自然と兄妹と



 八畳間ほどの部屋。弱々しい光に照らされた室内で、テーブルを隔てて向かい合う少年少女。テーブルには木の器に入ったシチューがあり、白い湯気を立てている。


 殺風景な部屋だが、その光景は暖かい家族の食事場。


 やがて、少年少女は両手を合わせて、こう言ったのだった。


「「いただきます」」



______



「はぁ~暖まるぅ」

 白い湯気を漂わせるシチューを口に運び、感嘆するように言うことり。


「この辺は寒いからな……」

 今は冬だということもあるが、この北大陸の最西部に位置する霊峰ノーエルという場所は、恐らく冷帯のような場所だ。

 夜の雪原は氷点下を余裕で下回る。氷点下25度ぐらいなんじゃないだろうか。いや、体感だし、計測器とかないから分からないけど。少なくとも鼻水は凍る。


 夜に狩りに出かけることもあるが、夜は危険だ。獣たちが積極的に活動をする時間というのもあるが、単純に、寒すぎるというのは害になりえる。

 レイブさんに教わったことだが、夜の雪原では大きく口を開けてはいけない。下手したら、喉が凍るとか。どういうことだよ。まあ、それぐらい寒い。剣を振るのも痛くなるほどには。


 この里の周辺は霊樹の加護と、魔法によって気温管理を行っているらしく、喉が凍るとかそういうことはない。

 まあ、日本と比べると寒いことには変わらないが。北海道よりは暖かいかもな。


「あー……」

 ジヴェルさんとの木刀の立会いでの打ち身が痛む。寒いというのは嫌いじゃないが、こういうところがあるよな。余計に痛い。


「どうしたの?」

「ジヴェルさんに打たれたところが痛くてな。手加減されてるから、寝りゃ痛みは消えるけど」

「へー……なんか、そういうところは厳しそうだね」

「ああ。ジヴェルさん、剣を持つと人が変わるからな」

「いや、そうじゃないよ。なんていうか、この世界がっていうか……」

「ああ……」


 確かに、そういう側面はあるな。

 基本的に弱肉強食だし、体は資本。強さも評価基準。それが前面に押し出された世界だ。野性味溢れるというか……。


 ただ、分かりやすい。それに、努力をしやすい環境でもある。努力が、確実に身につくのが分かる。俺は少なくとも、そう思う。


 だが、ことりはどうだろうか。それは分からない。普通に、こういう年頃の女の子には厳しい世界のように思える。危険な生き物がたくさんいて、思慮の浅い人もたくさんいる。死生観が軽い。

 ……好き嫌いもあるだろうし、それが原因で鬱になってしまう可能性だってある。


 できるだけ守ってやりたいが、その間、ことりは時間を持て余すことになる。この世界は娯楽が少ない。生きることに意味を見出すとか……手に職をつけるとか、そういうことをしないと、絶望してしまうかもしれない。

 自活する能力を身に着けてもらうか……いや、それを求めるのも厳しすぎる気がする。今は元気に振舞っているが……自殺するという、壮絶な経験をしているのだ。内心、どう思っているかは、見通せない。


 どう接すればいいか分からない。生きていくには、何かしら努力しなければならない。しかし、それすらも苦痛に思ってしまうことだってある。俺にもあった。


 重要なのは、本人の意思だ。


「……なあ、ことり」

「ん?」

 髪をかき上げ、兎肉を口に運ぶ途中、口を開けたまま目だけこっちを向いた。


「どうだ? まだ半日だが……その」

「あはは。お兄ちゃん、心配しすぎ」

 笑って、兎肉を口に運ぶ。

 んーっと美味しそうに、頬を押さえる。


 その様子を見て、俺もシチューによって溶けかけた肉を口に運ぶ。

 口の中でとろけるように、甘みと、濃厚な旨みが広がる。野草を食べると、体の芯から暖まる。氷解草だ。ちょっとシャキシャキした食感がとろけるシチューとは合わない気がしないでもないが……まあ、好みだよな。


