第4話

「我こそはバーブランド男爵家令嬢、エマ・バーブランド。

 王家に媚びる腐れ貴族は、我が聖なる剣で浄化して差し上げます」

「我こそはジェダ辺境伯家に仕える准男爵、ネラ・ボナー。

 我と思わん者はかかってこい」


 私とネラが名乗りを上げると、王家に味方する貴族家家臣が殺到しました。

 予想通り王太子は、私達二人を生け捕りにするように命じていたようです。

 貴族家が襲撃に弓を使ってこなかったので、私達を生け捕りにしたい人間がいるだろうとは予測していました。


 当然その相手は、王太子が権力でモノに出来なかった、私とネラだという事は簡単に予測出来ました。

 だったらそれを利用させてもらいます。

 それくらいのことが出来ないで、レアラ様の婚約者は名乗れません。


 御母様と兄弟姉妹はもちろんですが、御養母様と義兄弟姉妹も助けてみせます。

 弓を使えない敵は、私とネラに向かって殺到しました。

 ですが、それは最初から分かっていた事なので、それに対応する罠を仕掛けてあります。

 落とし穴などの時間のかかる罠は無理ですが、足を躓かせるためのロープくらいは張ってあります。


 先行して殺到して来ていた敵が、一斉に倒れました。

 後続の敵がたたらを踏んで止まりましたが、そこに矢の雨が降り注ぎました。

 味方の長弓隊が、一矢も無駄にすることなく、確実に敵兵を絶命させていきます。

 その次に、倒れた敵に止めを刺すべく、槍兵が突撃します。


 圧勝でした。

 敵は私達に傷一つ付けられませんでした。

 それも当然かもしれません。

 王家の無理難題で、外様貴族家は貧困にあえいでいるのです。


 いや、貧困にあえいでいるのは、譜代貴族家も同じでしょう。

 王太子の側近のような、一部の権力者以外は、常に王家から経済的な圧迫を受けているのです。

 貴族家から搾取した税は、全て王太子とその太鼓持ちに浪費され、商人を肥え太らせるのです。


 そんな事では、王家は歴史を終えることでしょう。

 いえ、人の歴史が後戻りする事でしょう。

 辺境で魔獣の侵攻を押しとどめている、武門の外様貴族家が力を失えば、魔獣は王国内に殺到するでしょう。


 今の王家騎士や兵士に、魔獣を斃す力があるとは思えません。

 王家の直轄領はもちろん、譜代貴族領や領地持ちの士族家領も、魔獣に蹂躙されてしまいます。

 多くの民が魔獣に喰い殺されてしまうでしょう。


 一部の外様貴族領だけは、魔獣を防ぎとめることでしょうが、それでは人の文化文明が衰退してしまいます。

 王家王国は嫌いですし、肥え太った商人には鳥肌が立ちます。

 ですが、王家王国が平和を成し遂げた御陰で、絵本や小説、絵画や美術と言った文化が広まった事は評価しています。


 文化文明を守りながら、戦士の誇りを取り戻さないといけません。

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