそう言って貰えると幸いです。 ありがとうございます。 」

マリーはまたお辞儀をした。

「まあ客室はこんな感じですかね。 」

そんな感じでマリーとミドナは一通り屋敷を案内してくれた。

「ふぅ、 だいたいはこんな感じです。 あまり広くはありませんので迷子になったりはしないと思いますが。 どうでしょう分かりやすかったですか? 」

マリーは心配そうに聞いてきた。

「うん、 ありがとう! 2人の案内が優秀だからすぐ覚えれたよ。 」

「やっぱりマリーは凄く優秀だからね。 困ったことがあれば彼女を頼るといいと思う。 」

ミドナがそう言うとマリーはあたふたしながら、

「こ、 困りますミドナ様! 私はそんな、 ミドナ様に比べれば……」

「すぐ謙遜するんだから、 自信もって! 」

どうやらこの2人は相当に仲がいいようだ。

それも侍女と姫ではありえないくらいに。

でも仲がいいことは素晴らしい事だ。

「カランコエ様何を笑われてるのですか? 」

どうやら俺は知らないうちに笑っていたらしい。

「いや、 2人が仲良さそうだからついな。 」

「そ、 そうでしょうか? 」

「まあ、 私達は付き合い長いから友達みたいなもんだよね? 」

なるほどそう言う事か。

友情は素晴らしきかな、 美しいものだ。

「これはこれはミドナ様こんな所でなにをなさられてるのでしょうか? 」

俺達が話していると廊下から1人の老人が近寄ってきた。

「シグルド、 こんにちはいい天気ね! 今はこちらのカランコエ様に屋敷を案内していたの。 」

どうやらその執事のような老人はシグルドと言うらしい。

「なるほどこちらの御仁がカランコエ様でしたか。 これは失礼致しました、 私こちらで執事を務めさせていただいてますシグルド、 と申します。 以後お見知り置きを。 」

そう言うとシグルドは深深とお辞儀をした。

「あっ、 いえいえこれは丁寧にどうも。 こちらこそお世話になっております。 」

紳士で凄く執事らしい執事さんだ。

俺もかくありたいものだな。

「ホッホッホ気になさらずに、 してカランコエ様は剣士様でおられるのですか? 」

シグルドが突然そんなことを聞いてきた。

俺は突然の質問にそれも予期せぬものに少し驚いた。

「ど、 どうしたんですか? 突然、 俺はただの人間ですよ、 剣士なんてそんな大層なものじゃないですよ。 」

俺は苦笑いをしながら答えた。

「なるほど左様で御座いましたか。 これは失礼を申し上げました。 なかなかに立派な剣をお持ちでしたのでついそう思い込んでしまいました。 老骨の戯言ですゆえ何卒御容赦を。 」

「シグルドはこう見えて昔は腕利きの剣士だったのよ。 父様もそれは頼りになる、 って仰ってたわ。 」

「姫様、 そんなことはございませんよ。 ただそれしか能がないだけでございます。 ホッホッホ。 」

この紳士が剣士だったなんて。

分からないものだな、 それに相当の腕前なのか。

「さて私めはこれにて失礼させていただきます。 どうかごゆっくりして行って下さいませ。 」

シグルドはそう言うと一礼して去っていった。

「さて次は街を案内しましょうか。 」

ふと庭の先に見える街を見る。

俺が最初に訪れた街に比べるとそこまで発展している程ではないようだが、 廃れてるって訳でもないようだ。

街の外周には堀がありそして街の周りには柵が設けられていた。

もちろん結界ももちろん設置されているようだった。

ただ今まで見てきたものとはなんか雰囲気が違うようだった。

そして畑がいくらかありそこで作業してる人が数人いた。

そしてお店が数件、 宿が1件民家が数件あるようだった。

木造の建物がここは多いようだった。

近くで石などが取れる場所が無いんだろうか。

それでもなかなか立派な出で立ちではある。

そこまで広くはないようで街の案内はそこまでかからなかった。

「どうでしょう、 これが私たちの街です。 人間達の街に比べれば大したことは無いかもしれませんが。 人間の方々はここを肥溜めと呼んだり、 ガーベージとか呼んだりしてます。 私達はライズと呼んでます。 」

肥溜めだのガーベージだの相変わらず人間は魔人が嫌いなんだな。

「そうかライズか。 いい街だな。 」

俺がそう言うと2人は少し嬉しそうな顔をした。

「おぉ! 貴方様はあの時の! 」

突然そんな叫び声が聞こえてきた。

声の主の方を向いてみると、 見覚えのある人がこちらに駆け寄ってきた。

えーと、 確かなんだて言ったけ。

そうだ、 ダリルだったけかな?

