第4話

「え?

 いや。

 そんな。

 でも……

 ……はい。

 やりました。

 フレディ卿が見聞きしたのは私と侍女です」


 ジョージが王女殿下の圧力に屈して嘘を言った。

 自分の非を認めて、王女殿下を庇ったのだ。

 もっとも、王女殿下を妊娠させたと分かったら、虐殺されるのは分かっているのだから、認める以外に方法はなかっただろう。


「それは余りに酷いな。

 アリスとの婚約祝いの舞踏会で、アリスを放り出して侍女に手を出すなんて。

 非常識もはなはだしい。

 それではスミス伯爵家の面目丸潰れだ。

 これでは婚約を破棄されても仕方ないぞ」


 ヴラド大公がジョージを更に追い込む。

 理由は分からないが、ジョージに敵意を持っているのだ。

 これは絶対に助からない。

 獅子と兎の戦いと同じだった。


「いえ、そんな。

 少し話をしていただけです。

 アリスを裏切るような事は何もしていません。

 神に誓って間違いありません。

 私は潔白です」


「そんな言い訳は通じないな。

 君の悪い噂は色々聞いていたが、フレディ卿が実際に見聞きしているのだ。

 王女殿下まで証言されているのだ。

 君は王女殿下やフレディ卿が嘘をついていると言うのか。

 それに、神に誓って御言った以上、神の前で審問を受けてもらうことになるぞ」


 何とヴラド大公は、神前審問を行うとまで言った。

 莫大な魔力を使うが、神に真実を教えてもらう行為だ。

 対価に莫大な費用が必要だが、嘘が必ず暴かれる。

 普通は侍女に手を付けたくらいで行う事ではない。

 だが、質問次第では王女殿下との不義まで表に出てしまう。

 絶対に避けなばならない事だ。


「え?

 あ!

 いえ。

 それは。

 ちょっと」


「おいおいおい。

 神に誓うと私の前で言ったのだ。

 いや、これだけの貴族の前で言ったのだ。

 いまさら嘘だとは言わせんぞ。

 余が教会に話してやろう。

 君の話が真実なら、余が費用と賠償金を払ってやろう。

 直ぐに三人の審問をしてくれるだろう」


 ヴラド大公は何か知っている。

 いや、王女とジョージの不義を知っている。

 もしかしたら王女の妊娠まで知っているかもしれない。

 それに、ジョージを追い込む心算だ。

 だが、王女には逃げ道を用意している。

 この場にいる貴族の誰もがそう感じた。


「認めなさい!

 早く認めるのです!

 これ以上の嘘は許しませんよ。

 これ以上嘘を言うのなら、父王陛下に申し上げて、ジョーンズ伯爵家に厳罰を下して頂きます。

 そうですわね、大公殿下」


「はい。

 王女殿下の言われる通りです」


「お待ちください。

 どうかお待ちください。

 息子の不行跡は私がお詫びいたします。

 ただ、これは我がジョーンズ伯爵家とスミス伯爵家の婚約でございます。

 我々で話合わせてください」


 ジョーンズ伯爵家の当主ジェイコブが慌てて会場に入ってきた。

 執事か侍女が危急を知らせたのだろう。

 ジェイコブはとっさに機転を利かせて、二家の問題にしようとした。

 経済力のないスミス伯爵家との話し合いに持ち込み、持参金の増額で、このままジョージをスミス伯爵家の入り婿にしようとしたのだ。


 だがそれを許さない漢がいた。

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