第9話

「姫様。

 まだ大丈夫でございますか?」

「任せて、ネラ。

 まだ誰にも気づかれていないわ」


 私達は、じりじりと王太子と側近貴族に近づいていました。

 一度捕虜になった王太子と側近貴族は、動員出来る限界まで王国軍と譜代貴族軍を動かしました。

 その数は十万を超える大兵力でした。

 ですが、そんな大動員は逆効果です。


 私達は、大軍が運用出来ない山間部に逃げ込んでいるのです。

 どれほど兵の数があっても、一度に山道に入り込める人数は限られています。

 ましてむりやり動員された雑兵に、戦意などありません。

 特に、先に捕虜になった雑兵が、むりやり再動員されているのです。


 王太子と側近貴族、その配下の騎士の恥知らずな行動を聞いているのです。

 誰もがやる気を失っているのです。

 ですが、騎士達の暴力を恐れて、捜索する振りをしなければいけません。

 そんな雑兵を、騙す事など簡単です。


 私の聖の気配に魅かれて、多くの野生動物が集まって来てくれました。

 彼らが、私達の振りをして、雑兵を山奥へ山奥へ誘い込んでくれます。

 ろくな教練をしていない王国の雑兵に、野生動物を狩る事など出来ません。

 安全に罠に嵌めることが出来るのです。


 私達に追い付いたと思いこんだ、最前線の王国軍を、四方八方の山奥へと誘い込みます。

 色魔で馬鹿で卑怯で臆病な王太子と側近貴族は、罠とも理解出来ずに、私達がいると報告を受けた全ての方面に兵を派遣しました。

 罠を仕掛けた私が情けなくなるくらい、簡単に引っかかってくれました。


 その間に私達は、王太子と側近貴族が本陣としている、譜代貴族家の城に忍び込んだのです。

 周辺には、多くの将兵が駐屯していましたが、聖の魔法の加護が使える私は、戦闘侍女に魔法をかけて、存在を消すことが出来るのです。

 だから、安全に城に忍び込めるのです。


 そこで私達は、許し難い光景を見てしまいました。

 貴族家の城下町では、王国軍将兵による、略奪と暴行が横行していました。

 罪のない民が殺され、女子供が嬲り者にされていました。

 妻や娘が、夫や恋人の前で輪姦されていました。


 まだ幼い、十にも満たない女の子が、何人もの雑兵に輪姦されていました。

 いえ、女の子ばかりではありません。

 男の子まで輪姦されていたのです。

 吐き気がするほどの怒りが、心の中に沸き起こりましたが、心を鬼にして飲み込み堪えました。


 ここで戦いを始めてしまったら、幾ら精鋭の私達でも、無駄死にすることになってっしまうからです。

 僅か百人しかいない私達に出来る事は、本当に限られているのです。

 今はそれを優先して、腐れ外道の始末は、その後でゆっくりとさせて頂きます。


 この世に生まれてきた事を、後悔するほどの報復を受けていただきます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る