第7話

「姫、王太子と側近貴族が逃げ出しました」

「予定通りですね」

「はい、予定通りです」

「では、移動しましょう」

「はい」


 私達は、一週間王太子と側近貴族を連れて逃げました。

 王太子と側近貴族を人質に取られた王国は、御養母様達の事は貴族家に任せて、王国軍の全力を持って追撃してきました。

 望む所でした。


 最初からそうなるように、王太子と側近貴族を人質にしたのです。

 殺しても飽き足らない相手ではありますが、役に立つ以上、簡単に殺すわけにはいきません。

 王国軍がジェダ辺境伯領に攻め込む日を、少しでも遅らせなければけません。

 その間に、出来るだけ多くの魔獣を間引いておかないと、人間界に多くの魔獣が入り込んでしまいます。


 それに、魔獣の肉は滋養強壮効果があり、いい兵糧になるのです。

 王国軍と戦うのなら、兵糧の備蓄は多い方がいいのです。

 それに魔獣の皮や骨は、武具のいい材料となるのです。

 私を護ってくれている戦闘侍女も、それぞれの役目に応じて、魔獣素材の武器と防具を身に付けています。


「どうでした」

「姫様の予想通りでした」

「では王太子と貴族達は、騎士の誓いを破って逃げた事を、将兵の前で自慢したのですね」

「はい。

 愚かにも自慢していました」


 本当に情けない事です。

 騎士たるものが、戦いで破れて捕虜となり、騎士の誓いを立てて不戦と不逃亡を約束したのです。

 それを破って逃げたり、再び戦いに参加したりするのは、卑劣の烙印を押され、騎士の資格を剥奪される悪事なのです。


 今の王国なら、騎士道を捻じ曲げる新たな法律を、王太子と側近貴族の悪事の後で、むりやり創り出すかもしれません。

 ですが心有る者は、逃げ出した王太子と貴族を唾棄するでしょう。

 一緒に逃げた、世話役の騎士も蔑まれる事でしょう。

 普段王家や貴族に虐げられている民は、王家や貴族を悪しざまに罵る事でしょう。


 王家王国は民の心を失う事でしょう。

 いえ、もう既に民の心を失っていましたね。

 ですが、今度の事で、蔑まれることになるでしょう。

 民に蔑まれる王太子と貴族士族。


 逃げられるように、隙を作らせたのは私です。

 色魔で馬鹿で卑怯で臆病な王太子と側近貴族なら、必ず逃げると思っていました。

 でも心の奥底で、逃げないで欲しいという願いはありました。

 最低限の騎士道くらいは持っていて欲しいという、虚しい願いです。


 矢張り裏切られました。

 そうなるとは思っていましたが、哀しいです。

 王国の騎士道は、ジェダ辺境伯家とその寄子だけが護るモノになってしまいました。

 ならば罠を仕掛け、もっと王家王国の評判を落として差し上げましょう。

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