特別編 クリスマスの夜


 ダークエルフの里。とある日、老人との修行を終えた少年少女が、就寝の準備を始めている空間。

 二人は通気性の良い灰色の長袖長ズボンの寝巻きに身を包み、黙々と引き出しから布団を出す作業をしている。少女は、普段は束ねている、輝く絹糸のような黒髪を、肩まで下ろしていた。


 その空間に、少年の言葉が響き渡った。



「あ、今日クリスマスかも」

 手に持って広げた布団が宙を舞い、やがてそれが地面へと置かれるその動作の途中、布団の奥に驚きの顔で固まったことりがいた。


 やがて、その固まった口をわなわなと震わせた後、徐々に喋り始める。


「え……え? 12月25日? キリストが生まれた日?」

「キリストが生まれた日ではないって話だぞ」

「いやいや! そんなのどうでもいいんだよ!! え、え、クリスマスなの!? どうしよう……異世界にもサンタさんはいるのかな!?」

「それで言うと、サンタ枠って俺しかいないんじゃねえの……」

 この異世界にクリスマスの文化があるとは思えないし、ことりにプレゼントを渡せるとしたら俺だけだが、プレゼントなんてない。


 見ると、布団を敷かずにその塊に向かって飛び込んで、仰向けに照明を見上げることり。

 どうやら、お姫様は不満があるらしい。


 やがて、その瞳に照明を反射させながら、大げさに憂うように言った。まるで、悲劇のヒロインのように。


「嘘だ……プレゼントが貰えずに、一日が終わるなんて……」

「いや、今日の深夜に貰えるかも知れないだろ。ちなみに俺は何も用意していないけどな」

「ねえ、絶望的じゃん! いやだー!! 私は何か欲しいよ!! そうだ、私あれ欲しい! お菓子セット!! ポテチもチョコも食べたいよ!!」

「すまん。俺は無力だ」

「鬼畜!! 畜生!! クソカスノロマゴミニートーっ!!」

「近所迷惑だから静かにしなさい」


 なぜ俺が親みたいなことを言わねばならんのだ。


 その後も、床に置いた布団の塊の中で、両手足を駄々っ子のように動かして不平不満を主張し続けることり。


「やだやだ!! せっかくのクリスマスに何もないなんて、あり得ない! 私はそんな現実に耐えられない! ああ、自殺しちゃうよぉ~!! サンタさんがこないと、うっかり外に出て飛び降りちゃうよ~!!」

