第15話

「流石武名赫々たる、バーブランド男爵家御令嬢。

 我々の待ち伏せなど先刻承知でございますか」

「過分な賞賛痛み入ります。

 騎士殿」

「我が名はディック・マーチン。

 マーチンと御呼びください」


「騎士マーチン。

 何か御用ですか」


「私は、我が剣を捧げる淑女を探し求めていました。

 やっと探し当てることが出来ました。

 エマ様。

 我が剣を捧げさせてください」


「騎士マーチン。

 私にはレアラ様という、心に決めた方がおられます。

 ですから、私に剣を捧げて下さっても、それが報われることはありません。

 それでもいいのですか」


「エマ様。

 我が剣は、淑女に捧げるためのモノです。

 見返りを求めているのではありません。

 騎士として、誇りを持って戦う為に、心を強くしたいのです。

 その為には、王太子の誘惑や権力にも靡かない、清廉なエマ様が必要なのです」


 敵意はないようですが、少々危険です。

 鎧の上からの目測ですから、正確ではないでしょうが、身長は軽く二メートルは超えているでしょう。

 いえ、二メートル三〇センチメートル前後でしょうか。

 体重はフルアーマープレートを装備しているので、ちょっとわかりませんね。


 ネラを始めとする戦闘侍女達なら、どれほどの戦士が相手であろうと、勝利を収めてくれると信じてはいますが、彼女達が緊張しているのが分かります。

 ただ者ではないという事でしょう。

 ここは聖の魔法で判定しておきましょう。


 邪悪な部分がどれくらいあるかで、信用出来るかどうかが分かります。

 少なければ、距離を空けて先行させればいいのです。

 多ければ、犠牲を覚悟で斃すしかないでしょう。

 聖の魔法を全力で使えば、死者なしで勝つ事も可能かもしれません。


 なんと!

 全く邪悪な部分がありません。

 まるで赤子のような心です。

 まあ、赤子の心だから好いとは言えませんが、レアラ様以外で初めてです。


「分かりました。

 ですがこの様な状況です。

 男性を側に置くわけにはいきません。

 私達を先導する形で、先を進んでくださいますか」


「当然でございます。

 エマ様の評判に、一片の疵もつけるわけにはいきません。

 喜んで露払いを務めさせていただきます。

 我が願いを聞き届けて下さって、ありがとうございます」


 今の会話から考えて、馬鹿ではないようです。

 邪心が全くないのも安心できます。

 完全に信用する訳にはいきませんが、ある程度は当てにしてもいいでしょう。

 私に使いこなせなくても、レアラ様なら使いこなして下さいます。


 ネラ達が警戒するほどの騎士です。

 使いようによっては、大戦力になるかもしれません。

 いえ、レアラ様なら、きっと強力な戦力として活用して下さることでしょう。

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