 しかし、この辺境の地でこんな味わいを出せるのか……調味料とかあるのか? 今度、調理場を覗かせてもらおうかな……。


 口を動かしていると、ことりが喋りだす。


「私、今そんなに苦しくないよ」

「……」

「あの時の……変な世界でさ、話したこと。全部本心で……それで、なんていうか。整理がついたっていうかさ」

 あの悪魔が作り出した悪夢の世界。あれのこと、やっぱり覚えているんだ。あの時から、意識が復活したのか。それともずっとどこかで見守っていたのか……分からないけど。死んだ後のことは、俺には分からない。


 だけど、それを経験したことりの言葉を、だからこそ真摯に受け止めたい。


「だから……その、上手く言えないけど……」

「おう」


「――また、お兄ちゃんと話せて嬉しいよ。それだけ。やだな、恥ずかしいや」

 といって、恥ずかしさを誤魔化すようにシチューを何度も何度も口に運ぶ。


 なんだか、その姿を今まで何度も見てるはずなのに、たまらなく愛おしく感じる。


「……っはは。俺たち、二人そろって親不孝者だよな」

「それね。ちょっと笑える。でも、ほんのすこーしだけ、ざまあみろって思ってる」

 にしし、と笑うことりを見て、俺も笑えてきた。



 食事の風景は、暖かい。それは、一度別たれた兄妹だからこそ、もう一度巡り合えたことに感謝し、お互いを信頼し、相手のことを大事に思う心があるからこその、風景だった。



______



 朝。冷えた空気が、窓代わりの格子から入ってくる。

 隣、静かな寝息を立てる少女。眠っている姿をずっと見ていたけれど、不安でたまらなかったけれど、もう大丈夫。


 起こさないようにゆっくりと布団から出る。布が擦れる音が、部屋に満ちる。けれど、少女が起きることはない。


 立ち上がって、背伸びをする。木刀での打ち身の痛みはもうなく、体の筋肉を緩めていく。

 息を吐くと、室内でも白い息が出た。それを見て、少し寒いか、と思い、魔力を操作する。


 この辺りに満ちている、長老が常に発動している気温を上げる魔法に、少し魔力を渡す。

 すると、この部屋が少し暖かくなり、白い息は出なくなった。


 満足して、足を動かす。部屋の扉に向かって、一歩二歩、踏み出した。


 そして、部屋の扉に手を置いて、開けた。



「……白い」


 早朝。鳥の囀りすら聞こえてきそうな大自然は、冬の寒さで景色が白みを帯びている。

 この景色は、嫌いではない。


 木の扉を閉めて、右にある、下に続く螺旋階段を下りていく。

 下りる最中、外の森が見える。木々から、少しだけ日光が差し込む。


「……もう太陽があがってるのか」


 昨日は、この時間なら明るいけれど、日光はまだ通っていなかった。

 その些細な変化が、季節の移り変わりを感じさせる。


 螺旋を下りきって、地に足をつけた。


 里にある水場に向かって歩を進めようとしたら、人影を見かけて、足を止める。


「ターニャさん。おはよう」

「……」


 その女性は、早朝なのに、既に全身を狩りの装備で包んでいた。


「相変わらず早いですね」

「……」


 この人は、起きたらとりあえずこの装備だからな。

 その飾らない、効率的な生き様に、内心苦笑しながら言う。


「顔洗いに行くんですけど、ターニャさんもですよね」

「……」


 首肯。

 いつも早めに起きているが、この時間に里を出歩いているのは自分とターニャさんぐらいだ。毎日、このやり取りが習慣になっている。


「行きますか」

「……」


 近くの川から、水を引いてきている場所がある。少し歩けば、すぐにつく。


 肩を並べて、歩いていく。息をすると、白い霧が出た。

 気温管理は、居住区となっている里の上側しかかかっていない。下に行くときは、この寒さを覚悟しなければならないのだ。


