第13話
アリスは心底困惑していた。
どうしていいか分からなかった。
いや、やらねばならない事は分かっていた。
だがそれは、心底したくない事だった。
しかし、絶対にやらなければならない事だった。
「爺。
これはお断りする訳にはいかない事よね」
「はい。
公爵家からの直々の招待状を断るには、相当の理由と覚悟が必要でございます」
「でも、今まで全く来なかったフィリップス公爵家から招待状よ。
目的は家が手に入れた財産よね」
「フィリップス公爵家には数多くの悪い噂がございます。
その中には、借財の噂も多くございます。
残念ながらお嬢様は、婚約破棄された弱い立場と思われております。
そこに付け込んで、一族から婿を送るからと、支援を要求するものと思われます」
「地位を笠に着た、返す気の全くない支援よね」
「恐らくは」
フィリップス公爵家は、当主と一族の浪費で借財の山だった。
下々の商人から借りた借財は踏み倒してきたが、それが噂になり、商人からは借りれなくなった。
それで生活を改めればよかったのだが、今まで通り浪費を続けた。
今度はその金を貴族から借りるようになった。
貴族から借りた金は流石に返さなければならない。
だが生活を改めないので、返せるはずがない。
王家につながる名門とは言え、このままでは処罰の対象だった。
そこにスミス伯爵家が婚約破棄で大金を得たと言う噂が、公爵家に伝わった。
フィリップス公爵家当主のヘンリーはチャンスだと思った。
そこで色々と調べさせた。
スミス伯爵家が大金を得たと言う話は本当だった。
本当どころか、たかが婚約破棄では信じられないような、莫大な額だった
何が何でも一門の者を婿入りさせたいと考えた。
だが問題もあった。
ヴラド大公が肩入れしたと言う点だった。
馬鹿で浪費家のヘンリーだが、ヴラド大公を敵に回すのが危険な事くらいは分かる。
だからあまりに理不尽な縁組を押し付けるわけにはいかない。
相手は傷者ではあるが、それなりの礼はとらねばならない。
腹立たしい話だが、ヴラド大公が怖かったのだ。
だから色々と準備を整えた。
馬鹿は馬鹿なりに、悪知恵を働かせて、アリスを罠に嵌めようとした。
まあ実際には家臣に考えさせたのだが、それなりの罠が完成した。
舞踏会への招待状がその手始めだった。
だが問題もあった。
公式な舞踏会である以上、礼儀としてヴラド大公にも招待状を送らねばならない。
格下の公爵家が舞踏会を開催するのに、格上の大公家に招待状を送らない訳にはいかないのだ。
フィリップス公爵家当主のヘンリーはそれだけが心配で、ヴラド大公をもてなして動けなくするために、一族の令嬢と侍女を総動員する事にしていた。
そして舞踏会の日がやってきた。
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