「お前が言うと本当に性質の悪い冗談だな……」

「だから言ってるんだよ」

「最悪じゃねえか」

 ふーむ。しかし、現実問題、この里では生活すること以外のことは中々できない。端的に行ってしまえば、娯楽などの要素が何一つないのだから。


 何か、ことりにやってあげられることはあるだろうか……。


 そうやって考えているときだった。


 コンコン。部屋の扉が鳴る。


「え、誰?」

「さあ。この時間だと、普段は皆寝てるはずだけどな」

 と言いつつ、部屋の扉に向かって歩いて、手をかけた。


「はーい……って、ターニャさん」

 目に入ってきたのは、褐色肌。紫色の髪を短めに首まで下ろし、髪と同じ紫紺の瞳をした女性。長い耳に、白いピアスが輝いている。


「……」

「あ! ターニャじゃん。どうしたの?」

 普段は起きてからずっと狩りの装備の彼女も、流石に寝るときは部屋着に着替えるようで、ベージュ色のスウェットに身を包んでいた。


 というか、ピアスもずっとつけているのか。痛くないのかな。


 彼女は、何かを訴えるような真摯な目でこちらを見ていた。しかし、彼女は声を発さない為、その意図を汲み取るのは中々難しい。


「えーっと……なんだろう……なんか俺が怒らせるようなことしたとか?」

「お兄ちゃん、何言ってんの。どいたどいた。ターニャ、とりあえず入りなよ」

「……」

 首肯すると同時にことりがターニャさんの手を掴み、部屋の中に引っ張った。

 扉の前が一瞬、人で詰まる。通りやすいように、横に退く。


「おうおう……えっと、お茶でも出す?」

「そうだね。お兄ちゃんには雑用がお似合いだしね」

「言うじゃねえか。ちなみに、お前は今お茶を出すのに人生を懸けている人を馬鹿にしたんだぞ。そこらへん、分かってるんだろうな? もう取り返しがつかないぜ?」

「違うよ。むしろ、お兄ちゃんがそう言うのは、お茶を出す人が雑用係っていう認識があるからじゃないの? 私は、お兄ちゃんには雑用がお似合いって言っただけだもん。むしろ、お茶を出すのに人生を懸けている人を馬鹿にしたのはお兄ちゃんだよ」

「おう。俺の負け。降参します。今すぐにお茶を出します」

「よろしい。ささ、ターニャ、座ろう」

「……」

 見ると、ターニャさんが俺らを交互に見て、胸の前で手を横に振っている。

 なんだろう。お構いなく、的な感じだろうか。


 ていうか、部屋着姿のターニャさんを見て、初めて分かったことだが……意外と胸がでかい……。

 この里、基本的に冷帯なので、住まう人々みな厚着なのだ。こういう肢体が浮かび上がる服装も、中々……


「お兄ちゃん? なに見てるのかなー?」

「そりゃお前、ナニだろうよ」

「きも! 早く死ぬかお茶入れて!」

「死ぬのは嫌だから、お茶いれんべ……」

 部屋の隅にある台所(仮)に向かう。仮というのは、調理道具も特にない、ただの台と水口があるだけだからだ。

 蛇口に似たようなものだが、どうやら木の幹を通して、魔法で水を上まで汲み上げているらしい。原水は川の水だ。


 上の棚から急須と茶葉を取り出す。パックなどに入っていない茶葉なので、淹れるときに多少茶葉が入ってしまうが、野菜を食ってると思えば平気だろう。


 茶葉を入れて、水口から急須に水を入れる。


 それを台に置いて、手を差し向ける。


火種イグナイト


 小さな火種が生まれ、急須の下に置かれた。

 これで、微熱が伝わって段々と沸いていくはずだ。


 そこまでやって、後は温めるだけなので、片手を差し向けたまま後ろを振り返る。


 そこには、丸い卓で話すことり。

 どうやら、理由は分からないが、ことりはターニャさんの意思が分かるらしい。それは、半霊という特性が関係しているとは思うのだが……俺にはよく分からない。


 本人曰く、「魔力が囁いてくる」そうだ。それで言うと、魔性体である俺にも意思が伝わってきてもいいように思うが。


「ああ、お兄ちゃんのことは気にしなくていいの!」

「……」

「申し訳ないって……そんなのいいって。あんなの、こき使えばいいんだよ」

「……」


 おいこら。こき使えばいいとはなんだ。ちゃんと壊れないように使ってあげて?