「今日は、狩りにはいけないです」

「……」


 また、首肯。

 分かっている、とでも言いたげな顔をしている彼女を見て、またもや苦笑した。


 妹との時間を大切にしろ、ということだ。そして、それが伝わっていること、また彼女が気遣ってくれていることが、嬉しい。


 歩を進める。



 やがて、着いた。小川のせせらぎと、差し込む朝日。小鳥の囀り。

 この光景を見るたびに、足を止めて感嘆の息を溢してしまう。


 彼女は足を止めることなく、真っ直ぐと小川へと向かう。そして膝を突いて、顔に川の水を雑に当て始めた。


 そこの隣に向かって、歩く。歩くたびに、霜柱がザクザクと音を鳴らす。


 やがて、彼女の隣に立ち、そして真似をするように膝を突く。

 霜柱が砕けて溶けて、足の布に冷たい感触が染み渡るが、気にしない。


 小川に手を入れる。氷の中に手を突っ込むような感覚。構わず、その水を掬って顔に当てる。


 ――ああ、冷たい。


 その冷たさが、意識を覚醒させる。脳が一気に澄み渡る。

 そして、顔を上げた。


 先ほどまでの、自然の美しい光景が、更に美しいものに変わっていた。


 木々の繊維まで目に見える。朝日に照らされた自然が、輝く。凍りついた葉が、日光によって溶けて、その雫を光らせながら地面へと落としていく。


 眠りから覚めたまだ夢現の体を、この小川の水でさっぱりさせた後に見る、この清いとすら思えてしまう光景を見るのが、毎日の楽しみであり、そして一日の始まりを実感する瞬間でもある。


 また、里での一日が始まった。



______



「じゃあ」

「……」

 ターニャさんに向かって手を上げて、一端別れの挨拶をする。

 そこで、深呼吸をする。澄んだ新鮮な空気が体内に行き渡り、体に元気が漲ってくる。


 ああ、本当にたまらねえぜ、この自然ってやつぁーよぉ!! 美しすぎんぜ!!


 テンションが上がって、誰かに言うでもない謎の言葉を心の内で言いながら、一人にやける。

 しかし、その場にいるのは俺一人。


「……戻るか」

 急に空しくなったので、真顔に戻して足を進める。

 ことりはもう起きただろうか。そろそろ、里の者たちも活動を開始する頃だ。


 螺旋を上りきって、小屋の前に立つ。

 そして、扉を開けた瞬間だった。


「――お兄ちゃん!」

「お、おお?」

 扉の置くから、人影が飛び込んできて、抱きついてきた。


「ど、どした」

「……お兄ちゃん、お兄ちゃん……」

「……」

 胸の中で情けない声を出す妹を、撫でて慰めていく。

 急にどうしたのだろうか。なんかあったか。まあ、今聞いても、答えてくれないよな……。


 そう思って、ひとまず落ち着くまで、そのままでいた。


 やがて、呟きは止まり、抱きしめる力は少しずつ弱くなっていった。

 だが、それでもまだ離れてくれない。


「……落ち着いたか?」

「……うん」

「なんだ? 起きたら俺がいなくて怖かったのか?」

 笑いかけてやりながら、頭を撫でてやる。

 すると、するすると腕を解いて、離れてくれた。そして、その場で下を向いてしまった。


「ま、そういう時もあるよな」

「……」

「顔、洗いに行くか」

「……うん」

 返事を聞いて、体を翻して来た道を戻っていく。

 シャツについた涙の跡が、冷たい空気によって冷える。それを肌で感じながら、先導して歩く。


 本当に、こういうときがある。パニックになって、どうしようもなくなるとき。

 俺も、冒険者を始めてすぐの頃は、よく一人で泣いていた。色々なことが起こると、人間は感情が抑えきれなくて、パニックを起こすのだ。これは、本当に止めようがない。唐突に訪れる、爆発。


