第16話

「貴様は何者だ」


「貴様こそ何者だ」


「エマ様の道を塞ぐ者は、このディック・マーチンが許さん」


「ほう。

 エマの守護者を気取るか」


「おのれ、エマ様を呼び捨てにするとは。

 絶対に許さん」


「許さねばどうする」


「こうしてくれる」


 大剛の騎士ディック・マーチンが、完全装備をした巨大な身体を支えてくれる、超巨大な馬をけしかけて攻め寄せた。

 迎え撃つ騎士も、平均を大幅に上回る、身長百九十センチメートルはあるだろう。

 それでも、余りに体格差がある。


 ディック・マーチンが振るう、長強大なメイスの一撃は、岩山さえ粉砕する勢いだ。

 この一撃がかすっただけで、相対する騎士は跳ね飛ばされるだろう。

 だが、そうはならなかった。

 まともに打ち合えば、楽々砕かれると思われた長剣で、メイスの一撃を受け流したのだ。


 柳の風という表現があるが、まさにそれを体現していた。

 一つ一つの一撃が、並みの騎士なら、フルアーマープレートごと粉々に打ち砕かれた事だろう。

 そんな強力な打ち込みが雨霰と襲って来るのに、相対する騎士は、楽々と受け流すのだ。


「おのれ、おのれ、おのれ」


「ふむ。なかなかやるな。

 これなら魔獣が相手でも、十分戦えるだろう」


「なにが、十分戦えるだ。

 大魔境の魔獣など、俺が狩り尽くしてくれる」


「それは頼もしいな。

 その言葉、忘れたとは言わせんぞ」


「そんな事は、騎士の誇りにかけて言わん。

 エマ様に剣を捧げた騎士の誇りにかけて、魔獣は狩り尽くす」


「レアラ様。

 ああ、レアラ様。

 御会いしとうございました」


「僕もだよ。

 エマ」


「え?

 あの、その。

 これは一体。

 何なのでしょうか?」


「愚か者!

 ここの居られるのは。

 ジェダ辺境伯家公子のレアラ・ジェダ様だ。

 そなたが剣を捧げた、エマ様の婚約者だ」


「これは!

 申し訳ありません。

 粗忽な真似をしてしまいました。

 どうか御許し下さい」


「よい、よい。

 よき戦いであった。

 エマ、よき騎士を手に入れたな」


「御褒めに預かり、恐悦至極でございます」


「アァァァァ」


「見るな!

 馬鹿者!

 レアラ様と姫様は婚約者だ。

 長い間、離れ離れになっておられたのだ。

 口づけくらい、なされて当然であろう」


「ですが。

 その、あの、ですね」


「分かったら、眼を逸らすくらいの気を使え」


「はぃぃぃぃ」

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