第12話
「お嬢様。
お見合いの申し込みでございます」
「またなの。
どうしてこんなに急に、沢山のお見合いの申し込みが来るの?」
「本当にお分かりになりませんか?」
「いいえ、分かっているわ。
賠償金よね。
あれだけの大金と資産が手に入ったのだから、それを狙って縁を結ぼうとする貴族が出てきて当然よね」
アリスは冷静だった。
自分が十人並みの容姿なのはよく理解していた。
ジョージとの婚約も名門の血が欲しかったからで、アリスの魅力ではない。
だから急に見合いの話が沢山舞い込んでも、全然喜べなかった。
むしろ自分が肉食獣に狙われる小動物になった気分だった。
全部断りたかった。
だが伯爵家の一人娘である以上、誰かを婿に貰って子供を作る必要があった。
いや、義務と言うか任務と言うか、絶対に産まねばならなかった。
アリスの本心としては、父親に子供を作って欲しかった。
だが亡き母を愛し続ける父に、言葉に出して言う事が出来なかった。
それに爺が積極的だった。
ジョーンズ伯爵家との婚約には憮然としていた爺が、喜々として見合いの話を持ってくる。
家の事を思ってくれているのは分かるが、複雑な心境ではある。
アリスには想い人がいた。
身分違いではあるが、爺の孫であるカイが好きだった。
今は武者修行に出ていて家にいないが、子供の頃は本当の兄妹のようにして育った。
産まれて直ぐに母親を亡くしたアリスは、カイの母親ミアの乳で育ったのだ。
つまりミアはアリスの乳母なのだ。
カイと妹のザラは乳兄妹なのだ。
兄弟姉妹のいないアリスにとって、カイとザラの兄妹は本当の兄妹に限りなく近い存在なのだ。
慕っていたカイが家にいないことは、アリスの心に大きな穴を開けていた。
最初から結ばれない運命だとは分かっていたが、側にいてくれるだけで心強かった。
だがジョーンズ伯爵家との婚約が決まって家を出ていってしまった。
自分の事を想ってくれていて、それが原因で出ていったのなら、うれしいとは思ったが、勝手ではあるが、それでも側にいて見守っていて欲しかった。
そしてザラもスミス伯爵家にいない。
アリスの婚約が決まって、ザラの役割も大きく変わり、結婚をすることに成ったのだ。
ザラには大きな役目があった。
アリスの子供の乳母になるのだ。
アリスの側は、スミス伯爵家の譜代家臣で固めなければならなかった。
ジョーンズ伯爵家に悪意があれば、オリバーとアリスを謀殺して、女系の血も残さずにスミス伯爵家を乗っ取ることもあり得たのだ。
その用心の一つで、ザラは嫁に行ったのだ。
今のような状況になるとはだれも考えていなかったのだ。
アリスは時間稼ぎをしたかった。
カイとのことは別にしても、少し心を整理する時間が欲しかった。
ジョージが好きだった訳ではないが、結婚相手だと一度は心を納得させた相手だったのだ。
ジョージの裏切りと婚約破棄は、アリスには大きな衝撃だった。
だが運命は待ってくれなかった。
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