 だから、多少情緒不安定なのは、いい。むしろ、その感情をはけ出したというのは、いい兆候なのだ。

 それでも、本人は今、複雑な気持ちだろう。


 なんとなく、もう少し話したくなって、前を向きながら言う。


「……まあ、焦らずにな。ゆっくり、ゆっくりでいい。なに、お兄ちゃんが付いてる」

「……うん。ありがとう」

「ま、そんな落ち込んだお前も、これを見れば少しは晴れやかになるぜ」


 そう言って、体をどかして目の前に広がる自然を見せる。


 先ほどの、小川の風景。自然が作り出す、美しい光景。


「うわぁ……」

 顔を下に向けていたことりが、顔を上げて、その風景に目を輝かせる。

 よかった。こういうときはネガティブになりがちだから、こういった美しいものに心を動かされれば、さっぱりと悪感情を忘れて、夢中になれる。


「すごいね」

「だろ? この場所は覚えといた方がいいぞ。集落でも貯水はしてるけど……ここは、わざわざ足を運んで見る価値のある場所だ」

 この里の人たちは滅多に来ないけど。彼らは自然の美しさを知っているからな。きっと、この風景を見て一喜一憂するのは、俺たちだけの特権だ。


 ……ん? そう考えると、ターニャさんはなぜ毎日ここに来るのに付き合ってくれるのだろうか。まあ、単純に朝仲間同士だから、一緒に行動してくれているのかもしれないな。

 まあ、いい。


「あははっ! 見てよお兄ちゃん。地面がザクザクいうよ」

 ことりが、その場で足踏みをして、言う。

 あー。分かる。こういうのに触れてるときって、なんか夢中になって、楽しいんだよな。


「そうだな」

「むー。反応が淡白だ!」

「いや、俺はもう既にその楽しみを経験したからな。あれ? ことりさん、もしかして時代遅れですか?」

「は!? 違うし! お兄ちゃんが先にやったのはズルじゃん!」

 そのままザクザクと音を鳴らしながら、小川に近づいていく妹を、遠めで見守る。


 美しい自然と、そこで生きる妹のこの一風景は、一生網膜に刻まれるだろうな。


「――ひゃっ! 冷た!?」

「……」

 恐る恐る、手を水に浸して、それを顔に当てる。


「うあああぁぁぁ……凍えるぅぅ」

「……っぷ、くふっ」

 感じたことそのままを曝け出す妹の様子が可笑しくって、思わず噴き出す。

 笑ったことが伝わらないように、極力顔を見せないように下を向く。


 やがて、ザクザクと音が近づいてくる。視界に、人の足が入ってくる。


「う~冷たいよ」

「ふ、ふう……ほら、これで拭けよ」

 ポケットから手拭いを取り出して、渡す。洗ってから使ってない、綺麗なものだ。


「ありがと~」

「……ふっ」

 めちゃくちゃ寒いはずなのに、うだってだるい、というような様子のぐったりしたことりが、面白い。

 なぜなんだ。なぜそんな反応ができるのだ。我が妹よ。


「ふう。ここ、本当に綺麗だね」

「だろう? ま、この世界にゃ美しい景色なんざそこらへんに転がってるけどな」

「……お兄ちゃんって、この世界でもう三、四ヶ月ぐらい過ごしてるんだよね」

「ん? まあな。俺もまだまだ初心者だけどな」

「いやいや。昨日のジヴェルさんとの戦い、本当にすごかったから。人間辞めてたよ。はっきり言って……って、そんなこと言いたいわけじゃなくて」


 布から顔を覗かせながら、言う。


「お兄ちゃんって、なんて呼べばいいの?」

「ん? どういうことだ?」

「いや、お兄ちゃんって、こっちだと……なんだっけ、ラードだっけ? 確かそう名乗ってるんだよね」

「ああ……そういうことか」


 俺の本名は……こっちで言うところの真名は、名々染楽めめいそらくだ。だが、ジジイから貰った、ラード・アルヴェスタという名前もある。

 どちらで呼べばいいのか。難しい問題だ。どちらも、俺なのだから。


「まあ、好きに呼べばいいんじゃないか?」

「……うーん。まあでも、私はお兄ちゃんって呼ぶから、あんまり関係ないか」

「いざってとき、俺の名前が必要になるときが来るかもしれない。そのときは、ラード・アルヴェスタのほうを使えばいいさ……ああ、ことり、この世界だと名前ないな」

「え!? 私今名無しなの!?」

 なんだ。まるで急に無職になったような驚きかただな。


「まあ、中央大陸に行ったとき、役場に行って登録すればいいけど……なんて登録するか。ていうか、そもそも仲間たちにことりを紹介したり……ていうか、中央大陸に戻れるのか……?」

「……なんか、前途多難って感じがするね」


 冷静に考えると、俺は多少は慣れたけれど、ことりに長旅は無理なんじゃないか?