「はぁはぁ、 そのせつははぁはぁ、 本当にありがとう、 ございました! 」

余程急いだのか息を切らしていた。

「確かダリルだっけ? 落ち着けよそんなに息を切らして。 どうやら大丈夫だったようだな! 」

「は、 はい! それに私のことを覚えてくれてたんですね! ありがとうございます! まさかこちらに大怪我をして運ばれた人間が貴方様だとは何たる偶然! 」

俺もまさかこんな所で再会出来るとは思わなかった。

「お兄ちゃんあの時はありがとう! 」

コメリがダリルの横からひょっこり出てきた。

「おぉコメリか元気してたかー? 」

「うん! 元気だよ! 」

コメリは満面の笑みを浮かべていた。

「大怪我されたと聞きましたがご無事そうで何よりです! 本当にあの時はありがとうございます! それに姫様までお助けになられたと聞きました! 本当にあなたという方はなんとお礼を申し上げれば良いのか。 」

ダリルはまた申し訳なさそうにお辞儀をしていた。

「ダリルさん、 そんな気にしないでください。 俺がしたいようにしただけなので。 」

「ありがとうございますありがとうございます! 」

ダリルは泣きながら何度も頭を下げていた。

「ダリルさんもしかしてカランコエ様があなた達を助けてくれたの? 」

「はい! そうなんです! 」

「そうなのね、 カランコエ様私からもお礼を言わせてください。 本当にありがとうございます。 」

ミドナとダリルが揃って頭を下げた。

「いやいやだからいいって! 2人とも止めてくれよ! これじゃ俺が2人を虐めてるみたいだよ。 」

俺がそう言うと2人はゆっくり顔を上げた。

「そ、 そんなことよりそちらの美人さんは? 」

俺は何だか気まずくなってきたので先程から気になってたコメリの横にいる美人さんのことを聞いた。

違うからね、 美人だから気になってるわけじゃないからね!?

「あぁ、 紹介が遅れてしまいました! 彼女は私の妻、 ナギと申します。 」

「ナギです。 旦那と娘がお世話になったみたいで、 本当にありがとうございます。 」

ナギはペコっ、 と頭を下げた。

「あどうも。 」

俺もペコっ、 と頭を下げた。

「いやーでもこんな素敵な奥さんがいるなんて羨ましいですよ。 」

「カランコエ様はおらんのですか? こんなにいい男なのに。 」

とダリルが言った。

「はははお世辞は大丈夫ですよ。 ほぼ女性とお付き合いしたことはないですよ。 」

俺は苦笑いした。

実際俺は彼女が出来たことがほぼない。

まあ俺はその辺に関しては諦めがついてるので気にしてないが。

「そうなんですか、 きっといい人が見つかりますよ! 」

とみんなが俺を励ましてくれている。

逆にその励ましが辛いけど。

正味そう言って貰えるのは有難くもある。

何とも人間の感情はめんどくさいな。

「ありがとう、 まあ気長に待ちますよ。 」

俺はそう濁しておいた。

そんな日が来ればいいなあ。

まあやっぱり羨ましくは思うからね。

俺らはしばらく談笑していた。

談笑した後俺は庭で腰を下ろしてボーとしていた。

他の人達は魔人族のみんなのことを蔑み、 不当な扱いをしているが彼らも人間とそう変わらない。

魔物のように避け隔てもなく何かを破壊するとかはしないし、 一人一人個性や考えや思うところがある。

そう、 人間と同じ、 考える生き物なんだ。

それなのに何故こんな扱いを受けるのか、 ただ種族が違うと言うだけで。

なんで差別なんてものがあるんだろうな。

まあ何かの上に立てなきゃ満足しないのが人間なんだろうがな。

これの立場が逆だったらどうなるんだろうな。

俺がそんなことを思い耽ってると、

「これはこれはカランコエ様ではありませんか。 」

シグルドが1度お辞儀をすると俺に近づいてきた。

「やあシグルド、 ゆっくりさせてもらってるよ。 」

「やはりあなたは他の方とは違うのですね。 私共をネームレスとお呼びしないし、 何より同じ人間として扱ってくださる。 いやはや貴方様という方は分からぬお人だ。 」

「それは俺もだ、 俺もなんでこんなことをしてるか分からんよ。 でもそれでいいんじゃないか? 何をしてるか分からなくても自分が正しいと思ったことを守れば。 それが間違いなら正せばいいし、 きっと誰かが正してくれる。 そう思えばいいと思うんだ。 」

「なるほど貴方様はそのお若さでなかなかに苦労なされているのですね。 それならばその風格もうなずける。 」

シグルドは何かを納得しているようだった。

そう言えば若い、 って言われるのあまりないな。

俺は学生の時から30代以上に見られてたし。

「そうだシグルド、 俺に剣を教えてくれないか? 」

「これはこの老骨が、 ですか? また一体どういった風の吹き回しで? 」

シグルドが驚いた、 という顔をしながら聞いてきた。

「あなたは剣の腕が立つと聞いています。 だからあなたに教えを請いたい。 俺はこの世界で生き残るために剣を覚えたいんだ。 残念ながら俺は剣を扱ったことがほぼほぼないんだ。 お願いします! 」