 全く。俺もちゃんと取り扱い説明書を歌にしなきゃだめだろうか。こき使われると心が複雑なの~ってな。ナーサに使われるのはオールオッケーなんだが。


 はあ。あの純白の毛並みを早く視界に納めたい。会えないというのがこんなにも辛いことだったなんて。遠距離恋愛カップルの辛さを今実感しているぜ……。


 っとと。急須から煙が出ている。ちっと温めすぎかもしれん。

 炎魔法を維持している魔力の接続を切って、炎の火種を消す。そして今度は、急須の中に満たされているお湯に魔力を通した。


『生命の源よ』


 水属性を付与し、魔力を操作する。

 中でお湯が渦を巻くように動き回る。茶葉がよくお湯に溶けるだろう。


 ついで、上の棚から湯飲みを三つ取り出す。

 そして、それらを台に置いて、急須を持ち上げてお茶を淹れていく。


 少しずつ、一つ一つ。最後のほうほど味が濃くなるため、均等になるように少しずつ、一つ一つを廻しながら淹れていくのだ。


 やがて、三つの湯気が立った。

 近くにあったお盆に載せて、振り返る。


「――うん、いいよ。ターニャがそう言うなら」

「……」

「はい、お茶だぞ。ところで、何の話だ?」

 卓にお盆を置いて、座る。

 ちょうど三角形を描くように、俺たちは座った。


 早速、湯のみの一つを取って啜る。すると、口の中にまず、熱さが伝わってきた。火傷ぎりぎりのちょうど良さ。ついで、苦味。だが、これがいい。

 冷えた外気のせいか、暖かいお茶の体内の動きが、分かる。喉を通って、腹の中が不自然なほどに温まっていく。


 湯のみを置くと、二人もちょうど同じ動作をしていた。

 三人が同時に息を吐くと、ことりが話し始める。


「ターニャが少しお出かけしないかって」

「ふーん。いいけど、明日? 何時にする?」

「いや、今」

「今!?」

「……」

 なぜか、必死に首を縦に振りまくるターニャさん。やたらに必死だ。


「いや、まあ、いいけどな……俺たち三人だけか? 誰かに出かける旨を伝えといたほうがいいんじゃねえか?」

「その辺は大丈夫だよ。別に、危ないところに行くわけじゃないって」

「じゃあ、どこに」

「分かんない。ターニャが秘密だって」

「……」

 声は出さないが、首を縦に振るなりで会話に参加するターニャさん。

 しかし、秘密か。普段は澄ました顔をして生活している彼女だが、端々にお茶目さを感じるところがあるよな……ギャップ萌えだ。もしかしたら、彼女は喋ったら、お転婆娘的なキャラなのかもしれないな。


「ふーん……じゃあ、行こうか。一応、狩りの装備は持ってくけど……」

「お。お兄ちゃんが行くって。良かったね、ターニャ」

「……」

「じゃあ、お茶飲み終わったら……門で待ってれば良い? ターニャさん、一回家戻るでしょ?」

「……」

「はいはい。じゃあ、私たちは先に待ってるね」

 やがて、湯のみの湯気がなくなった。


 その後、ターニャさんが外に出ていったので、俺たちは準備を始めた。



______



 木の塀が立ち並ぶ。その一角、大きな門の前に、立っている。

 すっかり帳が落ちた世界だが、この里の中央にある木には照明がつけられており、この周辺は夜とはいえど暗闇にはならない。


 隣、エスキモー服に身を包んだことりが、白い息を吐いている。

 普段は、外に出るときはポニーテールなのだが、別に狩りに出かけるわけでもなし。今は髪を下ろしている。


 そうして、お互い白い息を吐いた後、ことりが喋りだす。


「お~寒いね。やばい、最高に寒いよ、お兄ちゃん」

「まあ、そうだな。そういや、ことりは夜の雪原は初めてか。まあでも、今日はそんな寒くないし……外も深深って感じだから、まあ特に注意しておくことはないかな」

「なに? 普段はそんなにやばいの?」

「ああ。吹雪が吹き荒れて、目の前がホワイトアウトする。手足の感覚がなくなって、鼻水は凍る。全ての感覚が鈍って、口を開けたら、寒すぎて喉が凍りつく。そして凍傷で死ぬ」

