第25話

 また婚約話が進んでいます。

 仕方がない事ですが、心が千々に乱れています。

 頭では納得しているのですが、心が乱れるのです。

 家の為に子を産む必要がある事は、重々承知しているのですが、一度二度とその決意をはぐらかされてしまうと、心が揺らいでしまうのです。


 カイと幸せに暮らしたい。

 スミス伯爵家を出ても構わない。

 ヴラド大公殿下の御陰で、多くの土地や建物が手に入りました。

 幸いヴラド大公殿下が、私の作る花を大層気に入って下さっておられます。

 少しの土地と建物を分けてもらえれば、花を作って暮らす事も出来るでしょう。


 そんな想いを正直にレオに話しました。

 ですが、それだけは認めてくれませんでした。

 御家大事のレオですから、仕方がない事です。

 カイを家に戻してくれた事が、レオ最大の譲歩なのでしょう。

 

 今回もヴラド大公殿下の仲人で、クーパー侯爵家の次男ハリソン様を養子に迎える事になりました。

 また莫大な結納金が持ってこられました。

 私の二度の婚約破棄で、今のスミス伯爵家は侯爵家以上の家財を持っています。


 私には密かな悪名があるようです。

 悪運の憑りついた女と、社交界で噂されているようです。

 ですがそれでも、私との婚約を望む、困窮した貴族家は多いのです。

 今回のクーパー侯爵家も、そんな家の一つでしょう。


 噂通り、私には悪運が憑いてるのかもしれません。

 そうでなければ、二度も婚約破棄になるはずがありません。

 ですがジョーンズ伯爵家のジョージは、私との婚約は破棄されましたが、ヴラド大公殿下の仲人でビクトリア王女殿下と婚約され、早々に結婚されました。


 普通では絶対有り得ないことです。

 王家と伯爵家では爵位に開きがあり過ぎるのです。

 普通王女殿下と婚姻を結べるのは、他国の王族か国内の公爵家までなのです。

 よほど功績のある名家の侯爵家ならば、特別な配慮で降嫁も可能でしょうが、伯爵家では絶対無理なのです。


 それをヴラド大公殿下が、ジョージを一旦ワラキア大公家に養子に入れる事で、家格の問題を乗り越えました。

 私の婚約破棄の時の賠償金が多かったわけです。

 どう考えても、ヴラド大公殿下とジョーンズ伯爵が取引したのでしょう。

 だから私に悪運が憑いていると言うのは言い過ぎです。


 ですがどうしてもわからない事が一つあります。

 何故そこまでヴラド大公殿下が私に肩入れしてくださるかです。

 私の容姿など十人並です。

 それに私に何の要求もなされません。

 求められたのは花だけです。


 あの花に何か隠された意味があるのでしょうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る