第10話

 ヴラドは吸血鬼だった

 それも真祖と呼ばれる圧倒的な存在だった。

 人間とは比較にならない強大な力を持つ吸血鬼の中でも、特に強力な吸血鬼だった。

 不老不死で龍にも負けない存在だった。


 そんな吸血鬼も手順を踏めば殺す事が出来る。

 首を切断すれば殺せる。

 心臓に銀の杭や、聖別した杭を打ちこめば殺せる。

 灰になるまで焼けば殺せる。


 他にも吸血鬼には弱点がある。

 聖水をかけれらると火傷をする。

 聖別されたワインにも同じ効果がある。

 大蒜の臭いが苦手だ。

 深く吸い込むと鼻と肺を焼いてしまう。


 特に大きな弱点は、陽の光を浴びると灰になってしまうと言うものだ。

 完全に死んでしまうのだ。

 復活も出来なくなる。

 だが陽の下に出れないでは、人間の世界では生きて行かない。

 しかし唯一の方法があった。


 月下草と月光草を組み合わせた薬を飲むと、陽に焼かれなくなるのだ。

 その薬さえあれば、陽の光を浴びて行動することが出来る。

 陽の光に輝く新緑の森で狩りを愉しむことも出来る。

 父祖伝来の土地に攻め込んできた敵を、陽光の下で迎え討つことも出来る。

 そう、薬さえあればだ。


 だがその薬の素となる月光草と月下草を、育て花を咲かせることが出来る人間が限られている。

 月乙女だけなのだ。

 幸福な状態にいる月乙女だけけしか花を咲かせられないのだ。

 だから闇の眷属は月乙女の血筋を護って来た。


 しかしその薬があっても、吸血鬼にも問題があった。

 それは人間として生きて行く為の問題だった。

 何十年も若いままで人間と交流することは出来ない。

 五十年も百年も同じ人間が表に出ている訳にはいかない。

 不老不死であるために、頻繁に代替わりをする必要があるのだ。

 人間の国と交流する大公家なら特にそうだ。


 タイミングの悪いことに、丁度代替わりの時期に、隣国が連合してワラキア公国に攻め込んできた。

 攻め込んできた騎士や兵士を眷属にしてもいいのなら、簡単に撃退する事が出来た。

 だがそんな事をすれば、この世界の全ての人間が、吸血鬼を滅ぼそうと大連合してしまう。


 だから強力な人間程度の力で戦うしかなかった。

 一瞬で皆殺しに出来る敵軍を、時間をかけて撃退しなければいけなかった。

 何度も戦わなければならなかった。

 そのお陰で、圧倒的な武名を得ることが出来た。

 もう攻め込もうとは考えられないくらい、隣国に大損害を与えた。


 だがその間に、スミス伯爵家が苦境に陥っていた。

 狼男の一族に任せておけないくらい苦しい状況に、スミス伯爵家は陥っていた。

 狼男に貴族の誇りを話しても無駄だった。

 争いごとにならないように気をつけて、スミス伯爵家に介入しなければいけなかった。

 それが例えアリスやオリバーの意に沿わないことであってもだ。

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