第11話
ウィリアム王は内心激怒していた。
大切な姫を結婚前に傷者にされたのだ。
その怒りは怒髪天を突く勢いだった。
だがその怒りのやり場がなかった。
当の姫がジョージを許してやってくれと懇願するのだ。
許せるものではなかった。
胎にいるのが可愛い姫の子供とは言え、半分はジョージの血が流れている。
無条件で愛せるものではなかった。
流してしまいたかった。
ジョージを八つ裂きにしたかった。
憤怒の心を和らげてくれたのが、ヴラド大公の助言だった。
人の情愛など移ろいやすいモノ。
姫に愛人が出来たり、ジョージに愛人が出来たりしたら、問答無用で処断すればいいと言うのだ。
もっともだと思った。
貴族が仮面夫婦なのはよくある事だ。
家同士の政略結婚が普通の貴族は、子供さえ作らなければ女性が愛人を作るのも普通だった。
家を継ぐ者が必要な貴族は、男が何人もの側室や妾を置くのが普通だった。
ウィリアム王も多くの側室と妾を置いている。
なんなら姫に相応しい貴族子弟を選んで、仲良くなるようにお膳立てしてもいい。
特にジョージは簡単だろう。
スミス家の娘と婚約する前は、酷い女関係だったと手の者が報告している。
婚約中に姫に手を出すような好色で愚かな男だ。
女を使って誘惑すれば、簡単に浮気するだろう。
それを暴けば、姫の眼も醒めるだろう。
姫が愛想をつかしてくれたら、思う存分処罰することが出来る。
今からその方法を考えることで、ウィリアム王は心の平穏を取り戻した。
助言してくれたヴラド大公に感謝した。
そこでヴラド大公の願いを叶えることにした。
それはスミス伯爵家にも関係する事だった。
「爺。
本当にお受けしていいのかしら」
「大丈夫でございます。
むしろお受けしなければならない事でございます。
ヴラド大公殿下は草花が大変お好きなのです。
お嬢様が育てる花を愉しみにしておられるのです。
だからこそ、広い庭園のある屋敷を斡旋して下さるのです」
「そうね。
あれほど花にこだわっておられたのですものね。
頑張って花を咲かさなければいけないわね。
でも、二種類の花だけでいいのかしら?」
「お嬢様。
ヴラド大公殿下ほどの御方ならば、他の花などいくらでも手に入れる事が出来ます。
今は亡き奥方様とお嬢様しか花を咲かせられない、あの二つの花だけが必要なのでございます。
元の御屋敷で咲く花は奥方様の墓前に供えられて、新しい屋敷で咲いた分を、殿下にお送りされたらいいのです」
「そうね。
そうしないといけないわね。
爺の言う通りにするわ」
ヴラド大公は、ウィリアム王に広大な庭付きの屋敷が欲しいと願い出た。
ビクトリア王女の不義を内々に治めた褒美を要求したのだ。
ヴラド大公の助言に感謝していたウィリアム王はそれを認めた。
ヴラド大公は手に入れた屋敷をスミス伯爵家に貸し与えて、花を作って欲しいと言ってきた。
ヴラド大公に感謝していたアリスは、花作りに専念しようと考えていた。
婚約破棄の憂き目にあい、貴族社会で大恥をかいたアリスだ。
もうまともな結婚は厳しい。
だがヴラド大公のお陰で莫大な慰謝料が手に入った。
スミス伯爵家が財力を手に入れたのだ。
苦手な人付き合いをしてまで、貴族社会で駆け引きする必要がなかった。
アリスは大好きな花作りに専念しようと考えていた。
だがそうはいかなかった。
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