「地獄だ……」

「今日は平気だ。ていうか、ホワイトクリスマスだな」

 雪が、降っている。深深と。

 静寂の夜に降る、真っ白の雪たち。その様は、暗闇に踊る妖精のよう。不思議と、幻想的に感じてしまう光景だ。


 ことりが両手を受け皿にして、雪を受け止めている。


「あ、見てみて。ちゃんと結晶になってる」

「お、本当だ。こういうのはどこ行っても変わらんもんだな……」


 ことりの手袋に浮かぶ結晶の模様は、日本と変わらないものだった。


 そうやって、二人で適当に時間を潰していた。


 そのとき、里の方から足音が聞こえてきた。

 見ると、ターニャさんだった。普段の狩りの装備だ。白い外套に身を包み、茶色の革のブーツ。見慣れた格好だが、だからこそ安心感がある。


「あ、ターニャ!」

「……」

「うん。行こう行こう! ほら、お兄ちゃんも」

「おう」

 ターニャさんの先導で、歩き出した。


 森を歩く間も、世界は静寂に包まれていた。



______



「…………はあ」

「ことり、大丈夫か?」

「うん。平気。ターニャ、結構歩くんだね。目的地はまだ?」

「……」

「まだ……しばらく、私の足跡を見てろって? あはっ! 変な注文。お兄ちゃん、だってさ。上を見るなって」

「りょーかい」

 従わない理由もないので、素直にターニャさんの足跡を視線で追いかけながら歩く。


 しかし、本当に静かだ。いや、昼に狩りに出かけるときも静かだが……太陽光に反射しない雪のせいだろうか。月の光を受けて、真っ暗というわけではないが、少しだけ暗い。そんな心地よい、侘しさを感じるような暗さが、無音というものを強調して静寂に感じるのかもしれない。


 嫌いではない。むしろ、好きな雰囲気だ。


 ざっざと、雪を踏みしめる音が続く。ターニャさんとことりだと、やっぱりことりの方が足のサイズは小さいな……あ、腕に落ちた雪が溶けていく……そんな思考だけが続いていく。


 その少しの楽しさを感じさせる時間は、やがて終わりを告げる。


「……わあ。ターニャ、どうしたの」

「……」


 見ると、ターニャさんが立ち止まっていた。それに気づいたことりが話しかけている。

 周囲を見ると、物静かな景色が広がっている。雪の間から覗かせる岩肌も、闇を湛えるような森も、今もなお深深と降り続ける雪も、普段とは違う新鮮な景色だ。


 そんな景色を堪能していると、ことりたちが若干騒がしくなったので、そちらを見る。


「うん……うん……上?」

「……」

 ターニャさんが上を指差している。


 そして、俺とことりは空を見上げた。



「「うわぁ……」」


 星々が輝き、月が全てを照らすその夜空。そこに更に輝く、青や緑の幕。川の水が流れるように揺れ動き、美しい光景を創り出す。


 それは、俗に言う、オーロラだった。


 何重にも重なった、青、緑、赤の色の幕は、幻想的で、なおかつ神秘的。それでいて、蛇のように揺れに揺れ、夜空を蹂躙するかのように存在していた。


「綺麗……」

「……ああ、そうだな……こんなの、一生見れないと思ってた……」

「私も……」


 その光り輝くカーテンは、およそ現実のものとは思えないほどの美しさを携えている。見ていると、自分までも現実を忘れてしまいそうなほどに、それほどまでに綺麗で、奇麗だった。


「……」

「……え? プレゼントって……あはっ! もしかして、私の嘆きが聞こえたから?」

「……」

「やだ、ターニャ! 私恥ずかしいよ!」

「なるほど……こりゃ、一生の思い出になる、最高のプレゼントだな……」


 俺は会話を聞きながらも、その目をオーロラから外せなかった。

 あまりにも美しいその光景に、釘付けになっている。


 しかし、この深深と降る雪……雲もないのに、どこから……。


 すると、一瞬だけ、辺りに突風が吹き荒れ、同時に、雪が空に舞っていく。

 サスツルギが生まれ、雪原にも新たな模様ができる。


 回答は、すぐに自然が行ってくれた。


「……なるほど。舞ったのか」

 一人納得していると、ことりが感嘆の息を漏らす。


「……すっごいなあ……私、この光景、一生忘れないよ。ありがとう、ターニャ」

「……」

 ことりがターニャさんにお礼を言っている。

 すると、普段ポーカーフェイスのあのターニャさんが、微笑を浮かべた。


 なぜだか、それがすごく印象的に思えて。一枚絵のように、記憶に刻まれるのが自分でも分かった。


 だから、自然と言葉が出た。



「……俺も、ありがとう。ターニャさん。きっと、ずっと、大事な宝物になる。この三人で見た、この光景は、俺の思い出の一部として、永遠に……だから、ありがとう」

「……」

 俺からそういう言葉を普段聞いていないせいか分からないが、ターニャさんの顔が驚きに染まる。

 スリューエルが現れたときすら、驚かなかったのに。そんなに意外だったか?


