第3話

「王女殿下。

 少々はしたないですな」


「大公!

 そうですか。

 そうですわね。

 大公がそう言うのなら、何か私に非があったのかもしれないわね。

 アリス、ごめんなさいね」


「いえ、とんでもありません。

 王女殿下」


 アリスに救いの手を差し伸べたのは、ワラキア公国の若き大公ヴラドだった。

 その武勇は衆を圧し、一騎で一個騎士団に匹敵するとまで言われる武勇の方だ。

 国王陛下でさえ、ヴラド大公を憚っていると言う噂の方だ。

 いや、武勇だけではない。

 

 ヴラド大公の美貌については、いつも宮廷雀がさえずっている。

 月光のような白銀の髪は、絹糸の如く細く柔らかで、宮廷中の女性が羨んでいる。

 何処までも白く、時に青く輝くような肌。

 端正な顔立ちと、実戦で磨き上げた筋骨隆々の身体つき。

 そのアンバランスが有閑マダムに大人気だともっぱらの噂だった。


 そんな勇名と美貌を兼ね備えたヴラド大公殿下。

 アリスとは何の接点もない方だ。

 そのヴラド大公殿下が何故かアリスに救いの手を差し伸べた。

 不思議に思っていたアリスだが、ここで大公が爆弾発言をした。

 一度口にしてしまったら、取り返しのつかない爆弾発言だ。


「そうですよ、王女殿下。

 ジョージとアリスの為の舞踏会なのに、ジョージをアリスから引き離して、控室で二人きりになるなど、少々はしたないですよ」


「何を言うの!

 妾はそんな真似していないわよ。

 言いがかりはよしてちょうだい。

 いくら大公でも、そんな非礼を言うなら許さないわ。

 父王陛下に酷い恥をかかされたと言うわ!」


「おや。

 それはおかしいですな。

 先ほどこの者が、控室にいる王女殿下とジョージを見たと言っていたのです。

 そうだな、子爵」


「え?

 ああ。

 そうかな。

 いえ、そうでした。

 確かに控室でお二人を見ました

 お二人の話を聞いて」


「お黙りなさい。

 嘘です。

 妾は控室になど行っていません。

 フレディの勘違いです。

 ジョージが侍女でもつれこんでいるのを見間違えたのでしょう。

 そうでしょ、フレディ!」


 王女殿下は真っ青になって詰問している。

 フレディ卿が可哀想だった。

 それにフレディ卿はブラウン侯爵の後継ぎなのだ。

 父親が御健在なので、家が保有している子爵を名乗っているが、いずれ侯爵の位と領地を引き継ぐのだ。

 ヴラド大公殿下ほどではないにしても、粗略に扱える方ではない。


 それにしても、フレディ卿もあの控室にいたのだ。

 いや、本当にいたのだろうか。

 それにしては、最初の頃の返事がおかしい。

 しかし王女殿下も、あんなに顔色を変えては駄目だ。

 むりやり話を事実を捻じ曲げようとしているのが明々白々だ。


「ジョージ。

 本当のことを言いなさい、ジョージ。

 侍女を連れこんでいたのね!」

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