第22話

 絹を裂くような女性の悲鳴が、婚約披露宴会場に広がりました。

 ただ事ではありません。

 信じられないような素早さで、ヴラド大公殿下が動かれました。

 ホストとして、事の真相を確かめに行かれたのでしょう。

 御立派な事です。


「ローガン殿。

 これは一体どう言うことだ?!」


「いえ。

 この女が根も葉もないこと言い出したので、それを黙らそうとしただけで」


「どのような嘘を言ったかは知らないが、余の開いたローガン殿とアリス嬢の婚約披露宴で、淑女のドレスを剥ぎ取るなど、絶対に許されぬぞ!

 それにその淑女が申された事が、嘘だという証拠が何処にある!」


「嘘です。

 嘘なんです。

 根も葉もない讒言なのです」


「讒言だと?!

 いったい何が讒言だと言うのだ!」


 私は人の輪の外にいたのですが、ヴラド大公殿下の侍女がエスコートしてくれて、ヴラド大公殿下とローガン様の側に案内してくださいました。

 ヘンリー公爵閣下も同じようにエスコートされました。

 何と言っても、フィリップス公爵家とスミス伯爵家の婚約披露宴なのですから、事の真相を見守る必要があります。


「ローガン!

 なんてことをしでかしたんだ!」


「嘘ではございません。

 嘘などついておりません。

 ローガン様は私に愛していると言って下さいました。

 結婚すると言って下さいました。

 私の御腹には、ローガン様の子供が宿っているのです!」


「嘘だ!

 この女は嘘をついているんだ!

 私は何も言っていない。

 結婚の約束などしていない。

 腹の子などしらない。

 この女がどこぞの男と遊んで出来た子だ。

 俺の子供じゃない!」


「ヴラド大公殿下!

 ローガンがこう言っているのなら、間違いです。

 この女が嘘をついているんです。

 ローガンに振られでもして、腹いせの大嘘です。

 早くこの女を放り出して下さい!」


「ならぬ!

 アリス嬢と余の顔に泥を塗ったのが、この女なのか?

 それともローガン殿なのか?

 事の真相を明らかにせねばならぬ!

 それともフィリップス公爵は、調べられて困る事があるのか!?」


「いいえ!

 ありません!

 調べられて困る事など、何一つありません!」


「ならばこの女は、大公家で調べる。

 ローガン殿は、フィリップス公爵が調べられよ。

 だが覚悟して頂きたい。

 もしローガン殿に非があるのなら、アリス嬢と余が受けた恥辱、戦にしてでも晴らしますぞ!」


「そんな!

 これは嘘です。

 嘘に違いはありませんが、貴族が浮名を流すくらい、目くじら立てることではないのではありませんか?」


 真っ青になったフィリップス公爵は、必死で抗弁されておられます。

 ローガン殿に関して、思い当たることがあるのでしょう。

 これは、上手くすれば婚約破棄出来るかもしれません。

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