 すると、今度は何かを躊躇うように顔を下に向けた。


「……?」

「……」


 次の瞬間だ。


 手を、握られる。


「おお~?」

「え……」

「……」

「あー……えっと、寒かったか。こうしてると、暖かいよな」

「……」

 そう言うと、今度は顔が赤くなった。

 けれど、俺の顔も熱い。自分でも分かるぐらい、顔が赤くなっている気がする。


 なんだこれは。民族間の挨拶的なあれじゃないのか?


 やがて、繋いだ手をぶんぶんと振られた。見ると、顔を赤くしながらも、ふくれっ面になっている。


 横から、声が飛んでくる。


「うわー……お兄ちゃん、最低だね」

「なにがだ!?」

「……」

 その間も、ずっと腕をぶんぶん振られている。

 やっぱり、ターニャさんはお茶目だな。


 オーロラを見る。綺麗だなぁ。そんな感想を、腕を振られ続けながら、この状況に一種の諦めを抱きながら、現実逃避気味に言っていた。



______



「すごかったね、お兄ちゃん」

「……」

「ターニャ、あの景色を見せてくれてありがと!」

「……」

「……お通夜じゃないんだから! なんか喋ってよ!」

「いや、まあ、そのな……」

 まだ手が暖かいんだよ。この温もりが消えないと、どうにもターニャさんの顔を見辛い。

 ちらっと尻目に見ると、目が合った。向こうが、わっと驚いたような表情をした後、顔を反らす。


 なんだ。なんなのだその反応は。挨拶的なあれじゃないのか。普段のポーカーフェイスはどこへやら。お兄ちゃん、そのギャップに萌えちまうじゃねえか。


 耳の熱さを誤魔化すように、くだらない思考をするのが精一杯だ。


「……こりゃだめだ。お互い、今日は使い物になりそうにないね!」

「……」

「……」

「本当にだめだ!?」


 そうやって話していると、家の前に着いた。いや、正確に言えば借り小屋だが。


「じゃあ、ターニャ。私たちはここで。明日までに、調子を戻しといてねー!」

 ことりは背中越しに手を振ると、ささっと扉を開けて中に消えてしまった。


 二人、残されても困るんだが。


 振り返ると、紫紺の瞳がこちらを見ていた。何度も何度も見ているその瞳を見るのは、今はどこか気恥ずかしい。


「あー……その……まあ、明日からまたよろしく?」

「……」

「……」


 喋れないのはまだいいとして、顔を下に向けられると、どんなことを考えているかも分からないんだが……。

 しかし、彼女はまだここを去りそうにない。まだ、言いたい事があるのだろうか。


 とりあえず、今日はもうお別れにしよう的なことを言おう。



「あの――――」


 そのとき、右の裾を引っ張られた。


 ――――チュ


 頬に、感触。



「――――え」

「……」


 彼女は、怒り出しそうな、泣き出しそうな、嬉しそうな、なんだかよく分からない表情と、瞳に涙を浮かべながら、こちらを見ていた。


 そして、最後は笑った。


 呆けていると、彼女は手を振って、横手の階段を下りていった。



「……手の温もりどころじゃねえな……」

 なんだか、全身が熱かった。


 外は、クリスマス。真冬の寒さに震えるはずの体は、どこか火照って仕方なかった。



「あれ。お兄ちゃん、なんか顔が真っ赤だよ」

「気のせいだ。これは気のせいに違いない」

「……どしたの」

「知らん! 俺はもう寝る!!」



 とあるクリスマスの夜のお話。少年の思い出は、たった一日で、二つできてしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る