 ことりは、この世界に来てまだ早い。何の経験も積んでいない、15にも満たぬ少女。それが突然、世界を横断するような旅に、果たして付き合えるのだろうか。


 きっと、中央大陸に戻るためには、長時間歩いて、野宿して……馬車に何日も乗って、そして船に乗って……そんでまた馬車に乗って……俺が住んでいたラグラーガまで、相当遠い。


 今、簡単に経路を考えたけれど、その道中ですら中々難しい。まず、野宿といっても、魔物やら、食料やら……野宿ということ自体、ことりには相当な負担がかかるだろう。

 馬車に乗る。簡単に言うが、どこかのキャラバンが都合よく停留していて、そして運賃を払って乗せてもらう……その路銀は、どこで稼ぐのか。そもそも、キャラバンだって季節ごとに交易する程度なのに。


 船もそう。考えれば考えるほど、気が遠くなるような話だ。


 そこで、一つの案が浮かぶ。


「……そうだな……お前が望むなら、ここで暮らすか? きっと、中央大陸……人が暮らす所までの旅は、かなり辛いものだぞ。いや、断言しよう。絶対に辛い。最悪、死ぬ。先にこの世界である程度暮らしてきた俺でも、中央大陸まで辿り着けるか、と聞かれたら、安易に首を縦に振れない」

「……うん」

「それに、お前だって、今は不安定だろ? 厳冬期は後半月もすれば終わる……そうなったら、この山を下りられる。けど、別に下りなくてもいいんだ。ここの人たちは皆良い人だろ? 俺も、積極的に仕事を手伝えば、きっと置いてもらえる」

「……ねえ」

「そうだな。そうだ。落ち着いて、腰を据えよう。それで、一回冷静になって、そうだな……三年ぐらい暮らして、そしたら、そのときもう一度考えよう」

「ねえ!」

「ぅお!?」


 ひたすらに動かしていた口に、布が飛んでくる。

 顔に衝撃が来て、びっくりして変な声が出た。顔に投げつけられた手拭いを落ちないように、手で押さえて、妹を見る。


「お兄ちゃんは、どっちなの!?」

「……」

「お兄ちゃん、大切な仲間たちがいるんでしょ? その人たちはどうするの。ここで暮らすって言うなら、もう二度と会えないかもしれないんだよ!」

「いや、俺はお前が……」

「私のことは今はいいの!!」

「お、おう……」

「お兄ちゃんがやりたいことを、やるの。私は、それが一番いい」


 やりたいこと、か。

 たくさんある。本当に、いっぱい。あの戦場がどうなっただとか、仲間たちの安否とか、心配かけている宿やギルドの人たちだとか……。

 他にも、ことりと世界の色んなところを見て回ったり……それを簡単にできるぐらい、強くなりたかったり……リーフとことりを引き合わせて見たい。


 でも、それらを今一番できるのは、中央大陸に戻ること、それだけだ。



「……俺は、戻りたいよ。中央大陸に。ここもいい場所だけどな。やっぱ、心配かけたままってのは嫌なんだ」

「うん。それがいい。私もついて行っていい?」

「当たり前だろ。お前がお兄ちゃんの元を離れるときは、お前が人生の伴侶を見つけたときだけだぞ」

「あははっ! なにそれっ。お兄ちゃんはどうなのさ」

「俺は一生独身だから安心しろ。何かあったらお前がいつでも安心して戻ってこれる場所を作っておくのさ……」

「うわ。冗談でもきついよ。キモイよお兄ちゃん。キモちゃんだね」

「ちょっと可愛いな、それ」



 少年少女は、笑いながら歩いていく。

 大自然が、その背中を見守っていた。

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