第21話

 遂に結納金が届けられました。

 披露宴と結婚式の会場も、普段は王家が使う由緒ある場所に決まりました。

 もう結婚から逃げることは出来ません。

 覚悟は決めました。

 これも貴族家に一人娘として生まれた定めです。


 ですが希望もあります。

 ヴラド大公殿下が送って下さった侍女や侍従が、よく働いてくれています。

 特に侍女達が、期待以上の働きをしてくれています。

 もしかしたら、弟か妹が産まれてくれるかもしれません。

 今のスミス伯爵家なら、どれほど沢山の弟妹が産まれても大丈夫です。


 もし、もし弟が産まれてくれたら、ローガン様と閨を共にしなくてすみます。

 フィリップス公爵家は、御金さえ手に入ればいいのです。

 爺もそう言ってくれています。

 弟さえ生まれれば、ローガン様は見せかけの夫でいいと言ってくれたのです。

 ローガン様には、見目のよい侍女をあてがうと言ってくれました。


 爺が口にしたのなら、ヴラド大公殿下も御承知の事でしょう。

 ならば安心です。

 問題は父上様に子種が残っているのかどうか。

 こればかりは神に祈るしかありません。

 母上様には少し申し訳ない気もしますが、私の為なら我慢してくださると信じています。


 時間稼ぎがしたくて、細かいところに注文を付けようとしましたが、流石にフィリップス公爵家にはよい家臣がいるようで、文句のつけようがありませんでした。

 ヴラド大公殿下も色々と気にかけてくださっています。

 下手な小細工が出来なくなりました。


「今日はこのような立派な婚約披露宴を開催して頂き、感謝の言葉もありません」


「なあに、気にするな。

 余は二人の仲人だ。

 これくらいの事は当然の事だ」


 どんどん結婚が近づきます。

 ヴラド大公殿下が、私とローガン様の為に、結婚式と結婚披露宴以外に、婚約披露宴を開催してくださいました。

 それはそれは立派なモノで、小心な私は足がすくんでしまいました。


「大公殿下。

 今日は家のローガンの為に、このような立派な婚約披露宴を開催して頂き、感謝の言葉もありません」


 フィリップス公爵家当主のヘンリー様が御礼を言っておられます。

 顔色が真っ青です。

 もう借金で青息吐息だと言う噂です。

 それなのに、このような目もくらむように立派な婚約披露宴を、ヴラド大公殿下が開催してくださいました。


 費用は全てヴラド大公殿下が払って下さっていますが、後で掛かった費用以上の御礼をしなければなりません。

 ヘンリー公爵様の顔色が悪くなるのも当然でしょう。


「ところでフィリップス公爵。

 本日の主役はどこにいるのだ?」


「はぁ。

 私も探しているのですが……

 あの馬鹿者が!」


「きゃぁぁぁぁ!」

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