俺は深深とお辞儀をした。

「なるほど左様でしたか。 であらばこのわたくしめにおまかせを。 貴方様を立派な剣士にしてご覧にいれましょうぞ。 」

と言うとシグルドは一旦どこかへ行ってしまった。

しばらく待ってるいるとシグルドは木で作られた剣を2つ持ってきた。

ひとつはレイピアを模していた。

そしてもうひとつは、 刀、 そう刀だ!

刀を模している、 いや それはもはや木刀だ!

「これでやりましょう、 真剣では怪我をしますからね。 まあ木でも痛いものは痛いですが。 」

「ああ、 それでいい。 なあそれはレイピアを模しているんだよな? もうひとつは…… 」

俺がそう問うと。

「えぇ左様です。 そしてこちらは貴方様がお使いになられていた得物。 あまり見るものではなかったので作るのに苦労したようですよホホホホ。 どうでしょう全く同じとはいきませんが扱いやすいかと存じます。 」

俺は木刀を受け取り握ってみる。

確かに闇霧に近い軽さも、 握り具合も。

これを作った人は腕が良いのだろうな。

「あぁ! しっくりくる! ありがとうシグルド、 後でこれを作った人に会わせてくれ。」

「えぇ承知致しました。 彼も喜ぶことでしょう。 」

シグルドは俺の素振りをしばらく眺めていると、 コホン、 と一呼吸入れて。

「それではそろそろ始めましょうか。 まずは貴方様のお腕前を知りたい。 まずは実戦形式でお願い致します。 」

「御意。 それではお願いします! 」

俺はそう応えると。

シグルドが一瞬腰を落としたかと思うと、 既に視界から消えていた。

「ど、 どこにいった? 」

俺が辺りを見渡すと既に後ろに回り込まれていた。

そしてレイピアの剣先がこちらに伸びていた。

俺は咄嗟に木刀でそれを弾いた。

剣先は俺の体に当たる寸前で流されすり抜けていった。

「ほうなかなかにこれ一体どうして。 」

シグルドは驚いていた。

どうやら最初から本気のようだ。

俺は合気道で対刀用の護身技はある程度身につけているがレイピア相手は初めてだ。

それが応用出来るかも分からない。

ただ趣味で友達とよくチャンバラみたいなことをしていて良かった。

型にない技を磨いていて良かった、 じゃ無きゃ今の一撃まともに食らっていただろう。

俺は今度はこちらの番! と言わんばかりに木刀を上段に構え大きく振りかぶった。

シグルドはそれを寸前でヒラリ、 と身を躱した。

俺はそれを確認するとそちらに切り払った。

フワッ

なんとシグルドはその剣先を空中で体を捻り躱していた。

なんて身のこなし、 まるで老人とは思えない。

シグルドはすかさずレイピアを1突き俺におみまいした。

俺は木刀を横に返しそれを受け止める。

カンっカンっカンっ!

突きを受け止めた衝撃が手に走る。

可笑しい!

1突きとは思えない。

なんて爺さんだ、 1突きに見えて3回も突いてきやがった。

早すぎる。

シグルドはすかさず突きを繰り出してきた。

避けたり木刀で受けるので精一杯だ!

こっちから攻撃なんてする暇もない。

得物の相性もあるだろうが圧倒的にあの爺さんが強すぎる。

俺は攻撃の隙を見て1度後ろに下がり居合の構えをとった。

シグルドは驚いた顔をしていた。

スウー 俺は大きく息を吸う。

そして踏み込み一気に間合いを詰め木刀を振り払った。

カキン!

大きな衝撃音がこだまする。

シグルドがレイピアで防いでいた。

シグルドのその時の顔は驚きに満ちていた。

「今のは、 見たことの無い構えですな。 それは貴方様のオリジナルの技ですかな? 」

シグルドはレイピアを下ろし俺に尋ねた。

「これは居合と言ってまあ俺の国の剣術のひとつだね。 まあ木刀でやるのはあまり見た事ないかな。 」

「なるほど、 長く生きるものですね。 まさかこんな面白い技が見られるとは。 今のもそうですが貴方様がお使いになられる技はどれも興味深い。 なかなかにご修練を積まれているようですね。 良いでしょうだいたい貴方様のお力はわかりました。 毎日この時間この場所で私めと共に修練をする、 それでどうですか? 」

シグルドは僅かに嬉しそうな表情していた、 ように見えた。

「ああ! お願いします! 」

こうして俺は毎日シグルドとの稽古をすることになった。

…………




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